東方絆日録 ~ Bonds of Permanent.
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番外
よーむの日
※妖夢視点
私は魂魄妖夢。白玉楼で庭師をする傍ら、西行寺家当主・西行寺幽々子様の剣術指南役をしている半人半霊の剣士だ。
今日も私は白玉楼で幽々子様に剣の稽古をつけていた。
妖夢『幽々子様、剣を構えて下さい』
幽々子「まだやるのー?そろそろ終わりにしましょうよー」
幽々子様は疲れたオーラ全開でそう訴えてはいるものの、稽古を始めてからまだ30分と経っていない。
『ダメです!ただでさえ最近の幽々子様はサボり気味なんですから…。今日という今日は時間いっぱい、みっちり稽古をつけさせていただきます!』
「むぅー」
幽々子様は渋々といった体で剣を構えた。
『それでは参ります。…せいっ!』
キーン、カーンと小気味よい音が響く。
不死身とはいえ真剣で貫かれては流石に痛いだろう。刀身が幽々子様に当たらぬよう細心の注意を払いながら幽々子様と剣を交える。
ーーー黙々と剣を振るっていよいよ熱が上がってきた、そのときだった。
「妖夢、もうやめるわ」
なんと、幽々子様が自ら稽古の終了を宣言したではないか!
思わず『は?』と声が漏れる。
「疲れたから今日はこのあたりで終わりにしましょう」
『ちょ、ちょっと待って下さい!まだ稽古を始めて1時間も経っていないーーー』
「聞こえなかったのかしら?“稽古を終わる”と主人であるこの私が言っているのよ。妖夢、貴女は主人の言うことが聞けないの?」
幽々子様は一方的にまくし立て、私に言を継がせまいとしている。こうなっては打つ術はない。
『・・・分かりました。お茶を準備しますので少々お待ち下さい』
幽々子様は同性の私から見ても非常に魅力的な女性ではあるが、こういうわがままなところだけは好きになれなかった。
そういえば祖父も『幽々子様のわがままな態度には手を焼いた』と言っていた。こんなとき、祖父はどうやって幽々子様を説得していたのだろう。もっとよく聞いておけばよかった。
己の未熟さに憤りを覚え、幽々子様の態度に不満が募る。
幽々子様に言いたいことは山ほどあるがグッと堪え、私はお茶の支度にとりかかった。
ーーーー
「妖夢は何か欲しいものはあるかしらー?」
稽古後恒例のお茶を二人で愉しんでいたとき、唐突に幽々子様からそう訊ねられたた。
『欲しいもの・・・ですか?』
満開近い西行妖を見ながら思考に耽る。
物品は充分に足りているので特に欲しいものはない。これ以上のものを望めばバチが当たるだろう。
しかし、強いて挙げるならーーー
『仲間……ですかね。愚痴や悩みごとをただ聞いてくれるだけでいい。そんな仲間が欲しいです』
幽々子様は大層驚かれた様子だった。
「妖夢がそんなものを望んでいるなんて思いもしなかったけど…。分かったわ、考えておくわね」
『はい、ありがとうございます』
ひとまず私は幽々子様に礼を言った。
「それにしても本当に綺麗よねえ」
幽々子様はまた桜に目を移した。
なぜ幽々子様は突然あんなことを言われたのだろう?いくら考えても私にその答えは見出せなかった。
ー
ーー
ーーー
それから3日後。
さあ寝ようかというときに私は幽々子様に呼ばれた。
「渡したいものがあるのよ」
手を引かれ、連れてこられたのは幽々子様の寝室。
そこに円筒形のものが置かれていた。えんじ色の大きな布が被せられている。
『幽々子様、これはいったい…?』
日中に掃除のためこの部屋を訪れたときにはまだこれはなかった。それ以降に幽々子様がどこかで取り寄せられたのだろうか?
ーーーなどと考えていた、そのとき。
\キレヌモノナドアンマリナイ!/
『ひゃあっ!?』
その円筒形のものが声を発したのだ!これには私も肝を潰さんばかりに驚いた。
「あらあら、起こしちゃったかしら?」
幽々子様が被せてあった布を外すと円筒形のものは鳥籠で、中には巨大な鳥が入っていた。
\ミョン!オハヨ-!/
鳥はときどき小さな声で鳴きながら籠の中を忙しなく動き回っている。
「はい、貴女に相応しい“仲間”よ」
『仲間…?』
それは数日前、幽々子様から何が欲しいかと尋ねられた際に私がリクエストしたものだった。
しかしこの鳥と私との共通点が見つからない。
「ええ、この子は洋鵡というアフリカ原産の鳥よ。性別はメスで人間換算時の年齢も貴女より少し若いくらい。名前は“みょん”って私が勝手につけたわ」
ああ、それで『私に相応しい仲間』か。やっと合点がいった。
『すみません、ありがとうございます』
「いえいえ、夜遅くにごめんなさいね。どうしても今日中に渡さなきゃいけなかったから…」
『えっ、なぜですか?』
そう言うと幽々子様は少し困ったような顔になった。
「貴女も鈍いというか何というか…。こう言えば分かるかしら?ハッピーバースデー、妖夢」
そうだ、今日は4月6日。私の誕生日だった。
ここ最近忙しくて自分の誕生日などすっかり忘れていた。誠に恥ずかしい限りである。
「貴女に“何が欲しい?”って聞いたとき、『愚痴や悩みごとを聞いてくれる仲間が欲しいです』って言っていたでしょう?申し訳なく思ったわね。わがままなところがあるって私も少しは分かっていたつもりだったけど、よもやそこまで妖夢を困らせていただなんて思ってもいなかったから・・・。」
『い、いえ・・・。』
「妖夢は少し生き急ぎすぎているような気がするわ。たまには私みたいにのんびりしないと心の余裕がなくなるわよ?」
『確かに…』
「私も少しずつ態度を改めるよう努めるから、お互い頑張っていきましょう?」
どんなときも気遣いを忘れない幽々子様はやはり私の最高の主人なのだ。
この主人のもとで働けることを誇りに思う。
『…はい!』
私は笑顔で答えた。
\みょん!みょん!/
それに応えるように籠の中のみょんも鳴き、私たちは顔を見合わせて笑ったのだった。
(了)
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