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歪んだ世界の中で

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第十四話 新しい道その七

「だから。安心してね」
「いいのかな」
「本当に。希望は安心していいから」
 にこりとさえ笑ってだ。千春は希望に対して言う。
「何の心配もいらないよ」
「二人でやれば」
「一人でやるよりはね」
「ううん、けれど」
 千春が女の子だからだった。希望はまだ躊躇を見せていた。
 しかしその躊躇にもだ。千春は言うのだった。
「怪我とかはしないから」
「本当に?」
「うん、絶対にね」
「絶対にっていうけど」
「大丈夫だよ。希望は心配しなくていいよ」
「そこまで言うのならね」
 どうかとだ。希望もだった。
 千春がそこまで言うのならと納得してだ。こう言葉を返した。
「いいよ」
「いいのね」
「じゃあ来て。それで一緒にね」
「うん、一緒に引越し作業しよう」
 こう話してだ。そのうえでだった。
 二人で引越し作業にかかることになった。このことも決まった。
 中間テストの結果が明らかになってだ。希望は喜んでいた。そして周囲はだ。
 誰もがだ。こう話していた。
「まさかあいつがなあ」
「遠井があそこまで成績あげるなんてな」
「クラスでトップクラスかよ」
「いや、学年全体でもな」
 クラスより広い範囲でもだ。どうかというのだ。
「かなり上の方だぜ」
「あの馬鹿がかよ」
「勉強なんて全然できなかったのにな」
「何であんなに急に成績あげてんだよ」
「嘘だろ、それってよ」
 誰もが驚いていた。そうしてだ。
 その希望を見る。今の彼はというと。
「痩せたしなあ」
「何か身体の動きもよくなたしな」
 体育でもそのことが如実に現れていたのだ。これまでの肥満体でも運動音痴でも体力なしでもなかった。彼は身体能力も大きく変わっていたのだ。
 そうしたものも見てだ。彼等は話すのだった。
「一学期とは別人だよな」
「ああ、全然違うよ」
「運動神経もよくなったし成績もあれだしな」
「もう馬鹿にはできないよな」
「完全にな」
 こう話してだ。彼等は希望を見る目を変えてきていた。そしてだ。
 いつも一緒にいる千春も見てだ。こう言うのだった。
「あの娘が一緒にいるようになってからか」
「そうだよな。夏休みの頃から一緒だったんだろ?」
「じゃあやっぱりな」
「あの娘のお陰なんだな」
「そうなんだな」
 こう話すのだった。千春の存在が大きいとだ。
 そしてだ。あの面々が言った。かつて希望を振ったあの二人がだ。
 千春を忌々しげに見てだ。こう言うのだった。
「何よ、幸せそうに」
「まるで私達ただの悪者じゃない」
「そうよね。あの時のあいつってただのデブだったのに」
 希望も見てだ。そのうえで言う野田だった。
「それが急に変わって」
「ええ。私だってね」
 永田もだ。二人を見つつ忌々しげに応える。
「あの時のあいつって馬鹿でデブだったじゃない」
「いいところなんて何もなくてね」
「それで素子に告白するなんて身の程知らずって思ったわよ」
「私デブ嫌いだから」
 素子はまた言う。
「あんな奴ね。願い下げだったわよ」
「それで何であんなに急に変わったのよ」
「これじゃあ私あれじゃない」
 野田は苦々しい顔になっている。そうなってさえの言葉だった。
「男を外見だけで振った馬鹿女になるじゃない」
「私もよ。成績とかだけを見たね」
「あの娘ばかりお株あげてね」
「当て馬みたいじゃない」
 ここにきてようやくだ。二人も忌々しさと苦々しさを感じながらわかってきたのだ。自分達が希望を振り嫌がらせをしてきたのは自分達の愚かさ故のことだとだ。しかしだ。 
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