暗鬱な王
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第一章
暗鬱な王
スペインマドリードの王宮はこの時おかしな状況になっていた、窓は常に開けられ昼には人は少なく夜は多くなっていた。
そして誰もがその状況に困惑していた、とりわけフランスから来た者達は本気で心配になってスペインの廷臣達に尋ねた。
「あの、どうなっているのですか」
「殿下、いえ陛下はどうなられたのですか」
「近頃どうもです」
「王宮がおかしなことになっている様ですが」
「実は」
スペインの廷臣達も困った顔で答えるしかなかった。
「近頃陛下は上機嫌な時もあれば」
「そうでない時もありますか」
「沈み込まれる時もありますか」
「そうなのですか」
「はい、それは貴国におられた時からでしたね」
こうフランスから来た外交官達に話した。
「お気持ちが極めて上下されることは」
「はい、そうでした」
「それはそうでした」
「それで陛下も心配されていました」
「祖父であられるあの方も」
「ですがそれがです」
その心がというのだ。
「近頃です」
「特にですか」
「特に上下され」
「それで、ですか」
「この様になっていますか」
「左様です」
廷臣達はこう言うしかなかった、兎角今のスペインの王宮はおかしな状況になっていた。
スペイン国王、フランス国王ルイ十四世の孫の一人でありスペイン継承戦争によりスペイン王となったフェリペ五世は今深刻な状態にあった、昼は寝て夜は起き。
夜に政務を執り窓を常に開けさせた、しかもだった。
「陛下、お服は」
「いい・・・・・・」
沈痛な表情で俯いての返事だった、気品がある筈の顔は全く洗われていないので汚れきっている。そして服もだった。
ずっと着ているのでぼろ布の如きだった、そして。
常に煙草を吸い湯を飲んでいた、そして何かを貪り食っていた。そうしつつ政務を執り夜に動いていたが。
廷臣達は王に何か言う、だが常にだった。
「よい」
「そうなのですか」
「全てはよいのだ」
こう言いつつ湯を飲み煙草を吸い。
何かを貪りそうして政務を執る、だがそれでもだった。
王の顔は晴れずそうしてだった。
王妃の言葉を聞くと少しだけ明るくなる、そんな日々だった。
その王を観て各国の外交官達は話した。
「前のカルロス二世様もどうかという方であられた」
「何時崩御されるかという方だった」
「人としてのお暮らしすら出来ているか」
「そうした方だったが」
「フェリペ五世様もだ」
その彼もというのだ。
「資質はおありだが」
「お心が弱い」
「日々沈みきっておられる」
「その為か奇行が目立つ」
「あれではどうなられるか」
「わかったものではない」
こうしたことを話した、だが。
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