歪んだ世界の中で
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第十五話 幸せの中でその十五
「それでお店も少なかったんだ」
「へえ、そうだったんだ」
「それでずっと来てなかったけれど」
久し振りに来た。するとだというのだ。
「凄く賑やかで奇麗な場所になってて千春驚いたの」
「ううん、そんなに急に変わったんだ」
「凄くね。それでこのお店も」
「このお店も?」
「その時はなかったかな」
「あれっ、このお店って古い筈だけれど」
千春の今の言葉に希望は首を傾げさせた。
そしてそのうえでだ。こう言うのだった。
「それこそ終戦直後からあって」
「そうだったの?」
「老舗に近い筈だけれど」
彼の記憶ではそうだった。この店は。
「それがなかった頃って」
「けれど千春が来た時はね」
「なかったんだ」
「そう、なかったよ」
「そうだったんだ」
そう聞いてだ。希望は。
「かなり前からある筈だけれど」
「前じゃないよ」
「そうかな」
「だって。ほんの六十何年だよ」
千春はそれだけの歳月をだ。何でもないと言った。
「ちょっとの時間じゃない」
「ちょっとかなあ」
「山って何千年どころかね」
千春はさらに言う。
「何万年も何十万年もあってね」
「山は。そうだけれど」
「そこにいる皆も何百年もいてそれに」
「それに?」
「何度も生まれ変わるんだよ。だからね」
「六十何年もあっても」
「そんなのあっという間だよ」
千春はにこりとして希望に話していく。
「あっという間に。出ては消えるんだね」
「ううん、何か話がわからないけれど」
希望は千春の今の話が理解できなかった。彼女の時間の概念がだ。だがそのことを話していってだ。そのうえでこの考えに至ったのだった。
「まあいいか」
「いいの?」
「とりあえずはね。それよりもね」
「アクセサリーショップよね」
「そこに行こう。そこってね」
「どんなお店なの?」
「行けばわかるよ」
くすりと笑ってだ。希望は述べたのだった。
「そのお店にね。実際にね」
「その時まで秘密なのね」
「今言ったら面白くないから」
だからだ。今は言わないというのだ。
「秘密にしていいかな」
「いいよ。じゃあね」
「うん、その時まで楽しみにしておいてね」
「そうするね。少しだけの間だけれど」
「じゃあ行こう」
「うん、今からね」
二人で笑い合ってそのうえでだ。二人はその洋食レストラン、家庭的な味のその店から本来の目的であるアクセサリーショップに向かうのだった。二人で。
第十五話 完
2012・4・25
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