Fate/WizarDragonknight
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ムーの誇り
ムーの神殿。
見慣れた場所の一つであるそこに、間違いなく奴はいる。
「……」
ソロは、強い目つきで神殿を睨む。
ムー大陸の中心。巨大な塔の最上部。そこに至る入口に、ソロはいた。
静かに階段を登りだすソロ。ムー大陸の風を受けながら、足に馴染む感覚が靴底にある。
『やあやあソロ君、いらっしゃ~い』
耳障りな声が足元から聞こえてきた。見下ろすと、そこには白と黒で別れた熊のようなものがいた。小さな姿とその奇妙な外見から、ソロはそれを監督役なのだろうと断じた。
それがモノクマという名前なのだとソロが知る由もなかった。
ソロは無視して、バングレイがいるであろう祭壇のフロアへ上った。
『あれれ? 無視しちゃうの? ひどいなあ』
モノクマはソロの左右を行き交う。
『ねえねえ。それよりさあ、君一体何者なの? ムー大陸とずいぶん関係あるみたいだけど?』
「……」
『キャスターもだけど、君もずいぶんとムー大陸に詳しいんだよね? バングレイは宇宙で聞いてきたらしいけど、君はどこから聞いたのかなあ?』
「……」
『ねえねえ。教えてよ』
「五月蠅い」
ソロは足元のモノクマを蹴り飛ばした。『あ~れ~』と間抜けな悲鳴を上げながら、階段から底の見えない神殿の奈落へ落ちていくモノクマを見送りながら、ソロは歩み続ける。
そして。
「見つけたぞ……!」
ムーの神殿最上部の祭壇。虚空の中の広場と、奥に眠る巨像。
「ラ・ムー……」
どこか哀愁を込めた声で、ソロはその名を呼んだ。
すでに機能を停止して久しいラ・ムーは、動くことなく祭壇に鎮座していた。
「懐かしいか? ムー人よぉ」
そして、そんなラ・ムーを臨む祭壇。その場に、青い生命体はいた。
「なあ?」
ラ・ムーに寄りかかるバングレイ。および、その前に立つエンジェル。
二人を睨みながら、ソロは「古代のスターキャリアー」を取り出した。
石で外構を覆ったその機械は、ラ・ムーに面すると同時に怒りのごとく液晶に輝きが宿った。
「ムーを汚した罪は重い……! その命をもって償わせてもらう」
「ば、バリバリバリバリ!」
すると、バングレイは膝を叩いて大笑いを始めた。
「命をもって? 償う? バリバカじゃねえのか? このムー大陸は、蘇らせた俺のもんだ! ムーの力をちょっと持ってるだけのテメエのもんじゃねえんだよ!」
「……」
ソロはスターキャリアーで、ムーの紋章を描く。紫の紋章は、光を放ちながら、その数を四つに増やす。
だが、バングレイは続ける。
「忘れてねえよなあ? 俺がこの場所にこんなに早く着けたのは、ムーの場所を知ってるお前のおかげでもあるんだぜ?」
「っ!」
ソロの脳裏に、雪の中、バングレイに記憶を読まれたことが過ぎる。ムーの兵士、エランドを召喚した時、やはりこの場所を知られたことにソロは唇を噛む。
「笑えるな? 誇り高えムー人が、俺にわざわざムー大陸の場所を教えてくれるんだからよお!? バリバリバリ」
「……電波変換!」
すでに言葉は不要。そう判断したソロは、ブライへその姿を変える。
「キサマは、このムーの地にこれ以上足を付けることさえも許されない。斬る!」
その手に自身の名を冠するブライソードを持ち、バングレイへ斬りかかる。
だが。
「その前に……私と戦ってもらおうか」
「!」
ブライの剣を防ぐ、銀に輝く日本刀。
その名が十条姫和だと知る由もなく、その剣、小烏丸がブライに迫る。
「っ!」
ブライは剣を盾にしてそれを防ぐ。剣と剣の音が神殿に響いた。
「……キサマ……」
姫和より距離を置いたブライは、バングレイを睨む。
バングレイは更に二人の少女を侍らせている。それぞれがブライに並び、こちらを見つめている。
「悪いな、ムー人。お前とはもう戦ったし、何よりバリ倒したからな? こいつ等よりも強かったら、また狩ってやるよ」
バングレイの言葉が終わると同時に、日本刀の少女の体が白い光に包まれる。
色白の少女、東郷美森が白と水色の衣装へと変わる。
ボブカットの少女、小日向未来が歌う。
『Rei shen shou jing rei zizzl』
紫の光。それとともに、その姿は武骨な紫の装備で包まれていった。
「私と響の間を邪魔する人は、許さない……!」
呪われた声でそう告げた未来は、その目を獣の口のようなゴーグルで閉ざす。
敵は三人。その後ろでは、バングレイとエンジェルがただただ観察しているだけだった。
「自分では戦わずに、人形を出すのか? それは、ただの弱い奴がすることだ」
「ああ? 挑発のつもりか? んな安いモンに乗るわけねえだろ?」
バングレイは鼻を鳴らした。
「そのお人形を操れるのも俺の能力だからな? バリバリやらせてもらうぜ」
「ふん」
「やれ」
バングレイの号令とともに、三人は動き出す。
誰よりも素早かったのは、最初にブライへ剣を向けた姫和だった。その素早い突き技はブライも油断できるものではなく、彼女へ一撃返した時には、小さな攻撃を何度も受けた後だった。
「チッ……!」
ブライの右手に紫の輝きが発せられる。放たれた無数のブライナックルが、バングレイごと少女たちを砕こうと飛んでいった。
「我、陣営を防衛ス!」
だが、美森がその号令とともに、長い銃を撃つ。彼女の周囲にも無数に増えている銃からも同じように発砲され、ブライナックルは打ち落とされていった。
「もらった!」
爆炎より現れた姫和。鋭い日本刀が、ブライの体を貫こうとする。
だが、ブライの剣はそれを受け止める。斜めに向けた剣のすぐ頭上を、小烏丸が通過する。
「やるな」
姫和はそう述べた。
ブライはそれに答えることなく、ひたすらに剣技を放つ。ムーの地で仕込まれた剣技は、彼女の鹿島新當流に大きく食い下がっていった。
隙をつき、拳でアッパーをしかける。防御態勢を取った姫和は、それで隙が大きくできた。
足を回転させ、蹴り上げる。さらに、奥の敵たちごと、衝撃波のブライバーストで片付けようとした。
「させない!」
だがその前に、未来が鏡を投げる。鏡は、退避した姫和とブライバーストの合間に割り込んだ。すると、鏡より放たれた光がブライバーストを地面ごと吹き飛ばして消失させた。
さらに、その鏡は次にブライへ向けられる。鏡に自らの姿が映ったと思った刹那、鏡は紫に染まった。
「!」
ブライは危険を察知して飛び退く。鏡より発射された紫の光線が、ブライがいた場所を焼き尽くした。
更に、姫和が追撃してくる。
ブライは小烏丸を受け流し、彼女の体に蹴りを入れた。
「護国のために!」
そう叫ぶ美森は、姫和を受け止め、そのまま銃声を響かせる。
ブライはしゃがんでそれを避け、再びブライバーストを放った。また、未来がそれを防ごうと鏡を使う。
だが。
「無駄だ」
ブライは、そちらにブライナックルを撃つ。無数の紫の拳は、鏡を破壊し、さらに浮かんでいる未来にも命中。
「一つの太刀!」
ビリビリと雷のような音がブライの耳に届いた。見れば、姫和が雷光の速度で、ブライへ突き技を放ってきていた。
反応速度を上回る動きに、ブライは成す術なく腹を切られる。
「護国弾 穿通!」
「!」
追撃。美森の両手の長銃より放たれた弾丸に気付いたときにはもう遅い。ブライの体に刻まれた弾丸に、顔を大きく歪めた。
「今なら倒せる! 我、敵を殲滅ス!」
美森はそう宣言し、さらに二丁の銃で乱れ撃つ。両手に握った長い銃で、ブライを狙撃する。
「甘い!」
再び剣での戦いを挑む姫和を蹴り飛ばしてジャンプ。姫和の前、ブライがいた箇所を美森の銃弾が通過する。
さらにムーの遺跡の天井を足場に、美森へ一気に肉薄した。
「しまった……!」
焦った表情を浮かべる美森だったが、すでにブライは攻撃に入っていた。
だが、剣を振り下ろす直前、紫の光がブライソードを押し流す。
「っ!」
未来の鏡からの一撃。さらに、彼女は手に持った扇子のようなもので突撃してくる。
「次はキサマか」
扇子を受け流し、ブライソードを叩き込む。しかし、盾として出された鏡を破壊できず、退避以外の選択肢を取れなかった。
「煉獄」
未来が放ったそれは、円形に包む丸い装置だった。そこより光が放たれ、それはさらに鏡の反射により光線の無限の機動を可能にした。
だが、ブライはジャンプしてそれを全て回避。同時に、ブライナックルで鏡を破壊し、光線を無に帰した。
さらにそこから、一転攻勢。
ブライは、鏡を両断し、その持ち主である未来を殴り飛ばす。
さらに、ブライソードを振るい、発生した衝撃波で姫和と美森を薙ぎ払った。
「終わりか?」
ブライは三人に問いかける。
その時。ブライの腹に激痛が走った。
「がはっ!」
口からこみ上げてくる体の組成体。
「な……に……?」
ブライは、体を見下ろす。腹を貫く刃が、そこにあった。
「ばかな……?」
「ムーの誇り、だったか?」
その声は、背後から聞こえてきた。それは、静かに自分の肩に顎を乗せた。
「キサマ……エンジェル……!」
「残念だったなあ」
背後よりエンジェルの串刺し。エンジェルはそのまま、ブライの体をつるし上げる。
「があっ……!」
胸を貫く痛みに、ブライは悲鳴を上げる。
だが、それで止まるエンジェルではなかった。彼はそのまま、ブライを神殿の端___虚空が広がっているところへと連れてくる。
「ムー大陸最後の男よ。ムー大陸の地で、永遠の眠りにつくがいい」
エンジェルはそのまま、ブライを放り捨てる。
神殿の景色が回る。そのままエンジェル、そして三人の少女たちはどんどん遠くなっていった。
「バリ面白かったぜ」
ブライの姿が奈落へ沈んだ後、バングレイはそう言った。
「たまには他人の狩りを見るのも悪くねえな。なあ? エンジェル」
「そうだな」
エンジェルが頷いた。
「楽しんでいただけたようで何よりだ」
「バリバリ」
バングレイは「よし」と頷き、三人の少女へ告げた。
「お前ら。少し遊んで来い。面白い参加者を連れてきてくれよ。俺もそろそろ遊びたくなった」
「面白い参加者?」
日本刀の少女が聞き返す。
バングレイは頷き。
「強い奴、面白い奴、いたぶりがいがありそうな奴、いい声で鳴く奴。そういう参加者だ」
「友奈ちゃんも連れてきていいの?」
隣の、色白の少女が尋ねた。
バングレイは顎を掻き、
「どいつだよ、友奈って。ま、バリ面白ければ誰でもいい」
「私はいかない」
「ああ?」
自らに反抗する、ベルセルクにすがる少女。
彼女は動かないベルセルクの顎を撫でながら、バングレイへ視線を投げた。
「私は響と一緒にいる。いいでしょ?」
リボンが特徴的な彼女は、じっとバングレイを睨む。
バングレイは「ああ!?」と怒鳴りながら彼女へ近づいた。
「お前、分かってんのか? 俺の命令を聞かねえと、バリ消しちまうぞ?」
「それでも、私は響の元にいる。絶対もう離れない」
「チッ……仕方ねえ。なら、消え……」
「まあ待て」
指をならし、彼女を消そうとしたバングレイの腕を、エンジェルが止めた。
「まあいいではないか。ここに一人、オーパーツの護衛として残しておくがいい。私達の手間もかからん」
「……ふん」
バングレイは鼻を鳴らし、エンジェルの手を振り払った。
そして、二人の少女へ命令した。
「行け! この狩場で、いい獲物を取ってこい!」
その言葉とともに、緑と水色の少女は、祭壇より降りていった。
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