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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第111話『情報戦』

 
「──まさかこのチームが上がってくるとはな。【花鳥風月】だ」


そう告げた終夜は、笑っていた。まるで、戦えるのをワクワクしているかのような、そんな子供のような笑みである。さっきまでの神妙な面持ちが、嘘のように消えていた。


「知っての通り、構成は女子高校生4人組。魔導祭初参加ながら、準決勝まで上り詰めたその実力は本物と言わざるを得ない」


知っている。特に【花鳥風月】の一員である風香に弟子入りしている身として、その凄さは痛いほどに理解していた。たとえ高校生といえど、立派な魔術師だということだ。とはいえ、それはこちらも同じことだが。


「それで対策についてだが、元々日城中魔術部だった櫻井先輩と星野先輩のことはわかる」

「おぉ!」


終夜曰く、「戦闘(バトル)は情報戦だ」ということで、事前に2人も能力(アビリティ)を把握できるのは当然かなりのアドバンテージ。2回戦では能力(アビリティ)を読み違えて苦労したから、とてもありがたい。

それにしても、日城中魔術部出身で終夜たちの先輩という肩書きがとても気になる。一体どんな魔術を見せてくれるのだろうか。


「まず櫻井先輩だけど、この人の能力(アビリティ)は"新緑"、植物を操るものだ」

「やっぱりそうなんすね」

「何だ、知ってたのか?」

「はい、予選の時に」


終夜の説明に伸太郎が納得する。どうやら予選で偶然見たのか戦ったのか、彼女の能力(アビリティ)を知る機会があったらしい。実際に見たのであれば、これ以上ない情報になる。


「そういや、先輩は"迷路(ラビリンス)"を2位で突破してたっけか。あの人は頭が切れるからなぁ」


おっと、植物を操る魔術に加えて、頭の回転が早いと来た。伸太郎に匹敵する頭脳を持っているとすると、相当に厄介そうだ。具体的には、こう、分析とかめちゃくちゃしてくるタイプだったり──


「ま、この人は戦闘(バトル)には出場しないんだけど」

「え、どうしてわかるんですか?!」

「櫻井先輩の能力(アビリティ)はサポートがメインなのよ。戦闘力自体はあまりないの」

「へぇ〜」


サポートがメインなんて、まるでゲームのロールみたいだ。
でも晴登の周りにいないだけで、支援が得意な魔術師がいたって何ら不思議ではない。例えば味方を強化したり回復したり、そんなところだろう。そう考えると、味方を強化するという点では、晴登もサポート寄りの魔術師かもしれない。


「という訳で、櫻井先輩は警戒しなくていい。問題は星野先輩だ。選出がフリーなら、この人は間違いなく出てくる。何せ、歴代の日城中魔術部の中でもトップクラスに強いからな」

「そんなにですか!?」

「あぁ。これまでの魔導祭の記録を見た限りな。俺なんてボコられた記憶しかねぇ」


終夜はそう零して、やれやれと首を振る。
歴代の日城中魔術部の中でもトップクラスに強い──これがどれくらい凄いのかは測りかねるが、終夜より強いというだけで相当な実力であることは明白だ。
そんな人物の能力(アビリティ)とは──


能力(アビリティ)は"星夜"。星の力を利用して戦うんだ」

「星の力……?」

「とりあえず色んなことができるし、どれもスケールがデカい。本気を出せば、隕石だって降らせることができる」

「え、ヤバっ!?」


驚いて思わず起き上がってしまうほどには衝撃的な内容だった。隕石を降らせるなんて、チートもいいところじゃないか。
あんな快活な少女がそんなえげつないことをするなんて……想像もできない。


「他のメンバー2人の実力も相当だろうが、1人を選出するとすれば星野先輩で確定だろう。レベル4の魔術師だが、限りなくレベル5に近い人だ」

「そんな凄い人だったんですね……」


隕石を降らせると言われれば、レベル5に近いというのも納得だ。能力(アビリティ)の詳細はわかっていないが、星の力を使うなんて聞くだに強そうである。むしろなぜレベル5じゃないのか。


「幼い頃から魔術を習得したらしく、その分鍛錬も積んでるからな。ずっと、俺の憧れの人だ」

「あんたいつも鬱陶しいくらいに付きまとってたものね」

「おい、それだと俺がストーカーみたいじゃねぇか」

「あながち間違ってないと思うけど」


そんな終夜と緋翼の軽口を聞きながら、晴登は考える。
終夜の言う通りであれば、彼女は鍛錬を重ねることでレベル以上の力を手にしたと考えるべきか。となると、結月と違って練度も高いはず。突く隙のない手強い相手になりそうだ。

と、そこまで考えて、はてと疑問が浮かぶ。


「そんな凄い人がいたのに、魔術部は予選止まりだったんですか?」

「おま、よくそんな簡単に痛いところ突けるな……」

「あ、いや、単純に疑問で……」

「はぁ……簡単な話だ。予選のルールを思い出してみろ。1人が強くたってどうにもならないんだ」

「あぁ〜」


どうしてそんなに強い人がいたのにもかかわらず、去年や一昨年の【日城中魔術部】が予選を突破できなかったのか。
それは単に、予選のルールがチーム全体の実力を重んじるような内容だからである。今回だって、少しでも晴登がヘマをしていれば予選突破はありえなかった。1人の力ではなく4人全員の力が合わさることで、この魔導祭は勝ち進めるのだ。本戦を通しても、その傾向はよく感じ取れる。


「じゃあ他に、【花鳥風月】について何か知ってる奴はいるか?」

「部長、一応ですが猿飛先輩の情報はあります」

「ん? あぁ、そういや弟子入りしたんだってな。早速師匠の懐を探るとは、お前はスパイの素質がありそうだ」

「嫌ですよそんな素質! 普通の弟子です!」


ここで元魔術部の2人の話は棚に上げ、他の2人の話に入る。
そこで晴登は、先日特訓の折に聞いた話を聞かせようとしたが、あらぬ誤解を受けてしまった。

「冗談冗談」と笑って誤魔化す終夜を尻目に、晴登は風香について覚えてる限り説明する。


「ほ〜ん、あれでレベル2なのか……」

「それ聞いた時は驚きました……」


風香の能力(アビリティ)である"疾脚"はレベル2だと教えられた。彼女の試合を見た後でそれを聞いたので本当かと疑いたくなったが、"制限"として脚にしか魔術を使っていなかったことは、予選から見ても明らかだ。
ただ彼女は"制限"があったからこそ、走りや蹴りなど脚に絞って訓練できたのも事実。低レベルの能力(アビリティ)だからと、油断は決してできない。


「ちなみに部長、"制限"って知ってました?」

「ん、まぁ知らない話じゃない。ただ、そういうもんだと思えば案外気にならないもんさ。工夫次第でどうとでもなるしな」


話のついでに、初耳だった"制限"について終夜に訊くと、あっさりと答えられた。
やはり考えた通り、"制限"があったらあったで、その強みをどう活かすかが重要になるということだ。


「"制限"と言えば、辻の能力(アビリティ)はわかりやすいよな」

「そうね」

「え、何かあったんですか?」

「まぁね。私の能力(アビリティ)って、実は"刀"をモチーフにしないといけないの。ただ焔を纏ったり、雑に放出するくらいならできるけど、技とかは基本的に"刀"が基盤になってるわ」

「あ、じゃああの焔の柵とかも……?」

「あれは刀を柱として設置してから、その間を焔で満たしてるの」

「そんな裏が……!」


焔の柵とは、裏世界で一度だけ見た緋翼の技なのだが、あの一瞬の生成の裏にそんな仕組みがあったなんて。なんか聞いててワクワクする。
言われてみると、緋翼は焔を刀に纏わせたり、焔の斬撃を飛ばしたりはするが、それ以外の行動を見た覚えがない。どれもこれも、彼女の能力(アビリティ)の"制限"が理由だったのだ。


「部長は何かないんですか?」

「う〜ん、俺はあんまりないかな。ただ実のところ、"麻痺"は練習の賜物だぜ? 電力を調整して、相手の神経を痺れさせる程度に留めるという高度なテクニックを使ってるんだ。俺が魔術を覚えたての頃は──」

「はいはい、その話は長くなりそうだからストップ。今は作戦会議でしょ?」


終夜が得意気に語り始めようとしたところを、緋翼がピシャリと制する。話を遮られた終夜は不満顔だったが、「悪い悪い」と頭を掻いて話を戻した。


「んで、残るは小鳥遊って人だが……飛ぶってこと以外何もわからん」


【花鳥風月】の残り1人のメンバー、小鳥遊 舞には、確か結月が予選で出会っている。その時は翼を広げて飛んでいたことしかわからなかったようなので、今はこの情報だけだ。


「空中戦なんか仕掛けられたら、たまったもんじゃないですね」

「そういう時はどうにかして引きずり下ろすんだよ。相手の得意分野で戦ってもしょうがないだろ?」

「なるほど……」


空対陸では陸が不利になると思ったが、終夜の意見に頷かされた。やっぱり彼からは色々なことを学べる。
でも引きずり下ろすってどうやるんだろ……。


「うし、【花鳥風月】に関する情報はこんなもんか。後は明日になってからだな」


事前の情報共有は済んだ。残るは戦闘(バトル)に直結する特別ルールの内容に尽きる。

さて、吉と出るか凶と出るか──







『魔導祭も残すところあと2日! 本日も気合いを入れて実況して参ります!』


魔導祭は4日目を迎え、いよいよ終わりが見えてくる。ここまで短い時間だったが、とても長く険しい道のりだった。

予選も通過できなかった弱小チームが、本戦の準決勝まで登りつめている事実。そんなマンガのような展開に感動すら覚えている自分がいた。
今日を勝ち上がればいよいよ決勝戦。そんな大舞台に是非とも立ってみたい。


『それではトーナメント表の方をご覧下さい。本日は午前と午後に1試合ずつ行なっていきます』


昨日のように、試合は午前と午後に分かれ、順番もランダムということらしい。
たった2試合に1日丸々使うのはどうかと思うかもしれないが、出場してみると連戦するのがどれだけキツいかよくわかったので、これは正当な仕様だと思う。


『午前の試合は──おぉっと、いきなり優勝候補のぶつかり合い! 【ヴィクトリア】対【覇軍】です!』

「「「わあぁぁぁぁ!!!」」」


まだ試合が始まってもいないのにこの歓声。優勝候補という名は伊達ではないとよくわかる。正直、この試合に勝った方が優勝と言っても過言ではないのだ。観客の盛り上がりも妥当だろう。


『続いて午後の試合は、実に珍しい学生同士の戦い! こちらも見ものです! 【日城中魔術部】対【花鳥風月】!』

「「「わあぁぁぁぁ!!!」」」


午前の試合と比べると見劣りするかと思ったが、思いの外観客の盛り上がりは継続している。若き戦士たちの戦いがそれだけ真新しいということか。早くも緊張で頬が強ばる。


「俺らは午後か」

「休む時間があって助かります」


ただ午後の試合と判明して、まずはホッと一息。
本音を言うと、昨日の疲れがまだ取れ切っていないのだ。だから少しでも休息できるのは嬉しかった。


『さて、それではいよいよ本日の特別ルールを発表します』


さて、これが今日の分水嶺。2回戦のように実力差を覆すチャンスとなるか、はたまたその逆となるか。

晴登はごくりと喉を鳴らしながら、ジョーカーのセルフドラムロールを聴く。


『デン! 本日の特別ルールは"ガチンコ3本勝負"! 細かいルールは無しで、純粋に3回勝負のうち2本先取したチームが勝利となります!』


特別ルールが決まった。これは……後者に当たるだろうか。つまるところ、完全な実力勝負である。


『なお、メンバーの選出は自由です。この後、第1試合が始まる前に受付にオーダーをお知らせください』


そう最後に言い残し、ジョーカーは姿を消した。







「3本ってことは、俺の出番はないってことでいいっすか?」

「そうだな。俺と辻、三浦の3人で行こう」


ジョーカーが消えてから、受付前のロビーにて準決勝に向けての最後の作戦会議が行なわれる。そんな中、伸太郎が放った一言が冒頭のものだ。

実力勝負となれば、当然選出されるメンバーも実力順。結月がいない今、1番目と2番目は終夜と緋翼だが、3番目に晴登が選ばれるのは必至である。そして4番目となる伸太郎は、幸か不幸か出場を免れることとなった。


「順番は……大将は俺として、先鋒を辻にしたい気持ちがあるな」

「私? 三浦じゃなくて?」

「先に1本取った方が勢いがつくってもんだろ。だから、大将の次に先鋒が強い方が望ましいんだ」

「なるほどね。任せなさい」

「てな訳で、お前は中堅だ。いいな?」

「はい!」


成り行きで順番が決まってしまったが、確かにこれがベストな気がする。"流れ"というのはそれだけ重要だ。問題は1本目が取られた時だが……考えても仕方ない。


「星野先輩が大将なのは確定として、後は猿飛さんと小鳥遊さんか。辻と猿飛さん、三浦と小鳥遊さんが当たるとベストだが……」

「逆だとちょっと苦しいわね」

「あぁ。でもこればっかりは運ゲーだな」


近距離が強い風香には緋翼を、空を飛ぶ舞には遠距離攻撃できる晴登が適任だということだ。花織が出ないということがわかっているからこそ、建てられる作戦……いや、確実に当たる保証はないから希望止まりだが。


「ここまで来たんだ。絶対勝つぞ!」

「「おー!!」」


終夜の掛け声に合わせ、晴登と緋翼は大きく拳を掲げて返事をした。


──結月、お前の分も頑張るからな。


ここにはいない彼女に向けて、晴登はそう想いを馳せるのだった。
 
 

 
後書き
ヤバい! もう夏休みが終わる! なんか最近これしか言ってない気がします。どうも波羅月です。

今回の話は全く進展がなかった訳で、見応えがあんまりないかもしれませんが許してください。3本勝負ということでいっぱい戦闘シーンを書いていくので。もっとも、絶対3本とは限りませんが……(含み笑い)

次の更新は……さすがに夏休み過ぎてからになりますかね。また1ヶ月1回更新を目処に頑張っていきたいと思います。
それはそうと、もうこの章が始まって1年が経ったらしいですね。……やっぱりペース早めようかな(焦)

今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では!



P.S. 完全に私事ですが、なろうの方でこの小説以外にリレー小説なるものを始めてみました。気が向いたら読んでください(宣伝) 
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