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Fate/WizarDragonknight

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亜空間再び

 赤のヒューマノイドが、ネズミの化け物の両腕を受け止める。
 プロレスのような凄まじい肉体のぶつかる音に、紗夜は思わず顔を背ける。
 だが、逃げることもできない。そのまま、赤のヒューマノイドがネズミの化け物を抱え上げ、地面に叩き落とす姿が見えた。

「きゃっ!」

 飛び散る砂埃に、紗夜は目を瞑る。
 だが、それだけではネズミの化け物には大きなダメージにはなっていない。起き上がった化け物は、吠えながら赤のヒューマノイドへ再び挑みかかる。

「何なのよ……っ!」
 抜けた腰に無理矢理命令して、紗夜は起き上がろうとする。だが、そんな紗夜の前に、赤のヒューマノイドが倒れ込んできた。

「!?」

 ネズミに追い詰められている。その事実に、紗夜は息を呑んだ。
 振り向けば、紗夜をゾンビにしようと企むネズミのが襲ってくる。
 だが、赤のヒューマノイドが紗夜を突き飛ばす。傷ついているにもかかわらず、ダメージに大きくのけ反る。

「保登さん!」

 助け起こそうとする紗夜だが、さらにネズミの化け物が襲ってくる。怪物は執拗に紗夜を切り裂こうとするが、その背後から赤のヒューマノイドが羽交い締めにしてそれを防ごうとする。

「保登さん!」

 だが、赤のヒューマノイドを振り切ったネズミの化け物は、そのまま赤のヒューマノイドを振り向きざまに切り裂く。
 体より火花を散らした赤のヒューマノイドは、そのまま膝を折る。
 ネズミの化け物は、唸り声を上げて、さらにヒューマノイドへ攻撃を続ける。その鉤爪を受け止めた赤のヒューマノイドの胸元___青く輝く結晶体が、赤く点滅を始めた。

「なんなの……あれ?」

 その効果は全く分からない。だが、どんどん追い詰められていく赤のヒューマノイドの危険信号のようにも見えた。
 これ以上は不利。そう判断したのか、赤のヒューマノイドは、ネズミの化け物に足蹴りを食らわせる。怯んだ隙に、両手を短く交差させる。交差した手のひら部分から放たれた光線が、ネズミの化け物を大きく引き離した。

「やった……!」

 トドメにはなっていないが、少なからずのダメージを与えた。
 だが、その消費したエネルギーは少なくないのか、赤のヒューマノイドは再び膝を折った。

「あ……! 保登さん!」

 紗夜は赤のヒューマノイドを助け起こす。そのまま肩を貸しながらその場を離れようとするも、邪悪なネズミは二人をまとめて切り裂こうと迫る。

「!」

 その姿に、再び紗夜は青ざめる。
 だが、何より紗夜が言葉を失ったのは、また赤のヒューマノイドが紗夜を庇ったことだった。
 赤のヒューマノイドにココアの意識があるのかは分からない。だが、このボロボロの人外は、それでも紗夜を守った。

「なんで……?」

 胸の点滅が加速する。
 だが、それでも赤のヒューマノイドは倒れない。
 やがて。
 赤のヒューマノイドは、大きな唸り声とともに、ネズミの口に拳を叩き込んだ。
 大きく後退するネズミの化け物。
 さらに、赤のヒューマノイドは次の行動に映る。
 右腕の装備に灯す、淡い光。それを頭上に掲げ、光がドーム状に広がっていった。

「あれは……学校でもあった……」

 光は、紗夜を追い出すように、自身の立場だけを取り除いて広がっていく。
 だが、その時、紗夜は無性にこの赤のヒューマノイドの正体が気になってしまった。ココアが正体という意味ではなく、何者なのかを。
 紗夜は、思わず光の波の中に踏み入る。同時に、周りの景色が、夕焼けの森から、殺風景な遺跡へと変わっていった。



 光のドームは、非戦闘員を排除しながら、公園内の戦闘を巻き込みながら広がっていく。
 ウィザードとブロブ。
 可奈美と狼男。
 ビーストとムンクの叫び。
 異なる位相にいる龍騎と岩石生物。
 気絶からようやく起きた響と友奈。
 そして、トレギア。

 やがて、怪物たちを含めた戦闘員たちは、虹色の空が支配する遺跡にいたのだった。

「ここは……?」

 風のウィザードは、その摩訶不思議な空を見上げた。
 ブロブの怪物は、よりウィザードに対し、興奮の色を示している。より強い勢いで攻撃を加え、ウィザードも風としての機動力をもってそれを避ける。

「この場所のことより、先にあいつか……」

 倒せない敵ではない。それが、ウィザードの結論だった。
 当初は土のウィザードで圧倒していたが、あろうことか飛行能力を披露した。対応するために風のウィザードに変身し、ソードガンの刃で撃墜したところでこの空間に巻き込まれたのだ。

「うおっ!」
「キャッ!」

 警戒している時、背中に重いものが落ちてきた。
 ウィザードの上に山なりに重なるのは、ウィザードにとっても見覚えのある人物。

「可奈美ちゃん!?」
「え!? ハルトさん!?」

 全身に痛々しい傷跡が残る可奈美だった。
 可奈美はすぐさまウィザードから退き、そのまま助け起こした。

「どうしてウィザードになってるの?」
「可奈美ちゃんこそ。……ていうか、千鳥持ってきてたんだ」
「ギターケースは手放せないよ。ここ最近。それより……」

 可奈美が、ブロブの怪物を睨む。

「何? あれ」
「俺も知りたい」

 見れば、ブロブの怪物の隣には、新しい怪物が並んでいた。
 狼のような姿形をしているものの、その頭は三つある。しかも、左右の頭にはそれぞれ目が一つずつ。中央の顔には、目がそぎ落とされているではないか。

「……可奈美ちゃんは、あれと戦ってたの?」
「うん。……とても、手強いよ」
「だろうね」

 ウィザードと可奈美は、互いにそれぞれの得物を構える。
 その時。

「おやおや。君もいたのか」

 その声に、ウィザードは顔を上げた。
 忘れもしない声。

「フェイカー!?」

 並ぶ二体の怪物。そのすぐ頭上に、それはいた。
 仮面をつけた、群青色のサーヴァント。

「やあ。松菜ハルト君。またこの公園で会ったね? ……ここを公園と呼んでいいのかは分からないけど」
「今度は何を企んでいる? この場所もお前の仕業か!?」
「あれがフェイカー……!?」

 可奈美もまた警戒を示す。
 そんな可奈美を見下ろしながら、フェイカーは左手を伸ばし、貴族のように礼をする。

「初めまして。衛藤可奈美ちゃん。私はフェイカー、トレギア。今後ともよろしく」
「それがお前の名前か……」
『ハリケーン スラッシュストライク』

 それ以上の言葉を語らず、ウィザードはトレギアへ緑の斬撃を放つ。
 トレギアもまた、右手の爪で空間を裂き、赤い斬撃を放つ。
 緑と赤の斬撃が、空中で相殺し、爆発した。

「おいおい。君は戦いを止める派なんだろう? いいのかい? 私をいきなり攻撃して」
「お前は危険すぎる。まどかちゃんを攫ったり、何を考えているのかが分からなさすぎる」
「ひどいなあ。ランサーは、少しは会話しようとはしてくれたのになあ」
「ランサー?」
「響ちゃんに会ったの!?」

 その発言に、可奈美が一歩踏み出す。
 すると、トレギアは肩を震わせた。

「安心して。殺してはいないさ。それより、この結界は君のものではないようだ」

 トレギアはそう言って空を仰ぐ。
 ウィザードは警戒を解かずに聞き返した。

「これは、お前の仕業じゃないのか?」
「まさか。こんな世界に君たちと手駒を閉じ込めてもメリットなんてないじゃないか」

 トレギアはそう言って、右手から雷を放つ。
 巻き起こされた爆炎により、ウィザードと可奈美は視界を奪われた。
 さらに、その中から、二体の怪物たちが迫る。
 ウィザードは可奈美の前に出て、二体の怪物を体で食い止める。
 同時に、上の悪魔が囁く。

「じゃあ、頑張ってくれよ」
「あ、待て!」
「ハルトさん! 頭を下げて!」

 可奈美の声に、ウィザードは従う。
エメラルドの頭上を深紅の刃が切り裂き、怪物たちの頭部から火花が散る。
大きく後退した二体の怪物たちに対し、ウィザードにも反撃のチャンスが訪れた。

「まずはこっちか!」
『ハリケーン スラッシュストライク』

 竜巻を纏うウィザードの刃が、二体の怪物をまとめて引き裂く。
 未知の怪物たちが倒れ込むが、元凶であるトレギアがどんどん離れていく。

「待て!」
「それじゃあね。生きていたらまた会おう」

 怪物たちの相手に手一杯のウィザードたちに、トレギアを追いかける選択肢はなかった。 
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