非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第107話『次に向けて』
晴登が風香の教えの元特訓しているその頃、魔導祭会場では1人の嘆きの声が響いていた。
「ハルト〜、どこに行ったの〜!」
「昼飯食い終わるなり、用事があるって飛び出してったな。何の用事か知らないのか?」
「ボクにも教えてくれなかったの〜! 恋人なのに〜!」
昼食を終えて、いざ午後の部の試合を観戦しうとしていた時、なんと晴登が行方を眩ませてしまったのだ。一体どこに行ってしまったのかは、伸太郎にも結月にもわからない。
「結月にも教えてないってことは、相当内緒事なんじゃないか? 本人が教える気がないんなら、放っといてやろうぜ」
「ぶ〜」
伸太郎がそう宥めるも、結月は不服顔だ。
本来なら、一分一秒たりとも離れたくないのだろう。全く、鬱陶しいくらいに好かれてるな。
「それより、今は観戦に集中した方がいいんじゃないか? さっきの凄ぇ戦闘だったぜ」
「ハルトの試合以外興味ないもん」
「清々しいくらいの贔屓だな」
何とか気を逸らそうとするも、結月は本戦自体にはまるで興味なしだ。あくまで晴登が絡む必要があるらしい。
……もうご機嫌をとるのもめんどくさいから、自分だけでも試合を観戦するとしよう。
『それでは第6試合、いよいよ注目のカードです! 【覇軍】対【♠のA】!』
「お、優勝候補のお出ましか」
「覇軍」と聞いて、会場のボルテージが一層上がる。さすが優勝候補、観客の期待もひとしおだ。
『【覇軍】からは影丸選手! 【♠のA】からは三葉選手です!』
「あのガタイ、どう見ても三葉って名前じゃねぇだろ」
人の名前にツッコむのは良くないとわかってはいるが、これにはツッコまざるを得なかった。だって筋肉隆々なマッチョなおじさんがそんな可愛らしい苗字なんて、違和感しかない。
「早速"黒龍"のお出ましか」
「"黒龍"……あの影丸って人っすか?」
「そうだ。見て驚け、あの人の魔術は桁が違うぞ」
終夜にそこまで言わせるのだ、気にならない訳がない。結月以外のレベル5の実力をこの目で見るチャンスだ。伸太郎は集中して試合を眺める。
『それでは、試合開始!』
「今年の優勝は俺たちが貰う!」
「……ふわぁ、めんどくせ」
開始の合図と同時に三葉が攻めた。見た感じどんな魔術かはわからないが、少なくとも遠距離のものではなさそうだ。
一方、影丸は腰に手を当てて頭を掻きながら、欠伸を浮かべている。戦闘をしているとは思えない緊張感のなさだ。
「ナメやがって!」
その様子を見て苛立つ三葉。まるで眼中にないと言わんばかりの態度を取られれば、そりゃ誰だって腹も立つ。
だがそんな威勢にも興味を示さない影丸。やる気なんて微塵も感じられず、呼ばれたから仕方なく出てきましたと言わんばかりだ。
すると、ようやく試合をする気になったのか、初めて三葉の目を見据えると、ぽつりと一言、
「── 一瞬だ」
「な、消えた……!?」
呟いた瞬間、彼の身体が消失する。突然の事態に、三葉も声を上げて驚いた。
ちなみに、伸太郎も全く同じ反応をしている。上から見ても、何が起こったのかわからなかったのだ。瞬きをした次の瞬間には、影丸は姿を消していたのだから。
「決まったな」
「え? それはどういう──」
『あ〜っと! 三葉選手ダウンしました!』
「っ!?」
終夜の発言の意図を訊き返そうと彼に振り向いた途端、そのアナウンスで度肝を抜かれた。再びフィールドに向き直ると、中央で三葉がうつ伏せに倒れ、その背後に影丸が立っていた。
「なっ!? い、今何したんすか?!」
「あれが"黒龍"の技の1つ、"影喰"。影となって姿を消し、そして相手の影に干渉してダメージを与えたんだ」
「影に干渉……!? そんなことできるんすか?!」
「"黒龍"ってのは、"黒を支配する"ことができるからな」
「黒って、無茶苦茶っすね……」
「それがレベル5の魔術師なんだよ。全てが規格外なんだ」
「……っ」
あまりの強さに、伸太郎は息を呑む。
相手だって、予選を勝ち抜いてきた猛者のはずだ。それがこうも容易く倒されるのを見ると、驚かざるを得ない。
"黒龍"と呼ばれるからには、てっきり龍のブレスとか期待していたのだが、黒を操るというのは、これはこれで化け物じみた力である。
……いや、これに加えて龍の力があると考えるべきか。もはや化け物どころではない。
「こいつにも、そのポテンシャルがあるってことか……」
そして伸太郎の視線は、隣で退屈そうにしている結月へと向く。
一見か弱そうな彼女だが、その内には鬼の力を秘めているのだ。まだその力を目の当たりにしたことはないが、恐らく同じレベル5である彼女にも、影丸のように規格外の力があるのかもしれない。
「そういや、予選1位通過だったな……」
伸太郎と同じく、予選1位を取った結月。しかし伸太郎のように知能で勝ち上がった訳ではなく、単純なパワーで勝ち上がったに違いない。どうやらポテンシャルどころか、既にその才は発揮されていたようだ。
「怖ぇなぁ……」
そんな伸太郎の嘆きは、会場の熱狂にすぐにかき消されるのだった。
*
「うん、それじゃ今日の特訓はこの辺にしようか」
「は、はい……」
「ちょっとハードだったかな? 大丈夫?」
「これくらいは、何とか……」
嘘だ。昨日の今日で体力は回復し切ってないので、正直しんどかった。
それでも、風属性の魔術に関する学びは多く、一気にレベルアップしたのを実感する。
「私の見込んだ通り、やっぱり君は覚えが早い。今日だけでここまでできるなんて、予想以上だよ」
「ホントですか!」
風香にそこまで言われると、さすがに嬉しいし自信もつく。思えば、魔術の会得も早かったし、もしかすると本当に覚えが良いのかもしれない。ここに来て意外な才能が見つかった。
「さて、もう試合も終わってみんなが帰ってくる頃だから、私は行くね。出番次第だけど、良ければ明日も特訓しようか」
「はい! ぜひお願いします!」
そう言って手を振りながら、風香は去っていった。しかも明日も特訓の約束も取り付けることができたので、とても幸先が良い。
これで、結月や終夜といった上のレベルの魔術師に、1歩は近づいたはず。明日も頑張って、いずれは追いつけるようになりたい。
晴登は強く、そう意気込んだのだった。
*
「あれ、ハルト! どこ行ってたの?!」
「あ、結月と暁君」
風香も帰ったので、ホテルに戻ろうとしていたちょうどその時、会場から帰ってきた結月と伸太郎に遭遇する。
晴登を見つけるなり、結月が表情を変えて駆け寄って来た。
「えっと……裏庭で特訓してた」
「特訓って、1人でか?」
「ううん、師匠と2人で」
彼らの問いに正直に答えると、2人とも怪訝な表情をする。
しかし直後、伸太郎は思い出したように言った。
「そういや、魔導祭で師匠を探すとか言ってたな。見つかって良かったじゃねぇか。で、誰なんだ?」
「【花鳥風月】の猿飛さん」
「あ〜確かに風使いだったな」
「……は! 予選でハルトをお姫様抱っこしてた人!」
「いや覚え方」
風香の名を出すと、2人はそれぞれ違う反応を示す。ただ結月に至ってはあまり思い出したくない覚え方をしているので、早々に忘れて欲しい。
「予選の時といい、仲良いみたいだね。ホントに特訓してたの? まさか浮気とか──」
「ないない! 違うって! ホントに特訓してただけだから!」
やけにぐいぐい結月が首を突っ込んでくるので、慌てて否定する。
もしやこれが、俗に言う「嫉妬」というやつだろうか。実際「浮気」と口にした辺り、結月はかなり嫉妬深いかもしれない。そこまで想われてることは嬉しいのだが、逆にそのうち度が過ぎるのではと不安にもなってしまう。……マンガの読みすぎだろうか。
「ふ〜ん。ボク、ハルトがいなくて寂しかったなぁ〜」
「う、ごめん……」
結月は未だに拗ねたような口調だ。確かに理由もろくに説明しないまま出てきたし、寂しい想いをさせたに違いない。
かと言って、謝る以外の選択肢が浮かばなかった。
「ん」
「え?」
「ん〜!」
「いやだから何?!」
そんな晴登に向かって、結月は両手を広げた。いきなりの行動に晴登が戸惑っていると、結月は愚図るように何かを催促する。当然、晴登には何かわかっていない。
「……寂しかったからギュッてして」
「な!? 今ここで?!」
察しの悪い晴登に、結月は直接おねだりする。しかしそれを聞いて、はいわかりましたとはならなかった。
何せここは外だし、人の目もある。というか真横に伸太郎がいるのだ。ハグなんて、恥ずかしくてできる訳がない。
「い、今はちょっと汗臭いかもだし……」
「特訓頑張ってた証拠でしょ? ボクは気にしないよ」
「ぐ……」
どうにか回避しようと理由をつけてみるも、全肯定の結月に通ずる訳もなく。どうしようかと迷っている内にも、じりじりと彼女は距離を詰めてきていた。
「う……わかったよ。ほ、ほら」
「わ〜い!」
「うぐ……!」
こうなってしまっては折れるしかない。別にハグが嫌な訳じゃないのだ。むしろ嬉しいし……。
そんなこんなで、ようやく晴登も両手を広げて受け入れる準備をすると、すぐに結月は晴登の胸に勢いよく飛び込み、力いっぱい抱擁した。その余りの衝撃に、思わず呻き声が洩れてしまう。
「ちょ、ちょっと待っ……」
「ぎゅ〜! うん、補充完了!」
「ほ、補充って……何補充したの……?」
「う〜ん、ハルト成分的な?」
「人の名前で新たな物質を作るんじゃない……」
疲れ切った身体にこの力強いハグはさすがに応えたようで、晴登は途切れ途切れに言葉を返す。こんなのを毎回喰らっていたら身体が持ちそうにないので、これからはちゃんと結月には報連相をしようと思った。
「……何見せられてんの俺」
一方で、1人置いてけぼりの伸太郎はそう零すのだった。
*
翌日を迎え、2回戦を今か今かと会場で待ち侘びる観客の前にジョーカーが現れる。彼は両手を広げ、大きく息を吸って挨拶した。
『ごきげんよう皆様! 本日も良いお日柄でございます! それでは早速、2回戦の特別ルール発表と参りましょう!』
逸る観客の気持ちを察し、ジョーカーは手際良く進行していく。いつものセルフドラムロールも健在だ。
さて、今日の勝負はここから始まると言っても過言ではないだろう。特別ルールとは、それだけ重い意味を持っている。1回戦は単純だったが、2回戦は果たして──
『デデン! 2回戦の特別ルールは"一心同体タッグバトル"です!』
「一心同体……?」
特別ルールの名を聞き、首を傾げた。
タッグバトルはわかる。2対2で戦闘が行われるということだ。
では、"一心同体"とは何だろう。これがメインだとは思うが。例えば……2人でHPを同期するとか?
『細かいルールを説明します。といっても、ほぼ普通のタッグバトルです。違うとすれば、"2人が手錠で繋がっている"という点です』
「いや全然普通じゃないが?!」
『また、"一心同体"ということで、片方が戦闘不能になった時点でリタイアとなります』
予想が生ぬるかった。まさか"物理的"な一心同体とは。二人三脚とかを鑑みれば、その難易度は想像に難くない。これはかなり重い縛りと言えよう。
『ちなみに今回は"抜き打ち"ではないので、メンバーは自由に選出してください。それと、トーナメントは引き継がれていますが、試合順は1回戦とは異なります。ご了承くださいませ。それでは、30分後に第1試合を始めます! 盛り上がっていきましょう!』
「「「うおぉぉぉっっ!!!」」」
そう言って、ジョーカーは姿を消した。
モニターに映されたトーナメント表を見ると、確かに試合順だけが入れ替わっており、晴登たち【日城中魔術部】は第2試合となっていた。ちなみに相手は【タイタン】というチームだ。
「少なくとも、予選も第1試合も勝ち上がってる。並な相手じゃないぞ」
「部長」
「ちなみに俺の調べだと、あそこのチームだ」
「……ちょっと待って下さい。さすがに無理がありませんか?」
終夜が指さした方向を見ると、大柄な男性が4人でミーティングをしているようだった。
というかデカい。デカすぎる。平均身長190cmくらいではなかろうか。加えてガタイも良いから、遠目から見ても巨大に見える。なるほど、だから"巨人"なのか……。
「という訳でこっちも作戦会議をしていく訳だが」
「そうは言っても、決めるのって"誰が出場するか"くらいじゃない?」
「それもそうだな」
一口にミーティングと言っても、相手の情報が少ないし、作戦の建てようがない。相手が誰を選出するかも未知数なので、下手な作戦は逆に悪手となろう。
つまるところ、ぶっつけ本番である。よって、純粋に強さで選んで──
「なら、部長と副部長ですかね?」
「バッカお前、こいつの身長考えろ。手錠するんだから余計に戦いにくいだろ」
「小さくて悪かったわね!」
別にいじる機会もなく、危うく忘れかけていた緋翼の低身長がここで仇となった。確かに手錠をする以上、身長が近い者同士で組むのが丸い。
「という訳で、俺はW三浦を推薦する」
「まぁ、仕方ないわね」
「えぇ!? 何でですか……?」
「身長という点でもタッグバトルという点でも、お前ら2人が組むのがベストだろ。見せてみろよ恋人パワー」
「恋人パワーって……」
終夜が言ったのは決して出鱈目ではなく、筋が通った正論だ。とはいえ、終夜と緋翼を差し置いて出場するのは気が引けてしまう。
あと、間違ってはないけど、他人に恋人と言われるとやっぱり恥ずかしい。
「えっと……結月はそれでいい?」
「ハルトと一緒なら怖いものはないよ」
「う、調子いいんだから……」
どうやら結月はやる気満々のようで、これには腹を括るしかないようだった。
正直ビビってるし、負けた時のことが頭を過ぎるが、終夜たちに言われた以上、無様な敗北だけは許されない。
晴登は気を引き締めるように、両頬を叩く。
「決まりだな。任せたぞ」
「「はい!」」
晴登と結月は揃って元気な返事をした。
後書き
またまた1ヶ月後にこんにちは。波羅月です。夏休みに入れば元の更新速度に戻しますので、許してくだされ……!
ということで、今回は結構パートを細かく分けましたが、まぁ2回戦への繋ぎです。次回は丸々使って2回戦を書いていくつもりなのでお楽しみに。
最近課題に追われて疲れ切ってるので、後書きはこんなもんで軽く済ませます。
今回も読んで頂き、ありがとうございました! では!
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