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歪んだ世界の中で

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第十二話 笑顔の親戚その三

「特に」
「特に?」
「そうした相手ではないですから」
 その照れ臭そうな顔での返答だった。
「誤解しないで下さいね」
「いや、僕何も言ってないけれど」
「あっ、そうですか」
「確かに友井君とあの娘がお話してるのは見たけれどね」
 だがそれでもだと。希望は優しい笑顔で真人に説明する。
「あの娘が誰とかはね」
「そうしたことはですか」
「特に悪く思わないから。むしろね」
「むしろですか」
「よかったじゃない」
「よかった?」
「うん。いいと思うよ」
 その優しい笑顔でだ。希望は真人に話すのだった。
「友井君にとってね」
「僕にとってですか」
「僕以外の誰かともお話ができてね」
「だからですか」
「僕だって千春ちゃんもいてくれるから」
「僕にも他に誰かがいても」
「それはいいことだよ」
 こう真人に言うのだった。
「人の交流って広い方がいい筈だから」
「それ故にですか」
「いいと思うよ。それでね」
「はい、あの娘のことについて詳しくですね」
「ははは、違うよ」
 そうではないとだ。希望は真人の今の言葉は笑って否定した。そしてそのうえでその真人に対してだ。明るくこう言ったのである。
「お昼だからね」
「あっ、お昼御飯ですか」
「何を食べる?」
 共にだ。どういったものを食べようかというのだ。
「友井君は何がいいかな」
「丼ものはどうでしょうか」
「丼もの?」
「牛丼はどうですか?」
 真人は微笑んでこれを出してきた。
「それはどうでしょうか」
「牛丼、いいね」
「しかも定食で」
「牛丼定食だね」
「はい、遠井君牛丼好きでしたよね」
「うん、結構ね」
 その通りだとだ。希望も真人に答えた。
「好きだよ。子供の頃からね」
「そうですね。ですから」
「一緒に牛丼定食を食べて」
「力をつけましょう。そうしましょう」
「わかったよ」
 真人のその言葉にだ。希望も応えた。そうしてだ。
 二人で食堂、千春と三人で行ったその食堂とは別の食堂に入った。見ればその食堂はあの食堂とは違いいささか和風な趣きが強い内装である。
 その店に入ってスライスされた牛肉と玉葱がふんだんに入っている大盛りの丼にだ。
 塩鮭に若布の味噌汁、卵に漬物、ほうれん草のひたしがあるその定食を注文してからだ。希望は真人と向かい合って座ってだ。そのうえで食べはじめた。
 まずはその若布の味噌汁、白味噌のそれをすすってからだ。希望は言った。
「美味しいね」
「お味噌汁もですね」
「やっぱり最初はこれだよね」
「そうですね。まずは一口飲んでから」
 実際に真人もその味噌汁をすすってだ。それから答えた。
「食べることがでるね」
「いいよね」
「はい、それに」
「それに?」
「お味噌汁はそれだけで素晴らしいものですよね」
「そうだね。何ていうかね」
「些細なものですが」 
 味噌汁がそうであってもだというのだ。 
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