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モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜

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特別編 追憶の百竜夜行 其の六

 
前書き
◇今話の登場ハンター

◇クリスティアーネ・ゼークト
 180cmを超える長身とグラマラスな体躯が特徴の新人ハンターであり、豪快に大剣を振るう狩猟スタイルに反した丁寧な言葉遣いと類稀な美貌からは、貴族出身ならではの気品が窺える。武器はフルミナントソードを使用し、防具はディアブロDシリーズ一式を着用している。当時の年齢は14歳。
 ※原案はゲオザーグ先生。

◇ディノ・クリード
 ポッケ村を拠点に活動していた新人ハンターであり、世界各地を渡り歩いていた時期もある、名門出身の武人。武器は飛竜刀【朱】、及びブルーウィングを使用し、防具はリオソウルシリーズ一式を着用している。当時の年齢は16歳。
 ※原案はmikagami先生。

◇ベレッタ・ナインツ
 黒のツインテールが特徴の新人ハンターであり、同じハンターだった姉をモンスターとの戦いで失った過去を持つ少女。武器はカムラノ鉄弓を使用し、防具はメルホアシリーズ一式を着用している。当時の年齢は14歳。
 ※原案はピノンMk-2先生。
 

 
 続々と迫り来るモンスターの大群に対し、ウツシの同期達も懸命に抗っている。だが、常軌を逸する物量は彼らの尽力を以てしても抑え込めるものではなく、とうとう何体かのモンスターは門前にまで到達してしまっていた。
 ここまで来ては、もはや後がない。最終防衛線を担うハンター達は、新人らしからぬ気迫を纏ってモンスター達に挑み掛かって行く。

「絶対に……ここから先は、何者も通しはしません。クリスティアーネ・ゼークト、推して参りますッ!」

 その急先鋒として飛び出したのは、ディアブロDシリーズを纏うクリスティアーネ・ゼークトだった。
 男顔負けの長身と黒く艶やかな長髪、そしてグラマラスな肢体の持ち主である彼女は。その体躯に相応しいフルミナントソードを振り上げ、群れの先頭に立つナルガクルガに挑んでいく。

 だが、その巨体に見合わない俊敏さで飛び回る迅竜の挙動は、スピードで劣る大剣使いにとってはかなりの脅威であった。弧を描くように薙ぎ払われる尾は到底かわし切れるものではなく、クリスティアーネは刀身での防御を強いられてしまう。

「くぅッ、やはり強い……! しかし、引くわけには参りません! ウツシ様の故郷を……守り抜くために、私はここまで来たのですッ!」

 フラヒヤ山脈の近くに領土を持つ大貴族、ゼークト家。その令嬢という出自でありながら、領民を守る「力」を求めてハンターになった彼女にとって、友人の故郷の命運が懸かっているこの戦いから退くことは「死」にも等しい。
 戦いを終えた同期達をもてなすために手配した、専属のキッチンアイルー達も。自分達の勝利を信じて、今も里で待ち続けているのだ。彼らに吉報を届けるためにも、負けるわけにはいかない。

 だが、想いの強さだけでは迅竜の速度を捉えることはできないのだ。防御する暇すら与えないほどの疾さで、ナルガクルガの爪がクリスティアーネを襲う。
 すると、その切っ先が届く寸前に。真横から飛び出してきたもう1人のハンターが、彼女の身体を抱えて紙一重で爪をかわしてしまう。並外れた身体能力でクリスティアーネの窮地を救ったのは、リオソウルシリーズの防具を纏うディノ・クリードだった。

「……お前独りでは奴の相手は荷が重い。疾さが必要ならば、俺の領分だ」
「ディノ様……! も、申し訳ありません、重かったでしょう?」
「女を抱えて重いと抜かすようでは、武の道など歩めん。俺に言わせれば、誤差の範囲だ」

 自分より体格で勝っているクリスティアーネを軽々と抱き上げていたディノは、彼女を優しく下ろすと愛刀の飛竜刀【朱】を鞘から引き抜き、ナルガクルガと真っ向から対峙する。
 迅竜もまた、ディノの全身から迸る闘志を敏感に感じ取り、この人間だけはここで始末せねばならないと殺意を露わにしていた。

「……貴様の相手は、この俺が務めよう」

 その一言を合図に始まった「決闘」は、熾烈という言葉に尽きる凄まじい迫力であり。多くの飛竜を狩猟してきたクリスティアーネですら、割り込むタイミングを見出せないほどの激しさであった。

「うおおぉおおッ!」
「ディノ様……!?」

 だが、回避よりも攻撃を優先しているせいで、リオソウルシリーズの蒼い装甲は傷だらけになっている。その獰猛なまでの戦いぶりは、どんな時も冷静沈着なディノらしからぬ立ち回りだった。

「ディノ様、深追いは禁物です! あなたらしくもありませんよ、ここはもっと慎重に……!」
「アダイトも、ナディアも、ウツシも……この群れの首魁と戦っているんだぞ。使い走りの雑兵1匹すら狩れないで、何が好敵手か……!」

 その原因は、焦り。訓練所で共に競い合い、切磋琢磨してきたライバル達は今、より強大な敵を相手にしている。
 そんな状況の中で、自分だけが尖兵如きに手こずっているのだという焦燥感が、ディノを駆り立てているのだ。

 しかし、そんな枷になるような感情を抱えていては本来の実力など発揮できるはずもなく。度重なる負傷により、徐々に動きが鈍り始めていたディノにとどめを刺すべく、ナルガクルガは己の鋭利な尾を振り上げていた。

「……!」
「ディノさん、ご無事ですか!」

 それを間一髪で阻止したのは、カムラノ鉄弓による狙撃。高台の上から迅竜を捉えていた、ベレッタ・ナインツの援護射撃だった。
 黒髪のツインテールを風に靡かせながら、弓を引き絞る彼女の眼は、決して逃すまいとナルガクルガを射抜いている。その華奢な身体は、メルホアシリーズの防具によって固められていた。

「……もう、誰も傷つけさせません。姉様のような犠牲者は、もう絶対に出させない。全てのモンスターは、この私が狩ります!」
「ベレッタか……全てのモンスターとは、大きく出たものだな。だが、その覚悟は本物と見た。助太刀、感謝するぞッ!」

 モンスターとの戦いで姉を失い、深い悲しみを味わった彼女だからこそ。同期達という第2の家族を脅かす存在が、何よりも許せなかったのである。
 放たれた矢を通じて、その悲痛なまでの信念を汲み取ったディノは。ライバル達に勝つことよりも優先すべきことを思い出すと、澄み渡った眼で迅竜と向き直り――再び、愛刀を振るう。

「きゃあぁあッ!?」
「ベレッタ様ッ!」
「まさか、轟竜まで来たというのか……!」

 だが、ようやくディノの動きが本来の冴えを取り戻したのも束の間。今度は、突出した攻撃性を誇るティガレックスの突進により、ベレッタが居た高台が倒壊してしまうのだった。

 高台から落下するベレッタの小さな身体を、クリスティアーネが咄嗟に抱き止めた頃には。すでにティガレックスの鋭い眼が、2人に狙いを定めていた。

「あ、ありがとうございます姉様……じゃなかった! クリスティアーネ、さん……」
「ふふっ、無理に訂正されなくても構いませんよ。私も妹が出来たみたいで、とっても嬉しいです。……だから、天国の『姉様』の分まで……必ずあなたを守り抜いてみせますわ」

 自分を姉と間違えてしまうベレッタに微笑を向けていたクリスティアーネも、別人のような眼光で轟竜と睨み合っている。
 ナルガクルガとティガレックス。かつてない強敵達と同時に戦うことになってしまったディノ達の頬には、冷や汗が伝っていた。

 だが、その恐怖に飲まれては勝てる相手にも勝てない。武人の名門に生まれ、かつてはその道の後継者として育てられてきたディノには、それが痛いほど分かっていた。

 故に彼は、少しでも有利に戦いを進めるべく。傷を負うことを覚悟の上で、再び攻撃重視の戦法を取ろうとする。今度は、ライバル達に対する焦りが理由ではない。

(あいつら……特にアダイトの奴なら、今の俺と同じことを最初から考えていたのだろうな。あいつは初めて会った時からお人好しで、バカで……正しかった)

 どれほど傷だらけになろうとも、一瞬でも早くナルガクルガを倒して、ティガレックスに狙われているクリスティアーネとベレッタに加勢する。それしか、2人を守る手段はないと判断したからだ。
 幸い、クリスティアーネのフルミナントソードは雷属性。ティガレックスに対しては特に有効な武器だ。彼女が付いていれば、簡単にやられてしまうことはない。

「……あの迅竜はこのまま俺が狩る。お前達は轟竜の注意を逸らしつつ、防御と回避に専念しろ。奴を片付けたら、すぐに俺も合流する」
「ディノさん……」
「しかしディノ様、あなたの武器は火属性です! ナルガクルガの討伐なら、雷属性の武器がある私の方が……!」
「済まんが、ここは俺の顔を立ててくれ。いつまでもお前ばかりに苦労を掛けていては、武人以前に男が廃る」
「……っ」

 そんな彼の胸中を察し、その身を案じるクリスティアーネに対して。ディノは敢えてハンターとしてではなく、「男」としての答えを告げる。

「ディノ、様……」

 それは体格や実力故に、ハンターになってからは「女」として扱われることがなかったクリスティアーネにとって、初めての体験であった。その感情に由来する「本能」によるものなのか、彼女の頬は桃色に染まっている。
 
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