戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~
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ツェルトバースデー2021
前書き
3日遅れですが、何とか完成しました!!
「うわぁ……凄いです!お店も人もいっぱいいますね!」
「セレナ、はしゃぐのはいいけど、はぐれちゃダメよ?ほら、手を繋ぎましょう」
「うん!」
都内のタナバタ祭り。浴衣姿の姉妹が、初めて参加する日本の祭りにはしゃいでいる。
マリィとセレナが笑い合い、一緒に過ごしている。こんな光景が見られる日が来るなんて、かつては夢にも思わなかった。
だが、これは夢なんかじゃない。現実だ。
俺達がようやく辿り着いた未来。この手で掴んだものなんだ。
その幸せを今、俺はしみじみと噛み締めている。
「ツェルト、何ボーっとしてるの?」
「ツェルト義兄さん!一緒に行きましょう!」
「あ、ああ。そうだな。せっかく三人だけで来てるんだ。思いっきり楽しもう!」
セレナと手を繋ぎ、三人一緒に屋台巡りを始める。
めでたい事に、今夜の空はよく晴れていた。
明日、7月8日は俺の誕生日。
その前日である今日は、どうやら日本の伝統的な『タナバタ祭り』の日とされているらしい。
そこで、俺へのプレゼントに悩んでいたマリィとセレナに、調や切歌、翼達がこのデートを提案したのだそうだ。
翔や純が色々用意してくれたのもあって、俺も今夜は浴衣を着用。タナバタを祝して開かれた夏祭りを三人だけで満喫できるよう、あれこれ整えてくれたというわけだ。
マリィとセレナは早速、あちこちの出店を巡っている。勿論、俺も同伴だ。財布の紐はしっかりと握っているぞ。
「まずは……たこ焼きが食べたいです!!」
「焼きそばにりんご飴、チョコバナナもあるわね!!」
「ちゃんと食べ切れる量にするんだぞ?」
「はーい!」
「わかってるわよ!」
まずは腹ごしらえ。というわけで早速幾つか購入して、座れる場所まで移動する。
それぞれ分け合って食べてみたら、なんてこった!どれもすんげぇ美味ぇ!!
「ソースたっぷりの焼きそば……このジャンクな感じ、たまらねぇ!!」
「焼きおにぎり、すごくジューシーだわ……!こんなに美味しいものがまだ残ってるなんて、日本恐ろしいわね……」
「はむ……はむっ……焼き鳥おいしいですッ!……あっ、もう全部なくなっちゃいました……」
「しょうがないわね。わたしのあげるわ」
「いいんですか!?マリア姉さん、ありがとうございますッ!」
「セレナ、口にソース付いてるぞ。今拭くから、ちょっと待ってろよ~」
先に食べやすい物を片付けると、いよいよ祭りの主役と言われる一品だ。
丸々としたキュートなフォルムの反面、生地にソースにマヨネーズというジャンクっぷり。
ホカホカと立ち上る湯気が、カツブシを揺らめかせる。
中身を聞いた時は驚いたが、試さないでいる理由もなし。
その名もタコヤキ。まさか、タコを食べるって噂が本当だったとは……。
ツマヨウジは3人分。それぞれ突き刺し、口へと運んだ。
「はむ……はふはふ、い、意外と熱ッ!」
「外よりも、中の方があふいッ!」
「あー、2人ともダメですよ?ちゃんとフーフーしながら食べるんだって、暁さんから教わらなかったんですか?」
「「初耳よ(だぞ)ッ!?」」
切歌、そんな大事なことは言い忘れないで欲しい……。
危うく舌を火傷するところだった……。
「そうだ!このたこ焼き、わたしがフーフーして姉さんに食べさせてあげますね!」
「えっ!?」
「ふー……ふー……姉さん、あーん♪」
「あ……あーん……」
少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら、口を開けるマリィ。
あまりに可愛らしいもんだから、つい、笑みがこぼれてしまう。
「ツェルト……今、笑ったでしょ?」
「ああ、マリィが可愛らしくて、つい」
「も、もう……。なら、次はあなたの番よ。ほら、あーん……」
おっと、そう来たか。
さっきは見てる側だったから笑っていられたし、微笑ましく感じていたが……。
……くっ、意外と恥ずかしいッ!特に周囲からの視線が集まってるのが、思ってた以上だ……。
「どう?美味しい?」
「ん……美味い」
羞恥心を紛らわすべく、神経を舌に集中させる。
ブヨブヨした弾力のある舌触りのタコを、ふわトロな生地が包み込み、ソースとマヨネーズが絡み合って口の中で溶け合っていく……。
タコってこんなに美味いのか……凄いな日本は……。
「さて、次はセレナの番だな」
「いいんですか!?」
「当たり前だろ。ほら……フー、フー……あーん」
「あ、あー……ん」
「フフ……」
今度はマリィが、俺とセレナを見守り微笑んだ。
こうして、まずは屋台料理を堪能した俺達。
次に向かったのはゲームコーナーだ。景品が並んだ棚の隣に、数々のゲームが立ちはだかる。
金魚すくい、ヨーヨー釣り、ダーツ、くじ引き……。
ギャンブル性は高いが、子供でも簡単に出来るものが多い。
色々見て回っていた所、一つの店が目に留まる。
コルクを詰めたライフルと、棚に並んだ的代わりの景品の数々。
なるほど、射的か。腕試しにはいいかもしれない。
「マリィ、セレナ、欲しいものはあるか?」
「へぇ、射的ね……。如何にもツェルト向きじゃないの」
「ツェルト義兄さん!わたし、あのクマのぬいぐるみが欲しい!」
「了解。マリィは?」
「そうね……。なら、特賞のゲーム機かしら。休みに皆で遊ぶのに丁度いいし、狙うならやっぱり一番でしょう?」
「それもそうだな。なら、その気でやるぜ」
この後、俺は狙っていた景品を両方とも一発で撃ち抜き、衆目を集める事となるのだった。
射撃の腕は鈍っていないらしい。それを確認できただけでも満足だったが、なにより景品を受け取るセレナの顔がとても眩しかったのが印象的だ。
それから、今度は3人で金魚すくいに挑戦。
その結果は──
「あーッ!?破れちゃいました……」
「セレナ、こういうのはゆっくり狙って素早く……ええッ!?嘘でしょ!?」
「二人の仇は俺が……って、流石に耐久力弱すぎないかこれ!?こんなんで本当に金魚なんか掬えるのかよ!?」
全滅であった……。
どうやら金魚をすくうのは、達人級の技を要するらしい。
しかし、釣れない釣りもまた思い出だ。どっかの映画でそんな話を聞いた気がする。
残念だったね、と笑い合いながら俺たちは、ヨーヨー釣りや型抜きなんかを楽しんだ。
初めてだったけど、俺は日本の祭りが大好きになったと思う。
ff
屋台を堪能した俺達が最後に立ち寄ったのは、祭り会場の中心に飾られた、大きな笹の木の下だった。
タナバタの概要は、既に翔から聞いている。
オリヒメとヒコボシのラブストーリーに端を発し、2人の逢瀬を祈りつつ、それぞれ男女の仕事を司る2人のご利益にあやかろうというものらしい。
宮中行事だった頃は詩……確かゴーシチゴーとかいう……和歌、だったか?
それを、捧げ物の目印として使っていた笹や竹に吊るしていたのが、大衆文化になるにつれて内容が変化。書道などを始めとした手習いの上達祈願から、今の『願い事を書いて吊るす』というものへと変わったらしい。
「ツェルト義兄さん、凄いです!」
「まあ、殆どは翔からの受け売りなんだけどな」
「でも、全部覚えて分かりやすく伝えるなんて、中々簡単に出来ることじゃないわ」
「日本について勉強になるし、なによりセレナにいい顔したいからな」
「あら、ツェルトったら」
セレナに聞かれないよう小声で囁くと、マリィはクスッと微笑んだ。
「願い事、何にしようかな……」
セレナは短冊を手に取ると、小首を傾げて悩み始める。
「願い事を書いたら、3人同時に見せるっていうのはどう?」
「姉さん、グッドアイディアです!」
「じゃあ、タイムリミットは五分くらいでいいな」
腕時計のタイマーを5分後にセットして、用意されている鉛筆を握る。
願い事……願い事か……。
浮かぶ願いは色々あるけど、一番強く、一番ハッキリと、真っ先に浮かぶ願いは……
やはり、あれしかないだろう。
サラサラ、サラリと書き綴り、名前を記すと筆を置く。
丁度タイマーが鳴った頃、隣の2人も筆を置いた。
「それじゃあ、せーので見せますよ?」
「OK。いくわよ」
「よーし……」
3人で向かい合うと、短冊を指先で握る。
「「「せーのッ!」」」
同時に公開される短冊。
果たして、記された願い事は……。
【皆とずっと一緒に居られますように。セレナ・カデンツァヴナ・イヴ】
【皆とずっと一緒に過ごせますように。マリア・カデンツァヴナ・イヴ】
【皆でずっと一緒に暮らせますように。ジョセフ・ツェルトコーン・ルクス】
「「「あっ……ふふっ、あはははははは」」」
示し合わせたかのように、3人とも殆ど同じ事を願っていた。
思わず、揃って吹き出してしまう。
こんな偶然、微笑ましすぎるじゃないか。
感極まって、思わず2人を抱き寄せる。
驚いた顔をしていたが、2人とも拒むことはしなかった。
「マリィ、セレナ……これからも、ずっと一緒だぞ」
「ツェルト……」
「ツェルト義兄さん……はいっ!ずっと一緒ですッ!」
「もう二度と、離れたりしないわ。私達は家族なんだもの」
「ああ……。もう絶対に、離さないからな!!」
2人の手が背中に回される。
人の目とか関係ない。俺は今この手で、大事なものを抱き締めているんだ。
人々の願いを乗せた笹の葉が、夜風にサラサラと揺れていた。
今夜は晴れ。天上から人々を見守るカップルは、きっと今頃、今の俺達のように抱き合っている──。
後書き
改めてツェルト、誕生日おめでとう!!
ようやく掴んだマリアさんとセレナの手、離すんじゃないぞ!!
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