戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~
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第9節「ガングニール、再び」
前書き
一日延期して完成させました、第9節です!
久し振りの、そして原作ではこれで最後となる『烈槍·ガングニール』と共にお楽しみください!
「ねぇ、奏……どうしてあんな事を?」
「意外だね。あたしの知ってる翼なら、同じ事を言うと思ってたけど?」
トレーニングの後、休憩所の自販機の前で、あたしと翼は昨日の響を思い出していた。
『戦う理由を失ったやつに、あたしの槍を振るう資格はないよ』
あたしの言葉に、響はかなり表情を曇らせていた。それこそ、谷に突き落とされたような気分だったろうね。
あの子があたしに尊敬の眼差しを向けているのは知っている。だからこそ、誰よりあたしが言うべきだと感じた。
半端な覚悟で戦場に立つなんて、許される事じゃない。自分の生命だけじゃない、他人の生命も懸かってるんだ。どんな形であれ、中途半端なものだけは、生命のやり取りをする場に持ち込んじゃいけない。
なによりそれは、響のためにならない。
あいつの言う「話し合う意思」そのものを否定する気は無いし、それで解決出来れば一番だ。
でも、世界はそんな物分りのいい奴ばかりじゃない。人類が大昔、バラルの呪詛ってやつで相互理解を失ったって話は聞いた。その結果生まれたのが、ノイズだって事も。
それに、響がシンフォギア装者になったのは、そもそもあたしの責任だ。
あの時、あたしがもっと上手くやれていれば……あの子はただの、普通の女の子でいられたかもしれない。
シンフォギアを纏い、覚悟を握って戦場に立つのは、選ばれたあたし達だけでいい。元々響には縁のない話なんだ。
今の響を見ればわかる。あいつはそろそろ、シンフォギアを纏う重荷に耐えきれない。
あいつが自分の口で無理だって言うんなら、誰も文句は言わないはずだ。
だから──
「このままだと、あいつは押しつぶされちまう。そうなる前に、そろそろここらで──」
「そうかもしれない……。でもね、奏」
「ん?」
遮るような翼の言葉に、あたしは翼の顔を覗き込む。
その顔は、あたしが知っているよりも少しだけ、凛々しい表情をしていた。
「あの子は……立花は、奏が思ってるほど弱くないよ。ああやって、いつも悩んで立ち止まるあの子だからこそ、救われた人達がいるの」
「……そうかい」
頑固者の翼にそこまで言わせる、か。
なら、どんな答えを聞かせてくれるのか。少しは期待してもいいって事なのかね。
その時、本部内にけたたましいアラート音が鳴り響いた。
「奏ッ!」
「アルカ・ノイズかッ!」
急いで発令所へと向かうあたしたち。
そこへ、見慣れた黒スーツの男が向かってきた。
「緒川さん!?何処へ──」
「響さんの援護に向かいますッ!」
「マリアもかッ!?」
「ちょっとあの子、ほっとけないわッ!」
そう言って、緒川さんとマリアは車両格納庫へと走っていった。
あの子、って言ってたけど……まさか、響か!?
ff
「……なんで……聖詠が浮かばないんだ……」
何度も唄おうと口を開く響だが、いつもは胸に浮かぶ聖詠が、何故か一向に浮かんでこない。
「どういう事だ……!?」
「まさか、響は……」
「翔、何か知ってるのかよ!?」
「…………」
翔には心当たりがあるようだが、純の質問には答えない。
問い詰めようとした純だったが、今はそれどころでは無い。
ノイズに周囲を囲まれ、しかも背には生身の友人たちがいる。
戦うより先に、彼らを逃がさなくてはならない。
(ギアを纏えないこいつと戦ったところで意味は無い……。ここは試しに、仲良しこよしを粉と挽いてみるべきか……)
ガリィが口元に下卑た笑みを浮かべた、その時だった。
「あー、まどろっこしいなッ!」
「……?」
詩織がドスの効いた声と共に、遊歩道をガッと踏みつけた。
突然の発言に、ガリィを含めたその場にいる全員の視線が詩織へと集まる。
「あんたと立花がどんな関係か知らンけど、ダラダラやンのなら、あたしら巻き込まないでくれる?」
普段からは想像もつかない、低くドスの効いた声でしゃべり続ける詩織。
その粗暴な言葉遣いと不良のような態度、腰に手を当てた佇まい。そしてあまりにも自分本位な発言に、彼女をターゲットである響の友人だと認識していたガリィは困惑する。
「……お前、こいつの仲間じゃないのか?」
「冗談ッ!たまたま帰り道が同じだけ。そうだろ、野郎ども」
そう言って詩織は、男子の方に目を向ける。
その目を見て、恭一郎は慌てて答えた。
「……そうだそうだ!テラジの姐さんの言う通りだぞ!」
「君らのヒーローごっこに付き合ってられるほど、僕らも暇じゃない。巻き込まないでくれる?」
「これから塾なんだ。退いてくれるかな?」
恭一郎に続く形で流星、飛鳥も続ける。
その姿は、少なくともガリィから見れば、他人がどうなろうと自分に関係の無い事からは逃げたがる一般人の姿に見えた。
「ほら、道を開けなよ」
「……ッ」
仲のいい友人を襲えば響もその気になるだろう、と踏んでいたガリィだったが、相手がそこまで仲のいいわけでもないただのクラスメイトなら話は別だ。手にかけたところで、目的を果たす事は敵わない。
もしも、彼女が受けた命令が、ただシンフォギア装者を襲うだけなら、こうはいかなかっただろう。
悔しげに歯噛みしながら、ガリィはアルカ・ノイズを下がらせ、包囲を開けさせる。
その直後だった。
「今ですッ!」
「アラホラサッサー!」
「ビッキー、行くよッ!」
創世が響の手を引いて、一同は戦える翔と純だけを置いて全速力で走り出したのである。
「な……」
「行くぞ、純ッ!」
「ブラックホールが吹き荒れるぜッ!」
そして友人達が離れた瞬間、翔と純は戦闘を開始した。
「あんたって変なところで度胸あるわよねッ!」
「去年の学祭もノリノリだったしッ!」
「さっきのはお芝居ッ!?」
困惑する未来に、詩織と創世、そして弓美は得意げな笑みを向ける。
「たまにはわたしたちがビッキーを助けたっていいじゃないッ!」
「我ながらナイスな作戦でしたッ!加賀美くん達もありがとうございますッ!」
「あー緊張したぁ!」
「あれは流石に肝が冷えたぞ……」
「グッジョブ、寺島さん。助かったよ」
「マジかよ寺島!?お前、女優めざせるぞ!?」
急に振られたアドリブに、即座に対応して見せた恭一郎と飛鳥、流星は胸を撫で下ろしながらサムズアップしてみせる。
そして、大野兄弟のクロスボンバーを受け、直前まで顎下をさすっていた紅介は、自分が喋ってボロが出なかった事に心の中でこっそり安堵していた。
しかし……
「──と、見せた希望をここでバッサリ摘み取るのよねッ!」
ガリィの指示と共に、アルカ・ノイズ達は一斉に走り出す。
狙いは当然、逃走する響たちだ。
解剖器官をムチのように伸ばし、街灯やベンチを分解しながら向かってくるアルカ・ノイズ。
何体かは解剖器官を地面に引きずり、痕を残しながら追ってくる。
更に、ガリィも足元から地面を凍らせると、凍らせた地面を滑りながら響たちの方へと向かっていく。
「「やらせるかぁぁぁぁッ!」」
〈斬月光〉
〈Slugger×シールド〉
翔のアームズエッジから放たれる半月状の光刃と、純が勢いよく投擲した盾が宙を舞う。
アルカ・ノイズは一気に減らされるが、ガリィは更にジェムを放り、倒された分のアルカ・ノイズを追加していく。
「こいつ……何体持ってやがるんだッ!?」
「分からない。とにかく手を止めるなッ!」
二人もアルカ・ノイズを倒しながらその後を追うが、その先で響が転んだ。
足払いするように振るわれた解剖器官が地面を削り、響が躓いてしまったのだ。
「うわッ!?……っぅッ!」
転んだ響の手から、ギアペンダントが飛んでいく。
「ギアがッ!?」
「響ぃぃぃッ!!」
思わず翔が叫んだ、その時だった。
響たちの向かっていた方向から黒い車が、ギュィィィィッ!と音を立て、スピンしながら目の前に停車する。
運転席から出て来たのは緒川の姿だ。
そして後部座席から、宙を舞うペンダントへと勢いよく跳躍したのは……マリアだった。
「はあぁぁぁぁぁッ!」
ペンダントを掴んだマリアは、自らの聖詠を高らかに口ずさむ。
「──Granzizel bilfen gungnir zizzl──」
溢れはじめる秘めた熱情が、彼女の全身を黒く包み込んだ。
「──マリアさんッ!?」
響を始め一同が呆然とする中、瞬きの瞬間には、マリアの全身はかつてと同じ──否、弱さを覆い隠す黒いマントを脱ぎ捨てた、烈槍・ガングニールを鎧う戦姫の姿に変わっていた。
「この胸に宿った信念の火は──」
前腕部のアーマーを大槍のアームドギアに変形させると、先端から放つ閃光で前方のアルカ・ノイズを焼き払う。
〈HORIZON✝︎SPEAR〉
LiNKERを投与していないため、全身を紫電が迸っているが、歯を食いしばって痛みを堪えながら、彼女は力強く歌い続ける。
(戦える──。この力さえあればッ!)
フロンティア事変以来、約半年ぶりに纏うガングニール。
その力を握り直しながら、マリアはガリィへと立ち向かっていく。
『マリアくんッ!発光する部位こそが解剖器官……、気をつけて立ち回れッ!』
「俺達も援護しますッ!」
「こっからが見せ場だぜッ!」
弦十郎からの指示と伴装者達からの援護を受けながら、マリアは更に追加されたアルカ・ノイズを蹴散らしていく。
パイプオルガン型を真っ二つにし、背後から迫るヒューマノイドアルカ・ノイズ2体を薙ぎ払い、振り向きざまの勢いを乗せてもう一体、パイプオルガン型を撃破する。
遠距離攻撃ができる方を先に潰し、残る人型も無駄のない動きで蹴散らしていく。
半年もギアを纏っていないにも関わらず、鈍った様子さえ見せずに、マリアはガングニールを使いこなしていた。
(わたしのガングニールで、マリアさんが戦っている……。ガングニールは……人助けの力なのにッ!)
つい先程、自らに応えてくれなくなったガングニールが今、マリアに力を貸している。
戦うマリアの姿を見る響の胸には、複雑な感情が広がっていった。
「想定外に次ぐ想定外。捨てておいたポンコツが意外なくらいにやってくれるなんて……」
(──ノイズは粗方倒した。後は──)
残るアルカ・ノイズを翔たちに任せ、高く飛び上がったマリアはガリィへと向け、烈槍を突き出した。
「覚悟を今構えたらッ!誇りとちぎ──」
だが、その一撃はガリィに届くこと無く止められた。
割れるような音と同時に、宙を舞う氷。
ガリィが翳した両手の先には、青い魔法陣が。そして魔法陣へと向かって、白く凍てついた空気が集まっていく。
氷の結界は烈槍を阻み、無双の一振りを通さない。
「ッ!それでもッ!!」
マリアの叫びと共に、烈槍の穂先が中心から二つに割れ、短槍となったアームドギアが現れる。
「ッ!?」
ガリィの両手がこじ開けられ、無防備になった心臓部へと、マリアは素早く烈槍を突き立てた。
……突き立てられた、筈だった。
穂先はガリィに突き刺さる寸前で、先程よりも小さく、強固な結界に阻まれていたのだ。
「な──ッ!?」
「頭でも、冷やしゃぁぁぁぁぁッ!」
烈槍を受け止めた結界は徐々に広がり、次の瞬間、鋭い氷柱が勢いよくマリアを突き飛ばした。
「ううあッ!?……ッ、く」
空中で何とか体勢を整え、無事に着地するマリア。
だが、その全身には依然、バチバチと紫電が走っている。
「決めた、ガリィの相手はあんたよッ!」
「くッ……」
「いっただっきま~すッ!」
マリアに狙いを定めたガリィは地面を凍らせ、次の瞬間には眼前に迫っていた。
あまりの素早さに、カラコロと鳴るオルゴール音は不協和音を耳に届け、一瞬で懐に入った自動人形は氷の刃を手にコンバーターを狙う。
「させるかッ!!」
だが、氷の刃が貫いたのはマリアのガングニールではなかった。
間に割って入って来たのは銀色の流星。
無敵の盾を手に疾走する、アキレウスの伴装者だった。
「純ッ!!」
「邪魔すんじゃ……ねぇッ!」
咄嗟に割り込んだ純のガード。しかし、ガリィはそれさえも対応して見せた。
攻撃方法を氷刃での刺突からではなく、斬り上げへと素早く変更し、純の防御を一瞬で崩す。
「く……ッ!?」
純の盾が手を離れ、宙を舞う。
そしてガリィは、無防備になった純へと氷刃を振り下ろす。
咄嗟に防御姿勢を取る純。だが、ガリィの狙いはただ一点、左手首のブレスだった。
「あはッ!」
「しまった……ッ!?」
ブレスがひび割れ、ガリィがほくそ笑む。
RN式アキレウスのプロテクターが力を失い、スーツから色が失われていった。
「クソッ……やっちまった……」
膝を着く純。その身に纏っていた鎧は、大英雄の鎧ではなく、ただの特殊合金プロテクターへと戻っていた。
「とんだ邪魔が入ったケド、今度こそ──」
ガリィが再びマリアの方を向いた、その時だった。
「がぁッ!?」
「……は?」
突如としてガングニールが砕け散り、マリアは地面に膝を着いた。
ガリィは何もしておらず、周囲に敵影もない。
そしてなにより、マリアの衣服は元のままであった。
ただ、両目と口角から血を流している……という点を除いて。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ギアの強制解除。つまり、時間切れである。
これ以上はバックファイアに身体が耐えきれないため、システムが自動でギアを解除させたのだ。
獲物を失い、ガリィは不機嫌さを顕にした表情で、マリアと響を交互に一瞥する。
「……何よこれ。まともに唄える奴が一人もいないなんて、聞いてないんだけどぉ~?」
舌打ち交じりに例のアンプルを取り出すと、苛立ちのままに地面へ叩きつける。
「くっそ、面白くない……ッ!」
ガリィはそのまま姿を消した。
後に残されたのは戦いの痕と、この状況を無事に生き抜いた少年少女の姿であった……。
ff
「空間移動……。あれもまた、錬金術の……」
「現代に新型ノイズを完成させるという事は、位相空間に干渉する技術を備えているという事です。テレポートジェムもまた、その一つ……」
「んな事より、皆無事なのか!?」
ようやくクリスたちが発令所へと入って来たのは、ガリィが撤退した頃だった。
「駆け付けたマリアさんが、ガングニールを纏って敵を退けてくれたわ」
「ただ、純くんのアキレウスが破損……。また、戦力を削られてしまったわけか……」
「純くんは無事なのかッ!?」
「幸い、大した怪我は無さそうよ。念の為、メディカルチェックが必要だけど」
友里の言葉に、クリスは胸を撫で下ろす。
「マリア姉さんがガングニールを……」
「それってつまり……」
「LiNKER無しで戦ったのか……」
「まったく、無茶をしてくれる」
切歌と調、セレナ、そしてツェルトはマリアがLiNKERを使わずに戦った事に気づき、顔を曇らせる。
そして翼は、どこか安堵したような顔で、スクリーンに映るマリアの姿を見つめていた。
後書き
奏さん、生きてたら響を巻き込んでしまった事を後悔するだろうし、自分のようにさせない為に戦場から遠ざけようとしたりすると思うんですよ。
でも、響が響なりに覚悟と信念を握ってシンフォギアやってるって知ればちゃんと認めてくれるし、先輩としてしっかり支えてくれるんじゃないかと思うんですよね。
一方で、マリアさんは既に響がガングニールを握る理由をその身で知っています。
だからこそ、迷う響に「それは傲慢だ」って言葉をかけられるんだろうな~と。
それでは、次回もお楽しみに。
それと、現在フォロワーさんの1人がネップリで翔ひびと純クリのブロマイド出してます。
印刷期限が迫っておりますので、欲しい方はファミマかローソンへお急ぎください。
https://twitter.com/moyada77/status/1433433627338035216?s=21
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