労り
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第一章
労り
百の頭を持ちその頭を上げると天にまで届く、そこまでの巨大な身体を持つドラゴンそれがラドンだった。
ラドンはテューポーンとエキドナの間に生まれた多くの異形の怪物の一匹だ。むしろその出自を考えると神と言っていいだろう。テューポーンもエキドナも神から生まれているからだ。
ラドンは邪悪な性格でなく彼に会ったゼウスはこう彼に言った。
「そなたに仕事を与えたい」
「何でしょうか」
ラドンはゼウスに百の頭で問うた。
「それは」
「この世の果てに黄金の林檎の木があるが」
神々の重要な食べものだ、食べると不老不死になる林檎だ。
「その木を護って欲しいのだ」
「私がですか」
「そなたは恐ろしいまでに強い」
ゼウスはラドンに話した。
「百の頭を持ち巨大な身体を持ちかつ不死身じゃ」
「だからですか」
「そなたがそこにいればだ」
黄金の林檎の木のところにというのだ。
「もうだ」
「それで、ですか」
「黄金の木は大丈夫だ、それにだ」
ゼウスはラドンにさらに話した。
「ヘスペリアの乙女達も一緒に行かせる」
「黄金の木のところに」
「そうさせる」
「ゼウス様、宜しいでしょうか」
ラドンはゼウスにこう申し出た。
「お聞きして」
「よい、別に話を聞かぬとは言っておらぬ」
ゼウスも狭量ではない、他の者の意見は聞く。そうした器もまた天空の神々の主神として務まる理由の一つだ。
「話してくれ」
「はい、木を護るならです」
黄金の林檎の木をというのだ。
「それならです」
「そなた一人でだな」
「そうかと、私は実際に不死身で」
「百の頭があるな」
「百の頭で戦えますから」
それでというのだ。
「この身体で」
「首を伸ばせば天まで届くまでな」
「ですから人間や怪物はおろかです」
「神が言ってもな」
「黄金の木を護る自信があります」
「だからわしもそなたに命じるのだ」
黄金の木の護りをというのだ。
「そなたなら絶対に大丈夫だからだ」
「左様ですね、ですから」
「ヘスペリアの乙女達はだな」
「あの方々までとは」
「それはやがてわかる」
ゼウスはラドンに微笑んで答えた。
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