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物語の交差点

作者:福岡市民
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とっておきの夏(スケッチブック×のんのんびより)
  煌めけ!浮き世の君花火

なっつん「あーあ、せっかく(みんな)集まってるのに勉強会とかつまんないー!」


壮絶な闘いとなった腕相撲対決のあと、スケブ組が宿題を広げたことからなりゆきで勉強会になった。
ちなみにこのみは用事があるとのことで先に帰っている。


小鞠「夏海うるさい!静かにして」

なっつん「そんなこと言ったって難しいんだもん……そうだ、空ちゃん宿題教えてよ!」

空:よかろう。


なっつんは隣で宿題をしていた空に頼み、快諾を得た。


空:どれどれ…ふむ、数学か。

なっつん「そう、数学!空ちゃん分かる?」

空:うん、弟の(あお)にも何度か教えたことがある。

なっつん「それは心強い!それじゃあお願いします!」

空「」ウン



ーー
ーーー


空:ええと、この問題は…?

なっつん「そ、空ちゃん?」


空がなっつんに教え始めて数分後。空は早くも問題につまづき始めていた。


空:うーん…。ねえ小鞠ちゃん、ここ分かる?

小鞠「え?ああ、ここは因数分解するんですよ」

空:・・・?

小鞠「えーとですね、まずこっちから先に計算してここにはこの公式を当てはめて…」

空:おお…。

小鞠「…っと、ざっとこんな感じですね。項数を揃えないと計算できないのでそこだけ注意して下さい」

空:分かった、ありがとう。

なっつん「さすが姉ちゃん!その調子で夏海ちゃんの宿題を終わらせちゃってよ!!」

小鞠「元はと言えばあんたが空さんに『宿題教えて』って頼んだんだろうが!自分でなんとかしろ!!」

空:数学は難しい…。 ゴクゴク


空は愛用の水筒から麦茶を注いで飲んだ。普段は緑茶を入れているが今回は喉を潤すことを最優先に考え、麦茶を入れてきていた。


なっちゃん「あれ、空は宿題終わったと?」


そこへちょうど宿題を終えたなっちゃんが空に声をかけてきた。


空:思った以上に頭を使ったから今日はここまで。

なっちゃん「そげんね。あたしも今終わったとこなんよ」

ケイト「ワタシも終わりマシター!」

渚「私たちも終わったよ」


そうこうしているうちにスケブ勢は全員宿題が終わったようだ。


蛍「あ、皆さんちょうど済んだみたいですね。それなら私たちもここまでにしましょうか」

小鞠「そうだね。あんまりやると疲れすぎちゃうし…んー!」ノビー


蛍の呼びかけに呼応するようにのんのん勢もまた勉強道具を片付け始めた。


蛍「それでですね。今日親と買い物に行ったとき花火を買ってきたんですけど、夜にでも一緒にどうですか?」

全員「!?」


蛍の提案に誰もが食いついた。


れんげ「六尺玉!?」

小鞠「それはでかすぎ(汗)」

なっつん「おお!! 花火花火!!」

一穂「夏らしくていいねー!」

葉月「日本の夏の定番ね」

木陰「ほたるん、私たちも参加していいかしら?」

蛍「はい、もちろんですよー」

ひかげ「あれ、でも福岡組は宿とかどうするん?」

なっちゃん「あー、それがさあ…」


なっちゃんがいかにも歯切れが悪そうに切り出した。


なっちゃん「実は今回の旅のコンセプトから、『宿は旅先で仲良くなった人に交渉して泊めてもらう』ってことになっとるんよね…」


ここでなっちゃんは居住まいを正した。


なっちゃん
「そこで皆さんにお願いしたかとですが、今夜一晩だけ皆さんのお宅に泊めてもらえんでしょうか…?無理にとは言いません。もちろん食材費は出しますし、何人かずつに別れて泊まるので一つの家だけに負担がかかるということもありません。どうかご検討のほどよろしくお願いします!」

美術部員一同「「よろしくお願いします!!」」


なっちゃんが頭を下げる。少し遅れてなっちゃん以外の面々も頭を下げた。


一穂「……あのね。いくら気心が知れてきたとはいえ、さすがにそれは虫が良すぎるんじゃないかい?」

れんげ「ね、姉ねぇ…?」


珍しく真剣な表情で一穂が言った。


なっちゃん「で、ですよね…」

一穂「そうでしょう?それにもし泊めてもらった先の家主が危ない人だったりしたらどうするつもりなのん?」


淡々と話す一穂。責めるというより諭すような口調だ。


なっちゃん「それは…そこまでは考えていませんでした……」

一穂「ほらね。なんか簡単に考えとるようだけど人生そんなに甘くないんよ?」

なっちゃん「はい…」シュン…。


急にしおらしくなる美術部員たち。
微妙な空気が漂うなか、のんのん勢の面々は一穂の一挙手一投足を固唾を飲んで見守っていた。


一穂「ーーーなんてね」フッ


一穂が突然笑った。


なっちゃん「え?」


一穂
「たまには先生らしく説教のひとつでもしてみたくなるものさ。教師として見たら君たちの行動は目に余るものがあるけど、個人として見たら度胸があって実に感心させられるねえ。ウチもそんな旅がしてみたいもんだよ……うん、その勇気と度胸に敬意を表して宮内家では君たちを受け入れようじゃないか!」

なっちゃん「ほ、本当ですか!?」

一穂「今回の経験が今後何かの役に立つんなら安いもんだよ。それにこの旭丘(むら)で『とっておきの夏』に出会ってもらうためにも、ここは大人としてひと肌脱がなきゃね」

なっちゃん「あ…ありがとうございます!」バッ!


なっちゃんは深々と頭を下げた。よく見るとうっすら涙を浮かべている。


ひかげ(かず姉かっこいいな…。)

なっつん「……ウチも母ちゃんに聞いてくるよ!」

蛍「わ、私も親に聞いてきます!」


弾かれるようになっつんと蛍が部屋を出ていった。
やがて越谷・一条両家からも許可がとれ、美術部員の一行は各家に別れて泊まる運びとなったのだった。



ーー
ーーー


その後の話し合いで越谷家には空となっちゃんと葉月が、宮内家には渚と樹々と木陰が、一条家にはケイトと朝霞が泊まることになった。
一同はそれぞれの家に荷物を置いてから蛍の家に集まった。


蛍「あっ、皆さんこんばんは」

れんげ「にゃんぱすー」

一穂「やあ、来たよ」

なっつん「おお、いっぱいあるねえ!」

葉月「打ち上げ花火に手持ち花火に線香花火…ネズミ花火もあるわね」

朝霞「ええ、どれも面白そうですねー!」

蛍「前回花火をしたときは打ち上げ花火が一本だけしか買えなかったので今回はたくさん買っておきました」

小鞠「あー、花火のあとホタルを見に行ったときかあ。あれはあれで楽しかったけどね」

一穂「よーし、まず景気づけに打ち上げ花火やるよー!」


一穂が打ち上げ花火をひとつ手に取った。


れんげ「姉ねぇ、火のつけ方知ってるん?」

一穂「これ導火線付いてるから簡単だよ。でもテープが貼ってあるから“どうかせん”とね!」

一穂「なーんて…くひひ……ふははははは!」ゲラゲラ

一同「」シラーッ


打ち上げ花火の前に一穂が特大の花火を打ち上げ、そして暴発した。


渚(たしか春日野先生も同じこと言ってたわね…。)

なっちゃん(なんやろ、この気持ち…。)


一方、スケブ勢はなんとも言えない気持ちに囚われたという。



ーー
ーーー


その後は皆でさまざまな花火を楽しんだ。
途中、ネズミ花火のイレギュラーな動きに空が怯えたりなっつんが手持ち花火を振り回しすぎて小鞠に怒られたりれんげが線香花火をしながら悟りを開きかけたりしたものの、順当に花火は消化されていった。


ひかげ「これが最後の一本かあ」


ひかげが寂しそうに言った。


なっつん「まあまあ、そう言わず楽しみましょうや。じゃあ火ィつけるよー」カチッ


なっつんが最後の一本となった噴水花火に火をつけた。
点火して間もなく、花火は眩い七色の光を発しながら高く火柱を挙げた。


ケイト「オーウ…」

葉月「綺麗ね…」


言葉少なにその様子を見守る一同。
やがて火柱が収まったように見えた。


シュパッ!

ヒュルルルーーー

パーン!


刹那、花火が打ち上がり中空に七色の大輪が咲いた。


小鞠「たーまやー!」

渚「いやいや、最後を飾るに相応しい打ち上げ花火だったねえ」

樹々「ええ、一瞬で終わってしまうのがなんか惜しいくらいだったわね」

ケイト「見てクダサイ!星がトテモ綺麗デース!」


見ると満天の星空が広がっていた。


朝霞「うはー、綺麗ですねえ」

れんげ「花火をしたあとは星が綺麗に見える気がするん」

なっちゃん「そういや『星間飛行』に“濃紺の星空に私たち花火みたい”って歌詞があったね」

一穂「花火みたいに人の命もまた一瞬で煌めいて一瞬で消えていく…。古代の人はそこに趣を感じたんだねえ」

れんげ「その歌、そんなに昔の歌なん?」

一穂「いや違うけど。喩え話みたいなもんだよ」

れんげ「?」




花火の煌めきと星の瞬き。
ーーーその2つに人生を重ね、己が生きる意味について考える一穂であった。 
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