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ユア・ブラッド・マイン 〜空と結晶と緋色の鎖〜

作者:のざらし
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第10話『聖骸物』

 冥質界情報体(カセドラル・ビーイング)
 燕によりもたらされたこの山に潜む驚異の正体に、輝橋たちが息を吞む。 そんな中で、玲人は一人別の理由で困惑していた。

「(冥質界情報体……なんだ……どこかで……?)」

 違和感。 いや、既視感とでもいうべきか。 初めて聞く単語であるはずなのに、何度も聞いたことのあるような奇妙な感覚が玲人に訪れていた。
 一体どこで聞いたのか、玲人が一人考えている間にも、燕の話は続いていく。

「当然、そのような存在が何もない所から自然に湧いて出ることは滅多にない。 あるとしたら、未確認の《聖骸物(レリック)》がある場合だが……」
「次から次に知らない単語……授業受けてる気分になってきた」
「こら、茶化さない」

 ぼやく輝橋に武蔵野が注意を入れる。
 《聖骸物》。 確か、それは……

「《聖骸物》というのはだな……」
「……物質界で果てた冥質界情報体の亡骸。 周囲を冥質界に似た環境に変え、新たな冥質界情報体を呼び寄せるビーコン」

 燕の言葉を引継ぎ、すらすらと言葉が出てくる。 そう、そこにあるだけで冥質界情報体を呼ぶ可能性のある厄介物が聖骸物だ。 しかし、この知識を、いったいどこで手に入れた……?

「あぁ、その通りだ。 一般には開示されていないはずだが……まあいい。 つまり、冥質界情報体が関与している以上、この山のどこかに聖骸物がある可能性が高いということだ」

 玲人の様子に思うところもあったようだが、その疑問はいったん横に置いて話が進められる。 燕が言うには、聖骸物はそのほとんどが国によって監視されているそうだが、地域によってはあまりにも数が多く、把握しきれていない場合もあるらしい。 ここ、北海道もかなり昔にあった情報体による激しい戦闘の名残で、未発見の聖骸物は比較的多いらしい。

「私と輝橋……つまり、国家製鉄師には聖骸物の調査と報告の義務がある。 そこで、この後の行動について提案したい」

 そこで燕は言葉を区切ると、確認するようにぐるりと見回す。 誰からともなく、全員がうなずいたのを確認すると、燕はその提案を口にした。

「まず、学園に応援を要請する。 その後明日の朝、日が十分に昇ってから私と宇宙、輝橋と如月の4人で山の探索を行い聖骸物の有無を調査する。 玲人、立石、天野の三人は長谷川さんと立奈を護衛しつつ下山、安全を確保して学園からの応援との連絡係を頼む」
「情報体と製鉄師についてはどうします?」
「それもこちらで請け負うべきだろう。 昼間なら輝橋の鉄脈術も本領を発揮できるからな。 輝橋は空から捜索し、玲人たちの方に出たら急行できるようにしておいてくれ」
「あ~い。 立石、信号弾かなんか作っといて。 あげてくれたら行くわ」
「わかりました」
「他には何かあるか?」

 流石、というべきだろうか。 国家製鉄師なだけあって緊急事態への対応が早い。 素人の玲人が口を挟む必要はないだろう。
 他に何かと聞かれ、玲人は記憶を掘り起こす。 情報体も製鉄師も、直接対峙したのは玲人だけだ。 玲人にだけ分かることがあるかもしれない。
 確か、製鉄師の男は情報体を見て「遂に見つけた」と言っていた。 ならば、男の目的は情報体そのものか、あるいは……聖骸物か。
 ……何か見落としている気がする。 聖骸物に関して、何か重要なことを。

「燕さん、聖骸物についてもう少し詳しく聞いていいですか?」
「ん? 詳しく、と言っても殆どさっき玲人が言った通りだぞ? 強いて加えるなら多くの聖骸物はモノリスと呼ばれる霊的装置で監視されているくらい……」
「ッ!それだ!!」

 燕の言葉に膝を叩く。 感じていた違和感、足りない気がしていたもの。

「これ、見てください」

 そういって、カバンに入れていたデジカメから1枚の写真を皆に見せる。 それは、昼間見かけた影を追ったとき、見失った場所で見た石碑の写真だ。 変わった石碑だったから、後で立石にでも見てもらおうと思っていたのが、色々あってすっかり忘れていた。

「この写真が何か?」
「立石、この石に書かれてる文字読めるか?」
「えっと……楔、ですかね?」

 立石に確認もとれた。 おそらくこの考えは間違いではないだろうと玲人は確信する。

「これがそのモノリスなんじゃないですか?」
「……楔石か。 かなり昔にモノリスとして使用されていたという話がある」
「じゃあほぼ確ってことか?」

 輝橋の質問に燕は首を振る。 確かにモノリスとして使われた過去はあるが、それ以外にも地鎮などの理由で設置された関係ない石碑も多数存在するらしい。
 だが何の手がかりもない今、放置するという考えは誰からも出なかった。

「石碑の場所はわかるか?」
「さっき行ったばっかなんで。 地図で指せって言われたら微妙ですけど、案内なら」
「……わかった。 先ほどのメンバーを変更する」

 玲人の出した情報により作戦に変更が加えられる。 玲人は下山組から燕たちとともに探索組へ、逆に探索組だった輝橋は空から索敵しつつ何かあった時のために待機となった。

「いいか? 探索班に組み込まれたとはいえお前は一般人なんだからな? 私の指示に従いくれぐれも危険な真似は……」
「あーもう!わかりましたって!」

 石碑の場所が分かるのが玲人だけとはいえ、燕の本心では玲人が危険な目に遭う可能性があるのは見過ごせないのだろう。 しかも、今日に限っては前科まである。
 既に話し合いは終わり、各々明日に備えて体を休めている所だというのに、燕がこの調子ではなかなか休めそうにない。

「まぁまぁ、ギバちゃんせんせーも草場も明日早いんだからそろそろ休みましょ?立石がシャワー作ったみたいなんで、ギバちゃんせんせー次どうぞ」
「ほらほら、行きますよ〜」

 助かった。先に少し休むと言っていた輝橋が戻ってきたようだ。
 製鉄師は交代で休みながら警戒を続けるらしい。まだ体力に余裕のある輝橋が軽く休んでから一番手になり、そこから数時間で交代していくつもりのようだ。
 燕さんが休む時間になったようで、武蔵野に隣室へと連行される。

「草場は?休まんで良いのか?」
「……あぁ。もう少ししたらな」

 輝橋の質問を適当に流しながら、燕のせいで中断していた考え事に戻る。つまり、なぜ玲人は聖骸物や冥質界情報体のことを知っていたかだ。
 記憶を辿ってみても、これらについて調べたことも学んだこともないはずだ。にも関わらず、玲人の記憶には確かに残っていた。
 その事実がどうにも不気味で、玲人の中に漠然と影を落としていた。

「……なに考えてんのかは知らんけどさ、わからんことにいつまでも悩んでても仕方ないぞ」
「……そうか」
「俺もお前も、どっちかというと動いて考える方だろ?今答えが出ないなら明日考えようぜ。で、今は休め。俺らと違って未契約のお前は体力的にもキツいだろ」
「……そうか」

 なんとも楽観的な輝橋の言葉に緊張が解れる。なんの解決にもなっていないが、たしかに輝橋の言うことにも一理ある。
 とりあえず、今は休もう。明日は忙しくなるぞ。
 
 

 
後書き
お久しぶりです。のざらしです。
どうにも難産気味でスランプの気配を感じます。
多分今月末あたりにもう1話ほど更新するかと思います。 
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