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歪んだ世界の中で

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第十四話 新しい道その十六

「それでも今はね」
「泳げる様になったから」
「希望は毎日泳いで」
「泳ぐのって身体全体使うじゃない」
 汗をかかないので気付きにくいがだ。かなりハードなスポーツでもある。
「それがいいんだよね」
「痩せるのね」
「痩せてそれに筋肉もついて」
 そうしたものだとだ。希望は千春に話していく。水泳について。
「僕、もうデブじゃなくなったよ」
「今の希望は太ってないよ」
「ずっと。太ってることが嫌で」
 今度はこうした話だった。
「どうにかなりたいって思ってたんだ」
「どうにかなったね」
「なったよ。どうにか以上だよ」
「痩せたいとは思っていても?」
「うん、本当に痩せられるなんて思わなかったし」
 それに加えてだというのだ。
「身体つきまで変わって」
「逞しくなったよね」
「僕も変わることができるんだね」
 希望の言葉はしみじみとしたものになっていた。
「嬉しいよ。そのことがわかって」
「暖かい世界にも入られたしね」
「いいことばかりだよ。ずっと辛かったけれど」
 辛かった、その過去も今やだというのだ。
「これからは違うね」
「全然違うよ。本当にね」
 千春は満面の笑みで希望に応えた。そうしてだ。
 その話が終わり夕食を御馳走になり彼女は希望の家から出た。だがそれでも彼女は玄関を出るその時に出迎えの希望にこう言われた。
「また来てね」
「うん、このお家にだよね」
「そうだよ。また来て」
「勿論だよ」 
 返答は一つしかなかった。千春にとっても。
「千春、希望がいいっていうのならね」
「また来てくれるんだ」
「だからね。希望もね」
「僕も?」
「千春のお家に来てね」
 満面の笑みでだ。千春は希望を自分の家に誘いもしてきた。
「そうして一緒に楽しく過ごそう」
「暖かいその中で」
「そうしよう。じゃあね」
「うん、じゃあまた明日ね」
 別れの挨拶をして笑顔を向け合って二人は別れた。その次の日だ。
 真人が朝に希望の家に来た。そうして登校に誘いに来た。
 家の玄関から出て来た希望を見てだ。真人はこう言った。
「ランニングの後でシャワーを浴びられましたね」
「いや、お風呂にね」
「お風呂だったんですか」
「おばちゃん達がね。身体を動かした後は奇麗にした方がいいって言ってくれてね」
「そうしてですか」
「うん、お風呂に入っていたんだ」
 そうしていたというのだ。
「それで朝御飯もたっぷり食べたし」
「ですが遠井君朝は」
「これまでは食欲がなかったけれどね」
 だがだ。それでもだというのだ。
「違うんだ。これまでの家と違って」
「御飯が美味しいですか」
「とてもね。けれどこれまでは違ったんだ」
 前に家ではだというのだ。
「ランニングをしても朝は食欲がなかったから」
「それでお昼に召し上がっていましたね」
「美味しくなかったから」
 心の問題だった。これもまた。
「だからですか」
「心が篭もってないと美味しくないんだね」
 例えだ。どんな御馳走でもだというのだ。 
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