夢の雫
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第一章
夢の雫
恋愛の神フレイヤはこの時自分の館に杯を置いてその上から雫を垂らさせていた。雫は一滴一滴杯の中に落ちているが。
あまりにも巨大な杯なので中々満たされない、雷神トールは杯にそうさせているフライヤに対して問うた。
「一体何をしているのだ」
「今は秘密よ」
フライヤはいぶかしむトールに笑って返した。
「この杯が満ちれば言うわ」
「何をしているのかをか」
「そうするわ」
「そうか、ではその時にな」
「ははは、フレイヤのことだ」
火の神ロキは笑って言った。
「きっとまた恋愛のことだな」
「貴方はそう思うのね」
「そうでなかったらお前に蜜酒をやる」
ロキはこうも言った。
「俺のとっておきのそれをな」
「あら、そうしてくれるの」
「恋愛でなかったらな」
その時はというのだ。
「そうするさ」
「そうなのね」
「お前のことはよく知っている」
このことはロキに限らない。
「このヴァルハラにいる神全員がだ」
「私といえば恋愛というのね」
「そのことはわかっているからな」
「貴方もそう言うのね」
「そうだ、恋愛だったら俺は何もいらない」
自分はというのだ。
「その時はな、しかしな」
「恋愛でなかったら」
「蜜酒をやる」
とっておきのそれをというのだ。
「それはないがな」
「そうだな、フライヤといえば恋愛だ」
トールもこう言った、ただ彼は軽いロキとは違い真面目な顔だ。
「俺もそう思う」
「そうだな、お前も」
「俺も若し恋愛でないならだ」
トールもこう言うのだった。
「フライヤに何かやろう」
「それは何かしら」
「今とびきり美味い猪の干し肉がある」
彼が持っているのはこれだった。
「これをだ」
「私にくれるのね」
「そうする、そして俺も恋愛ならな」
そうならというのだ。
「何もいらない」
「私からもらわないのね」
「そうする」
「それはまた二人共無欲ね」
「無欲というか他のことは考えられないからだ」
ロキは軽い調子のまま答えた。
「だからだ」
「それでなの」
「そうだ、俺達は求めない」
自分達からはというのだ。
「決してな」
「そうなのね」
「まあその杯が満ちた時を待つ」
「今はそうするのね」
「結構時間がかかりそうだがな」
「次の祭りの時には満ちるだろう」
トールは杯の大きさと雫の勢いから述べた。
「ならその時にな」
「さて、女神様の次のお相手は誰か」
ロキは楽し気に言った。
「見せてもらうか」
「そう思うならいいわ」
「ははは、それ以外は考えられない」
フライヤと恋愛の関係は彼女が司っているだけにというのだ、ロキは確信していた。
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