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異生神妖魔学園

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出雲紺子の過去

紺子は国語の時間が終わって以降、昼休みは顔を見せることはなかった。
昼食にも手をつけず、屋上でベンチの上にうずくまるように体育座りし、声を押し殺して泣いていた。
時間は刻一刻と過ぎ、扉が開き、誰かが紺子のそばに近づいてくる。


竜奈「紺子が急に泣き出しただと?」

龍華「虹色になったとはいい、マジでびっくりしたぜ」

竜奈「あのベンチにうずくまってる奴がそうか」


2人は泣いている紺子に寄り添うように座る。竜奈が紺子の肩をなで、そっと声をかけた。


竜奈「紺子」

紺子「うるさい!ほっといてくれよ!」


肩をなでる手を振り払う。その手は竜奈の手をわずかにかすった。
同時に涙が虹色に染まった頬を伝う。


紺子「…今は1人になりたいんだよ………話しかけんじゃねぇよ………」

龍華「何言ってんだよ。俺たちはお前のために来てやったんだぞ。お前、あの時『お母ちゃん』とか言ってただろうが。何か隠してることあるんじゃねぇのか?」

竜奈「ああ。私にもわかる。できることなら私たちに話してくれないか?」

紺子「………………」


しばらくの沈黙のあと、紺子は思いきって顔をあげ、龍華と竜奈と目を合わせた。


紺子「………わかったよ。今なら私の気持ち、わかってくれる気がする………」

竜奈「…話してみろ」

紺子「おぼろげだけど、私が生まれたのは……平安時代のとある洞穴だった。その頃私は『出雲紺子』って名前なんてない、ただの―――――」


ただの狐、と言おうとしたその瞬間、いつの間に着替え終わった辰蛇が目の前に現れた。


辰蛇「何でそんなしんみりした雰囲気で生い立ちの話してるの!?」

龍華・竜奈「「空気読めェ!!!!」」

辰蛇「ニジイロパンツッ!!」


龍華の恐ろしいほどの速度のアッパーが顎をとらえ、宙を舞う。
だがそればかりではない。気づけば体が屋上の外側まで放り出されていた。


辰蛇「ほぎゃああああああああああああ……!!!」


辰蛇の悲鳴が遠ざかっていくのをよそに、龍華は紺子の隣に寄り添う。


龍華「ったく……紺子、続きを頼む」

紺子「おう……」


紺子は自分の過去…つまり母と自分の身に起きたことについてついに語ることに。


紺子「あれは私がまだ…ただの狐の頃だった…………」










時は平安時代、とある1匹の子狐がまだ親離れする前の頃。その頃の子狐は母の動きを真似て狩りの仕方を少しずつ覚え始めていた。
母子の住み処は村の片隅にある洞穴。生んだ場所が悪かったのか、子狐に狩りを教えるための獲物があまりいない。
だから2匹はいつも村に行っては、


母狐(今日も餌が見つからなくてごめんよ。人間の食べ物で我慢しておくれ)


残飯で飢えをしのいでいだ。時には作物を失敬することもあった。


人間「コラー!!盗っ人狐めー!!」


作物を盗むところを何度か人間に見つけられることもあったが、いつも村と洞穴よりかなり離れた場所へ逃げ隠れていたので決して捕まることはなかった。
そこで2匹は安心して新鮮な作物を口にすることができたのだった。





そんなある日、子狐にとって絶望の時が訪れるとは夢にも思わなかった。
今にも雨が降り出しそうな空模様に狩りを終えた母子は急いで洞穴へ向かっていた。ところが子狐の方が急に足を止め、興味本位で村の方へ駆け出した。


母狐(どこへ行くの!?雨が降ってもおかしくない天気なのに!)

子狐(あっちで人間が騒いでるから行くだけなの!)

母狐(ダメ!戻ってらっしゃい!あいつらに捕まったら二度と生きて戻れないよ!)

子狐(嫌だ!)


村へ駆け出す子に母は連れ戻そうと追いかける。到着した子が見ていた先はEVOLUTION SPACEの常連客、言峰貴利矢と同じ陰陽師と妖怪が互いに睨み合っていた。
妖怪を相手に冷静に戦う男の髪型は金髪混じりの短髪。黒い鳥の羽根でできた着物を着て、貴利矢同様袴と立烏帽子を身につけていた。


陰陽師「腹が減った…お前を腹の足しにしてやろう」

妖怪「キルルルッ、キャキャキャキャキャッ!」


不気味な鳴き声が妖怪の喉から絞り出されるように出る。
だが陰陽師は怖じ気づかず冷静に刀を抜くと、刃先を妖怪に向け、間合いをとる。


陰陽師「妖刀『骸喰(むくろくらい)』の餌食となりし時、お前の体は私の身体と妖力を向上させる糧となる」


妖怪を睨みながら呟いたその時、雷が鳴り始める。同時に雨も降り始める。
先に襲いかかったのは妖怪の方だった。陰陽師はすかさず骸喰を妖怪の腹に突き刺す。


妖怪「ギギャア!?」


かなり効いたのか、妖怪は激痛のあまり変な声をあげる。血が地面を赤く染め上げ、降る雨が血を薄め、雷によるまばゆい閃光が陰陽師と妖怪を不気味に照らした。
子狐は構わず陰陽師と妖怪の戦いを見ていたが、ようやく自分の子を見つけた母狐が洞穴へ連れ戻しに迎えに来た。


母狐(坊や!)

子狐(お母ちゃん!)

母狐(雷に打たれたんじゃないかと心配してたけど無事だったんだね!)

子狐(そんなことよりお母ちゃん、あれ!)

母狐(まあ……あれは人間と妖怪?人間の方が上回ってるけど……)



ピシャアッ



子狐(!!!!!)


子狐のすぐそばで雷が落ちる轟音が響いた。驚きのあまり、思わず転ぶ。


陰陽師「!?」


同じく雷鳴を聞いた陰陽師はすぐに済ませようと思ったのか、妖怪の四肢に狙いを定めていた。
一方で母子の方は、子狐は無事だった。


子狐(すごい近くに雷落ちたよ…なんだか怖くなってきちゃった…)


しかし、母狐の返事がない。いくら見回しても母狐の姿が見当たらず、代わりに黒焦げの動物を模した物体が横たわっていた。


子狐(お母ちゃん?どこ行っちゃったの?ねえ、お母ちゃん?)


やがて黒い物体を見つけたが、それが自分の母であると気づくのにそんなに時間はかからなかった。
どんなに揺すっても目を覚ますことはなく、息もしていない。絶命していたのだ。


子狐(お母ちゃん…死んだなんて嘘だよね?ねえ、起きてよ……起きてよ、お母ちゃん。1人ぼっちは嫌だよ。私だけ残して死なないで………置いてかないで……お母ちゃん………お母ちゃん!)


母狐が死んだ現実を受け入れられず、子狐は黒焦げの死体に寄り添い、泣いた。焦げ臭い匂いが鼻の穴を刺激すると、さらに涙が溢れてくる。
だが現実は現実。どんなに泣いても寄り添っても、母狐は二度と目を覚ますことはなかった。





陰陽師「先ほど近くに雷が落ちたが、死んだのは母の方か……」


妖怪退治を終え、返り血を浴びた陰陽師が母狐の死体に寄り添う子狐を見下ろしていた。


陰陽師「まだ親離れする時期ではないが、このまま放っておけばいずれ栄養不足で死ぬだろう………仕方ない。拾って育てるとするか。式神を生み出すにはちょうどいい」

子狐(い、いやっ!やめて!放してよ!お母ちゃんと離ればなれに……1人ぼっちにさせないで!お母ちゃん、起きてよ!助けて…!お母ちゃん……!お母ちゃーん!!)


哀れな子狐は一心で暴れた。どんなに暴れても母狐の姿はどんどん遠ざかり、なす術もないまま陰陽師に連れ去られた。





その子狐を拾った陰陽師の名は辰廻(たつみ)・アウィス・カエルレア。日本の母と異国の父の間に生まれた息子である。
辰廻の父は船が転覆し、漂流した場所が日本。母は何の警戒もなく助けた。お互いの言葉を教え合っているうちに数ヶ月経ち、一目惚れした父と優しい彼が気に入った母はやがて結婚、辰廻を産んだ。
彼が将来陰陽師になりたいと思ったのは少年時代、たまたま妖怪と戦っている陰陽師を見かけたから。僕も人のためになりたいと思った辰廻は出家、修行。数十年の時を経て身体能力、妖力、神力を底上げしていった。
本人は人間や妖怪の肉や血を口にすることで力を底上げできると考え、行き倒れの人間、現れた妖怪を見つけては腹の足しにする。同時に自身の力にもなる。それを繰り返したことで今となっては人間を超えた存在となっていた。


辰廻「今日からここがお前の家だ。お前には私の式になってもらうぞ」

子狐(嫌だ!お母ちゃんのところに帰るの!出して!)


屋敷では籠に入れられた子狐が嫌がって暴れていた。さらに白い右目と黒い左目の視線が刺さり、よけいに怖がる。


子狐(狭いよ…怖いよ!誰か助けて!お母ちゃん!お母ちゃん!)


だが母狐は先ほど雷に打たれて死んだ。もし生きていたとしても間違いなく辰廻に殺され、その肉と血は彼の腹の足しと力の向上となっているだろう。


辰廻「さて……まずは妖力を向上させ、しゃべれるようにさせなければ」

子狐(あっ、ああ…いや、いや、いやいやいやいやいやああぁぁぁあああ!!)





やがて月日は流れ、成長した妖狐は人間の少女の姿を象っていた。面影として狐だった頃の耳と尻尾が生え、そして死んだ母親のことをまだ考えていた。
ところがそんな妖狐にとって最大の転機、妖狐を拾った辰廻に悲劇が訪れるとは双方とも考えてもいなかった。





辰廻「小娘……檻から出て何をしている?」


その日の夜だった。遡ること数分前、辰廻がある用事で屋敷を空けていた時のこと。すっかり大きくなった妖狐はある部屋の中の檻に入れられていた。
辰廻は逃げられないようにいつも鍵をかけていたのだが、その日は着物の中にしまい込んだつもりが畳の上に落としてしまった。辰廻はそれに気づかず屋敷を空けた。
しかもすぐ手が届くに落ちていたため、妖狐にとっては二度と訪れることのない転機だ。辰廻が屋敷から出たのを見計らい、すぐさま鍵に手を伸ばす。
錠は海老錠だったが、辰廻が開閉させているのを何度も見ているうちに覚えてしまったのだ。鍵を穴に差し込んでバネを閉じ、牡金具を引き抜くと、檻が開いた。


妖狐(あっ、開いた!これでやっと出れる…!)


しかし、バレればどんな仕置きを受けるかわからない。机にあった短刀を着物の中に隠し、屋敷から逃げようとしたが、ふとあるものが目に留まる。
厨子棚にいろいろな薬が置かれているが、その中のひとつを手にすると、ふたを開け、一舐めしてみた。
そして今に至り、鍵を落としたのを思い出して戻ってきた辰廻が鬼のような形相をしていた。


辰廻「檻から出たのをいいことに、しかも禁断の呪薬『不老不死の呪薬』を舐めるとはいい度胸をしているな……?」

妖狐「もうあなたに振り回されるのはたくさんなんです!私をここから出してください!」

辰廻「寝言は寝てから言え!!誰がお前を拾ったと思っている!?あの不老不死の呪薬を完成させるのにどれだけ苦労したと思っている!?お前は母狐が死んで泣いているところを私が拾ってやったのに、貴様はそれを仇で返すつもりか!!」

妖狐「だって……だって!ずっとずっと同じような妖術を私にかけてきた!今まで我慢してましたが、もうこれが限界なんです!」

辰廻「限界…?よろしい、ならば楽にしてくれる!我が力を見せてくれる!間もなくお前の肉と血は我が身体の一部となり、我が妖力はさらに底上げされる!お前がしでかした不孝を地獄で詫びるがよい!!」


妖狐は短刀の刃先を向ける間もなく辰廻に口を押さえられる。不気味に光る骸喰の刃先が妖狐の喉仏に当てられた。


妖狐「っ………!!」


もはやここまでか。そう思っていた妖狐だが、短刀を手にして正解だった。気づかれないよう着物から抜き取り、辰廻の首筋に突き刺そうとしたその瞬間。


辰廻「!?」


突然辰廻が骸喰を落としたかと思うと、そのまま頭を押さえながらしゃがみ込んだ。


辰廻「おのれ……こんな時に急に頭痛が起こるとは………!」


辰廻は冷や汗を流しながら歯を食い縛り、頭を押さえながら落とした骸喰に手を伸ばそうとした。


辰廻「力の底上げのツケか…!?なんとなくわかっていたが、私が長年続けてきたことは……全て……命…に………だが……まだ………死ぬわけ……には……」


言葉が終わらないまま背後から短刀が刺され、刃は心臓に到達していた。黒い着物が血に染まったのは妖狐にははっきり見え、刺された辰廻も口から血を吹き出した。


妖狐「ご主人様………死んでください」

辰廻「………!?」


骸喰がいつの間にか妖狐の手に渡っていた。
バカな。考える間もなく辰廻の首は畳の上を転がった。胴体も崩れ落ちるように倒れて動かなくなり、それぞれ血溜まりを作っていく。


妖狐「……………………」


血溜まりができていく様子を見る妖狐は飽き足らず、骸喰を力強く握りしめると、辰廻の頭を一刀両断にした。
妖狐は骸喰をその場に投げ捨てると、屋敷の庭の隅にある物置小屋へ入る。
しばらくしてから屋敷に入り、持ってきた油らしき液体を屋敷中にまいた。もちろん庭にもまかれた。そして辰廻の遺体にも………。
やがて燃え上がる屋敷が夜の闇を照らす。妖狐はそれをしばらく見つめると、燃える屋敷を背後に涙を流しながら去っていった。










その話を聞いていた龍華と竜奈は気の毒そうな表情をしていた。


龍華「お前……相当苦労をしてたってのか……」

紺子「……ああ。辛かったよ。特にあの陰陽師の実験台にされたことは……………」

竜奈「だが、その『出雲紺子』という名は誰がつけたんだ?」

紺子「………そうだな」










妖狐が陰陽師を殺し、屋敷を放火させてから長い年月が過ぎた。
時は明治時代中期。不老不死の呪薬を舐めて以降、妖狐は本当に老いることも死ぬこともなかった。むしろ変わっているのは年齢だけであるということ。あれ以来自由が自分のものになって嬉しかった。しかし母親が死んだことに心を痛めていることだけは変わりなく、明治時代中期になっても夜になると母親のことを思い出しては泣きながら眠りについていた。
ある日の雨の中、妖狐は今日も生きていくために残飯を探していたところ、中年の男が声をかけてきた。


中年「今日も残飯探しか。精が出るねぇ」

妖狐「あんた、誰?私を殺すつもりだったら承知しないよ」


声をかけた中年に妖狐は殺意がこもった表情で睨みつけながら短刀を向けたが、中年は落ち着かせようと優しい声をかけながら頭をそっとなでた。


妖狐「………?」


すると不思議と安心感を持ったのか、そのままスヤスヤ眠りについてしまった。
中年は妖狐を抱きながらどこかへ行ってしまった。





妖狐「ここは……」

中年「おっ、目を覚ましたか」


目を覚ました妖狐は見覚えのない天井を目の当たりにした。隣にはあの中年の男がいた。


中年「俺は出雲(いずも)惣一(そういち)。この家の者だ」

妖狐「惣一…………?」

惣一「お前がボロボロの服を着てゴミを漁ってたところを話しかけてきたら、まさか短刀を持って襲ってくるとはな。何があったか知らねぇけど、安心しろ。お前を傷つける奴はいないから」


惣一と名乗る男は笑顔を見せた。妖狐は部屋を見回してみる。


妖狐「…………ここ、どこ?」

惣一「ここは俺の家。ボロボロの服を着ていたが、名前とかあるのか?」

妖狐「名前……ない」

惣一「名前ないの!?ウッソだろ、平民にはちゃんと名前がつけられてるってのに……親とかいる?」

妖狐「死んじゃった………雷に打たれて………」

惣一「え?」


顔を覗き込むと、妖狐の目には涙が溜まっているのがよくわかった。そして両手で顔を覆い、泣き出した。


妖狐「あ……あああ……私が……………私が……………」ポロポロ

惣一「あああああ待って待って待って!?泣くな泣くな、落ち着いて!?俺これでも息子と娘が―――――」


妖狐と惣一の話し声を聞いていたのか、2人の子供が入ってくる。惣一の言う通り、1人は息子、もう1人は娘だった。


娘「もー、うるさい!黙らないとえぐる……!?」

息子「お父さん、一体どうした…の……!?」

惣一「あ」


絶句する2人。惣一と妖狐を見ながら沈黙する。


娘「…………ちょっと貴彦(たかひこ)?警察呼んできて」

貴彦「お、おう」

惣一「ち、違う海里(みさと)!!誤解してるけど、この子を泣かせてるわけじゃないんだ!違うんだーっ!!」





しばらくしてようやく落ち着いたのか、惣一はこれまでの経緯を説明した。
貴彦と海里もやっと状況を飲み込めた。


海里「つまりお父さんは誘拐したわけでも泣かせたわけでもないのね?」

惣一「はい」

貴彦「ふーん。ところでこの子の名前は?」

惣一「ないんだって。だからさ、お前に質問するけど………うちの子にならないか?」

妖狐「え?いいの?襲ったのに…」

惣一「気にするな。何があったのかは聞かないでおくから。で、どうする?」

妖狐「……お、お願いします………////」


妖狐は顔を少し赤らめ、もじもじしながら答えた。


惣一「よし決まった!今日からお前は俺たちの家族だ!で、名前だが………『紺子』。狐の『コンコン』って鳴き声から取って『紺子』。今日からお前は『出雲紺子』だ!」

妖狐「出雲……紺子…………?」


これが自分の名前?そう言おうとした矢先、先ほどまで垂れていた耳がピョコンと立った。


貴彦「狐の耳!?癖毛かと思ってた!」

海里「しかも尻尾も!」

紺子「あ……」

惣一「まあまあ、いいじゃねぇか。紺子は誰だろうと俺たちの家族なんだからさ。んじゃ改めて、俺は出雲惣一。こっちは俺の娘の出雲海里」

海里「よろしく、紺子ちゃん」

惣一「んで、こっちが貴彦。養子だけどな」

貴彦「よろしくな、紺子」

紺子「よろしく……海里……貴彦……!」


紺子の顔からは少しずつ喜びの表情が浮かび始めていた。


惣一「よろしく。そしてようこそ我が家へ!」










紺子「というわけで、今に至るってわけ。惣一の父ちゃんが拾ってくれなかったら私はここにいなかったってわけ」


彼女の話が終わった頃にはちょうどチャイムが昼休み終了の合図を知らせた。


紺子「心配かけさせて悪かったな。話してるうちに気が楽になったよ」

龍華「紺子」

紺子「?」

龍華「次カフェに来たら、マスターに頼んでとびっきりいいサービスしてやる」

竜奈「また何か辛いことがあったら相談してくれ」

紺子「……………ああ。ありがとな龍華、竜奈先輩」


こうして3人は次の授業のため、教室に戻っていった。
紺子にとって惣一が彼女を拾ってくれたことは一生忘れられない思い出だ。それを胸にまっすぐ進もうと強く心に誓った。










一方、屋上から落とされた辰蛇は。


辰蛇「何で私こうなるのぉ………」シクシク


固い地面に叩きつけられて血溜まりを作りながら泣いていた。 
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