| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ペルソナ3 異界の虚影

作者:hastymouse
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

中編

 
前書き
中編です。今回の話は女性主人公をメインに書いてますが、この辺まではワケあってあまり女性主人公にしゃべらせてませんね。その分、なんとなく真田が話を引っ張っている気がします。
恋愛関係の要素もちらちらと入れてますが、確定させずにぼかしています。本音を言うと、個人的には男性主人公と ゆかり 、女性主人公と荒垣、というカップリングを推してます。

 

 
「フフフ・・・」
凍り付いた雰囲気の中に、ふいに笑い声が漏れてきた。
「一人ならともかく、別々の状況で死んだはずの3人が『実は生きていました』というのはさすがに無理があるだろう。」
真田さんが順平から手を放して、静かに前に進み出る。
「ニセモノです、と言っているようなものだ。」
「そうだな。確かに、明彦の言うとおりだ。人を惑わすにしてもやり過ぎだ。」
美鶴さんも同意した。二人に冷静さが戻ってきている。
先輩たちの言うとおり、こちらの動揺を誘うための策略だとしても過剰に盛り過ぎだ。ただそれにしても、ニセモノたちはあまりにも私の記憶に残る姿そのままだ。大切な人のそんな姿は見るのは苦痛でしかなかった。
私は薙刀《なぎなた》を握る手に力を込めた。
「シンジ、お前の化けの皮は俺が剥いでやる。」
真田さんが気持ちを振り払うように、荒垣さんに向けて拳を突き出した。
「てめいにそれができるかよ。」
荒垣さんが鋭い目つきでそう言い返した。
その言葉がゴングであったかのように、真田さんがいきなり飛び出し、ダッシュで一気に距離を詰める。
荒垣さんがそれに合わせて手にした鈍器を振り回した。
真田さんはフットワークで攻撃をかわす。
荒垣さんはその怪力でさらに鈍器を旋回させ、それ以上の接近をゆるさない。
さすがの真田さんもそれ以上はなかなか近づくことができない。
攻めあぐんでいるところに、突然、槍が突き出された。荒垣さんはかろうじてそれをよけて後退する。
「僕もやります。」
天田君が槍をかまえたまま真田さんに並ぶ。続いてコロマルも駆け寄って唸り声を上げた。
「フン。天田に、コロもいっしょか。久しぶりに遊んでやれるな。」
荒垣さんは歯をむき出して見たこともないような凶悪な笑みを浮かべると、召喚器を頭にあてた。

「それでは、チドリさんの相手は私が。」
経過を見ていたアイギスはそう告げると、正面のチドリに向き直る。
それに合わせてチドリが召喚器を手にした。
「おいでメーディア」
浮き上がるように現れたペルソナが火炎攻撃を放ち、アイギスが炎に包まれる。
「トリスメギストス!」
そのとき、掛け声とともに飛来したペルソナが、メーディアに体当たりをくらわせた。
アイギスが炎から転げて脱出する。
順平が召喚器を頭に向けたまま、決意の表情を浮かべて叫んだ。
「アイギス、俺もやるぜ。」
攻撃を受けて体勢を崩したチドリが、ものすごい表情でにらみつけてきた。
順平は一瞬怯むが、それでも気を取り直したかのようににらみ返す。
しばしにらみ合いが続き、チドリの表情は次第に人外の物へと変わり始めた。

「ならば、お父様の・・・いや、こっちのニセモノの始末は私が付けよう。」
美鶴さんが剣を武治氏に向ける。
「私もやります。」
ゆかり が駆け寄る。
背後で風花がユノを呼び出し、バックアップの体制に入った。
「私は美鶴さんといっしょに!」
そう声をかけて、私も ゆかり と並んだ。
これで3対1の戦い。数ではこちらが有利だ。
特に武治氏はペルソナ使いではない。取り押さえるのは難しくないはず・・・と思われたが・・・
美鶴さんのアルテミシアが放ったブフダインを武治氏が気合で弾き飛ばした。
「なに!」
思わず美鶴さんが怯む。
相手がいったい何をしたのかわからない。その戸惑いが攻撃の手を緩めてしまう。
「甘いぞ美鶴。」
武治氏は厳しい口調でそう言うと、いきなり懐から拳銃を抜き出して銃口を美鶴さんに向ける。
その腕に矢が突き刺さった。
ゆかり の攻撃だ。
だがしかし、武治氏は微動たりともせず、苦痛の表情すら浮かべていなかった。
鋭い目つきでにらみつけると、今度は矢を突き立てたままの腕を ゆかり に銃を向けた。

銃声!

その瞬間、ゆかり の前の地面から巨大な顔が飛び出す。
私の呼び出したアバドンが盾となり銃弾を飲み込んだ。
反射的に身をすくめてバランスを崩した ゆかり を私が後ろから支える。
「ゆかり に手を出すな!」
怒りの声と共に美鶴さんが踊り出て武治氏の懐に飛び込むと、左胸に容赦なく剣を突き立てた。
「があああ!」
武治氏が吠えて腕を振り回し、接近していた美鶴さんを跳ね飛ばす。
美鶴さんの体は驚くほど高く飛び、放物線を描いて床にたたきつけられた。まるで車にでもはねられたような勢いだ。
「先輩!」
ゆかり が叫ぶ。
武治氏がこちらに向き直る。
心臓部分に剣が深く突き立ったままだ。血の一滴も流れずに平然としている。こんな人間は絶対にいない!!!
「違う・・・やはりお前はお父様じゃない・・・。」
呻くような美鶴さんの声がした。
その声を聞いて、武治氏の姿がいきなり変化し始める。
顔がゆがみ口が裂けて大きくなる。全身が、スーツごと青黒く変色していく。
みるみる体が膨らんでいき、ついには2メートルを超える巨体に変貌した。体は固そうな甲殻で覆われ、肩には角のような棘が生えている。その口は人の頭を丸呑みできそうなほど大きく、凶悪な牙をのぞかせている。
怪物としか呼べない姿だ。
やはりこの怪物が化けていたのか・・・?
『気を付けて。氷結攻撃は無効です。』
風花の警告が聞こえる。
「じゃあ、私は電撃を試してみる。」
私の言葉に ゆかり がうなずいた。
「ペルソナ!」
私の召喚したシヴァがジオダインを放つ。凄まじい稲妻が襲いかかるが、怪物は仁王立ちのままそれに耐えてみせた。しかし続けて ゆかり の召喚したイシスのガルダインを受けて大きく体勢を崩した。
『疾風攻撃、有効です。』
風花の声に合わせて、私はミカエルを召喚。 ゆかり が再び召喚したイシスと同時にガルダインを放つ。
強烈な竜巻が2つ、絡み合うようにして怪物に襲い掛かる。
その凄まじい攻撃を受けて、怪物は断末魔とともに黒いチリとなって消し飛んだ。

勝利を喜ぶ余裕もなく、ゆかり は血相を変えて、倒れたままの美鶴さんに駆け寄った。
その時、アイギスの「オルギアモード!」と叫ぶ声が聞こえてきた。私は足を止めてチドリとの闘いに目を向ける。
かつてチドリだった怪物に対して、アイギスが高速で連続攻撃を繰り出していた。
怪物の姿は、色が赤黒いことを除けば、武治氏が変じた怪物とまったく同じだ。
順平は少し離れた位置で、倒れたまま動かない
怪物はアイギスと同等の高速で攻撃をかわしつつ、さらにカウンターで攻撃を仕掛けてくる。
もはやメ-ディアなど呼び出しはせず、自ら火炎攻撃をアイギスに撃ち込んでいる。なんとかぎりぎりで回避しつつも、アイギスの体の表面は過熱して煙を上げていた。
一方、ゆかり が再びイシスを召喚し、美鶴さんに回復魔法をかけている。こちらは ゆかり に任せて、私はアイギスの元へと向かうことにした。
怪物の猛攻撃にアイギスが体勢を崩す。
そこに「ペルソナ!」と声が響き、スカディが出現。
最強の氷結魔法ニブルヘイムによって怪物が一瞬で真っ白に凍り付く。
それでもなんとか動こうともがく怪物に、追い打ちをかけるように続けて氷結攻撃が降り注いだ。ついに動きを止めた怪物は、アイギスの放ったとどめの一撃で粉々に崩れ去っていった。
私は順平の様子を見るために急いでかがみこむ。
「順平、終わったよ。」と声をかけると、床にうつぶせの状態の彼から「チドリ・・・」というすすり泣くような小さな声が聞こえてきた。

もう一方の戦いでは、ジオダインのまばゆい輝きと共に、荒垣さんから変じた怪物が消し飛んだ。
仁王立ちして召喚器を構えている真田さんの背後には、天田君とコロマルが倒れている。天田君たちをかばって戦っていたのだろう。その真田さんも力を使い果たしたかのようにバランスを崩すと、そのままばったりと倒れてしまった。
オルギアモードで活動限界を迎えたアイギスも、がくりと膝をついたまま白い煙を上げて静止している。
三体の怪物との戦いで、こちらのメンバーの大半が戦闘不能になってしまった。
私と ゆかり は、一人一人の様子をみてまわった。
立ち上がることもできない状態だが、全員 生きてはいる。幸いにも命にかかわるような怪我人はいないようだ。
ゆかり がイシスを呼び出し、順に回復魔法をかけていく。
そこに風花の緊張した声が響いた。
『気を付けてください。上の階にまだ何かいます。』
「ここは私がなんとかする。先に行って。」
ゆかり が振り向いて言った。
「何言ってるの、みんなの回復が優先でしょ。」
私が言い返すと、ゆかり が首を振った。
「戦いはまだ終わってない。先に進まないと・・・。こんな状態のところに敵がきたらどうしようもなくなる。回復したら動けるメンバーですぐ後を追うから、今は先に進んで。」
「・・・・。」
みんなの状態が気になったが、ゆかり の言う事にも一理ある。
私たちは目を見合わせてうなずいた。
「わかった。」
「お願いね。」
後ろ髪をひかれる思いで立ち上がると、私はみんなに背を向けて走り出す。
『私がここからサポートします。気を付けて。』
風花が声をかけてくる。
それに手を上げて応えると、薙刀《なぎなた》をつかんで階段を駆け上がった。

階段は正常な状態の学生寮よりずっと長く続いていた。やはり空間が歪んでいる。建物の2階に上がるというより、まるで塔でも登っているような感じだ。
息を切らせてようやく上がりきると、そこもやはり1階と同じような、ただれて黒ずんだ広い空間となっていた。
「やれやれ。君たちは本当にしぶといねえ。」と声がする。
聞き覚えのある軽い口調だった。
私はそこに立ちふさがっている男をにらみつけた。
「どうせあなたも幾月さんじゃないんでしょ。」
幾月修二にそっくりな男は、私の言葉に肩をすくめて笑った。
「いやはや手厳しい。」
かつて月光館学園の理事長で、特別課外活動部の顧問だった男。そして人類全体に対する裏切り者だ。
「どうして死んだ人の姿をまねる。何が目的だ。」
「別に僕が姿をまねているわけじゃないさ。これは君たち自身がやっていることなんだよ。この姿は君たちが心に残しているものなのさ。」
「どういう意味?」
幾月が語りかけてくる様は、私の記憶に残る幾月の姿と全くぶれていない。
いや・・・
もしかすると逆ではないのか?
私たちの記憶の方が、その姿に投影されているのではないか?
「君たちはまもなく大きな戦いを迎える。勝ち目のない戦いだ。それはよくわかっているだろ。たとえどんなに決心を固めていても、怖れはある。迷いもある。心残りだってある。」
「つまり・・・あんたたちのその姿は、私たちの『怖れ』や『迷い』、『心残り』なんかが実体化したものっていうこと?」
今度は私が問いかけた。
幾月は一瞬驚いた表情を浮かべ、それからこちらをからかうように軽く拍手した。
「察しがいいね~。さすがだよ。死んでしまった人、助けられなかった人には強く心が残っている。その心に残った迷いが具現化して君たちと対峙し、君たち自身の決意を揺るがしているのさ。」
「たとえそうだとしても・・・幾月、お前の死を悔やんでなんかいない。」
「それはそうだろうね。・・・でも後悔はしているのさ。僕の本心や行動にもっと早く気づけていれば、こんな事態は避けられたかもしれない。もっと別の道もあったかもしれない。死なないで済んだ人もいるだろう。僕は君たちの心に刺さった棘だ。やはり僕の存在も君たちの心残りなのさ。」
「ならここでその後悔も断ち切って前に進む。」
幾月は薄い笑みを浮かべたまま悠然と立ちはだかっている。
「ペルソナ!」
怒りのこもった声が響き渡った。
召喚されたサトゥルヌスがアギダインを放つ。強烈な火炎攻撃。だが幾月はそれを受けても大したダメージを受けた様子もなく、余裕の笑いを浮かべたまま炎の中から飛び出す。
続けて私が呼び出したシヴァのジオダインがヒットする。だが幾月は今度も耐えきった。
「さすがだね。でもまだまだだよ。」
幾月が笑い声をあげる。そして、その声とともに体が変貌し始めた。先ほどの怪物たちと同じように・・・。
しかしその姿はさらにひとまわり大きく、そして体は金色に輝いていた。見た感じ、怪物たちの親玉といった雰囲気だ。
怪物は既に言葉を発することも無く、意味不明のうなり声を上げている。
私が続けて呼び出したキュベレのメギドラが直撃したが、それをものともせずにこちらに迫ってくる。
次の瞬間、私はすごい衝撃で弾き飛ばされた。
一瞬、気を失いかけて、必死で意識をつなぎとめる。
気づけば床に倒れていた。全身が痺れて動かない。
目の隅に迫ってくる金色の怪物が見える。
私は焦ってもがこうとするが、どうしても体が言うことを聞かない。
(このままでは死ぬ・・・)
死を意識し、頭に絶望がかすめた時だった。
突然、目の焦点が合ったかのように、『その姿』がはっきりと見えるようになった。私に背を見せて立つ『その姿』。
巨大な怪物の前に、私をかばうように『彼』が立ちふさがっていた。 
 

 
後書き
中編終了。バトルにつぐバトルで、ようやくここまでたどり着きました。これからいろいろネタ晴らしに入ります。伏線を入れすぎている気もするので、鋭い人はもうわかっちゃってるかもしれない。それでは後編をよろしくお願いします。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧