幻想甲虫録
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幕間1:役立つ時は唐突にやって来る
前書き
この話は『魔王VS救世主』、『死神甲虫オズワルド』の間の話になります。
ここは古道具屋、香霖堂。人間と妖怪のハーフである青年、『森近霖之助』が経営している店だ。
霖之助にも霊夢や魔理沙のように相棒の甲虫がいる。彼はクワガタの『和長』。オオクワガタのようにガッシリとした体格にコクワガタの大顎を持っている。まるでヒラタクワガタのようだ。いや、『大きなコクワガタ』だから『オオコクワガタ』と言うべきだろう。
シグルド「俺はナマコ売りじゃねぇってのに、どうしてこうなった………てか、さっきから帽子がヌルヌルしやがる………」
移動販売から帰ってきたシグルドがぶつくさ文句を言いながら霖之助と和長と共にいつの間にか渡されたナマコを見つめていた。
この時ヌルヌルになった山高帽を脱いでいたが、甲にはどういうわけかサクランボの絵が描かれていた。
シグルド「そもそもナマコ投げつけるとかどういう神経してるんだ?」
霖之助「まあ、ナマコは外の世界で普通に食べられてるからね。仕方ないね」
和長「何で食べ物じゃなくて投擲として使うんだろうね……」
シグルド「俺が聞きたいわ!」
どうやら霖之助と和長もデストロイヤーからナマコをもらっていたようだ。あれはシグルドが帰ってくる数十分前だったとのこと。
自分たちもあのマゼンタのクワガタからナマコをもらったと和長が話し、ナマコを机の上に置く。
シグルド「お前らももらってたの!?マジで何がしたいんだあいつ!?あ、そうそう。最近また新しい技を仕入れたんだが……」
そう悪態をつきながらも、アタッシュケースからある2枚のカードを取り出した。スペルカードではないものの、シグルドは確かに『技屋』。甲虫にしか使えない技の販売をしている。
取り出したのは今まで誰もかつて見たこともない絵と技名が記載されたカード。ひとつは大気圏に突入する寸前で宙を舞う相手に突撃するカード、もうひとつは真っ黒な背景に赤字で『滅』という漢字1文字だけが書かれたカード。
シグルド「中でも一番おすすめなのがこいつらだ。アダーのじいさんも求めてたダゲキ技でな、『ミーティアスマッシュ』と『シュンゴクケン』っていうんだ」
和長「ミーティアスマッシュ?シュンゴクケン?」
霖之助「確かそれ、コンプリートスマッシュとヒャクレツケンの………」
シグルド「その通り!いやぁ、この技手に入れるのに苦労したなぁ……これらは一撃必殺とも呼ばれてたが、ミーティアスマッシュは使っただけで森ひとつが壊滅的になったって話があるし、シュンゴクケンは下手をすれば自我を失って目につくもの全てを襲う。なかなかの曰くつきだぜ」
すると技の説明を聞いていた同じ甲虫である和長が突然目を輝かせ、ミーティアスマッシュとシュンゴクケンのカードをまじまじと見始めた。
急にどうしたと言わんばかりの表情をする霖之助だが、そんな彼に和長は全く気にしない。
和長「ねえシグルド、これちょうだい!ひとつだけでいいから!」
シグルド「無理。頼まれても売れないもんはある。第一、君は霖之助と働いてる虫だろ?」
あっさりと断られた。それでも技を欲しがる和長の気持ちは変わらない。
和長「霖之助!お金用意して!この技欲しい!!」
シグルド「いや、話聞いてましたぁ!?売れないし曰くつきだって言ってんじゃん!」
霖之助もカードを手にすると、興味深げな目で見た。そしてこう問う。
霖之助「なるほど……いかにも危険な代物だね。仮に売ってくれるとしたらいくらだい?」
シグルド「仮に、ねぇ……うーん、そうだなぁ……………合計でだいたい800万以上80億以下かな?」
和長「高スギィ!!?」
なんという高額。思わず机から転落し、背中を強打してしまった。
シグルド「だってしょうがねぇだろ。森を滅ぼすかもしれねぇし、俺たち虫どころか人妖問わず殺しまくるかもしれねぇし」
和長「う、売る気ゼロですか……?」
シグルド「当たり前だ。そもそも仕入れた俺でも使えそうにねぇし、お前だって使えそうにねぇだろ?下手すりゃ幻想郷滅んじまうぞ」
???「へー、ちょっと見せてよ」
シグルド「まあ見るだけならいいが」
技に興味を持った客人らしきクワガタがいつの間にか香霖堂に店内にいた。
そのクワガタは霖之助と同じくミーティアスマッシュとシュンゴクケンのカードを興味深そうに見る。
???「あのアダーが求めてたダゲキ技ねぇ……」
シグルド「だがそれは曰くつきだぜ?果たしてあんたに使いこなせるかどうか―――――」
客人と話すシグルドに目を向けた霖之助と和長の目つきが突然変わった。
デストロイヤーが言っていた泥棒クワガタ。シアンのグランディス。イーストシーだった。
霖之助「ねえシグルド、そいつって………」
シグルド「ん?どうかしたか?」
和長「デストロイヤーさんが言ってたあの虫……」
シグルド「…………あ、鈴奈庵のお嬢ちゃんが言ってたシアンの虫……って、あ゛ぁ!?」
さりげなく現れたイーストシー。声をかけた霖之助に顔を向けて目を放した隙にミーティアスマッシュとシュンゴクケンのカードを奪っていた。
気づいた時にはすでにカードを持ったイーストシーがそのまま窓から飛び立って逃げようとしていた。
イーストシー「おっと、バレちゃったみたいだね。せっかく手に入れたところ悪いけど、この技僕がいただくよ」
シグルド「いつの間に取ったんだ!?曰くつきだから売れないってのに!それ返せ!!」
和長「シグルドさん!これ、ナマコの出番じゃないですか!?」
イーストシー「え…?ナマコ……?」
和長のナマコという一言でイーストシーが固まった。机に置かれたナマコを見てシグルドは。
シグルド「絶対使い方違うと思うが………もう考えんのめんどくせぇ!ヤケクソだぁ!!」
大顎でナマコをつかむと、イーストシーめがけて勢いよく投げつけた。
『ベチャッ』という濡れた雑巾が叩きつけられたような音がしたその瞬間だった。
イーストシー「アバババババババババババ!?」
シグルド「え?」
イーストシーの身に異変が起こった。ナマコをぶつけられただけで痙攣が起こったのだ。
痙攣が起こったと同時に窓から転落するイーストシー。何が起きたと言わんばかりに唖然とするシグルド、霖之助、和長。
イーストシー「だ、ダメだ………吐き気が……頭痛が……僕はナマコアレルギーなのに………ひどいよ………!何でこんなことを平然と………!」
霖・和・シ「「「そうだったの!?」」」
イーストシー「まさか……デストロイヤーの仕業か……!?て、撤退……『キリガクレ』……!」
苦し紛れにキリガクレで逃げるように姿を消した。彼が倒れていた場所には彼が盗もうとしたあのカードが散らばっているだけだった。
シグルド「…………アレルギーだったのか」
和長「って、霖之助さん!?商品が!」
霖之助「そんな!どさくさに紛れてうちの商品が消えてる!?」
シグルド「うわぁ……こりゃあのマゼンタ野郎の言う通りナマコが必要かもなぁ………」
だが霖之助たちのみならず、イーストシーはまだ知らなかった。デストロイヤーが幻想郷各地を回り、対策として住民に次々にナマコを配っていることを………。
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