真・恋姫†無双~俺の従姉は孫伯符~
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(俺+恋さん)÷民衆=ラーメン一杯二百元!
俺が董卓軍に入ってしばらくたったある日のこと。
お日様もポカポカと暖かい日差しをまき散らしている快適なお昼時に、俺は軍の先輩である少女……恋さんと一緒に街の警邏に出ていた。ちなみに、『恋』というのは呂布さんの真名である。あいさつ回りに出たその日に、ほとんどの人が真名を呼ぶのを許してくれた。なんて優しい人たちなんだろう。……どこかの緑髪眼鏡少女とは大違いだ。
「……雹霞……なんか、悪い顔してる……」
「え、えぇっ!? マジっすか!?」
もしかして顔に出ていたか? うぅむ、恐ろしや詠さんへの恨みつらみ……まさかポーカーフェイスで評判の俺が、顔色を変えてしまうとは……どんだけ恨んでいるのかって話だ。
ちなみに俺の感情の機微を鋭く悟った恋さんはというと、街中で差し入れとしてもらった食材をもきゅもきゅと頬張っている最中だ。とろんとした無表情な瞳や彼女の無邪気さも相成ってか、その姿はまるで小動物が一生懸命食事をしているかのよう。……やべぇ、これはマジで萌えだ。月様とはまた違った萌えの境地だ。
「……? どう……したの……?」
「な、なんでもないっすよ! あはははっ!」
あなたの食事姿に魅入っていました、なんて言えるわけがない。変態か俺は。
恋さんは俺のあまりにも不自然な言動に首を傾げたものの、すぐに興味を手元の食い物に移してしまった。現在頬張られているのは肉まんであります。
肉まん……そういえば、恋さんのアレもなかなか大きいよな……霞の姐さんもだけど……でも、やっぱり恋さんのもすっごい――――
「……雹霞……すごいいやらしい顔……してる……」
「はっ!」
くっ! なんてこった! これが肉まんの魔力だとでも言うのか!? いや、これは肉まんではないけれども! ……しかし、いいものを見せてもらいました。ご馳走様です。
とりあえず、二回ほど頭を下げて謝罪しておく。いくら可愛らしい美少女とはいっても、一応俺の先輩だ。身分云々関係なしに、無礼なことをしたのだから謝っておくのが筋と言うものだろう。
「すみませんでした!」
「別に……いい……。気にして……ないから」
恋さん、意外にもあっさり許してくれました。こういったことには無頓着なのか、しつこく文句を言う気もさらさらない様子。う……それはそれで罪悪感が押し寄せてくるのですが……。
なにか代わりによさそうなものはないか、周囲を見回してみると……。
「……あ……」
恋さんの手中にあったはずの食材が、いつのまにか全滅してしまっているのを発見。
これは……好機!
俺は懐から財布を取りだし、有無も言わせず恋さんの手を引っ張った。
「恋さん! お腹すいたでしょ!? 今から俺とラーメン喰いに来ませんか!」
「……うん、行く」
「よし来た! それじゃあすぐに行きましょう!」
うし! 恋さんが大喰らいで助かった! 結構手軽なところでお返しが出来そうだぞ。
とりあえず、適当に店を探していく。洛陽はでかい街だから、こういった食品店の種類に困ることはない。色々な人たちが出稼ぎに来ているし、豊富さは大陸屈指だろう。
ラーメン屋は、すぐに見つかった。う~ん……スープの良い匂いが空腹に染み渡るぜ……。
すると、「く~」という可愛らしい音が俺の隣から聞こえた。見ると、恋さんがわずかに顔を赤らめながら恥ずかしそうに俯いている。……どうやら、今のは彼女の腹の音のようだ。
恋さんは俺の袖を掴むと、潤んだ瞳をこちらに向け、言った。
「雹霞……おなか……へった……」
「……アメージング……」
素晴らしい。これはもはやランク付けするのもおこがましいほどの可愛さだ。五つ星を進呈しよう。
しかし、このまま恋さんの可愛さに悶えていては彼女が飢え死にしてしまう。比喩表現なんかじゃなく、ガチの方で。
俺は必死に視線を向けてくる恋さんに優しく微笑みかけながら、赤い暖簾をくぐった。
「へい! らっしゃい! お、これはこれは! 孫瑜さんに呂布さんじゃねぇか! 仕事中かい?」
「どうも。ま、そんなところですね」
店に入ると、店主らしき人物の威勢のいい声が俺達を出迎えてくれた。ちなみに言っておくと、俺とこの人は初対面である。だが、度重なる仕事のおかげで、俺はいつのまにかこの街でもそれなりの知名度を誇るようになっていた。今ではこのように、顔を合わせたことがないような人にまで、挨拶をしてもらえるまでになっている。うん、俺頑張った!
やけにハイテンションな店主さんに案内され、二人掛けの丸テーブルに落ち着いた。
「そんじゃあラーメン五人前よろしくお願いします」
「五人前? まだ誰か来るのかい?」
注文数と人数が釣り合わないためか不思議そうに首をひねる店主さん。うん、言いたいことはわかるよ、おっさん。俺も最初は信じられなかったけどさ……。
ちらり、と恋さんを一瞥し、苦笑交じりに、
「……ちょっと、育ち盛りの武将サマがいてさ……」
「あー……よし、了解だ! 腕によりをかけてそのすきっ腹を満足させるご機嫌なデキのラーメンを作ってきてやるぜ!」
どうした店主。突然の熱血キャラは周囲がついていけないぞ。
若干心配が残るものの、料理が来るまでの間大人しく待つしかあるまい。恋さんと雑談でもしておこう。
さて、何を話したものか――――
「……ん?」
会話のきっかけを模索しようとした矢先、俺の視界にストラップらしき物体が映り込んだ。
茶色い毛並みの子犬。恋さんが自室で飼っているセキトにそっくりなストラップが、奉天画檄の石突の部分にちょこんとくっついていた。誰かからの贈り物だろうか……?
俺の視線に気が付いたのか、恋さんは「あー……」と普段通りのスローモーな動きで口を開いた。……どこか穏と被ってしまうように思えたのは気のせいではあるまい。のんびりしているとこがマジでそっくり。……巨乳は穏健思考なのか?
「これ……気になる、の……?」
「えぇ、まぁ。自分で買ったんすか? ソレ」
「うぅん……。……ちんきゅーが、旅先の露店で買ってくれた……恋が、犬好きだからって……」
「げぇ……ネネのやつがぁ……?」
俺の脳裏に踏ん反り返ったフランダース主人公もどきの得意気な顔が浮き上がる。
ソイツの名前は陳宮。恋さんを異常なほど慕っているチビスケで、なぜか他人を見下しているよくわからない小娘だ。……なぜだろう。似たような奴が魏国にいるような気がしてならない。なんかこう……猫耳フード被ってそうな……気のせいか。
ちなみに真名は『音々音』である。なんと読みにくい名前だろうか。同音が三個続くとか普通に嫌がらせだと思う。親はどういう考えで名前を付けたのか小一時間ほど問い詰めたい。
俺の渋面に、恋さんはクスリと微笑む。
「雹霞は……ちんきゅーと、仲良しさん……」
「ないです。俺があんな生意気娘と仲が良いなんて、天地がひっくり返ってもあり得ません」
「……じゃあ、逆立ちすればいいの……?」
「どういうことですかそれは……」
おそらく『逆立ちすれば天地がひっくり返る』という屁理屈を言いたいのだろうが……恋さん、あなたに冗談は似合いませんよ?
「でも、雹霞はいつも……ちんきゅーと楽しそうに話してる……」
「誤解です。あのチビは詠さんとグルになって俺を虐めているだけですよ。嗜虐趣味の二人が客将を弄っているんです」
まぁあまりにひどいときは「俺、一応王族なんだけど!」という必殺技を使わせてもらってはいるが。あちらさん達もさすがに呉国と争う気は毛頭ないらしく、結構すんなりと矛先を収めてくれてはいる。……というか、どうで引っ込めるなら最初から刃を向けるなと心から言いたい。
「喧嘩するほど赤ガニって言うし……」
「仲が良いの間違いではないでしょうか」
なんだその想像してみると絵面的に愉快なことわざは。喧嘩をすればするほど甲殻類になるのか。それは御免こうむりたい。俺はできれば人間でいたいので。
「……二人とも仲が良いねぇ」
と、穏やかな声と共にラーメンをお盆いっぱいに抱えた店主さんがやってきた。独りだけで五人前のラーメンを運んでくるとは……さすがはプロだな。侮れない。今度ご教授願うか?
店主さんは不安定な体勢ながらもしっかりと料理を並べると、「ふぃー」と右肩を気怠そうに回した。
「お疲れ様です。大変だったでしょう?」
「いやいや、俺達はこれが仕事だからね。これくらい屁でもないさ。それに、アンタ達の苦労を考えると、この程度で音を上げるわけにはいかないだろう?」
「いえ……俺達も言うほど苦労はしてないと思うんっすけど……」
「そんなことはないさ! アンタ達はよくやってくれているよ!」
途端に大声をあげる店主さん。あまりの気迫に隣で一心不乱にラーメンをすすっていた恋さんが一瞬ビクゥッと肩を震わせてしまっていた。一騎当千の武将をビビらせるとか店主さんアンタ何者だ。
店主の大声に、周囲の一般客の皆様も反応を示す。
「そうだよっ。呂布様達が頑張ってくれているから、僕達はこうして平和に暮らしていけるんだ!」
「孫瑜さんもありがとう!」
「いつも感謝しています!」
「え、えと……はぁ……」
ちょっ、なんか気恥ずかしいんですけど……素直な感謝って受け取る方はめっちゃ狼狽えるよなぁ。
ていうか、こんな状況でも飯に夢中な恋さんはある意味凄いです。マジ尊敬です。
「昔はこの街も荒れていたんだが、董卓様が領主となってからは見る見るうちに平和で豊かな街になったのさ。今や大陸でも一、二を争うほどの大都市になっているようだしね」
「まぁそうですね。洛陽といえば田舎の子供でも知っているくらいですし」
「そう。だから、アンタ達は誇っていいのさ。自分の頑張りをな。謙遜する必要なんてこれっぽっちもないんだよ」
そうしてくれないと俺達がバカみてぇだわ。と自嘲気味に笑う店主さんを見ながら俺は一人考える。
そういえば、雪蓮は自分の仕事を誇りに思っていたな。自分がこの街を治めていることを、誰よりも自慢気に……まぁ、アイツの場合は自由奔放な性格も相成っているだろうが。
少しだけ、店主さんの言っていることが分かった気がした。
「ありがとう、ございます」
「いいってことよ! それじゃあ、とりあえず後二人前頼んでもらおうかな?」
「え゛。い、いやぁ……ちょっと辛いかなぁ? お財布的に」
「頼むぜ、武将サマ方!」
「あれぇ!? さっきまでの尊敬心はいったいどこにいったのかなぁ!」
……やはり、人間というものは侮れない。
素直に、そう思った。
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