歪んだ世界の中で
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第十七話 冬の入り口その一
第十七話 冬の入り口
ついこの間まで夏と思っていた。しかしだ。
気付けばだった。もう。
「冬になるね」
「そうだよね」
放課後の時間プールまでの道を一緒に歩きながらだ。希望は千春に話した。
「ついこの前二学期になったと思ったらね」
「十一月も終わりだよね」
「そうだよね」
千春もこう希望も返す。
「もうね。終わりだよね」
「うん、秋が終わってね」
「冬になるんだね」
二人の服もその冬のものになろうとしていた。まだコートやマフラーはしていない。だが制服の下の服は徐々にではあるが厚着になってきていた。
その服を着たうえでだ。希望は同じく服が厚くなってきている千春に話していた。
「千春ちゃんって冬は好きかな」
「千春が?」
「そう。冬は好きかな」
「嫌いじゃないよ」
そうだとだ。千春はこう希望に答えた。
「冬はね」
「そうなんだ」
「そう。冬も好きだよ」
「僕は。ずっとね」
「ずっと?」
「冬は好きじゃなかったよ」
そうだったというのだ。希望は。100
「ずっとね」
「何でなの?」
「寂しいからね」
冬はだ。そうだというのだ。
「ほら、木の葉がなくなるじゃない」
「何もかもね」
「生き物も減って。空も暗くなって」
「それで寒くなって」
「そうしたことが全部寂しいからね」
それでだというのだ。
「冬はね」
「冬は。そうよね」
「寂しいことは事実だよね」
「うん。皆木の葉が落ちて」
千春も言う。冬について。
「けれどそれでもね」
「それでもって?」
「冬もね。奇麗だよ」
「えっ、奇麗って冬が」
「それで皆生きてるから」
寂しさについてもだ。千春は話してきた。
「寂しくてもね」
「皆生きてるんだ」
「そう。何もないんじゃないんだよ」
「そうだったんだ」
「それに冬には雪があるよ」
千春が今度話に出したのは雪だった。
「それで皆奇麗になるじゃない。白くね」
「そうだね。山も街もね」
「皆もね」
「皆も?」
「千春も。奇麗になるんだよ」
「雪で?」
「そう、雪で奇麗になるんだよ」
千春は雪のことを楽しく話す。
「そうなるんだよ」
「雪で奇麗になるって」
「そうなの。皆と一緒でね」
「皆と一緒に奇麗になるって」
希望はここでもだ。千春の言葉の意味がわからなかった。雪で奇麗になる、それは一体どういうことかとだ。首を傾げさせて言うのだった。
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