天平のタイムマシン
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第一章
天平のタイムマシン
ある役人が大仏の建立にあたっている行基にこんなことを聞いた。
「飛鳥の方に不思議な場所があると聞いているのですか」
「ああ、あの地ですか」
「はい、あの地はかつて宮がありましたが」
「それはあれですね」
行基はその皺が多い穏やかな顔で役人に答えた。
「何か室の様な」
「墓所とも言われていますが」
「あの場所のことは拙僧も知っています」
「そうやもと思いまして」
学識のある行基ならというのだ。
「この度お聞きしましたが」
「そうでしたか、拙僧はあの地にもよく行ったことがありまして」
「それで、でか」
「あの場所のことも知っています、新月の日が変わる時にですね」
「その時にあちらに行けば」
「一晩の間不思議な場所に行ける」
「そう聞いております」
こう行基に話した。
「それがまことか」
「そのことは」
「拙僧も一度試しにです」
「そこに入られて」
「行ってみましたが」
その場所にというのだ。
「いや、何と厩戸皇子様がです」
「あの方がですか」
「飛鳥の地におられました」
「何と、それが見えたのですか」
「はい、不思議なことに」
「まさに不思議ですな」
役人もその話を聞いて言った。
「実に」
「はい、ただすぐに帰ってしまいました」
「こちらにですか」
「そうなりました、あれは夢か」
「夢を見る場所ですか」
「そこまではわかりませぬが」
行基は役人に話した。
「拙僧がこの身で知ったことです」
「それでもですか」
「実際に新月の時に」
「日が変わる時にですか」
「はい、亥の刻からです」
「子の刻に変わる時に」
「そこにいれば」
その場所にというのだ。
「確かに不思議な場所に行けます」
「そうなのですね」
「このことは偽りではありません」
「では私も」
「はい、試されれば」
新月の日が変わる時にというのだ。
「皇子にお会い出来るやも知れませぬ」
「そうなのですね」
「試されてはどうでしょうか」
「わかりました、あの地に行く時があれば」
飛鳥にとだ、役人は行基に強い声で答えた。
「試してみせます」
「その様に」
こう話してだった。
実際にだ、役人は幸いにして行基と話してから暫く経ってから飛鳥の地に帝の命で行くことになった、その命を無事に果たし。
そのうえでだ、彼は供の者に笑って話した。
「行基様に言われたが」
「大僧正様にですか」
「うむ、石で造られた室に行き」
そうしてというのだ。
「新月の日のまさにその時にその中に入るとだ」
「どうなるのですか」
「厩戸皇子様にお会い出来るらしい」
「あの方にですか」
「そうらしい、あの方が言われるにはな」
行基、彼がというのだ。
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