提督はBarにいる。
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艦娘と提督とスイーツと・61
~鹿島:バスク風チーズケーキ~
「わざわざありがとうございますっ、提督さん♪」
「いやまぁ、チケット当選者の要望だからいいんだけどよぉ……。俺も初めて作るから味は保証せんぞ?」
「大丈夫です、私もお手伝いしますから!」
今年のバレンタインデー及びホワイトデーは散々だった。何しろ世界的に例のウィルスのお陰で流通が滞るわ、ワクチン運搬の為の護衛に駆り出されまくるわで、艦娘も俺も菓子を作ってる暇なんぞ無かった。まぁそのお陰で金だけはかなり儲けさせて貰ったが。そうして一段落着いた所で、毎年恒例のホワイトデーチケットの抽選会だけ執り行われた。400を越えてもうすぐ500に届こうかという所属艦娘に対して、チケットは以前の倍になったとはいえ僅か20枚。倍率にして20倍以上の狭き門だ。そんな抽選率の中、1番にチケットを引き当てたのが鹿島。ウチの鎮守府でも姉の香取を含めて2人しか居ない練習巡洋艦の艦娘だ。
「それに、基本的に私も香取姉も暇ですから、えぇ……」
と、遠い目をする鹿島。何しろウチはキッチリとした訓練プログラムを組んでいるせいで、練習巡洋艦の仕事が無いに等しい。なので普段は事務関係や広報の方の所謂裏方仕事に回ってもらっているのだが、やはりそこは艦娘。演習だろうが実戦だろうが、戦ってこそナンボという意識が強いらしい。
「いやホラ、縁の下の力持ちっつうか。ホント事務方の連中には感謝してんだぜ?俺も皆も」
「わかってますよーっだ。ちょっとワガママ言って提督さんを困らせて見たかっただけです、うふふっ♪」
「こいつめ」
さて、じゃれあいはコレくらいにして早速始めようか。今日作るのは『バスク風チーズケーキ』だ。
《お家で作れる!?バスク風チーズケーキ》※分量:15cmケーキ型分
・クリームチーズ:400g
・グラニュー糖:100g
・卵:3個
・コーンスターチ:大さじ1
・バニラエッセンス:少々
・生クリーム:200cc
・バター:少々
「まずはクリームチーズを室温に置いて置いて柔らかくして、ゴムへらや泡立て器等で滑らかになるまで練る……と」
「提督さんでもレシピ見ながら作ったりするんですねぇ」
「そりゃあな。知らんモンは作れんよ」
「えへへ、結構意外です」
「さよか」
クリームチーズが練れたら、そこにグラニュー糖を加えて混ぜる。砂糖のジャリジャリ感が無くなる位が目安だな。そこに更に卵、コーンスターチ、バニラエッセンス、生クリームを順次加えて、その都度混ぜる。
「ひたすら混ぜてばっかりですね……」
「大体のチーズケーキはこんなもんだぞ?ひたすら混ぜて生地を作ったら、焼く。楽なもんだぞ?」
ケーキとしちゃあ比較的簡単な方だ。一日中生地を作って焼き上げ、クリームを泡立て、デコレーションする……パティシエがガテン系の仕事だってよく言われる由縁だな。
「……これからは間宮さんのスイーツ、もっと感謝して食べよう」
「そうしとけ」
「えぇと、次は……生地が出来たらケーキ型にバターを塗り、それを接着剤代わりにしてクッキングシートをケーキ型に張り付ける、と。はみ出した部分は切り取ってくれ」
「は~い。次はどうするんです?」
「後は生地を流し込んで、250℃に余熱したオーブンで30分焼き上げる」
「へ?もう終わりですか?」
「だなぁ。後は後片付けして、焼き上がりと待つとするか」
~後片付け後~
「そう言えば、『バスク風チーズケーキ』って呼び方は日本独特らしいぞ?」
「え、そうなんですか!?」
調べてみた所、スペインとフランスの国境を跨ぐ様にしてバスク地方と呼ばれる地域があり、バスク語と呼ばれる独特の言語を話すバスク人が住んでいる地域らしい。そのバスク地方のスペイン側、サン・セバスティアンという都市にあるラ・ビーニャ(La Viña)って店の名物が黒焦げに見えるチーズケーキなんだとか。しかもその店のメニューでは『タルタ・デ・ケソ(スペイン語でチーズケーキを指す)』の名で提供されており、特にバスク風とかは付いてないらしい。
「ほぇ~、そうなんですか」
「まぁ、その元祖の店がレシピを公開しててな。その辺の酒場なんかでも出してる店はあるみたいだぞ?」
「やっぱり名物なんじゃないですか?それ」
「わざわざ日本人の地域おこしみたいに『〇〇名物!』みたいにオーバーな宣伝してないって事だろ?多分」
ウチのチーズケーキ美味いだろ?作り方教えてやるよ!みたいなノリな気がする。
「そう言えば、鹿島は何でこんなチーズケーキの事知ってたんだ?」
「あ~……ホラ、広報活動の一環って事で、期間限定でコンビニでアルバイトしたじゃないですか」
「あ~、〇ーソンでな」
「ですです、その時陳列棚にバスク風チーズケーキが並んでまして」
「ほうほう」
「気にはなったんですけど、流石に焦げてるチーズケーキに手を伸ばす勇気が出なくて……」
「物は試しに俺に頼んでみよう、と?」
「……はい」
「ま、良いけどよ」
と、キッチンの方からチーン♪と小気味良いベルの音がした。どうやら焼き上がったらしい。
「うわ、本当に真っ黒だな」
「食べられるんですかね……?」
オーブンから取り出すと、ケーキ型からはもうもうと煙が上がっている。その表面は、調べた時に見た写真の通りに真っ黒。型から取り出してクッキングシートを剥がしてみると、側面も底面も見事に真っ黒。一瞬『炭の塊じゃねぇのか?』と疑いたくなる見た目だ。この焦げは高温で焼き上げた事によって表面の生地の中のグラニュー糖がカラメル化して、皮膜の様になっている物……らしい。
「言われてみれば、ちょっとカラメルソースの様な香りが……」
鹿島は期待感に胸を躍らせながら、ケーキに顔を寄せてクンクンと匂いを嗅いでいる。
「さて、仕上げに……」
「切り分けて、盛り付けですね!」
「粗熱が取れたら冷蔵庫で一晩寝かせる。切って食べるのはそれからだ」
「へっ?」
鹿島はポカンとした顔をしている。呆気に取られた顔、ってのはこういう顔の事を言うんだろうなというお手本の様な顔だ。
「今すぐ、食べられないんですか……?」
「あぁ、正式な作り方でも少し寝かせてから食うらしいぞ?」
「そ、そんなぁ…………」
鹿島はその大きな瞳をうるうるさせて、今にでも泣き出しそうだ。
「んで、コレが一晩寝かせたチーズケーキになりまーす」
そう言って俺は予め昨晩作っておいたバスク風チーズケーキを取り出す。俺だって料理人の端くれだ、客に出すものをぶっつけ本番で作る訳ねぇだろうがよ。騙された、と気付いた鹿島の顔が、一瞬にして真っ赤になる。そして、
「提督さんのバカバカバカ~っ!鹿島を騙したんですね!?」
河豚みたいな膨れっ面で、俺の胸板をポカポカと殴ってきた。勿論、じゃれつく程度の力加減でだが。
「やっぱり美人は得だなぁ、膨れっ面でも可愛いぞ?鹿島」
「も~っ!知りませんっ!」
なんて事を言いながら、その後しっかりとチーズケーキは食ったんだけどな。味としてはパリパリのカラメルの部分の苦味がいいアクセントになって、中のしっとりとしたチーズケーキ部分の味を引き立てていて非常に美味かった。甘さ控え目のベリーのソースとかジャムを添えてもまた美味い。それとこのチーズケーキ、酒場で提供されてるって話の通り、洋酒に合うんだよコレが。オススメは赤ワイン、ウィスキー、コニャックなんかのチーズに合う酒は大体イケるぞ?自炊好きの飲兵衛諸君は是非試して見てくれ。
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