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SHUFFLE! ~The bonds of eternity~

作者:Undefeat
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第二章 ~罪と罰~
  その九

 その日の夕方、柳哉は稟を昨夜と同じ緑公園に呼び出していた。

「……で、どうだったんだ?」

「まあ、ほぼ間違いないだろうな」

 後は楓から話を聞くだけだ、と言う柳哉を少し不満げに見る稟。

「不満か?」

 どうやら顔に出ていたらしい。

「……正直に言えば、な」

 当時のことを語るのは楓にとって苦痛だろう。稟が不満を持つのも無理はない。

「なあ稟、一つ聞きたいんだが」

「なんだ?」

「お前は楓と恋人になりたいんだろう?」

「……は?」

「……へ?」

 何かがおかしい。

「だから楓と恋人になりたいんだろうって聞いてるんだが?」

「いやいきなりそんなこと言われても……」

「……そういうことか……」

 柳哉が状況を理解するのと同時に、しまった、とでも言わんばかりの表情が浮かぶ。そう言えば昨夜相談を受けた時にも稟は“楓と付き合いたい”などとは一言も言っていない。ただ内容から柳哉がそう予想しただけに過ぎないのだ。とは言え、柳哉を責めるのは酷、というものだろう。

「……お前は何というか……色々紛らわしいな……」

「いや、どういうことなんだよ」

 どうやら稟はまだ気づいていないようだ。

「つまりだ、昨夜お前から受けたのは“恋愛相談”だと俺は判断しているんだが、お前にとってはそうじゃないってことだろう?」

「いや恋愛相談って、どうしてそうなるんだ!?」

「今まで通りの関係でいたいのなら、別に悩むことなんて無いだろう? 何せ、楓の態度が以前と変わらないんだから。故に俺はお前が楓との関係の変化を望んでいる、と受け取ったんだが?」

「!」

 ようやく気づいたようだ。柳哉は深いため息をついている。無理もない。

「いやでも……」

「デモもストもあるか。お前はどうしたいのか、もうちょっと考えな。話はそれからだ」

 疲れたように言って柳哉は緑公園を後にした。

「……俺は……どうしたいんだ?」

 柳哉が去った後、稟の口からはそんな言葉が発せられていた。


          *     *     *     *     *     *


「ただいま」

「おかえりなさい……ってどうしたんですか?」

 菫の言葉に苦笑する。顔には出さないようにしていたのだが。

「こんなにあっさり悟られるとは、俺もまだまだだな」

「いえ、私とお母さんくらいにしか分かりませんよ? 多分」

「多分かよ」

 そう言って妹の頭を軽く撫でる。

「何するんですか」

 口調こそ不満そうだが実際はそんなに嫌がってはいない。というのも、柳哉は髪の毛の扱いが上手い。幼い頃から母、玲亜によって髪や肌の手入れを仕込まれているせいもある。そのため柳哉は男性としては珍しく、髪や肌に気を使っており、風呂に入っている時間も長めだ。さすがに玲亜や菫よりは短いが。

「今日は母さんは?」

「遅くなるそうです。日が変わる前に帰れるかどうか分からないそうです」

「そうか。で何を作った?」

「メインは肉じゃがです。後は……」

 そんな会話を交わしつつ、兄妹はダイニングに向かった。


          *     *     *     *     *     *


 緑公園から帰宅し、夕食を摂った後、稟は自室のベッドの上で考えていた。

(俺がどうしたいのか、か……)

 柳哉の言ったことはもっともだ。自分が柳哉と同じ立場で昨夜のような相談を受けたら、やはり恋愛相談だと判断するだろう。言われてから気づく自分もどうかと思うが。

(いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない)

 頭を振って思考を切り替える。今考えるべきなのは“自分がどうしたいのか”だ。

(俺は楓との関係の変化を望んでいるのか?)

 “あの後”も態度の変わらない楓。いつも通りの日常を望むのならそもそも変える必要はない。柳哉の言っていたことは正論だ。だがそれに納得できない自分がいる。ならば関係を変えるべきなのか? 変えるとしてもどのように変えるのか? 楓と恋人になるのか? いやそもそも楓の考え自体が分からない。というかそんな動機で楓と恋人になるなんて楓だけでなくシアやネリネにも失礼だ。

「もしかして……」

 唐突に思いついた。関係を変えるのではなく、自分が変わりたいのではないか? このどこかぬるま湯に浸かっているような生活を送っている自分を。楓やシア、ネリネのように自分に好意以上のものを持ってくれている人達に甘えている今の自分を。そう考えると心の中にあったどこかもやもやしたものが消えていくのが分かった。

(自分を変えていくためにも、まずは……)

 時計を見ると、既に日が変わっている。さすがにこの時間に電話するわけにはいかない。朝一番で電話をしよう。そう決めて眠りについた。 
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