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最期の祈り(Fate/Zero)

作者:歪んだ光
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複雑な名前

12.35……
時計を見ながら物思いに耽る。新入生への挨拶、及び連絡事項を話し終えた後、緊急職員会議のため午後からの授業は取り止めになった。……十中八九、僕が原因だろう。急遽、イレギュラーを「この」学校にいれることになったのだから、当然と言えば当然なのだが。今頃千冬さんも忙殺されていることだろう。
「……後でお礼を言わなきゃな」
「何を?」
ぶしつけに、横合いから声がかかった。
「ん?」
声のかかった方を見ると……まぁ、なんだ、非常に「のほほん」とした女の子が立っていた。
「え〜と、君は……」
多少躊躇いがちに話しかける。
「本音だよ〜。布仏本音」
「へぇ、本音ちゃんっていうのか。で、急にどうしたんだい?」
「う〜んとね、
お礼って誰に言うのかな、と思って」
ああ、その事か。
「ここの先生達にね。急に編入なんて事態になったから大分迷惑をかけてしまったからね」
「そっかぁ〜。やっぱ教職も大変だね」
「そうだね。さて、僕はこれから編入手続きのやり残しがあるから」
机に力をかけ、立ち上る。
「そっか〜じゃあ、また夕食でね、キリリン」
「き、きりりん!?」
思わず、その場でたたらを踏み、復唱してしまった。
「うん。衛宮君のあだ名。切嗣だからキリリン」
「待ってくれ。それは先駆者が偉大すぎる」
幾らなんでも某ツンデレ妹相手では、各方面から苦情が入る……!
「ほ、本音ちゃん、せめてもう少し押さえた呼び名は無いのかい?」
「え?うーん……」
そう言って本気で頭を悩ませる本音ちゃん。彼女を見ていると自然と顔が綻んでくる……
(しかし、向こうはやけに騒がしいな)
見ると、千冬さんの弟……確か、一夏君だったかな?彼が、金髪の女の子と口論になりかけていた。
(まぁ、国が違えば価値観も意見も異なるか。僕が口出す事じゃないな)
勿論、暴力に訴え出したらその限りじゃないが……彼等なら大丈夫だろう。
「切り、きり……あそうだ」
長い思考の迷路から抜け出した本音ちゃんが喋りかけてきた。
「じゃあさ、




ケリィって呼んでいい?」

瞬間、記憶の渦に引き込まれた。
懐かしい思い出。大切な人達。初恋の人。島の惨劇。払ってしまった犠牲。もうかえらない命。果たせなかった約束……







「……リィ、ケリィってば!」
唐突に、自分を呼ぶ声に現実に返された。
「どうしたの?顔、真っ青だよ?」
心配そうに僕を覗き込む優しい顔。まともに彼女の顔を見ることが出来ず、目を反らしてしまう。
「……っ。ごめん。何でもない」
何とかそれだけ答えると、堪えきれずその場を後にした。

思わぬ所で直視してしまった現実。曲がりなりにも理想を追いかけていた頃は、多少は目を反らしていることが出来た。だが、全てを失った今は自分を見つめ直さなければならない。ならば、あの日の記憶とも向き合わなければならない。だが、それは自傷行為とも言える。瘡蓋であれ、癒えた傷口を自ら抉じ開け治療するのだ。もしかしたら、何もしない方がいいかもしれない。だが、それでも……
「……今は未だ止めておこう」
どちらにせよ、直ぐに解決する問題ではない。今はするべき事を終わらせよう。幸か不幸か編入手続きのせいで夕方まで予定は埋まっている。さっさと片付けてしまおう。



職員室にて
「織斑先生」
「山田先生か。衛宮の編入の件、大分動いて貰って助かりました」
「いえいえ。これでも副担任ですから」




「しかし、ビックリしましたよ。織斑先生の弟さんに続き、2人目の操縦者だなんて」
「……その件なんですが、幾つ気になる点が」
「……やっぱり戸籍ですか?驚きましたよ。入学手続きを取ろうとしたら、国籍が無いので入学不可。結局、日本政府が直々に国籍を偽装して編入枠の方に滑り込ませる事になりましたから」
「……まぁ、それもなんですが」
「未だ何か在るんですか?」
「アレが何処でISを起動させたか気になりませんか? 一般男性では通常あれには関われないのに?」
「そういわれてみれば……何処かで拾ったとか!……は流石に無いですよね」
「だとしたら話しもここまで拗れなかったのだが。衛宮は既にISのコアを持っていた。正確には、コートのポケットの中に入っていたのだがな」
「それって……どこからか盗んだって事ですか!?」
「いや、IS保有国からはどこからも被害申告はされてないから違うだろう」
「そうなんですか……しかし、切嗣君って本当に不思議ですよね。どこからともなく現れて」
「編入テストでは山田先生を倒してしまったりか」
「っ!?もう、からかわないで下さいよ……」
「冗談だ。しかし、アイツの事はしっかり見てやって下さい。アレを見ているとハラハラさせられる」
「分かってますよ。これでも副担任ですから」



そう言うと、眼鏡をかけた女性は授業の練り直しをするためその場を後にした。その後、その場に残った妙齢の女性が誰に言うでもなく呟く。

「しかし、本当に何なのだ、あのコアは。産みの親である束も解除出来ないほど強力なプロテクトがかかっているとは……」




歯車は回る…… 
 

 
後書き
どうにか思ったより早く投稿出来ました(笑)ただ、次話は少し遅くなるかも。なので気長に待って下さい。では、また。  
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