DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
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王者の風格
前書き
早く主人公に焦点を当てていきたいけど、まずは春のライバル校同士の試合が始まると思うので、もうしばらく時間がかかりそうな気がする|ョω・`)ゴメンリアチャン…
前半が大荒れだった春の都大会三回戦。しかし、4回からマウンドに上がった明里さんが見事に2回を無失点に抑えてくれた上に、打線も2点ずつを追加し、試合は結局13対4の5回コールドで勝利を納めた・・・のはいいんだけど・・・
「相変わらずの大味な試合になったな」
初めて参加した試合後のミーティング。監督はやっぱり序盤の攻防に不満があるようで、機嫌が悪そう。
「・・・まぁ、打撃はしっかりしてたし、ベンチからも声が出てたからな。次はしっかり投げれるようにしておけよ、葉月、優愛」
「「は~い」」
長くなるかな?と内心ドキドキしていたけど、どうやらそんなことはなかったみたい。というより、初めからこうなることも監督の中ではわかっていたみたいで、あっさりと話を終わらせていた。
「明日も試合があるし、今日の悪かった点は次の練習で直していく。いいな?」
「「「「「はい!!」」」」」
「よし。次の試合、見たい奴は見ていっていい。帰りたい奴は明日遅刻だけしないように」
予想していたミーティングよりも手短なそれを終えると、監督はすぐにその場から離れていく。どうやら何か予定が詰まっていただけで、本来はもっと長いミーティングになる様子だったのはなんとなく察しがついた。
「そういうことだから、帰りだけ気を付けるように」
「「「「「お疲れさまでした!!」」」」」
陽香さんも特に何かを言うわけでもなくあっさりと解散してしまう。何がなんだか私たち一年生はわかっていないけど、先輩たちはそんなことなどお構い無しにどこかに行ってしまった。
「莉愛、私次の試合見ていくけど行く?」
「行く!!」
これからどうしようかと思っていたところで瑞姫からそんな誘いを受ける。まだまだわからないことだらけだし、見れるものは見ておきたいというのが私の気持ち。
「次、東英の試合だもんね。先輩たちみんな早く見たくて堪らなかったんじゃない?」
「あぁ、そういうことなんだ」
なんで監督も先輩たちもこんなに忙しないのかと思っていたけど、次の試合に出場する優勝候補であり最大のライバルである東英学園の試合を観戦したかったらしい。
相手もうちと同じく二回戦からの出場だけど、初戦は平日だったから見に行けなかったんだって。
スタンドに行くと、案の定ほとんどの先輩たちの姿があった。ただ、注目したいポイントが違うのか、内野のスタンドにはいるものの、色々なところに散らばっているみたい。
「ほら、莉愛こっち」
「どっち?」
先を行く瑞姫に手を引かれて進んでいく。彼女が選んだのはバックネット裏の試合全体が見渡せる場所。
「隣いい?」
「いいよぉ」
そこには既に紗枝や他の一年生も数人集まっていて一緒に見ようとしていたらしい。なんだか二人とも解説係みたいになってるけど、大丈夫かな?
「オーダー出た?」
「秋とは変わってるみたいだよ」
丁寧にメモまで取っていてくれた様子の紗枝。瑞姫が見ているそれを後ろから覗き込むけど、名前なんか誰もわからないから意味がなかったりする。
「あれ?笠井さん2番になってるじゃん」
「大山さんと入れ替わってるみたいだね」
二人で盛り上がっている瑞姫と紗枝に置いていかれている私たちは目を合わせると苦笑いを浮かべてしまう。完全に私たちのことを忘れている二人を見ていると、イタズラをしたくなってしまった。
ジーッ
そして同じことを考えている様子の娘がもう一人。紗枝の隣にいる長谷川翔子。彼女は私にアイコンタクトを図っていたようで、それに気付くと揃ってニヤリと笑う。
「二人だけで楽しむなぁ」
「やぁ」
「「きゃあああ!!」」
警戒心の一切ない二人に後ろから抱き付く。突然の出来事で驚いた二人は周囲が振り替えるほどの悲鳴をあげていた。
「ちょっと!!何やってるの!?」
「変なところ触らないでよ!!」
「いいじゃんいいじゃん♪」
「二人だけで盛り上がってるのが悪い」
立ち上がりげんこつを落としてくる瑞姫と翔子を引き剥がそうとしている紗枝。そのリアクションがあまりにも可愛らしくて楽しんでいると……
「そこ!!静かにしろ!!」
前方に陣取っていた陽香さんに怒鳴られてしまった。
「「「「す……すみません……」」」」
物凄い剣幕だった彼女の圧に押されて小さく縮こまる。さらには周囲の人たちの視線が集まっていたことにようやく気付いた二人は、顔を真っ赤にしていた。
「次やったら舌噛むから」
「そんな怒り方する人今どきいないよ」
怒り方の方向性が違うような気がしたけど、ここはスルーしておく。しかも、私たちが騒いでいる間に試合は始まっていたようで、東英と書かれたユニフォームに身を包んだ少女たちが守備に着いていた。
「先発はエースの後藤さんか」
「じゃあ指名打者もなしだね」
さっきのことがあったのに既に二人だけの世界に入り込んでいる瑞姫と紗枝。ただ、さすがに二度も同じことをすると何をされるかわからないので今回はやんわりといく。
「あの……二人とも?」
「解説は?解説!!」
翔子も同じことを思っていたようで二人揃って声をかける。案の定みんなも同じように彼女たちに視線を向けており、それに気付いた二人は大きなタメ息をついていた。
「仕方ないね……」
「試合見ながらね」
「「やった!!」」
じっくり試合を見たかったのが反応からすぐにわかったけどそんなことはお構い無し。既に投球練習を終えている背番号1のサウスポーは、審判の声でモーションに入る。
「今日の先発はエースの後藤理沙さん。U-18日本代表のエースよ」
「じゃあすごい人だ!!」
解説を聞きながら投じられた初球。まるで糸を引いているかのような綺麗なストレートがキャッチャーの構えたミットに収まる。
「MAXは124km。陽香さんが123kmだからそこまで変わりはないけど……」
「けど?」
ボールを返球されると、サインを受けてすぐに投球に入る金髪の少女。高々と上げられた足が踏み出されると、動き出していたバッターを嘲笑うように、山なりのボールがミットに収まる。
「うわっ!!何あれ!?」
「あれってコントロールされてるの?」
「もちろん。後藤さんのスローカーブは狙ってストライクが取れるわ」
昔甲子園でも似たようなボールを投げる人がいたけど、ここまで腕を振って投げたボールでは打者も見分けが付かない。結局次のストレートにスイングすることすらできず、呆気なく三振に倒れていた。
「これ以外にもスライダーとフォークを投げれる上に、全部で空振りもストライクも取れるほどの精度の高さを持っているの」
「力のあるストレートに縦と横の変化。おまけに点でしか捉えられない緩いボールがあるから、どこのチームもなかなか打てないのよね」
その言葉を裏付けるように、続く二人を内野ゴロに切って取る後藤さん。試合開始から5分も経っていないのにこのスピーディーな試合展開。本当に強いチームなんだと思わされる。
「打撃ももちろん強いよ。イメージとしたらうちの打撃がより強化された感じかな?」
「う……うちの打撃を……」
二試合連続のコールド勝ちということもあり、先輩たちの打撃はすごいの一言。なのに、これから攻撃に入る東英はそれを上回るらしい。
「一、二番は比較的小技が得意な大山優樹菜さんと笠井希さん。めちゃくちゃ出塁率が高いんだ」
先に打席に入る赤髪のショートヘアの女性。明里さんを彷彿とさせるようなスラッとした背の高い彼女は、左打席で一度大きく伸びた後、重心を落としながら構えに入る。
カキーンッ
2ボール2ストライクからの5球目をレフト前に流す綺麗なバッティング。続く藍色の髪をしたツインテールの少女は、左打席に入るや否やすぐさまバントの構え。
「正攻法なんだね」
「う~ん……たぶん違うと思うけど」
翔子の言葉に否定的な紗枝。しかし、相手は私たちと同じ考えのようで、ピッチャーが動き出すと同時にサードが前へとダッシュする。すると……
スッ
「「「「「!!」」」」」
笠井さんはバントの構えから一転、バットを引くとそのままダッシュしてきたサードの頭上へライナーを放つ。
「うわっ!!」
スタンドにまで聞こえるほどの驚いた声。無情にも定位置にいれば真っ正面だった打球はレフト線を転々とし、一塁ランナーの大山さんは快速を飛ばして三塁を陥れていた。
「ナイスバッチ!!」
「イエーイ!!」
笠井さんも二塁に難なく到達しておりあっという間にノーアウト二、三塁。続いて打席に入る選手を見て、思わず目を見開いてしまった。
「なんかふ……大きくない?」
「今太ってるって言おうとしたでしょ?」
図星を突かれて苦笑いする。でもそう思っちゃうでしょ?前の二人が細身だったからってこともあるけど、今打席にいる左打者は明らかに大きい。身長もそれなりにあるんだろうけど、幅が大きすぎてそちらにばかり印象を持っていかれる。
「確かにびっくりするけど、背番号見るともっとびっくりするよ?」
「「「「「え?」」」」」
紗枝に言われるがままに彼女の背番号を見た後、スコアボードでポジションを確認する。その数字はどちらも8となっており、彼女がセンターにいることに驚いた。
「鈴川さんはあの身体で脚も速いのよ」
とてもそうは見えないけど、瑞姫が言うのならそうなんだろう。そう思いながら見ていると、彼女の不思議な構えにまた驚かされる。
「え?バント?」
「でも構えはバッティングじゃない?」
通常、バッティングの時は両手を揃えて構える。しかし、鈴川さんは両手を離した構え方をしており、バントのようにも見える形から、バットはしっかりとトップの位置にある。
「鈴川さんはパワーがあるからね。あれでスイングの軌道を安定させて、打率も高めているの」
セオリーからは外れているけど、それを可能にするだけのパワーがあるらしい。その言葉通り、内角の厳しいボールを彼女はライト側に高く打ち上げた。
上がりすぎた打球にライトは楽々追い付いたものの、この距離ではランナーを刺すことはできない。二人のランナーは楽々次の塁に進み、あっさりと先制する。
「そしてスター揃いの選手たちを纏めているのがこの人。キャプテンの大河原瞳さん」
「4番でキャッチャーでキャプテン。まさしくチームの大黒柱よ」
さっきの鈴川さんから見ると小柄に見えるお姫様カットの少女。大和撫子という言葉が相応しいような容姿の彼女は、右打席に入る。
カキーンッ
決して甘くはないスライダー。彼女はそれを華麗に流し、打球は右中間を破っていく。
「鈴川さんホントに脚速い!!」
「大河原さんも速っ!!」
笠井さんは悠々ホームに帰ってくると、後ろの二人も猛スピードでダイヤモンドを駆けていく。ようやくセンターが追い付いてボールを返すが、ボールをキャッチャーが捕球する頃には、一塁ランナーの鈴川さんは生還しており、大河原さんもその間に三塁を陥れていた。
「通常ならここから打力が下がっていくけど、東英の場合このあとも打線は切れ目なく続くし、ピッチャーも後藤さんの他に今年は二人のピッチャーがいるわ」
「エースは後藤さんだけど、控えの二人も完投能力があるから、体力的にも優位に立てるのよね」
一発勝負のトーナメントでは、どこのチームも出し惜しむことができずにエースを多投させるケースが多い。しかし、東英はレベルの高い投手陣を確立させることで夏場の連戦も乗り切れるとのこと。
「すごい……」
先輩たちの試合を見て野球のすごさをわかったつもりでいたけど、この試合を見てそれがより深まった。そんな私は目を輝かせ、このあとも続いていく試合をじっと見つめている。
「私も早く試合に出てみたいなぁ」
誰に言うわけでもなくそっと呟く。早く……もっと野球に深く入っていきたい。そんな気持ちを抱きながら、じっと試合を見つめていた。
後書き
いかがだったでしょうか。
作中最大のライバルチームの詳細を少しずつ出してみてます。そろそろ主人公にスポットを当てていきたい|ョω・`)ワタシノエイエンノカダイ
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