歪んだ世界の中で
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第十一話 テスト勉強その八
「一度もね」
「そうなの。一度もなの」
「一学期は。もっと暗く感じたよ」
「こんなに明るい校庭も?」
「そうは見えなかったよ」
かつてはだ。そうだったというのだ。
「もっと暗くて。どんよりとして」
「気持ちが暗いと」
「明るくても暗く見えるからね」
「そう。だから」
それ故にだというのだ。そしてだ。
希望は暖かい目でだ。千春に言った。
「校庭っていい場所だよね」
「そうだよね」
「他の場所もね」
そしてそれはだ。校庭だけではないというのだ。
「何処もいい場所だよね」
「そのことも今わかったんだね」
「ずっと気付かなかったのかな。いや」
「いや?」
「思えなかったのかな」
そうではないかというのだ。これまでの希望自身がだ。
「あまりにも気持ちが暗くて」
「そのせいなのね」
「けれど今はね」
「違うんだ」
「千春ちゃんに会ってから変わったよ」
気持ち、それがだというのだ。
「完全にね。それじゃあこれからだけれど」
「これから?」
「一緒にこうしてね」
校庭を進もうというのだった。そしてだ。
二人で校内を歩いて楽しんだのだった。校内でのささやかなデートを。
希望は自然と明るい顔になった。その顔を見てだ。周囲はひそひそと話した。
「何だよあいつの顔」
「随分嬉しそうだな」
「夢野さんといつも一緒にいてな」
「あの友井と一緒にいるだけじゃなくてな」
「何だよ。いつも一緒にいてな」
「笑ってな」
その笑うということ自体がだ。彼等にとっては気に喰わなかった。
それでだ。忌々しげに言ったのである。
「何で笑うんだよ」
「笑える立場かよ」
「成績jはビリ、運動神経もゼロでな」
「友達は友井しかいない一人ぼっちなのにな」
「それが夢野さんと一緒にいるだけで」
「あんなにへらへらしてな」
「明るくなりやがって」
こうひそひそと話す。そしてこの噂話は希望の耳に入った。しかしだ。
そう聞いてもだ。今の彼はだ。
平然としていた。そのうえでプールで千春と一緒に泳いでいる。その希望にだ。一緒に泳ぐ千春はだ。にこりと笑いこう言ってきたのである。
「あのね。今こうしていてね」
「うん、楽しいよ」
「そうだよね。とてもね」
「聞いてるよ」
にこりと笑って。何も屈託のない顔でだ。
希望はだ。こう言ったのである。
「皆の言ってることはね」
「ああ、あのことね」
「そう。正直あんなの聞いてもね」
「何にもならないよね」
「そのこともわかったよ。陰口なんてね」
それもだ。どうかというのだ。
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