提督はBarにいる。
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艦娘と提督とスイーツと・67
~プリンツ・オイゲン:グミ~
「この噛み応え!やっぱりグミはこの位堅くないとね」
「確かにこれは喰ってる感じが凄いわ」
2人して行儀が悪いが、グミを噛みながら会話をしている。チケットを持ってきたのはドイツの重巡、プリンツ・オイゲン。リクエストされたのは今食べているグミだった。それも、日本のグミの様なソフトタイプじゃなく顎が疲れそうなハードな奴だ。
「ねぇ知ってた?グミってドイツ生まれなんだよ?」
「らしいな。今から100年以上前だとか」
1920年代、ドイツで咬筋力の低下で子供達に病気が増え始めたのを危惧したハンス・リーゲルという人物が、果汁をゼラチンで固めてコーンスターチをまぶして作るグミを発明。そうして創業したのが熊の形のグミで有名なHARIBO社だ。
「よくグミはアメリカ生まれって勘違いしてる人いるけど、ドイツの誇る健康にもいいおやつなんだから!」
「確かに、よく噛む事は健康に良いな」
顎が弱ると歯周病になりやすくなるし、物を咀嚼できないと消化が悪くなって消化器官にも負担が掛かる。だから『物はよく噛んで食べろ』と言われるワケだ。
「でもこれ、ドイツで食べてたグミより固いような……?」
「一応手作りだしな。ゼラチンだけでHARIBO並みの硬いグミが出来るか不安だったんで、ちと小細工をな」
「小細工?何したの」
「グミを作る時に水飴を少々」
スーパーやコンビニに行った時に、日本のグミのパッケージの裏面を見てみて欲しい。成分表示の欄を見ると水飴が入っているのが解る。日本の成分表示は含まれている割合がが多いほど先に書かれるのだが、硬いグミ程水飴が先に書かれている事が多い。何なら、ゼラチンよりも先に書かれている事すらある。つまり、日本のグミのあの粘り気というかコシのある歯応えは水飴によった生まれていると言ってもいい。
「へぇ~水飴!なんか意外」
「割と簡単に出来るから、ビス子にでも作ってやったらどうだ?」
「是非教えてください!」
よっしゃ、じゃあ試しに作ってみるか。
《意外と簡単!?手作りグミ》
・好みのジュース:100g
・グラニュー糖:40g
・水飴:40g
・粉ゼラチン:10g
・冷水:30g
・レモン汁:10g
(作り方)
1.粉ゼラチンに水を加え、よく混ぜてふやかしておく。
2.グミの型に薄くサラダ油(分量外)を塗っておく。こうすると、冷やし固めて型から外す時に剥がれやすくなる。
3.ジュース、グラニュー糖、水飴を鍋に入れて中火にかける。ゴムへら等を使い、焦がさないように煮詰めていく。
4.鍋の中身が90~100g位になったら火から下ろし、熱い内にゼラチンを加えて溶かす。この時、空気が入らないように静かに混ぜるのがポイント。
5.レモン汁を加えて更に混ぜる。レモン汁が入るとゼラチンの臭み消しになる上、味に締まりが出る。
6.冷めすぎない内に型に流し込む。粗熱が取れたら冷蔵庫に入れて冷やし固めたら完成!
「おぉ~本当に簡単!」
「材料をちゃんと揃えるのとしっかり計量さえすれば、そんなに難しくないのさ」
そう言いながらまた1つ摘まむ。因みにジュースだけじゃなく、かき氷のシロップとかでも出来る。余ったシロップの有効活用にもなる。
「成る程ぉ」
「後はアレンジして食べるとかな」
「アレンジ?グミをアレンジは無理じゃないかなぁ?」
「グミはカラフルで形も多彩だからな。飾りに使うとなかなかどうして、な」
アレンジその1:ドリンクの飾り付けに
グラスに氷とグミを交互に入れて、仕上げにサイダーや炭酸水等の透明度の高いドリンクを注ぐ。
「しゃ、写真撮っても良いですか!?」
「勿論」
見た目も綺麗だし、SNS映えもするだろう。あ、大人だったらサイダーの代わりに梅酒ソーダなんかも結構うまいぞ。
アレンジその2:グミ入りアイスバー
アイスキャンディーを手作りするための型に、小粒のグミを入れる。そこにリンゴジュース等の透き通ったジュースを注いで凍らせる。中のグミが透けて見えて、これまた見た目も華やかだ。今回はHARIBOのクマさんグミを使ってみた。
「ん?浮かない顔だが、美味くなかったか」
「んーん、美味しいよ。美味しいんだけどさぁ……」
「けど、なんだ?」
「グミがクマの形だから、氷漬けの死体みたいで……」
「ぶふっ!」
やめろよ、思わず噴いちゃったじゃねぇか。
「って、なんで執務室でお酒飲んでるの!まだ勤務時間中でしょ!?」
「お生憎様、俺は今日非番だ」
化け物だ怪物だと言われても、俺だって人間だ。疲れもするし、休みたい時もある。それでも、仕事終わりに店は開けてくれと懇願されるから、一日のんびりした後で店を開ける為に執務室に来るってのが俺の非番の日の過ごし方だ。今日はたまたま、プリンツがチケットを持ってきたから朝からここにいるに過ぎない。普段は俺が休みでも秘書艦と大淀が詰めているのだが、今日は気を利かせて別の部屋で執務をこなしてくれている。
「あぅ、ごめんなさい……」
「なんで謝んだよ」
「だってぇ、折角の休みを潰しちゃったから」
「あのなぁ、お前だって一応嫁だろ?旦那が嫁のおねだり聞いてやらねぇでどうするよ」
ウチの奥様は『最近darlingはワタシを放っとき過ぎデース!』とプンスコ怒ってたが、ありゃちょっとしたヤキモチだ。アレはアレでちゃんと理解しててもどうにもならない嫉妬心をぶつけて来るだけで、頭では理解してはいる。
「そっかぁ、えへへ////」
プリンツは顔を赤らめて照れ臭そうに頬を掻いている。その左手には、普段は手袋をしてるくせに、今日は薬指にシルバーのリングが光っている。
「だから、俺は遠慮なく飲ませてもらう」
戸棚の奥から引っ張り出したのは、毎年漬けている梅酒だ。酒の種類や氷砂糖を黒糖に変えたりして、毎年かなりの量を漬けているが一年経つ頃にはほとんどが飲み干されている。その中から少しずつ保存して長期熟成させている俺のコレクションから、15年寝かせた奴をチョイス。梅の実も半分溶けてドロリとしているが、それがまた若い梅酒と違う味わいを醸し出してて美味いんだよなこれが。そいつをグミと氷の入ったグラスに注ぎ、次いで炭酸で割る。指を突っ込んで軽くかき混ぜたら、指を舐めて味見。うむ、ちと濃い気もするがこんなもんだろう。そのままグラスを口へ運び、グビリグビリと喉を鳴らす。
「っかぁ~!昼酒って奴ぁ堪えられん甘露だなぁ」
「お行儀悪いんだぁ」
「ば~か、堅っ苦しい店で飲むわけでもあるまいし。野郎の独り呑みなんてのぁこの位適当でいいんだよ」
「独りじゃないですよぅ、私がいるじゃない……」
ぶすっと唇を尖らせるプリンツに、デコピンを喰らわせる。
「あいたぁ!何するの、おでこ凹んじゃうでしょ!?」
「アホはお前だ、今日は午後から演習だって言ってたじゃねぇか」
「そうよプリンツ!」
気の強そうな叫びと共に、執務室のドアが勢いよく開け放たれる。そこにいたのは……
「ビス子!?」
「ビスマルク姉様!?」
そこに立っていたのはビス子ことビスマルク。何故だか腕組みをして仁王立ちしている。
「何でここにビスマルク姉様が?」
「今日の演習の旗艦は私よ!貴女が来ないから探して回ってたの」
「あ、ホントだ!」
時間を見ればもうすぐ15:00。午後の演習の時間だ。
「ほれ、さっさと行け」
「うん、行ってきま~す!」
プリンツほ皿の上にあったグミを口に全部押し込み、頬をリスのように膨らませて立ち上がった。
「んんんんんん~んん、んんんんんんんん!」
「何言ってるか解んないわよ!」
バタバタと走っていく2人を眺めながら、梅酒を啜る。
「忙しない奴らめ……」
さて、店を開けるまで2時間ある。俺はソファに横になりウトウトとし始める。たまにはこんな休みも悪くない。
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