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モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜

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砂漠編 喧嘩のついでに町を救った男達

 
前書き
 皆様、お久しぶりでございます! 今回は蛇足を承知で、特別編のちょっとした後日談をお届けさせて頂くことになりました!
 アダイト、ディノ、ドラコのわちゃわちゃツアーの道中……という感じの一幕となっております。どうぞー(о´∀`о)
 

 
 果てしなく続く広大な砂漠。その過酷な環境に適応しているモンスターの多くは、厳しい猛暑の中でも生き抜けるほどの「力」に満ち溢れている。
 故にその「力」が人々の営みに向けられた時の損害は、時として計り知れないほどの規模にもなり得るのだ。

「そんな……! このままでは『奴』がいる限り、誰もオアシスには辿り着けないではないか! 町が干上がってしまうのも時間の問題だぞ!?」

 ――多くの行商人が中継地として利用する、砂漠に囲まれた小さな町。そこは今、とある大型モンスターの存在によって「滅亡」の危機に瀕していた。
 遠方から安住の地を求めて移動してきたその個体によって、町の生命線であるオアシスへの道が阻まれてしまったのである。その水源を「縄張り」とした件のモンスターの出現に、町民達は阿鼻叫喚となっていた。

「急いでハンターズギルドにクエストを発注せねば! 今からだとどのくらい掛かる……!?」
「こんな辺境……それも砂漠のど真ん中にあるような町にハンターなんて来ると思うか? 仮に引き受けてくれる奴がいたとしても、ここに到着する頃には全員が干上がってるよ……間に合うものか」
「そんな……! じゃあ俺達は全員、ここでゆっくり死を待つしかないとでも言うのかッ!?」
「だったら俺達で『奴』を倒すしかねぇッ! このまま黙ってくたばるより100倍マシだッ!」

 緊急クエストの発注をハンターズギルドが確認するだけでも、1週間は掛かるほどの距離がある。それを踏まえると、地理的な悪条件を承知でクエストを受注してくれるハンターの到来など、いつになるか皆目検討がつかないのだ。
 手練れのハンターが「偶然」この近くを通り掛からない限り、活路が見えない今の状況は絶望的と言っていい。やぶれかぶれの精神で、件のモンスターを自力で討伐しようという声が町を席巻するまで、そう時間は掛からなかった。

「み、皆様、落ち着いてください! 冷静さを欠いてはなりませんっ! 私達が束になっても、怪我人が増えてしまうだけですっ!」
「今の話を聞いていたなら分かるだろう!? このままじっとしていても、誰も助けてはくれない! 俺達の問題は、俺達の手で解決するしかないんだ!」
「あうっ!?」

 それでも、1人の少女は彼らの決意が無謀に過ぎないことを理解しており、体を張って止めようとしている。だが、彼女独りでは大人達の進軍を止めることなど出来るはずもない。
 古びた槍や剣で武装した町民達は、少女を押し除けるとオアシスを目指して、ただ真っ直ぐに突き進んでいく。その弾みで転倒してしまった少女を、顧みようともせず。

「ま、待って……! 皆様、待ってくださいっ! 行かないで……行かないでぇっ!」

 正常な判断が出来なくなった群衆は、数にモノを言わせてあらゆる言葉を容易く飲み込んでしまうのだ。少女の懸命な説得にも耳を貸さず、町民達は「絶対的な死」へと吸い寄せられていく。

「……神、様ぁっ」

 その光景に頬を濡らし、苛烈な陽射しを仰ぐ彼女は。か細く白い指を絡め、ただ懸命に祈りを捧げていた。
 今は亡き町長の、一人娘として。

「どうか、どうかこの町を……皆を、助けてっ……助けてくださいっ!」

 決して届くことなどないのだと知りながら。それでもなお、縋るように。

 ◇

 ――未完成の「翡葉(ひよう)の砦」を戦場とする、カムラの里の命運を賭けた死闘から約半年。

「だあァッ、ほんっと最悪だぜ! よりによってお前と同じ竜車に乗り合わせるなんてよッ!」
「奇遇だな。俺もまさか、お前がまだ生きているとは思わなかったぞ」
「んだとォ!?」
「お前らなぁ……」

 レウスシリーズを纏うアダイト・クロスター。リオソウルシリーズを装着しているディノ・クリード。そして、ゴシャシリーズで全身を固めている、ドラコ・ラスターの3人は。各々の旅先で、思いがけない再会を果たしていた。

 砂漠を抜けた先にある都市を目指し、商隊(キャラバン)の竜車に便乗していた彼らは、偶然行き先が同じだったのである。
 新たな装備を揃えるため。武者修行のため。理由は様々だが、目的地は完全に一致している。本来なら同期として互いの無事を喜び合い、和気藹々とした雰囲気になっている……ところなのだが。

「ただでさえ竜車の中でも、クーラードリンクが必要になる暑さなんだぞ。今ぐらいそのバカでかい声を我慢出来んのか、この阿呆が」
「お前の減らず口が絶えねぇからだろうが! 今度こそ決着付けてやろうか!?」
「そうしたいのならさっさと掛かって来い。俺はいつでも構わんぞ」
「お、おいドラコ! 竜車の中でバタバタ騒ぐなよ! ディノも煽るようなこと言うなってのッ!」
「……ふん」
「ハンッ!」

 訓練所時代から何かと反りが合わず、衝突が絶えなかったディノとドラコはまさしく犬猿の仲であり。和気藹々どころか、一触即発の状態だったのである。
 仲裁に奔走するアダイトも、彼らの喧騒を背に竜車の手綱を引く御者も、絶え間ない口喧嘩にすっかり辟易している。

「……んっ? な、なんだありゃあ! モンスターかぁっ!?」
「なに……!?」
「モンスターだって!?」

 その状況が一変したのは、竜車がオアシスの近くを通り掛かり。いよいよディノとドラコの対立が、殴り合いに発展しようとしていた時であった。

 竜車目掛けて突進してくる「鳥竜種」の影に御者が悲鳴を上げた瞬間、3人の少年の眼が「ハンター」としての色を帯びたのである。

「ディノ、ドラコ!」
「……あぁ」
「おうッ!」

 それまで喧嘩ばかりしていた彼らとは、別人のようだった。顔を見合わせた3人はそれぞれの得物を手に、竜車から颯爽と飛び降ると、迫り来るモンスターの影を捕捉する。

「……あれか!」

 砂塵を撒き散らし、地を踏み鳴らす轟音と共に肉迫して来る巨躯。やがて砂埃を突き破り、正体を現したその個体――ドスゲネポスの姿に、3人は鋭く目を細めた。
 凶悪に両眼を吊り上げているその個体は、通常種を遥かに凌ぐ体躯であり。歴戦、と呼んで差し支えないほどに多くの死線を潜り抜けた猛者としての、殺意と気迫に溢れている。

 「普通」なら。1年目の新人ハンターの手に負えるような相手ではない。

「お、おい坊主達! お前ら1年目の新人なんだろう!? 無茶するなよ、いざとなったら荷物捨ててトンズラしてもいいんだからッ!」

 商隊としての矜持よりも、目の前で命を張っている少年達の未来を慮る御者は。アダイト達の背に向けて、必死に逃げるよう呼び掛けていた。
 元々アダイト達は商隊に便乗していたに過ぎず、護衛任務を引き受けていたわけでもない。本来、戦う義務もないのだ。

「オレが正面に立つ。ドラコは左翼、ディノは右翼だ。……三方面から一気にカタを付けるぞ」
「おうよ、任せな!」
「心得た。……足を引っ張るなよ、ドラコ」
「てめぇにだけは言われたくねぇよ!」

 ――それでも。兜に隠された3人の少年の貌には、引き下がるような気配など全くない。

 この鳥竜種を狩ることはもはや、彼らにとっては「決定事項」だったのだから。

「ふぅッ!」

 勝負は、一瞬であった。
 大顎を開き、小さな狩人を咬み殺そうと迫ってきたドスゲネポスの牙を、火竜の盾で凌ぐと――カウンターのバーンエッジを、その片眼に突き刺していく。

「よそ見してる場合かァッ!?」
「貴様の相手は、そいつ1人ではないぞ」

 その激痛にドスゲネポスが怯んだ瞬間には、すでに視野の外へと移動していたディノとドラコが、挟撃の体勢に入っていた。

「踊ろうぜ、フラムエルクルテッ!」
「ブルーウィングの威力……篤と味わえ」

 鬼人化による「乱舞」の発動と、最大限まで高められた溜め斬り。
 一切の逃げ場も隙も与えない斬撃の嵐が、容赦なくドスゲネポスの全身に降り注ぐのだった。

 血みどろになり倒れ伏したドスゲネポスは、せめて1人だけでも屠ろうと身を引きずり、眼前のアダイトに牙を剥く。その眉間にとどめの一閃が叩き込まれたのは、それから間もなくのことであった。

「……悪いな。『狩り』をしてるのは、オレ達の方なんだよ」

 バーンエッジ。
 フラムエルクルテ。
 ブルーウィング。
 いずれも火属性を持った武器であり、ドスゲネポスの皮膚に対しては有効なダメージを与えていたのである。防御に徹しても切れ味に影響が出ないアダイトが陽動を引き受けたことで、ディノとドラコは最大火力の斬撃を叩き込むことができたのだ。
 だが、この速さで討伐が完了した要因は、武器だけではない。

「す……すす、すげぇ……! あんなバカデカい鳥竜種が、あっという間に……!?」
「どうなってんだよ、あの坊主達は……!」

 彼らの戦いを目の当たりにした御者を含む商隊の人々は、それを肌で理解していた。
 相手の急所のみに狙いを集中させ、的確に刃を沈める。そんな芸当をこともなげに完遂してみせた彼ら3人は、間違いなく只者ではないのだということを。

「……!? お、おい見ろ! オアシスを縄張りにしていた『奴』が……倒されてるぞ!?」
「ハンターだ……ハンターが来てたんだ、この近くに!」
「お、俺達……助かったのか!? やったぁあぁあ!」

 やがて。近隣の町から、刺し違える覚悟でドスゲネポスを倒しに来た町民達も。力無く横たわる鳥竜種の姿を目の当たりにすると、商隊と同様に驚愕し、歓声を上げるのだった。

 クエストを受注していたわけでもなければ、竜車の護衛を任されていたわけでもない。本当にただ、居合わせていただけだった新人ハンター達は。
 全く意図せぬうちに商隊だけでなく、砂漠の町すらも救ってしまっていたのである。

「あぁ……神様はまだ私達を見捨ててはいなかったのですね……! ハンターの皆様、本当にありがとうございます! 何とお礼を申し上げればいいのでしょうか……!」

 そして、汗だくになりながらもこの場に駆け付けてきた町長の娘も。眼前に広がる希望に満ちた光景に泣き崩れ、神とアダイト達に感謝の想いを告げていた。

 この砂漠の地に暮らす人々としては珍しい、珠のように白い柔肌。そして、薄桃色の長髪の持ち主である彼女の美貌は、さながら妖精のようであり。
 その容姿を目にした商隊の面々も、息を呑むほどの華奢な美少女……なのだが。

「なぁアダイト、さっきは何の話題で喧嘩してたんだっけ? 俺、もう全っ然思い出せないんだけど」
「さぁ……? ディノの方が覚えてるんじゃないか?」
「知らん。確かなのは、此奴を狩っている間に忘れてしまうような、くだらん内容だったということだけだ」
「ハハッ、違いねぇな!」

 商隊や町民達の歓声など、意に介さず。町長の娘の、目が覚めるような美貌にも気づかないまま。ただ黙々と剥ぎ取り作業を続けるアダイト達3人は、喧嘩の原因すら忘れて他愛のない雑談に耽っていた。
 町の命運を賭けた激闘……だったはずの今回の狩猟は、どうやら彼らにとっては「喧嘩のついで」だったらしい。

「……」
「おん? どうしたんだディノ、腹減ってんのか?」
「いや……問題はない」

 その中で、独り神妙な表情を浮かべるディノの様子に、ドラコはまだ自分が知らない「何か」があるのだと察していた。ディノだけはこの時、すでに気付いていたのである。
 安住の地を求めてオアシスを占拠していた、このドスゲネポスは。とある他のモンスターに住処を追われ、この近辺にまで逃げ込んでいたのだということに。

「……」

 そして、このドスゲネポスの背に深い爪痕を残した、そのモンスターの気配にも勘付いていたのだ。が、殺気を辿るディノの視線がその姿形を捉えたと同時に――ドスゲネポスを追いやった「牙獣種」の影は、砂塵の彼方に消えてしまった。
 その一瞬でも「金獅子」ことラージャンではないことを察したディノは、唯一残された可能性に辿り着き、独り目を細めている。

「……いずれは奴とも、決着を付けねばな」

 その宣言通り。ディノはこの数年後、今回の事件の真の元凶である「砂獅子」ドドブランゴ亜種と、雌雄を決することになるのだが――それはまた、別のお話である。

「……あ、あの〜、すいませ〜ん……」
「え? あ、ハイ」

 そして。巨大なドスゲネポスを仕留めた直後……とは思えないほどにあっけらかんとしているアダイト達に、微妙な表情を浮かべる町長の娘が、おずおずと声を掛けていく。
 そんな彼女の方に振り返ったアダイトの表情は、実にキョトンとしていた。ドラコとディノも、何事かと顔を見合わせている。

 ――この後。ようやく状況を理解したアダイト達3人はギルドへの報告書を纏めつつ、砂漠の町で数日に渡る歓待を受けたのだが。
 町民達に見送られながら町を発つ日まで、ただひたすらにむず痒そうな表情を浮かべていたのだった。そんな彼らの様子に、町長の娘はくすくすと苦笑していたのだという。

 その一方で。彼女はディノの怜悧な横顔に、仄かな甘い視線を向けていたのだが。その眼差しの意味に当人が気付くのは、何年も先のことになるのだろう。
 武人として、狩人としての真の強さを求める彼にはまだ、色恋沙汰は早過ぎるのだから。

 ◇

 余談だが。この件を契機に、砂漠の町にはハンターを立ち寄らせるための「集会所」が新設されることになったらしい。かくしてこの町は1人の犠牲者も出すことなく、モンスターという災厄に抗する術を得たのだった。
 そのきっかけになった今回の戦いも、「伝説世代」の功績を綴る英雄譚の1ページに数えられているのだが。この話題が掘り起こされるたびに、とある3人の男達はなんとも言えない表情を浮かべていたのだという――。
 
 

 
後書き
 皆様、読了ありがとうございました! この3人のわちゃわちゃはどこかのタイミングで書いてみたかったなーと思っておりましたので、本筋を終えた後のおまけエピソードとしてお届けさせて頂きました。ちなみに片手剣、双剣、大剣という武器種編成は本編のセルフオマージュでもあります。
 マンキン直撃世代としては蓮とホロホロの関係性を想起せざるを得ない……(*´꒳`*)

 ちなみに何で砂漠が舞台なのかと申しますと、2ndG以降全く出番がない上に公式ノベライズでも触れられなかった、ドドブランゴ亜種を出したかっただけ……という至極単純な理由だったりします。設定的にもゲーム上の属性的にも、この時のアダイト達では厳しいものがありましたので、今回はこういう形での登場となりました。結局影薄いまんまやんけ……(ノД`)

 ではではっ、この度は読了ありがとうございました! またどこかで皆様とお会い出来る日を楽しみにしておりまする!٩( 'ω' )و



Ps
 異世界魔王のルマキーナすこ(*'ω'*) 
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