DQ8 呪われし姫君と違う意味で呪われし者達(リュカ伝その3.8おぷしょんバージョン)
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第二十三話:他人に文句を言いたいのであれば強くなれ
(マイエラ地方・マイエラ修道院)
ゼシカSIDE
「何でウルフさん達は来てくれなかったんですか!?」
オディロ院長がドルマゲスに殺され、結局アイツを取り逃がしてしまい、事態が進展しないどころか悪化したのに、ウルフを含め異世界組が現場に来てない事に怒りを抑えられないアハト……
彼等が手伝ってくれてれば万が一だが院長を助けられたかもしれないと思ってしまい、私も異世界組を怒鳴りたい衝動に駆られてた。
そんな私らの代弁をしてくれるアハトに、怒鳴られたウルフが見る見る表情を険しくしていく。
「あ゛? 何言ってんだ、お前!?」
「な、何って……諸悪の元凶であるドルマゲスに追い付き、奴を倒してオディロ院長を助けて、ミーティア姫の呪いを解くチャンスだったんですよ!」
怒りの余り姫様だけの呪いしか頭になかったのか、言って貰えなかったトロデさんが「ワ、ワシは……?」と呟く。
だが今は、そんな事を言ってる場合じゃない。
「俺には関係無いだろ」
「関係無くないでしょ! 一緒に旅する以上、協力出来る範囲で協力するって言ってませんでしたか!?」
私と出会う前の事かしら?
「言ったよ『出来る範囲で』ってね!」
「じゃぁ何で一緒に戦ってくれなかったんですか!?」
「“出来ない範囲”だからだよ!」
「な、何ですかそれは!?」
「直接ドルマゲスと対面して分かった。アイツはヤバい……今のアハト君等を守りながらでは、とてもじゃないが勝てないだろう。お前等の事を気にせず戦っても、勝つ自信は無い!」
「そ、そんなのやってみなければ……」
「相手との実力差も解らないのでは、とてもじゃないがドルマゲスには勝てないね」
「……ぐっ!」
途轍もない強敵である事は肌身で感じているので、ウルフの言葉に反論できない。
「ちょっと想像を働かせてみてくれアハト君」
「想像?」
何かしら?
「今回の冒険……立場が逆だったら、君は如何したか?」
「立場が……逆?」
如何逆にするの?
「君はその馬姫様を連れて、俺等が暮らしてるグランバニアという国がある異世界へ召喚されるんだ。理由は何だっていい……神々の気紛れか、悪魔の嫌がらせか(笑) 兎も角、慣れない異世界へ飛ばされるんだ」
想像しているのか、顎に手をやり考えるアハト。
「俺等の世界へ来た君等は、強大な魔王に呪いをかけられた俺の主と出会う……勿論、俺も一緒にね。そして君は我が主を不憫に思い、呪いを解く冒険へ同行し協力してくれる……出来る範囲でとね」
まさに今のウルフ等と同じね。
「いざ悪の元凶たる魔王を前にして、勝てる見込みが無い事を悟る。俺等はそれでも主を助ける為に、命をかけて戦わねばならないが、君等は無事に自分らの世界へ帰る事が最終目標だ。こんな場所で、命を張る訳にはいかない」
「で、ですが……協力すると言った以上、俺は協力を惜しむつもりはありません」
「本当にそう言い切れるかい?」
「何故疑うんですか!? ウルフさんと一緒にしないでください」
大分ムキになってるわね……気持ちは解るけど。
「異世界の魔王と戦っても何も得られない……それどころか、その馬姫様も危険にさらされるんだぞ。それでも俺等の為に、姫様の命を危険にさらして戦うかい?」
「そ、それは……」
「口籠もった以上、お前も俺と一緒だ! 俺は自分の身可愛さで協力を拒んでるのでは無い! 俺等はリュリュさんを危険にさらす訳にはいかないのだよ!」
「じ、自国の姫君を守るってことですか?」
「違う違う違う! 理由はアハト君がドルマゲスを追う理由と殆ど変わり舞い! 見てみろその馬を……只の馬だろ。毛並みなどは凄く良いが、馬以外の何でもない。主である王様も呪いで化け物に変えられ、仕えていた国も滅んだ……その緑のオッサンに、君の行動を指図される筋合いはもう無い。だが君は二人の呪いを解く為に、危険な冒険へと旅立った……その理由は何だ? 姫様を助けたいからだろ? いや違うな……姫じゃなくてもミーティアという一人の女性を慕ってるから、助けたいと思ってるんだろ?」
「そ、それは……はい」
「ア、アハト……お前……」
アハトの想いに気付いたのか、トロデさんが驚いている。
「つまりそういう事だよ。俺とラングは、リュリュさんに怪我をさせる訳にはいかないんだ! ホイミで直ぐ治る掠り傷程度なら俺等も気にしないだろう……だが、顔や身体に永遠に残る傷を負われては困るし、死ぬなんて事があっては絶対にならないんだ。好き嫌いの問題ではないし、ましては好かれてるか嫌われてるかなんて関係無いんだよ!」
「で、でも……だとしても……全く手を貸してくれないなんて酷いんじゃないですか!?」
「だから……事前に言っておいてあるだろう。『出来る範囲で』と」
そ、それはそうだけど……
「それでも……いきなりはないでしょう!」
「いきなり……ねぇ」
ウルフがまた顔を顰める……
「じゃぁ何か? オディロ院長を助ける為に一分一秒惜しいタイミングで、『アハト君、俺等は戦わないから』と声をかけて君等を引き留めて、ここまでの口論を事前にした方が良かったって事かい? まぁ良識のあるドルマゲス君の事だから、我々が口論してる間は何もしないで待っていてくれるだろうから、心行くまで事前に口論しておくべきだったな!」
「そ、そんな事は言って無いですよ!!」
「言ってるんだよ君は! 俺やラングが、あの修道院へと繋がってた馬小屋から出てきた時には、君等は慌てて修道院へと向かっていたじゃないか! 止める間なんかあったか!?」
「……………っ!」
「そう。そんなタイミングは無かった! でも俺は事前に『出来る範囲で協力する』と言っておいた。これは言い換えれば『協力出来ない事もある』と言う事だ!」
確かにその通りだけども……
「今回、オディロ院長を助けられなかったのは……言いたくは無かったが、偏に君等が弱かったからだろう!? 『ドルマゲスの野郎が強すぎたんだ。アハト君等の責任じゃない』と言うつもりだったが、やり場の無い怒りを俺等に向けられるのなら話は変わる! オディロ院長は……ほんの少ししか会話してないが良い人だったし、出来る事なら助けたい気持ちは俺にだってあったさ! でも俺等の中での優先順位はリュリュさんの無事が上なんだ。自分らの都合で八つ当たりするのは止めてくれ」
確かに……今、私達がウルフを責めるのは八つ当たりでしか無い。
彼等には何一つとしてドルマゲスを倒す理由が無い。
でも……それでも……
「ご、ごめんねアハト君……わ、私の所為で……その……」
「え!? あ……その……」
ここまでの口論を後方で聞いてたリュリュが、申し訳なさそうな顔で謝罪してきた。突然の事でアハトも口籠もる。
「リュリュさんが謝る事じゃないですよ!」
「そうです。ウルフ殿が言う様に、リュリュさんは何も悪くありません」
リュリュの台詞に異世界組の二人がフォローする。
アハトにもリュリュだけを悪者にする気などは無かっただろうけど、話の流れで彼女の所為みたいな感じになってる。
多分そんな感じの流れにしたのはウルフだ。
「申し訳ありませんリュリュさん。これは完全に俺の八つ当たりでした。貴女は何も悪くありません……」
彼女が悪くないのは当たり前だとしても、この状況を作り出したのはウルフだろう。
地平線から太陽が昇り始めている……
もう夜が明けてしまってたのね。
私達は煤汚れた状態で立ち尽くしている。
何も言えない……
ただ、完全なる敗北感だけが重くのし掛かっている。
ウルフ等も何も言おうとはしない。
朝日を浴びながら沈痛な面持ちで俯いていると……
「ここに居たのか……」
とククールが訪れ話しかけてきた。
何でも今回の事件の事後処理をして、院長を初めドルマゲスに殺された方々の葬式を、早急に執り行う事になったそうだ。
我々には葬儀に参列して欲しいらしく、更には後ほど今回の事件の事を話し合いたいそうだ。
「安心してくれ……騎士隊長殿もアンタ等の事を、もう疑ってはいない」
「当たり前だ。疑われるようなことは何もしてないのに、あのデコが勝手に疑っていただけなんだからな!」
まぁその通りなんだけど、わざわざ言わなくてもいいのに。
「……ふっ」
ククールも肩を竦めて困っているわ。
「まぁ兎も角……空いてる部屋を割り当ててくれたみたいでがすし、今日の所は休むのが一番でげすよ」
またこの場の空気が悪くなりかけたのを、ヤンガスがフォローしてくれた。
「空いてる地下牢じゃなきゃ良いがな(笑)」
お願いだから黙っててウルフ!
ゼシカSIDE END
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