小説家になろう
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IS-H-01
ゴンッ、と何かがぶつかった様な衝撃が返ってくる
「ツッ」
その時何が起こったのか分からなかった、
急に頭を走った衝撃に理解が出来ない状況に立たされる
――何が
ここはどこだ
あの戦場にある音、臭いが無い
倒れている状況であると思われる俺の体に伝わる感触があの戦場の物ではなく、
やわらかな自然の臭いのする木製の何かだと返ってくる
周りに気を付けながら立ち上がり、注意深く周りを観察する
――いったい何が起きている
そこは今までいたはずの戦場ではなかった
戦場に広がる死体の山、血で覆われた大地、壊れたISの放電――
それらの物が何一つ無く、まるで平和で安全であるかのように静かな何処かの家
――ありえない
そうだ、こんな状態はありえない存在するはずがないのだ
戦争を行う餓鬼どもは全てを壊し、奪いつくす
こんな、まるで平和で安全であった頃のような場所が存在するはずはないのだ
「ッ――」
言葉が思ったより上手く出てこない
どうなっているのか考えると、体の感覚がおかしい事に気づいた
肉体の破損状況が無く視界の低下、
何処にいるのか分からない状態で考えるまであまり湧きあがらなかった警戒心
その事に気付いた時、自分の体を観察した
――ありえない
その考えしか思い浮かばなかった
体の状態は直ぐに把握することに成功した――が、
肉体の退行でも起きたのか縮んでいる体――おそらく幼児期と思われる肉体
俺が内心、混乱しかけている所に何者かが近づいてきた
「大丈夫か、一夏」
少し心配そうに俺に声をかけてくる奴、声からして女だが彼女はなんと言った
一夏だと、俺に向けて言ったのか
俺はその女を見上げ情報を聞き出そうとしたが――
――その女を見た瞬間情報を聞き出そうとは思えなかった
「大丈夫だよ、姉さん」
瞬間、俺の思考は完全に混乱した
――何だ今のは、俺は今無意識に何と言った
姉だと、そう言ったのか
俺にそんなものは存在しない、だが、俺はこの女を姉であると考えている
「そうか、だがあれくらい強くぶつけたのだから一応ぶつけた所を見せてみろ」
そう言いながら、俺の頭を固定し観察している女、
動揺を隠しながら状況を把握しようと努めていると
「ふむ、この程度ならなんともないな大丈夫だろう」
と、女は俺の頭の観察を終了し手を離す
「私はこれから少し出てくるが、気を付けて留守番をしていろよ」
「あ、ああ…」
「よし、ではいってきます」
「い、いってらっしゃい…」
俺が混乱しながらも何とか言葉を返すと女は満足そうに、この何処かの家と思われる場所
から出て行った
「何なのだこの状況は…」
1人になった事で先ほどとは違い少しは考える余裕が出てきたところで、俺はもう一度今の
状況を再確認するために思考に入った
「俺は、確かあの場所で――」
そう、俺が憶えているのは確かにあの戦場にいた事
あの戦場で最後に見た無人兵器により体を貫かれそうになった事
「それだけのはずだ」
だが、そこまで考えて先ほどの女を姉といった事、姉と思っている事に疑問が湧き
更に深く思考に潜っていく
と、
「何だこの記憶は」
俺の名前は織斑 一夏、先ほどの人は織斑 千冬
俺の唯一無二の姉である――
今まで姉と過ごしてきた日常、姉と共に笑いながら過ごしてきた日常、
今の世界にあるはずのない平和な日常――
「何なんだこの記憶は…」
俺は織斑 一夏
違う、俺は――のはずだ
だが、俺は確かに織斑 一夏でもあるはずなんだ
他に何か情報は無いか調べてみると、テレビと思われるものが目に入った
「これなら、何らかの情報が手に入るはずだ――」
――本日のニュースは――
「なんだこれは」
――今日の天気は――
――えー、今日は――にやってまいりました――
――私は、――に向けて精一杯努力していきたいと思います――
「何なんだ一体…、これは、私がおかしくなったという事なのか」
――えー、次は――
「ハハッ――」
――笑える
俺の記憶に確かに有るはずの世界との違い
その俺と今の俺との違い
「認めるしかないのか」
何がどうなってこの状態になったのかは知らんがこの体の持ち主から精神を乗っ取ったのか
あるいは、魂とやらが存在して前世の記憶とやらでも思い出したか――
「どうでもいい」
そう、そんな事はどうでもいい
今、俺は確かにこの世界に存在する
この記憶と、この思いが偽物であるとは思えない
この気持ちを知った今、あの頃のように生きなくても良い――そう思えた
「この世界で生きていこう
この記憶が俺の物であるのなら、どちらの記憶も忘れずに
今度こそ、俺は俺として生きていこう」
この状態にした誰かがいるのなら俺は感謝しよう――
新たな兵器としてではなく
俺として生きられる世界を与えてくれたのだから
「さあ、これから何をしようか」
考えがまとまったら気持ちがすっきりした
顔にも自然と笑みが浮かんでくる
俺は、笑みを浮かべたままこれからの事を考える思考に耽っていった
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