昔の江戸っ子爺さん
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第二章
「あんなのはな」
「ひい祖父ちゃんにとってはっていうのね」
「駄目だ」
「ぬるいっていうの」
「ああ、ぬるい風呂なんて風呂じゃねえ」
はっきりと言い切った。
「ふざけるなってんだ」
「あそこは私も結構行くけれど」
円香は義龍にむっとした顔で述べた。
「別にぬるくないわよ、普通の湯舟も露天風呂も薬膳湯も泡風呂もね」
「俺にってはぬるいんだよ」
「水風呂もあるしサウナもあるしね」
そうしたものもあってというのだ。
「スチームだってあるし」
「いいっていうんだな」
「何処が悪いのよ」
「だから言ってるだろ」
「ぬるいっていうのね」
「うんと熱い風呂にさっと入って出るんだ」
そうした入り方をするというのだ。
「江戸っ子ってのはな」
「それでっていうのね」
「全く、あんなぬるい風呂あるか」
「全くはこっちの言葉よ」
孫は曽祖父に怒った顔で言葉を返した。
「本当にね、適度な温度のお風呂に長く入る方がね」
「身体にいいってのか」
「そうよ、健康よ」
これが円香の意見だった。
「心臓にもいいのよ」
「何が健康だ、俺はこの歳まで生きてな」
「ピンピンしてるっていうのね」
「大きな病気一つしたことないんだぞ」
「それでもよ、そんな食べ方でお風呂の入り方でね」
「健康に悪いってのか」
「何時かぽっくりいくわよ」
怒った顔でこの言葉を出した。
「お蕎麦で喉詰まらせるかお風呂で心臓麻痺になるか」
「そうか、誰にも迷惑かけねえですぐに死ぬならいいな」
「この前俺は百歳まで生きてやるって言ってたじゃない」
「百歳になったその日に」
「本当に口減らないわね」
「江戸っ子は気が短いから口も減らないんだ」
風呂に入ってもこうだった、そして。
義龍は蕎麦と風呂を楽しみながらも文句も忘れず曾孫とも言い合い続けていた、それでその曾孫の円香はというと。
学校でも曽祖父のことをこう話した。
「今時こんなのなのよ」
「いや、凄いわね」
「お蕎麦噛まなくて」
「それでお風呂の入り方もそうなの」
「昔の人もいいいところね」
「昔の江戸っ子じゃない」
「そうなの、八十でね」
それでというのだ。
「こんなの言ってね」
「それでなのね」
「病気一つしなくて」
「それでなのね」
「今もそうしてるのね」
「江戸っ子なのね」
「どう思う?」
円香はクラスの友人達に問うた。
「もう有り得ないでしょ」
「まあそれはね」
「それはそうよね」
「今時珍しい人ね」
「そんな江戸っ子いるのね」
「お爺さんにしても凄いわね」
「お蕎麦は噛んでね」
円香は持論も述べた。
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