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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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雪解け

ダイシーカフェは元SAO攻略組のプレイヤー、エギルがマスターの喫茶店モドキである。どちらかというと酒場かバーの方が近いと思うが

二年間以上も店にマスターが不在でよくもったな、と思うのだがそこは一重にエギルの奥さんの尽力のおかげだ

俺は一度しか会ったことはないが、人当たりのよい美人だった。その時一緒にいたクラインがおもしろかったのを追記しておこう

「エギル、俺はコーヒーを。詩乃はどうする?」

「私も同じので……」

余談だが、俺は紅茶よりコーヒー派だ。というか紅茶は飲めない
コーヒーは微糖がジャスティス。フレッシュは邪道
もちろん異論は認める

「じゃあ、自己紹介でもするか……」

砂糖を一袋入れたコーヒーを一口飲んで口内を湿らせると俺はそう切り出す
そして、椅子に腰掛け柔らかく微笑んでいる栗色の髪の少女に手のひらを向ける

「彼女は結城明日奈。プレイヤーネームは俺と同じく名のアスナ。閃光の異名をとるほどの戦闘狂(バトルジャンキー)だ」

「ちょ、ちょっと待って!」

戦闘狂のあたりでガタリと音を立てて立ち上がったアスナは俺に詰め寄ってくる

「私のどこがバトルジャンキーよ!」

「回復職(ヒーラー)のくせに嬉々として杖(ワンド)から細剣(レイピア)に持ちかえて前線に出てくるやつが何を言う。弁解の余地はあるや?否や?」

「それは……自分の役割を放棄して悪かったけど……」

煮え切らないようだが納得してくれたみたいで何より。とりあえず挨拶をして欲しいんだけど。詩乃はひいてるし

「ちなみにキリトの彼女だ」

「え……」

詩乃は絶句する。まあ、いきなり知り合いの彼女が出てきたら驚く。クラインに彼女がいるといきなり聞かされてみろ。明日の天気は槍のちハルマゲドンだ
これはマヤの予言よりも正確だ。……ハズレまくってるマヤの予言よりは

「結城明日奈です。よろしくね」

「う、うん、よろしく……」

第一印象(ファーストインパクト)が強すぎたみたいだが、面倒見がよく天然なアスナなら詩乃の良い友達になれそうで一安心

そして若干暴走気味な俺の人物紹介は黒髪でショートヘアーの少女に移っていく
「次は……リズか。名前は篠崎里香。プレイヤーネームはリズベット。腕のいい鍛冶師(スミス)なんだが高い。ぼったくってくるから気を付けろよ」

「ぼったくってない!」

「俺の所持金の大半がおまえの武器屋の金庫へと消えたんだが?」

「それはあんたがすぐに武器の耐久値を減らしてくるからじゃない……」

武器逸らし(スラッシュ)を身に付けるために当時は無茶をしたからな
武器の横腹に相手の攻撃が当たるからその分消耗も激しかったし

「まあ、それは置いておいて……」

「そうね……。じゃあ改めて、篠崎里香よ。よろしく」

「よろしくお願いします」

とりあえずこの場にいる女性陣との挨拶はつつがなく終了
あとは男性陣なのだが……正直面倒くさい

「じゃあ、SAO組の自己紹介はこんなところで……」

「「ちょっと待て!!」」

「なんだよ」

「「なんで俺たちは紹介してくれないんだ!」」

一言一句違わぬ完璧なはもり具合。打ち合せでもしたのだろうか?

「はぁ……しょうがないな。猪のキリトと壁のエギルだ」

「「ちょっと待てやこら!」」

「なんだよ?」

「紹介が短い!」

「真面目に紹介してくれよ!」

それぞれの特徴が完璧に込められた漢字を紹介にもりこんだのだが気に入らなかったらしい
四字熟語の方がよかったのだろうか?

「……キリトは面識があるだろ?本名は桐ケ谷和人。猪突猛進でいつも問題事に突っ込んで行ってはヒロインを増やす節操の無いやつだ」

「燐……後で聞かせて?」

キリトは頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。リズは焦っている。アスナは怖い顔になっている。詩乃はそんなアスナを見て震えている
まごうことなきカオスだった

「それでそこのマスターはエギル。本名はアンドリュー・ギルバート・ミルズ……だったよな?」

「ああ……というかよく覚えていたな」

「まあ……記憶力はいい方だからな」

あー、と今思い出したような顔をしているキリト、アスナ、リズとは違うんだよ

「よろしくな。エギルでいいぞ」

「よろしくお願いします、エギルさん」

エギルはかたいな、といいつつ苦笑している
そのうち慣れるだろ

「じゃあ、今度はこっちの紹介か。プレイヤーネームシノン。本名は朝田詩乃で俺の幼なじみだ。よろしくしてやってくれ」

軽く詩乃が頭を下げると皆が口々によろしくと言った
紹介の間に多少冷めてしまったコーヒーを一気飲みし、エギルにおかわりを要求する

「さてと……今回の事件のことはキリトから多少は聞いてるな?」

「触りのところだけだけどね」

「とりあえず死銃はSAOプレイヤーだった」

「あの動き……私も見覚えがあった」

気付く人は気付くか。あの敵のクリティカルポイントを的確に抉るような突きができるプレイヤーはそんなにいなかったしな

「あいつはレッドギルド、笑う棺桶(ラフコフ)の幹部格、赤目のザザだったよ」

元SAOプレイヤーはそれぞれ顔を暗くする。意味のわかっていない詩乃だけが首を傾げていた

「あの……レッドギルドって?」

「ソードアート・オンラインでは犯罪を犯したプレイヤーはHP表示がグリーンからイエローになるんだけど、その中でPKを好むプレイヤーをレッドプレイヤー……そのプレイヤーが集まったギルドをレッドギルドって言うんだよ」

俺が答える前にアスナが答えた
ラフコフはレッドギルドの中でも最悪最強を誇ったギルドだ
俺もキリトもアスナもその討伐作戦に参加していた
そして俺はこの手で数人の命を奪った

「俺とザザはあの世界で文字通り殺しあった。仕留めることはできなかったけどな」

「仕留めることができれば……今回犠牲者が出なかったのにな」

俺と同じくあの日、ザザと殺しあいをしたキリトが顔を歪め辛そうにしている
ザザの命と今回犠牲になった三人の命。選ぶなら確実に後者だ
もちろん、自身が奪った命はこの先ずっと背負っていかなければならない

「ザザみたいにソードアート・オンラインに魂を歪められた人はたくさんいると思う。だからこういう事件はどちらにせよ起こったと思うよ」

ソードアート・オンラインは現実ではありえないファンタジーのような世界だった
単純に戦闘能力が生死を分けるあの世界
平和ボケしている事なかれ主義の現代日本人がそこに放り込まれたらどうなるか?
クリアするんだと息まいてレベル上げに打ち込むだろうか?
それとも考えることを放棄して宿に閉じこもるだろうか?
それとも自殺するだろうか?
それとも……現実だと認めず自分が生きるためではなく現実ではまず味わえない体験……殺人を犯すだろうか?

「でも救われた人だっていると思うよ。……私みたいに。だから私はあの世界での約二年間は否定したくないな」

アスナの視線はまっすぐキリトを向いていた
アスナはキリトと出会い救われた。それは俺も同じだ
自己の価値を本当に理解していなかった俺を個として見てくれたのはキリトがおそらく初めて

「……さすがはタラシ」

または主人公というべきだろうか?
おそらく本人は救ったことを自覚していない。自分を信じる道を突き進み、まわりを救いながらまわりに支えられ困難を乗り越えていく。それを主人公だと言わずしてなんと言うのだろうか

「燐。それは後でたっぷり聞かせてもらうから……」

「ああ……了解」

人間タラシは主人公の基本スキルではあるので時には女同士の修羅場が発生する。これは主人公スキルではどうにもならない困難であるので頑張れよ、キリト

俺はキリトの未来に心の中で合掌した










「さて、そろそろ次の話題に移るか」

俺が事件の概要を話し終え、リズとキリトとアスナが一通り憤慨し、エギルが一つ上の視点から冷静に分析した後、俺はそう切り出した

「次の話題って?」

「詩乃……お前についてだ」

「私?」

「最初に謝っておく。すまない、ここにいる全員に詩乃な過去を話した」

「えっ……」

詩乃の顔色がサッと青ざめる
そして、俺の方を信じられないといった顔で見た
詩乃の過去、すなわち殺人を犯したという過去
それについて酷い心の傷(トラウマ)を持っているのはもう知っているだろう。俺が初めて詩乃と話したときもすぐには信用してくれなくて辛かった

「朝田さん、あのね?」

「明日奈は黙っててくれ」

俺を庇おうとしたのかはわからないが、アスナが口を挟んでこようとするが少し強い口調で制止する

「勝手に話したことについては後でどんな罰でも受ける。だが、ここにいる連中はそんなことを気にするような矮小なやつはいない。それは信じてくれ」

詩乃が一人一人の顔を順々に見ていく。そして、全員の顔に敵意や嫌悪感が浮かんでないことを確認すると表情が少し緩んだ

「話したのは詩乃にある人と会って欲しかったからなんだが……見つけたか、キリト?」

「ああ、向こうで待機してもらってる」

「そうか……」

結局、詩乃を本当の意味で過去の呪縛から解放できるのは俺じゃなかった
でも……それでも解放できる一助となれたなら、解放されるまでの支えになれたのなら、それでいいだろう。俺はなんでも最後には自力で解決してしまう主人公なんかじゃなく、他人の力を借りてようやく舞台に立てる脇役なのだから

詩乃のためにきてくれた主人公……大澤祥恵さん、そしてその娘の瑞恵ちゃん。共に詩乃が人を殺したあの場所で、詩乃に偶然とはいえ命を救われた親子

「はい、これ……」

娘の方の瑞恵ちゃんが差し出した手紙。それを読んだ瞬間、詩乃の瞳から涙が溢れた
その涙は雪解け水のように冷たく……だが暖かな輝きをもって後から後から流れる
春の訪れを祝うように 
 

 
後書き
最後の言い回しがわかりづらくてすみません……

ちょっと補足
雪解け水はまあ本文中になんども凍り付いた心〜的な表現から察しください
雪解け水が出始めるのは春。ここに心が晴れたときを春に例えて重ね合わせてます
雪解け水は冷たい(温度)ですが多くの生物の恵み……暖かさになってるわけです

とまあ、こんな感じで補足説明終わり!
そして以下あとがき

はい! これでGGO編は終了です
あとは番外編とマザーズロザリオですね!
さて、次回はモンハンですね。涙カノ先生の作品、ソードアート・オンライン 守り抜く双・大剣士とのクロスです
モンハンで双大剣てチートだと思うのは私だけだろうか?

ではでは 
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