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イベリス

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第七話 入学式の後でその五

「お仕事ですから」
「そうですか」
「はい、じゃあこれ買います」
 ふと目に入ったルーン文字のペンダントを見て手に取った。
「これお幾らですか?」
「五百円です、税抜きで」
「わかりました」
 咲はすぐに金を出した、そうしてだった。
 そのペンダントを買って店を出た、それから道玄坂にあるコンビニに入って飲みものを買おうとしたが。
 後ろからだ、こう言われた。
「お店のお客さんには注意した方がいいですよ」
「お客さん?」
「あの人です」
 店の中にいる一人の者を指差して咲に話した、見ればロッカーの出来損ないみたいな恰好でやけに目つきが悪い。
「女の子を騙して覚醒剤中毒にして身体を売らせています」
「えっ、そんな人ですか」
「可愛い娘と見ると声をかけるので」
 だからだというのだ。
「決して近寄らないで下さい」
「そうですか」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
「今はお店に入られない方がいいです」
「わかりました、ただあなたは」
 咲は後ろから自分に話すその人を振り返って見た、見れば。
 一八〇はある長身ですらりとしている黒い髪の毛はショートだが左目のところを隠している。細面で切れ長のめの整った顔立ちだ。
 青いスーツに裏が赤の白いコートを着ている、靴は黒でネクタイは赤、ブラウスも白だ。咲はその人を見てすぐにこんな格好いい人を実際に見たことはないと思った。
 思わず見惚れたがそれを何とか隠して彼に問うた。
「どなたですか?」
「速水丈太郎です」
 男は咲に微笑んで答えた。
「お見知りおきを」
「速水さんですか」
「この渋谷で占いのお店を持っています」
「占いの」
「一〇九のビルの中に」
「えっ、あそこにですか」
 これには咲も驚いた、渋谷の象徴とも言える店だからだ。
「お店をですか」
「はい、実は今日お店のアルバイトに来るべき人がここにいると占いで出まして」
「それで、ですか」
「ここに来ましたら」
 そうすればというのだ。
「まさにでした」
「まさに?」
「その人がいました」
 こう咲に語った。
「占いの通りに」
「それでその人は」
「貴女です」
 咲に微笑んで答えた。
「まさに」
「えっ、私ですか」
「アルバイトに興味はありますか?」
 速水は咲にその微笑みで問うた。
「占いの事務所ですが」
「事務ですか」
「占いは私がしてまた私の占いは門外不出でして弟子も取らないです」
「そうなんですか」
「ですからアルバイトの方はです」
 そうした者はというと。
「あくまで事務と受付と雑用をしてもらう」
「雑用っていうとコーヒーを淹れたり」
「お掃除です、そうして頂けますと」
 そうしたことをしてもらうと、というのだ。 
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