提督はBarにいる。

　～霧島:イギリス式ショートケーキ～

「ふむ、これがイギリス式ショートケーキという物ですか」

「みたいだな。俺も初めて知って、レシピ調べて作ったよ」

　今回のチケット当選者は霧島。リクエストされたのは『イギリス式ショートケーキ』という聞き慣れないお菓子だった。そもそもショートケーキって日本とイギリスじゃあ違うのか？と思って調べてみたら、これが全くの別物。同じ名前でここまで違うか、と驚かされた。

「しっかし、お前よくこんなお菓子知ってたな」

「前に金剛お姉さまから聞いたんですよ。お姉さまが着任した時に歓迎の意味も込めてお茶会を催したんですが、その時お茶請けにショートケーキを出したんです。そうしたら……」

「これは違う、とでも言われたか？」

「えぇ。『こんなのショートケーキじゃないデース！』と言われまして。ずっと興味があったんですよ」

　よく勘違いされるが、ウチの金剛型の最先任は霧島だ。霧島→金剛→比叡→榛名の順だったかな？確か。しかし流石は姉妹、声真似が上手い。

「しかしこれは……パッと見、クリームとフルーツを挟んだシュークリームみたいに見えますね」

「見た目は若干似てるがな。味は別物だぞ？」

　イギリス式ショートケーキの名前の由来は様々ある。有力とされているのはショートという単語が『サクサクとした』という意味の単語で、スコーンとビスケットの中間のような生地の食感を表している、と言われている。他にもショートニングを使ったケーキだとか、生地を焼く時間が短いから短時間で出来るケーキという意味だ、としている説もある。

「それではさっそく……ん！サクサクの生地とクリームが合いますね。そこにフルーツの酸味が加わって絶妙なバランスです、流石は提督！」

「だよな。初めて食ったが普通に美味いよこれは」

　日本人がイメージするあのショートケーキのようなケーキもあるらしいが、そっちは『レイヤーケーキ』というらしい。『層をなすケーキ』という意味だそうだ。

「日本のショートケーキをイメージして食べると違和感がすごいですが、別物のお菓子として食べるととても美味しいです」

「だな。流石はティータイムの国」

　イギリス飯は正直言ってあんまり好きじゃないが、ティータイムに拘りのある国だけにお菓子のクオリティは高い。それ単品でも十分に美味いが、紅茶と楽しむと絶品だ。まぁ、本場のイギリス人曰く、『紅茶は飲めれば良くて、味に拘るのは一部の物好き』という人が大半らしいが。



「提督、出来たらこのケーキのレシピをお教え願えますか？」

「ん？構わんが……誰に作るんだ？え？」

「彼、結構甘党なんですよ。それに、もうすぐ誕生日なので」

「はは～ん、それで手作りケーキをねぇ」

　『彼』というのは霧島の旦那である憲兵の橘君の事だ。ウチの霧島は数少ない、鎮守府の関係者以外の人と結婚した艦娘だったりする。ウチは基本自由恋愛だが、鎮守府という特殊な閉鎖環境と艦娘という特殊な事情が相俟って、鎮守府関係者以外の人物と付き合う奴が稀だ。そんな中でも結婚まで漕ぎ着けた霧島はかなり頑張った方だろう。まぁ、憲兵という軍人が相手な辺り、完全な部外者とは言えねぇがな。

「は、恥ずかしいのでからかわないで下さい……」

「はっはっは、可愛い義妹の頼みだ。喜んで協力させてもらおう」

　ただ、意外とこのケーキ面倒くさいぞ？




《サクサク食感ケーキ！？イギリス式ショートケーキ》分量:２個分

(生地)

・薄力粉:115g

・バター:30g

・グラニュー糖:10g

・牛乳:50cc

・卵:20g

(クリーム)

・生クリーム:適量

・グラニュー糖:生クリームの10％の量

(仕上げ)

・挟みたいフルーツ:適量


　※調理前に※
バター以外の生地の材料と生クリームは冷蔵庫で冷やしておく。バターは1cm角に刻んだら冷凍庫で凍らせておく。




凍ったバターに薄力粉とグラニュー糖をフードプロセッサーに入れて細かくしつつ混ぜる。粉の白さが無くなって粉チーズみたいな見た目になったらOKだ。

粉類をボウルに移したら、別のボウルに牛乳と卵を割り入れて溶く。卵液が出来たら3回に分けて粉に加えていく。その際、卵液を加える度にその都度手で軽く纏める様に混ぜる。

　卵液を全て加えたら、一纏まりになるように軽くこねる。纏まったら打ち粉をふるった台の上に乗せて、2cmの厚さになるように麺棒で延ばす。

※ワンポイントアドバイス※

均一な厚さに延ばしたい時は100均等で厚さに合わせて木工用の板などを買ってきて当て木にするといいぞ！

　生地を延ばしたらゴムへら等で半分に切り分け、切った生地を重ねて再び延ばす。これを合計3回繰り返す。生地が出来たら直径8cm位の丸型で型抜きをする。乾燥しない様にラップで包んで、一晩寝かせる。

※焼く前の生地なら冷凍庫で2～3週間保存可能だぞ！一度作ってみて、気に入ったら大量に作って冷凍しておくのも良いだろう。解凍する時は冷蔵庫に入れてゆっくり解凍しよう。失敗すると生地がべちゃべちゃになるぞ(泣)

　オーブンを焼く温度より20℃高い温度で余熱し、焼き上げる。ウチのオーブンの場合は210℃で13分位。これもメーカー等で変化するのであくまでも目安と思っておいてくれ。焼き上がったら粗熱を取っておく。

　生クリームにグラニュー糖を加え、氷水で冷やしながら泡立てる。七分立て位で良いだろう。お好みでリキュール何かで香り付けすると、甘いものが苦手な人でも食べやすくなる。

　粗熱を取った生地を手で上下半分に割り、クリームとフルーツを挟む。挟むフルーツはイチゴやオレンジ、ブルーベリーやキウイなんかの酸味のある物が良いだろう。





「……とまぁ、こんな所だな」

「意外と手間が掛かるんですねぇ」

「いい仕事をするにゃあ手間を惜しんじゃいかんのよ、どんな仕事でもな」

「その割りには提督は業務をサボっている事が多くないですか？」

「俺ぁホラ、お前らを鍛えるのに手間を惜しまなかったからな。その分、今はお前達が仕事をしてるんだよ。要はバランスだ、バランス」

「はぁ。いつまで経っても口の減らない司令ですこと」

　それは生まれつきだ、ちくしょうめ。