魔法科高校の劣等生の魔法でISキャラ+etcをおちょくる話
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第二百六十四話
中学校の二学期も中盤が過ぎ去ったが、忍野扇からの接触はない。
どころかあれ以降暦さんとも会っていない。
我が姉上のコアのモニタリングから生きてはいるのだろう。
そんな11月の初旬も初旬の11月1日。
放課後に一人でカフェの季節限定メニューを食べに行こうというタイミングだった。
「よぉ。久しぶり千石」
何かを探すように挙動不審な彼女と出会った。
手には白いシュシュが通してあった。
会うのは、そう、蛇切り縄の一件以来だろうか。
「久しぶりだね。一夏君一人?めずらしいね?」
「まぁたまにはな。それはそうと千石。急いでるようだが、何か用事があるか?」
「え? あ、うん。そうなの」
と彼女はシュシュを隠すように手首を握る。
「そうか。せっかく久しぶりに会ったんだからお茶でもどうかと思ったんだが仕方ないな」
「もう。箒ちゃんに怒られても知らないよ?」
「問題ないよ。浮気はお互い様だから」
「えぇ⁉」
「今頃クラスメートの女子喰ってんじゃねぇのアイツ?」
「あ、あー。なるほど。箒ちゃんカッコいいもんね」
どうやら別の中学校でも箒の王子様っぷりは噂になっているようだ。
まぁファイヤーシスターズの関係者だししょうがないか。
「そういう事。まぁ、せっかく会って何も無いのもアレだからな。
お前の捜し物について少しだけヒントをやろう」
と言うと千石は少し驚いた顔をした。
なぜ知っている? といったところかな。
それに少し怯えも見える。
「『人間だけが神を持つ。今を越える力、可能性という内なる神を』」
「シン・エヴァ? エヴァンゲリオン・イマジナリー?」
「本来込められた意味は違うが、今俺が伝えたい意図としてはほぼほぼ同じだな」
さて、これで気づいてくれると有り難いが無理だろう。
蛇神が千石の中に居るかはわからない。
それは心を覗かねば知り得ぬことである。
蛇神と呼ばれる怪異は今はまだ仙石の心の中にしか存在しないのだ。
御札を飲み込み、それがそれとして確立するかは俺が関わるべき事では無いのだ。
「困ったら暦さんを頼りな。じゃ、また」
困惑したように立ったままの千石を置いて、俺は目当ての店に向かった。
さっきのヒント以上は何もできない。
件の札は正史どおりに俺じゃなく暦さんの、手に渡った。
原作通り行くだろう。
いや、どうかな。
俺としては暦さんが初戦…じゃなくてもどこかのタイミング、できれば今年中に心渡で千石を仕留めれば万事解決。
直木も貝木を呼ぶことなく、貝木が頭を打たれて死にかける事もない。
吸血鬼+気功+剣術。
これで勝てない相手なぞそれこそ一握り。
復活したばかりの土地神程度軽く捻るだろう。
その楽観的な予測が覆されるのに、たぶん2日とかからなかっただろう。
side out
そう。まだ放課後にもなっていない時間だった。
「そんなバカな事があってたまるか⁉」
眠たい午後の6コマ目の終盤。
一夏はガタンと椅子を倒し、立ち上がってしまった。
その視線は窓の外に向いていた。
「うわっ⁉ びっくりしたぞ織斑。どうした?ドラマの録画でも忘れてたのか?」
担任が言うとクラスメートが笑うが、箒と弾は笑っていなかった。
気功を使える二人は感じたのだ。
「急用です! 早退します!」
一夏が駆け出す。
「織斑⁉ おいどこ行く⁉」
一夏が焦った顔で、カバンも置いて教室から出ていった。
それとほぼ同時だろうか。
空が急激に暗くなり始めた。
まるで暗幕をおろしたように暗くなった空から、ザァザァと雨が振り始める。
5分ほどで6コマ目が終わり、弾が箒の席に駆け寄る。
「…箒ちゃん、さっきの不穏な気配か?」
「だろうな。この雨の発生源、といったところか」
そこで弾が箒に提案する。
「追っかけるならカバンは俺が持って帰ろうか?」
「いや。今回ばかりは私は一夏を追う気は無い」
「珍しいな。怪異関連なんだろ?」
「確かにそうなんだが、他人の恋路に関わっても碌な事が無いからな」
「追わないと今にも一夏が関わりそうだけど?」
「うむ。それもそうだな…」
箒が少し考えた後、立ち上がった。
「今度何か奢ろう」
「はいはい楽しみにしてるから早く行きなよ」
「傘は私の置傘を使っていい。では頼んだ」
箒が一夏を追うように教室を飛び出した。
少し時を戻し、教室を飛び出した一夏は人気のない特別棟へ向かった。
周りに人気のないことを確認した一夏がISを起動する。
「ソードビット!」
量子展開されたビットの一つがビームで校舎に穴を開ける。
前方に円状に並んだソードビットが量子ワープゲートを展開。
緑色のゲートに躊躇いなく飛び込んだ。
転移先は阿良々木家上空。
蛇神が離脱したであろう屋根の大穴から入り、再生で家屋の穴を塞ぐ。
部屋の中には、血まみれで倒れた阿良々木暦、忍野忍。
そして、同じく倒れ、制服を真っ赤な血で染めた千石撫子。
その腕は千切れ、大量の失血と蛇神の毒は今にも撫子あの世へ追い落とそうとしている。
「許せ千石!」
一夏が撫子の腕を取り、千切れた付け根に押し当てた。
撫子の上に覆いかぶさるようにようにしながら、自分の腹を手刀で破る。
吹き出した鮮血が撫子の傷を癒やし、塞いでいく。
吸血鬼の血という万能の霊薬を以て、千石撫子は一命を取り留めたのだ。
「千石! 千石!」
一夏が撫子を揺り動かす。
「んっ……」
「千石っ!」
うっすらと目をあけた撫子を、一夏が抱きしめる。
「…一夏くん?」
「すまなかった。千石」
後悔と自責の籠もった声だ。
「一夏くんの言ったこと、わかったよ。クチナワさんなんて最初からいなかったんだね」
「遠回しな言い方で悪かった。正直、お前が札を飲むと思っていた」
「飲めなかった。わたしは意気地なしだよ」
「それで構わない。あれは危険な物だ」
一夏が抱擁を解く。
「今日はもう帰るんだ千石」
一夏は立ち上がり、血まみれの暦に近づいた。
その心臓の上。
全身の生体エネルギーの中心たる心臓に手をかざす。
自分の中の気功を注ぎ込む。
「おい! 早く起きろよ暦さん! 起きてくれ!」
自分の気功を半分ほど受け渡した辺りで、暦が目を覚ました。
それと同時、視界に入った一夏に対して殴りかかる。
「ユートピアぁ!」
体を起こし、そのバネで思い切り一夏を殴り飛ばした。
全力の一撃を受けて、一夏が窓を突き破って屋外へ吹き飛ぶ。
「暦お兄ちゃん⁉」
撫子の制止も振り切った暦が一夏を追う。
一歩の踏み込みで加速し、窓枠を通り抜けて外へ。
地面に落ち、立ち上がった一夏の首を左手で掴んで塀に叩きつける。
「っがっ⁉」
「今回ばかりはもう容赦しない!」
ゴキリと首をへし折られた一夏だが、それで話せなくなる訳でもない。
『気持ちはわかるが今はこうしている場合か? 彼女を追わねば』
「君を殺してからそうさせてもらう!」
暦の右手に銀の輝きが現れる。
吸血鬼の物質創造能力で作った刀だ。
姿形こそ心渡だが、切れ味も劣り、怪異殺しの効果もない。
だがそれでも塀もろとも一夏の首を刎ねるのには十分だろう。
振り下ろされた長刀が一夏の首を刎ねる寸前。
影から一振の大剣が現れ、暦の一撃を防いだ。
真っ直ぐに伸びる、巨大な錆びた剣。
『テメェごときに殺させるかよ」
その大剣が向きを変え、暦に向かって振り下ろされる。
バックステップで後退した暦の前には、金髪の、流麗な女性。
「かな…で…」
開放され、しゃがみこんだ一夏がその名前を呟く。
「おいユートピア。なんでやられっぱなしなんだよ?」
「ああ、悪い。でも、暦さんの気が済むならそれでも」
その続きは、別の人間の言葉で遮られた。
「いいわけ無いだろう。さて、私の恋人に八つ当たりとはいい度胸だな阿良々木暦」
金髪に狐の耳、金色の4本の尻尾を背にした箒が空中に立っていた。
暗雲を背に、秋の稲穂のような温かみのある金色。
雨に濡れることなく、何者も穢しえぬのではないかというほど神々しくあった。
「箒ちゃん…悪いが僕は、全部知ってて何もしないユートピア…いや織斑一夏を許せな」
次の瞬間、箒が一瞬にして暦に近づき、全力で蹴飛ばした。
「ぐぁっ⁉」
吹き飛んだ暦に対し、箒が軽蔑の目を向ける。
「立て阿良々木暦」
ツカツカと歩み寄り、暦の襟首を掴み上げる。
「貴様のような男に一夏をどうこう言う権利があるのか? お前のような器の小さい男が! 誰かを傷つける勇気のない貴様が!」
箒の空いた左拳が暦の頬に突き刺さる。
「一夏は選んだぞ。全員を愛すると。それがお前はどうだ? 妹達や千石の気持ちを知りながら。育さんの気持ちを知りながら!」
箒が手を離すと同時に蹴りを入れる。
「翼さんと付き合うのはいい。貴様の勝手だ。だが千石や育さんに対して何か言ったのか」
「なぁなぁで済ませたんだろう。わかってくれるなどと甘えた気持ちで!」
「そんなんだから。そんなんだから!」
「育さんが怪異になってしまったんだろうが!」
札を呑んだのは千石撫子ではない。
老倉育が。
彼女が蛇神と化したのだ。
「貴様はこの結末を知っていた一夏が許せないと言ったな」
立ち上がった暦が叫ぶ。
「あたり前だ! いつだってそうだ! ユートピアが動いていさえいれば!」
その顔を真横から箒の足が薙ぐ。
暦は地面に倒れたまま、起き上がる気配はない。
思い切り側頭部を蹴られて気絶していた。
「聞くに堪えんな。全て貴様が原因だろうに」
踵を返した箒が一夏に歩み寄る。
「帰るぞ。一夏」
「やりすぎじゃないか? それに暦さんの言いたいことも…」
「知らんな。あんな軟弱者放っておけ」
一夏が視線を逸らす。
いや、箒から逸したのではなく、別の懸念事項へ向けたのだ。
その方角の先にあるのは北白蛇神社だ。
「一夏。他人の恋路には関わるな」
「でも育さんを阿良々木家が預かるよう仕組んだのは俺だ」
「だろうな。だがその後の事はお前の責任じゃない。
それをどうにかしようとするのはただの傲慢だ」
一夏を抱き上げた箒がさり際に、阿良々木家から様子を見ていた忍に言った。
「忍さん、伝えておいてくれ。誰かを傷つける勇気のない者にに誰かを愛する資格などない、とな」
箒と一夏と奏が去った後。
ザァザァと降りしきる雨の中。
暦が目を覚ます。
「酷くやられたのぅ。お前様」
「忍…」
倒れた自分の上に忍が抱きついていた。
姿勢からして、血を吸っていたのだろう。
あれだけボコボコにされていたのに体に痛みが無いことに気づく。
「ユートピアと侍狐は帰ったぞ」
暦がゆっくりと起き上がる。
「千石は?」
「帰らせたぞ」
「サンキュー忍」
忍が抱擁を解くと共に、箒からの伝言を使えた。
立ち上がった暦が見据えるのは、町外れの山だ。
土砂降りの雨で薄っすらとしか見えないその山頂。
そこで、自分を待っている人がいる。
「行くのか? お前様よ」
「ああ」
「僕は今から、女の子を振りに行く」
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