| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

天才少女と元プロのおじさん

作者:碧河 蒼空
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

夏大会4回戦 アンツ······馬宮高校
  30話 1番センター三輪正美

 馬宮高校VS新越谷高校は午前11時30分プレイボールとなる。

 本日のオーダーは、1.三輪正美(中)、2.藤田菫(二)、3.中村希(一)、4.岡田怜(左)、5.山崎珠姫(捕)、6.川崎稜(遊)、7.藤原理沙(三)、8.大村白菊(右)、9.川口息吹(投)。

「······武田さん控えだね」

 マウンドに上がる息吹を見て唖然とする西田だったが、村井の指摘が耳にはいるとすぐに気持ちを切り替える。

「武田だろうが川口だろうが私達は負けない······じゃなかった勝つ!」

 しかし1回の表、馬宮高校の攻撃は出塁こそあったものの、究極複製投法で詠深を模した息吹の前に後続を絶たれて無得点に終わった。

 1回の裏、新越谷の攻撃。先頭打者は本大会初スタメンの正美。左打席に立つと2、3度外角低めギリギリのストライクゾーンにバットを通過させてからバットを構える。

 2球見送ってB1ーS1となった3球目、快音と共に放たれた打球はセカンドの頭を越え、ライト前に落ちた。正美は一塁で止まる事なく二塁へと走る。それを見たライトは慌てて二塁へ送球するが、白球よりも早く正美の足が二塁へと滑り込んだ。

「セーフ!」

 正美の好走塁に新越谷の三塁側ベンチが沸き上がる。

「出た!正美のライト前二塁打!」
「正美ちゃんナイバッチー!」

 稜、芳乃を始めとしたベンチからの声援に正美は両腕をブンブン振って応えた。

 この後、菫の進塁打と希の安打で新越谷は1点を先制する。

――正美ちゃんが1番に入ってくれると希ちゃんを3番に置けて、キャプテン・タマちゃんとの強力クリンナップを組めるから得点力が更に上がる。もしくは正美ちゃんが2番で、菫ちゃんを下位打線に据える事で後ろに厚みを持たせても面白い。やっぱり正美ちゃん控えはもったいないよ~。

 芳乃は正美が頭から出場する場合の戦略や、どうしたら正美の要望を叶えつつより多く出場してもらえるか思案していた。

 正美の要望とは勿論、誰からもレギュラーの座を取り上げたくないというものである。今回、正美のスタメン出場は絶対的エースである詠深の休養という大義名分があって叶ったものなのだ。

――いけない。試合に集中しないと。

 芳乃は意識を試合に戻す。

 正美の第二打席は3回に回ってきた。ノーアウトで一塁には息吹がいる。ベンチからはノーサイン。正美はバントの構えを取った。

 初回に正美が見せた足を警戒し、加えてあわよくばセカンドでランナーを刺そうと、ピッチャーが投球モーションに入った瞬間にファーストとサードが猛チャージを掛ける。

 元々バントするつもりの無かった正美だが、ファーストとサードの動きを察し、バットを引かずに芯で白球を迎え入れた。打球は転がる事なくふわりと浮き上がる。

 ファーストは白球にグラブを伸ばすが、打球はその先を通過し内野グラウンドへ落ちた。セカンドが白球を拾うが何処にも投げることができずオールセーフ。正美は先程の走塁に続いて技ありのプッシュバントを披露した。

 打線は再び繋がりを見せ、この回4点を加える。

 先発の息吹は4回、ピンチを迎えながらも無失点。4イニング0失点の好投でマウンドを正美に譲った。






 バックネット裏のスタンドに梁幽館高校の制服に身を包んだ乙女二人が座っていた。野球部主将の中田 奈緒にマネージャーの高橋 友理である。

「コントロール良いですね。ストレートも速くはありませんが、伸びは良さそう。緩急を使って打たせて取るピッチング。武田さんと比べると見劣りしますが、山崎さんのリードも相まって簡単には打ち崩せないでしょうね」

 友理は正美のピッチングをそう評価する。

「ああ。それにしても、三輪さんから今日の試合で投げると聞いたときは驚いたよ」

 今日の試合を見に来ることは中田があらかじめ正美に伝えており、その時に正美自身から二番手で投げることを知らされた。

「センター、ショートに続いてピッチャーですもんね」

 先の試合前での守備練習にて、正美は最初センターでノックを受けていたが、途中からショートに移動している。最終回に守備についたのもショートだった。

「本人曰く一通り守れるから決まったポジションは無いらしいぞ」

 中田はLIONEで正美の本来のポジションについて聞いたのだが、デフォルメされたハリネズミのアイコンから飛び出した吹き出しに“決まったポジションは無いですねー。一通り守れるので欠員が出たり、代打や代走で出たらそのままそこに入ります!”と表示されていた。

「全ポジションですか!?······三輪さんがうちのベンチに居てくれれば、もっと思いきった起用ができましたね」

 梁幽館の控えにはバッティングが買われてメンバーに選出された者がいる。そういった選手は多少お粗末な守備にも目を瞑られているが、その守備力故に出場機会も限られていた。だが、もしも梁幽館に正美のようなユーティリティプレイヤーが一人居たのなら、そういった選手達をもっと積極的に起用できる。守備で立たせる事なく交代してしまえば良いのだから。

「でも、いくらスーパーサブの適正が揃ってるからといって、三輪さんを差し置いて初心者二人をレギュラーにする理由が分かりません」

 高橋は正美を知れば知るほど、彼女が控えにいる理由が分からなくなる。

「······そうだな」

 実は中田は新越谷との試合の後、指揮官の芳乃にその理由を聞いていた。

――自分がレギュラーになる事で誰かを悲しませたくない······三輪さん、それは仲間に対する侮辱だよ。

 だが、中田はその想いを表に出すことは無かった。






 正美は途中、三塁に打球が直撃する不運な安打を浴び、そこから失点してしまったが、3回1失点(自責点0)と中々の成績を納めた。

 試合結果、馬宮高校1ー9新越谷。新越谷、五回戦進出。 
 

 
後書き
 正美のプッシュバントのイメージは動画の1:21からのプレーに近いです。
https://youtu.be/Ta7ydONSLwk




 この話を書いている時に思ったのですが、“U-18女子野球ワールドカップ”とか書いたら中田さんと正美を共闘させることができるなー、と。(書くとは言っていない) 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧