犬はずっと待つから
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第三章
「きっとな」
「僕達も気に入るんだね」
「絶対にそうなるさ」
笑顔で言ってだった。
青年と彼の家族をジェッツに会わせた、すると彼等はすぐにジェッツを気に入った。そのうえで家族に迎え。
シェルターに定期的にジェッツのことをメールで知らせる様にしてきた、そこにいるジェッツはメールは送られる度に太って来ていた、それでノートンは一家に少し苦笑いをして肥満に注意してくれと返信した。
ノートンは休暇の時にロシアに旅行に行った、その時に。
トボリスクに寄ったがここでだった。
一匹のダークブランと茶色の長い毛で腹が白い犬が駅の傍にある小屋の傍でじっとしているのを見た。
それでその犬の頭を撫でると。
「クゥ~~ン」
「大人しい子だな」
「その犬はミシェカっていうんだ」
初老の駅員が言ってきた。
「ここで飼い主をずっと待っているんだ」
「その飼い主さんは何時帰って来るんだ?」
「帰って来ないさ」
駅員はノートンに悲しい顔で答えた。
「もうな」
「そういうことか」
「ああ、交通事故でな」
「それでか」
「もうな、けれどな」
「ずっとか」
「毎日飼い主を迎えていた場所でな」
「待ってるんだな」
「そうなんだよ、そして」
それでというのだ。
「飼い主の遺族の人達がそのまま飼ってるけれどな」
「ずっと待ってるか」
「そうさ、だからなわし等はな」
駅員はノートンに話した。
「こいつの為に雨風や雪を凌ぐ小屋を造って」
「それがこの小屋か」
「飯や水をやってるんだ」
「ずっと待っているこいつの為にか」
「帰って来ないのにな」
「犬だからな、犬は本当に待つんだ」
ノートンはその犬ミシュカを見つつ駅員に話した。
「飼い主、家族をな」
「そんな生きものだよな」
「ああ、そんな子を大事にするなんてな」
ノートンは駅員に笑って話した。
「あんた達はいいことをしてるな」
「ミシュカを見ていたらそうせずにいられないんだよ」
「だからか」
「それだけか」
「そうか、いい言葉を聞いたよ」
「いいかい?」
「本当にな、それじゃあこれからも大事にしてやってくれ」
こう言ってノートンはプラットホームに入ってそこから列車に乗った、彼は車窓から出発して見えなくなるまでずっとミシュカを見ていたがミシュカはずっとそこにいた。そして飼い主を待っていた。そんな彼を見て彼はジェッツも思い出し犬という生きものがさらに好きになった。えも言われぬ切なさも感じながら。
犬はずっと待つから 完
2021・7・26
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