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歪んだ世界の中で

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第十四話 新しい道その三

「そこに生卵をって」
「確実にまずいですよね」
「そんな生活だったら痛風になるのも当然だよ」
「僕もそう思います」
「だからドイツには痛風が多いんだ」
「はい、全てはビールの為です」
 実際に痛風はドイツの国民病になっている。それは昔からで神聖ローマ帝国皇帝カール五世、スペイン王としてはカルロス一世であるこの高名な君主も痛風だった。
 しかもその彼と宗教的に対立したマルティン=ルターもだ。彼はビールの害毒を論じながらもビール好きだったが彼もそうであったのだ。他にはフリードリヒ大王もそうだった。
「ヒトラーは違った様ですが」
「あれっ、ヒトラーはなんだ」
「彼は菜食主義者で」
 しかもだった。
「お酒も煙草もやりませんでした」
「お酒ってことは」
「ごく稀に飲むことはあったそうですが」
 ビールもだ。たまには飲んでいたのだ。尚彼がワインを飲むのを見て驚いた将軍の話が残っている。彼の私生活はそうしたものだったのだ。
「それでもです」
「ビールは殆ど飲まなくて」
「しかも菜食主義だったので」
「痛風にはならなかったんだね」
「そうです」
「ううん、そうだったんだ」
「それだけにビールは怖いです」
 痛風の元凶、まさにそれだというのだ。
「大阪でよくある串カツやお好み焼き、たこ焼きとビールの組み合わせも」
「いい組み合わせだけれどね」
「痛風の元ではあります」
「本当に怖いね。それって」
「はい。そしてです」 
 話が移った。今度の話は。
「糖尿病もです」
「僕日本酒好きでね」
「それで甘いものもお好きですよね」
「見た通りね」
 実際に今レモンティー、ペットボトルのそれと様々な菓子を口にしている。それが何よりも雄弁に物語っていた。彼が甘党かどうかということは。
「大好きだよ」
「では。かなり危険です」
「そうだね。どちらもだとね」
「明治天皇がそうでした」
 今度名前が出たのはこの方だった。
「あの方はお酒を愛されていまして」
「しかも甘いものも?」
「好物はアンパンにアイスクリーム、カステラに羊羹でした」
 酒を好まれていただけでなくそうしたものも好まれていたのだ。明治帝はどちらも愛されていたのだ。
「そうしたものを愛されていたので」
「糖尿病になられたんだ」
「特に日本酒がお好きでして」
「ああ、それでね」
「そうです。清酒をはじめて飲まれて感激され」
 全てはそこからだった。明治帝の悲劇は。
「日々夜になると深酒をされて」
「危険だよ、それって」
「ですから糖尿病になられました」
「それで崩御されたのかな」
「その通りです」
 このことがあってからだ。皇室での食事管理が厳しくなったのだ。
「残念なことに」
「うん、大変なことだね」
 二人はしんみりとなってしまった。自分達の国の国家元首であられた方だからだ。
 その話を聞いてからだ。希望は言うのだった。
「日本酒も飲み過ぎると大変だね」
「特に遠井君は甘いものもお好きですから」
「気をつけないと駄目だね」
「はい、ですから」
「ですから?」
「二人で飲むお酒を変えませんか」
 真人はこう希望に提案してきた。 
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