吸血鬼になったエミヤ
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044話 学園祭編 真価と傷、一回戦の終わり
前書き
更新します
※曇らせ注意
舞台が賑わいを見せている。
「桜華崩拳!!!!」
現在、ネギとタカミチの試合が行われており、ネギの渾身の叩きつける拳の一撃がタカミチに振り下ろされている最中の出来事であった。
シホはアルにとある事を託されていた。
「私に……それが務まるかしら……」
「あなたなら大丈夫ですよ、シホ。それに今のあなたには『贋作の王』があります。ですからきっといけるでしょう」
「まぁ……できない事もないんでしょうけど……私としてはネギ先生の成長具合とかも観たかったけど……でも、ナギの頼みなら仕方がないか」
「ええ。それにしても……『贋作の王』はラカンの『千の顔を持つ英雄』より希少性と秘められている能力に関してはチート性能ですね。まさか、コピーした際に形や能力だけではなく内包されている記録まで現時点でのすべてを写し取ってしまうとは……」
そうなのだ。
シホの贋作の王はアルの『イノチノシヘン』を登録した際にアルが今まで蒐集してきた人々の記録や情報をすべてなんの劣化もなく写し取ってしまったのである。
同じ蓄積型の『イノチノシヘン』とはすでにランクが何段階も違うと言ったところか。
シホもこの事実に気づいたのはアルのを登録して試しに使ってみるとか思った矢先に自分には与り知らない膨大な人数の情報が溢れてしまった事が事の発端。
そしてその事をシホとアルの試合後に教えたところ、アルにしては珍しく動揺した顔をさせて汗を流した。
それで改めて『贋作の王』がまだまだ未知数で馬鹿げた力を秘めていることが判明した瞬間であった。
「言うなれば、最強のアーティファクトと称されるものが『千の顔を持つ英雄』なのだとすれば、『贋作の王』はジョーカー……ありとあらゆる切り札と化すでしょうか?シホの今後の蒐集にかかってきますね。
あのオコジョ君にはぜひにも頑張ってもらいたいですね」
カモミールの事を褒めているアルの言葉に、暗に今後もネギとの仮契約者がぞくぞくと増えていく事を未来視しているかのようでシホはげんなりする。
しかし、実際そうなのかもしれない。
シホの手にはすでにアスナの魔法無効化の剣『ハマノツルギ』、このかの癒しの扇『東風ノ檜扇』『南風ノ末廣』、のどかの心を読む本『いどのえにっき』……など、すでに切り札級の能力は登録されているのだ。
ネギの頑張り次第ではまだまだ隠された切り札が増えるかもしれない。
だが、とシホは思い悩む。
それはつまり今後もネギと関わり魔法に手を出す生徒が増えるかもしれないという事である懸念。
「ネギ先生の事だから今後も存分にバラしていくんでしょうね……頭が痛いわ」
「フフフ。そう言わずに。ネギ君の事を見守っていくと決めているのでしょう?」
「それはそうなんだけどね……」
シホの疲れ気味の表情に、アルはいくつか笑みを零した後に、
「それとですが、シホ……」
急に真面目な顔になって真剣な音色で話しかけてくるアルにシホは『うわっ!急に落ち着くな!?』という感想を脳内で漏らした。
「なに?急に改まって……?」
「あなたの記憶の断片を見させていただいた感想なのですが……」
「あ、それ? それがどうしたの?やっぱりグロかった……?」
「ええ、まぁ……猟奇的なものも含めてあらゆる特殊性癖が詰められていましたね、と。いえ、そういう事ではなく今後、あなたはきっと……辛い出会いをするでしょう」
「辛い出会い……?」
「ええ。捕まった後に正気を失い意識が幾度も朦朧とするほどの凄惨な体験をしていたからあなたはいちいち奴らにされたことを事細かくは覚えていないのでしょうが……」
「―――――…………です」
「ッ!?う、っぷ……」
それをアルから聞かされたシホは口元を手で覆い吐きそうになり、もう片方の手を震わせながらお腹のある部分をさする仕草をしたというだけ……。
それほどにその内容が強烈だという事……。
もし、もしそれが本当だとすれば……シホは今後また幾度も正気を失うかもしれない事実であった……。
◆◇―――――――――◇◆
シホはアルと一旦別れたあと、青い顔をしながらもいつまでもこんな顔ではいられない。カラ元気でもみんなの前ではいつも通りでいようとした。
しかしその姿はとても痛々しかった……。
そんなシホは、それでもタカミチとの勝負で勝利したネギの元へと向かった。
到着してみればそこではすでにみんなに囲まれてもみくちゃにされているネギの姿があり……。
ネギはシホが来てくれたのを気付いたのか、
「あ、シホさん!」
「ネギ先生……その、おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
いまはただただネギの感謝の顔が眩しいと感じたシホ。
そこにハルナが待っていたと言わんばかりに、
「そういえばエミヤンもすごかったじゃん! なに、あの動き!?エミヤンってあんなに強かったの!?」
「ま、まぁ……そこそこは」
「あのフードの人もなんかすごかったけど……あの本はなんだったんだろうね……?」
ハルナのその一言に魔法関係者はビクッと震える。
しかし、シホも慣れたもので。
「CGじゃないかしら……?」
「そうなのかな?でも、あたし的にはネギ先生の戦いも含めて『魔法』って感じだったけど」
「(鋭い……)」
ハルナのその勘の良さにシホは思わず舌を巻く。
もしかしたらこの子もそのうちネギ先生の従者になるのでは?と考えてしまうシホ。
だけどのどかや夕映が引きずっていってなんとか場は収まる。
それで千鶴なども部屋を出ていった。
そして残るのは魔法関係者だけになる。
それを確認してか、
「シホさん。あの方は……誰なんですか?」
「そうよ、シホ! あんたがあんなに本気で戦うなんてそうはないでしょ!?」
ネギとアスナに当然問い詰められるシホであった。
シホはどう話したものかと考えているが、エヴァが引き継ぐように、
「今はまだ詳しく言えん。だが、そのうち知る事になる」
「師匠……」
「エヴァちゃんももう知ってるの……?」
「まぁな。どうせまだアイツの方から色々と絡んでくるだろうから適当に相手でもしてやれ。……それとシホ、少し顔を貸せ。今の貴様はどうにも放っておけん」
「…………わかった」
するとアスナ達も何事かと反応するが、エヴァは後でな!と言ってシホを連れて部屋を出ていき、少し離れたところで、
「アルになにを言われた……?」
「なにをって……その、ネギ先生に私の代わりにナギの言葉を聞かせてやってくださいって……」
「そうではない!ほかにも言われたんだろう?」
「…………」
すべて見透かされている事を悟ったシホは、アルに言われたことをポツリポツリと話した後に少しエヴァの肩に寄りかかって、そして少しばかり泣いた……。
そんな久しぶりの弱気なシホの姿にエヴァも仕方がなく頭を撫でてやる事しかできないでいた。
「(ええい!アルの奴……こんな時にシホの瘡蓋をまた開くことをするでない!!
たとえ衛宮士郎としての記憶を思い出して精神が幾分安定したとはいえ、シホの大部分を占めるおもな精神構造は記憶喪失の間に新たに構築し形成された人格がメインであり、魔法使い共に捕まって停滞していた期間を差し引いてもシホの精神年齢は二十歳にも満たない小娘のそれなのだぞ!?)」
そう、本来ならば精神喪失して植物人間にでもなってもおかしくはない。
だが、それだけはタマモが心をずっと護り続けて阻止した。
しかし、それでもシホとして生活した時間を考えればまだ十代前半でもおかしくないほどに精神構造は幼い。
知識や力があっても精神は体に引っ張られてしまうためにそれ相応のものになる。
まだまだ成長段階だったのにシホはそれをぐちゃぐちゃにされてしまったのだ……。
「(私はまだよかった……火炙りにもされた事はあったがそれでも何とか逃げ延びれていたのだからな……。だが、シホは違う)」
まだ自身の肩でわずかに震えているシホは幼子のようで……。
それなのに、あの悪魔共は……シホのありとあらゆる尊厳を奪い、無理やりに……されてしまった。
エヴァ達が記憶を見た時に一番最悪だと思ったのは当然シホが悪魔に食されている時だが、二番目に来るのはありとあらゆる女性がおそらくは嫌悪してシホに深く共感し奴らを憎悪までするであろう方法だった……。
「(20年だ……20年という頭が痛くなるほどの期間、シホは……)」
エヴァはそこまで思い出して、また怒りがぶり返りそうになりながらも、シホの事を気遣う。
「もう平気かシホ……?」
「うん……ごめん」
「いい、いい……なにかあれば胸はないが貸してやる」
「ありがと……」
「あとでアヤメにも報告しとくか。もう決まってしまっているかもしれない運命とは言え、その事でシホを泣かせたアルの罪は重い」
「あはは……」
シホはそれでなんとか幾分気分が治まってきたために、一回エヴァから離れて深呼吸した後に、
「うん。ありがとエヴァ。もう大丈夫……いつか越えなければならないとはいえまだ今じゃないから、その時までに覚悟決めておくね」
「わかった…………無理はするなよ?」
「ええ」
精一杯笑顔を浮かべるシホの顔は、やはりエヴァには痛々しく見えているのであった……。
◆◇―――――――――◇◆
場所は戻ってファンシーな衣装を身にまとったアスナと刹那は羞恥心から顔を盛大に赤くさせていた。
その場には持ち直したシホと、エヴァもすでにいた。
エヴァが言う。
アスナが鍛えていたとしても神鳴流の刹那には敵わないだろうと。
しかし、そこで現れるアル……クウネル。
アスナの頭を突然撫でながら、
「しかし驚きです……あの人形のように大人しかったあなたがここまで活発になるとは」
次には赤き翼の一人であったガトウ・カグラ・ヴァンテンバーグの名を出しながら、
「何も考えずに自分を無にしてみなさい。アスナさん。あなたにはできるはずだ。そうすればタカミチと同様の事があなたにもきっとできる……」
「ちょ、本当にあんた誰なの……?」
困惑するアスナをよそに、
「おい、ア「クウネルです」……なんだそのふざけた名は?ア「クウネルです」……だから「クウネルです」…………おい、シホ。こいつ絞めていいか……?」
「あ、あはは……」
お怒りのエヴァにさすがのシホも苦笑い。
誰なのかと楓達が聞いてエヴァは話す。
「ぼーやの父親の友人の一人で名を『アル……』」
「『クウネル・サンダース』で結構ですよ。それにシホに負けてしまった私はもうただの傍観者でしかないのですから。助言くらいはいいでしょう?エヴァンジェリン……?」
「別に構わんが……カグラザカアスナになにを仕込むつもりだ?」
「フフフ……いずれあなたにもお教えします。シホ……ですので口出しは無用ですよ?」
全員の視線がシホに刺さる。
存外に話せ!と言われているようで、
「今は私もまだ話せない……ごめん、みんな」
そう力なく言葉を零すしかできないシホであった。
なんか釈然としないものの、頭が悪いのでどうすればいいか分からないアスナは今は保留にすることにして、
「そっか……いつか教えてねシホ!」
「ええ、アスナ」
シホも申し訳なく言葉を返した。
「アスナさん。いま、あなたは力が欲しいのでしょう?ネギ君を護るために……。私が少し助力します。もう二度とあなたの目の前で、誰かが死ぬことのないように……」
そう伝えてアスナと刹那を送り出した後に、シホはアルの隣に立ち、
「クウネル……アスナの事、どうする気?」
「どうもしませんよ。ただ、今のままではネギ君に着いていけないでしょう?」
「そうだけどさ……」
「ええい!二人だけで意味深な会話をするな!!」
シホとアルの会話がじれったいためにエヴァが食って掛かる。
「エヴァンジェリン……賭けをしませんか?」
「賭け、だと……?」
「はい。もうシホからナギの事に関しては聞いているのでしょう?」
「まぁな……生きているのだろう?」
「ええ」
外野から「ホンマあるカ!?」「これは朗報でござるな」とうるさいがここは放置する。
「アスナさんの情報などどうでしょう?」
「あまり魅力的ではないな。聞こうと思えばシホからも聞き出せるしな」
「まぁそう言わずに……それでしたらあなたの知りたい情報などを話せる分はお教えしましょう」
「言ったな……?」
「ええ。ですが……アスナさんが勝ちましたらエヴァンジェリン。あなたには次の試合に」
ポンッ!とその手に出したるは『スクール水着(エヴァの文字の刺繡入り)』。
「これを着ていただきます」
「ふざけているのか!?」
「いえいえ、存分に本気ですよ」
それを聞いてカモミールが「なっ!?スク水だとぉ!!」と鼻息を荒くして反応している。
それをシホが「カモミール……?」と爪を鋭くさせて威嚇するが、
「シホの姉さん!ここは引けねーぜ!」
と謎の気合を入れているのでシホも諦めた。
アスナと刹那の試合は意外にもアスナが善戦していて、その都度にアルが念話でアスナに色々と吹き込んでいる。
アスナもアスナでちゃっかりタカミチの使う『咸卦法』を発動して身体能力をブーストしていたり。
「…………使えたんだ」
「ええ」
短いやり取りのシホとアル。
そして勝負は終盤に入っていき、アルのある一言でアスナの脳内でなにかのタガが外れるのを実感し、無意識にハリセンを剣の状態にして刹那に斬りかかってしまった。
アルもまずいと思ったのか、しかし刹那の機転でどうにか抑える事に成功した。
当然アスナは刃物を使ってしまったので反則負けになったのであったが……。
それでもアスナと刹那は終始戦いを健闘しあっていた。
「…………わ、私の勝ちだな。あとでいろいろと聞かせてもらうからな?」
「御主人、慌テマクッテタナ」
「追加オプションでネコミミとメガネにセーラー服だからなぁ……俺っちはぜひ見たかったけどな」
「カモミール。テメェモ存外命知ラズダナ」
チャチャゼロとカモミールのそんな愉快(?)な会話を横に、
「はい。長いので学祭後でどうでしょう?」
「わかった……」
その後、八回戦目のエヴァと山下慶一という格闘家との試合はエヴァが一撃で沈めて、こうして一回戦すべてが終了した。
休憩を挟んで二回戦目が開始されるというが、同時に一回戦での試合がネットに流出しているという話を千雨に聞かされて、あたふたしているネギ達がいたとかいないとか……。
後書き
察しがいい人はシホやエヴァが何を懸念しているのか分かると思います。
と、同時に今後の予定が決まったかもしれない感じですね、自分的に。
キーワードに『曇らせ』を追加しました。
それとなにやらネットで見れるUQ(最新話より二話前)話でトラック転生している不死者がいるそうで……。
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