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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・前半-未来会議編-
  第十五章 青の雷竜《2》

 
前書き
 雨降る日来の地に再びの戦闘。
 行こうぜ、スタート。 

 
 二人は再びぶつかり合った。
 まず、二人は拳を放った。
 地を蹴り、空いた距離を縮めて。
 そして、打撃と雷撃の拳が重なり合った。
 二人の内、一人は後ろへ吹き飛び、もう一人は放った拳を振り切った。
 吹き飛んだのは、片腕が焼けた状態のセーランだ。
 肘から先の制服の生地が焼かれ無くなっており、あらわになった腕の表面は軽い火傷のように焼けていた。
 着地し左の腕を挙げ、確認し下ろした腕を力なくぶら下げたセーランは離れた実之芽に対し言う。
「雷撃叩き込んで来るなんて実力出し始めた?」
「それは貴方が生の拳をぶつけに来たからでしょ」
「だけど、何とか攻撃当てないと勝てないしな」
 ぼやきながらも、動き始めたのはセーランが先だ。
 それに釣られ、実之芽も動き出した。
 先程までのセーランは回避に専念したいたのが、今では実之芽が身にまとう雷を気にせず攻撃に専念している。
 ぶつかり合う二人。
 ダメージが酷いのはセーランの方だが、雷撃を無視し攻撃を放っているため、実之芽は防いではいるがいくつもその攻撃が身体に当たった。
 だが、軽い。
 まるで遊びで、子どものパンチを受けているようだ。
 実之芽はセーランをなぎ払うように、右の腕を勢いよく横に放った。
 肋付近に当たり、勢いよく飛んだ。
「雷下!」
 そう叫ぶ実之芽に答えるように、空から雷がセーランに向かい落ちる。
 そしてそれを避けることが出来ず、吹き飛んだ衝撃で地面に転げ回るセーランに直撃した。
 雷鳴が轟く。
 しかし、
「ん、は、血行が良くなる感じだな」
 光の後には、雷撃が当たった地点にセーランが立っていた。
 口のなかの血を吐き捨て、息を切らせながら。
 そして、すぐに行動へと移す。
「死んでもらっては後味が悪いから、死なない程度にギリギリ調整してるのがいけなかったわね」
 だから、次は手加減を抜こうと実之芽は決心した。
 後味が悪い、などと呑気なことを言っている場合ではない。
 手加減をして倒せる程の相手ではない。
 これ以上時間を掛ければ、辰ノ大花の実力が疑われる。
 日来の者達には悪いが、終わりにしよう。
 こちらへ迫るセーランを前に、実之芽は右腕を引き、そこに雷電を集める。
 日来の長の走りの速度が落ちないことを確認し、
「勇気があるならば、その一撃に全てを賭けなさい。でなければ、終わるわよ」
「終わらせないために、行ってやるよ」
 うおお、とセーランは吠え、走り続けた。
 利き腕であった腕は無く、残っている左腕も怪我をしている。
 こんな状況で勝てるのかと思う程、無茶な戦いだろう。
 だけど、それでも、行かなければならない。
 死んでもいいという馬鹿な考え方をしている、宇天の長の頭をぶん殴れば少しは正常に戻るだろう。
 そんな考えを持った、直接監視中のときから色々と策は練っていた。
 手を交えていない相手に挑むことは得策ではないが、交えたことで今後にいかせるのならばそれは得策だろう。
 ここで逃げてしまえば、後悔する。
 全力のぶつかり合いは楽しいものだ、そう思う。
 目の前に拳を構える宇天の隊長は、ぶつかったといのために体勢を整えている。
 対するこちらは、心許ない左腕に力を込め、拳に流魔操作で自身の内部流魔をアーマー代わりにまとわせる。
 距離にして後十メートル。
 何秒もしない後に、ぶつかることになるだろう。
 皆が見ている前で、臆病なことは出来ない。
 もしもカッコ悪く負けても、仲間達に何か感じるものがあればそれでいい。
 これを起こしために、社交院は覇王会と会議を設けるだろう。
 そうしなければ、黄森から何を言われるかは分からず、危機に近づくことになる。
 日来を残すため、日来住民にそのことを伝えるときはその会議のときだ。
 行こうか!
 そう決心し、迷いのない疾走で拳を交わしに行く。
 そして眼前に迫った実ノ芽に向かい、拳を力任せに振った。
 実之芽も雷電をまとった拳を、セーランが放った拳にぶつける。
 ぶつけた衝撃と共に、硝子が割れる音と、爆風が爆発した。



 ぶつかったときの衝撃によって、飛び散った流魔光により二人は包まれた。
 それでも互いの拳はぶつかったままで、しかし触れはしない。
 拳と拳の間に、まるで透明な壁があるように。
 その光のなかで、二人は語り合った。
「流魔光がこんなに発生するってことは、互いに本気で本気の一撃ってわけだ」
「流魔は意思を伝える性質があり、意思が強ければ流魔は活性化するものね」
「さすがに他人の意思は分からないけど」
「当たり前よ、貴方と意思を交わすなんて恥じを晒すのと同じよ」
「酷い言われようだな」
 笑い口を歪めるセーランは、拳から来る痛みを堪えていた。
 流魔操作によりまとわせたアーマーはひびが入り、治り、また入るの繰り返しだ。
 その度に内部流魔を消費しるので危険なのだが、そうしなければ雷撃を食らってお仕舞いだ。
 流石のセーランも、これ以上の雷撃を食らうのは避けたい。
 腕からは、焼かれているような、それに似た痛みが走ってくる。
 その痛みに逆らい、無理に拳を入れたときだ。
 耳を疑うような、変な音がした。
 軟らかいものがつぶれる音。
 それは何かと、自分の腕を見ると、
「クッソが……」
 腕は痛みに耐えきれず、真っ赤に染まっていた。
 赤の液体は、自分の腕から出ていた。
 流魔でおおっているが、それを無視して雷撃が腕を食らったのだ。
 既に麻痺して痛みは感じられないが、火傷の状態は酷い。
 力を入れているのか、入れてないのか分からない。
 押しているのだろうが、押し返されている。
「もう諦めたらどうなの、そんな腕ではもう無理でしょうに」
「あ? ああ、それ無理。それでもやんなきゃ行けねえんだわ、せめてあいつには生きてもらわねえと」
「だから貴方には関係無いって言ってるでしょ! もう勘弁してよ、もう、もうもうもうもう限界なの! 貴方がいると奏鳴様は苦しむことになるの。だから――」
 だから、
「終わりなさいよ、日来の長!!」
 その言葉の後、流魔光は飛び散り、消えた。
 雨降る空間へと二人は戻った。
 そして、皆は見た。
 セーランを食らおうとする、巨大な雷の波を。
 その雷は実之芽のまとう雷から現れており、拳を交わしているセーランへと迫る。
 あ、から始まる言葉を日来住民は叫び、そして雷の波がセーランを覆った。
 一瞬の沈黙。
 それを掻き消すように、雷鳴が爆発し、雷の波は周囲数十メートルを洗い流した。
 閃光が放たれ、西二番貿易区域が光に照らされた。
 その場に立つ者が一人いる。
 実之芽だ。
 だが、勝利は確信してはいない。
 彼女の目の前。離れた場所に、セーランが立っていた。
 荒く呼吸をし、彼の衣服は所々焼けたような傷があり、全身は軽く焼けている。
 それでもなお、こちらに立ち向かおうとするセーランに対し、実之芽は動いた。
 まるで壊れかけの機械が動いているように歩くセーランへ向かって、地を蹴り距離を縮めた。
「……っ!?」
 セーランは突如、顔を掴まれた感覚を覚えた。
 それは正しかった。
 こちらとの距離を縮めた実之芽により、顔面を彼女の雷がまとった左の手で掴まれていた。
 そして今自分は、背後へと動いている。
 彼女が前に進んでいるのだ。
 その狙いは解っている。
 背後。端に寄せているコンテナに、こちらの身をぶつけようとしてるのだ。
 抵抗はしたいが、体が動かない。
 雷の波を受けて、体が限界を越えたのだ。
 さすがに、もう無理だと感じた。
 そして、背後。頭から硬いものへと激突した衝撃と共に、痛みが全身を襲った。
「ああああああ!!」
 痛みが体を駆け巡り、脳へと伝わる。
 その痛みから体が壊れたように、自身の意思を無視し体は暴れ、傷みから逃げようとする。
 しかし、実之芽はそれを力づくで押さえ込み、黙らせるようにコンテナにぶつける。
 頭から、彼の頭蓋を割るように容赦なく。
 十個程の鉄製のコンテナにぶつけた後、止めとし目の前に置かれているコンテナへと最後の一撃を放った。



 実之芽は、掴んだものが動かなくなったことを感じた。
 最後の一撃として、コンテナにぶつけたのが決め手となったらしい。
 ゆっくりと掴んだ左手を離し、彼の様子を確認した。
 日来の長は頭から血を流し、ピクリとも動かない。少し呼吸があるようだが、体の骨の幾つも折れているため動けないだろう。
 本当にこの勝負が終わったのか疑わしい。
 また立ち上がってくるのではないのか、そう思う。
 だが、彼は動かなかった。
 隙を伺っているのではない、体が動かないのだ。
 今の彼を無力と判断した実之芽は、身体を反転させ、青のドレイク級戦闘艦へと向かい歩き出した。
 周囲の者達は無言で、ただ自分が歩いている様子を追うだけだ。
 事態がまだ把握出来ていないのだろう。
 実之芽は勝ったことを告げるように、離れた場所にいる黄森の隊員に言葉を投げた。
「日来の長は戦闘不能よ。怪我の具合が酷いから病院へと運んだ方がいいわ」
「お前の方は大丈夫なのか?」
 こちらへ走って来た、黄森の中年の隊の隊長が心配の言葉を掛けた。
 それに頷き、口を開く。
「ええ、平気よ。それにしても、久しぶりに使った神化系術は慣れてなくて使いにくかったわね」
「久し振り? あんなに扱えていたのにか……」
 ぼそりと言葉を吐く黄森の隊隊長の様子を見て、実之芽は息を吐いた。
 疲れからきたのと、こちらの虚勢が通じたと安心した息だ。
 後は頼んだわ、とそう告げ自分の艦へと戻る。
 まだ発動中の神化系術は、力を見せつけるために艦内へと入るまで発動しておく。
 汗がベタつき、早くシャワーを浴びたいと、少し急ぎ足で歩いた。
 しかし艦にはシャワー室は設けられていないため、吸水性の符で汗を拭うことになるだろう。
 そんなことを考えながら、歩き続けた背後。声が聞こえた。
「あいつ、あんな状態でまだやる気なのか!?」
 その声の持ち主は、さっき話した黄森の隊隊長のものだ。
 だが、実之芽は振り向かない。
 もう相手にする程ではない、そう告げるため。
「宇天の隊長よ、どうするのだ?」
 黄森の隊隊長から問われた。
 答えは一つだ。
「手は出さなくていいわ。彼はもう既に負けたのよ」
 冷たい言葉が、黄森の隊長へと届いた。
 しかし、それを認めないと聞こえてくる声があった。
「ま、だだ。俺はまけ、て……なんか、ねえぞ」
 日来の長の声が、背後から聞こえた。
 雨に濡れた地面が鳴り、こちらへ歩いて来るのが分かる。
 足取りは遅く、一歩ずつのテンポがおかしい。
 早くなったり、遅くなったり、一置きしたり。と様々だ。
「貴方まだ動けるの? 貴方こそ本当に人族?」
「ふ、まあな」
 彼は鼻で笑い、応答した。
「まだ動ける、だから、負けじゃねえ」
「無理はするものではないわ」
「無理かどうかは、俺が、決めるさ」
 彼をそこまで動かすものは何なのだろう、と実之芽は思う。
 あそこまで傷ついて、私達の長に何を伝える気なのだろう。
 雨が落ちてくる空を見上げ、物思いにしばし更けた。
 そのなかでも、日来の長は歩き続ける。



「おい! 聞いてん……だろ、宇天の長さんよ!」
 セーランは前に飛ばすように、痛みが走る体を引きずりながら言った。
 口のなかは鉄を舐めた感じとそっくりで、左腕は力が入らない。
 そんな体で、セーランは叫ぶ。
「俺は、お前の頭を、ぶん殴りに来た。死んでも構わねえ、ような、こと言ってる。そんなおかしな頭、をさ」
 続ける。
「仲間はお前を、助けたくて。お前は、死を望んでて、よく分かわねえけど。俺は、お前に生きていてほしい」
 だから、
「生きろよ! 死ぬなんて、そんな、ことを……簡単に、口にするなよ」
 セーランは傷ついた左の腕を、何かを掴むように前に出した。
 その手は震え、赤い液が滴り落ちる。
「俺は、俺はさ。お前のことが好きだからさ、死んでほしくねえんだよ」
 頼む、
「だから、まだ。お前の元に行くまで――」
 その時まで、
「死なないでくれよ!!」
 泣いた。
 両目からは涙がこぼれ、肌を伝う。
 セーランは必死に、そう力一杯に叫んだ。
 雨はそんな彼の涙を流すように、強く降り、その傷ついた身体へと落ちた。
 誰しもがその光景を、ただ黙って、静かに、見続けていた。 
 

 
後書き
 セーラン傷付きながらも頑張ってます。
 実之芽さんも頑張ってますよ。
 今回も二人のぶつかり合いでしたね。
 今更ですが、実ノ芽は神化系術使ってるのに生身のセーラン倒せないとか弱くね? とか思っていたりしませんか? え、してない?
 …………。
 実之芽さんは容赦無いとか言われてますが、本当は手加減バリバリしてます。
 してなかったらセーラン死んでます。
 でもこんな大事なときに手加減だなんて、とか思うと思いますが、死なれて後で責任要求されたら困ると言うのが第一理由。
 こっちは奏鳴救うのに忙しいのに、馬鹿長の責任なんて取れるかい! みたいな感じに思ってくれればいいです。
 駄文よろしく内容よく解らんと思いますが、読んでくれありがとうございます。
 次回も頑張れセーラン! 
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