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第二章

「私はその曲の指揮はしない!」
「それはどうしてですか?」
「決まっている!私はファシスト政権は嫌いだ!」
 理由は明白だった。
「だからだ!」
「だからですか」
「そうだ、何があってもだ」
 持ち前の短気さと我の強さを出して言った。
「私はあの歌の指揮はしない」
「それで初演の指揮は」
「それはする」 
 一切迷いのない返事だった。
「何があってもな」
「しかし青春の歌はですか」
「知らん」
 絶対にその歌の指揮はしないというのだ。
「それは言っておく」
「そうですか」
「ドゥーチェにも伝えておいてくれ」
 ムッソリーニ、彼にもというのだ。
「いいな」
「わかりました」
 聞いた者も頷くしかなかった、この話は程なくしてムッソリーニにも伝わったがムッソリーニはむっとしたがそれでも落ち着いて述べた。
「なら私は初演への臨席は控えよう」
「いいのですか?」
「ドゥーチェも歌劇はお好きですが」
「それでもですか」
「マエストロとは確かに対立している」
 ムッソリーニ自身このことを認めた。
「だがそれでもだ」
「マエストロに対して何もされないですか」
「一切」
「左様ですか」
「そうする理由はない」
 こう言うのだった。
「私に対していてもな」
「そうですか、では」
「この度はどうされるか」
「ドゥーチェがですか」
「臨席しないでだ」
 その様にしてというのだ。
「ことを収めよう、マエストロは必ず歴史に残る初演を残してくれる」
「はい、あの方ならです」
「それをしてくれますね」
「必ず」
「それがイタリアの誇りになる、私自身腹が立っているが」
 このことは事実だがというのだ。
「しかしだ」
「それでことを収め」
「そしてですか」
「初演を指揮してもらいますか」
「私が退いてイタリアの歴史に輝かしい一幕が残るならいい」
 これがムッソリーニの考えだった。
「ではな」
「はい、それでは」
「党の歌はいいとして」
「そうしてですか」
「マエストロには初演を指揮してもらう」
 トゥーランドットのそれをというのだ。
「そして歴史に残る名演を残してもらう、しかしな」
「しかし?」
「しかしといいますと」
「党の歌が演奏されないならだ」
 それならというのだ。
「私は出ない」
「臨席されないですか」
「そうされますか」
「そうする、名演が観られないのは残念だが」
 それでもというのだ。
「そこは私のファシスト党党首としての欣嗣だ」
「だからですか」
「臨席はされませんか」
「そうされますか」
「そうする」 
 こう言ってだった。
 ムッソリーニは初演に臨席しないことを決定し実際に出なかった、トスカニーニはその話を聞いて静かに言った。 
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