魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第289話「無限の可能性」
前書き
“性質”の枠組みを外れた神には、二種類います。
ユウキのように、“性質”の縛りから外れた所謂超越者のタイプと、奏が戦った“防ぐ性質”の神のように、自らの在り方を否定したがために歪んだタイプです。
後者は半ば暴走しているような状態なので、前者よりは強くありません。代わりに、“意志”の通りが悪くなっています。
「ッ!」
最初に動いたのは、優輝と帝だ。
優輝の創造魔法による剣が“意志”と共に放たれ、帝が並走するように肉薄する。
「くっ……!」
精神を揺さぶられていたイリスは、僅かに反応が遅れる。
すぐさま“闇”による触手で剣を弾き、帝を迎撃しようとする。
だが、帝は気弾を飛ばしそれを目晦ましに背後に瞬間移動した。
イリスはそれにも対応するが、障壁で防いだ際の威力に体を僅かに動かされる。
「“呪黒剣”!!」
そこを、葵が狙い撃つ。
足元から剣を生やし、イリスの体を浮かせる。
ダメージ自体は防がれたため無傷だが、一瞬でも空中に浮いた事実があればいい。
「はぁっ!!」
緋雪が上から追い打ちする。
大剣を振り翳し、力の限り地面へと叩きつける。
「おおッ!!」
障壁で大剣を防がれ、触手で帝も緋雪も退避させられた。
そこへ、神夜が“意志”による極光を放つ。
「ふッ!!」
さらに、優輝がその極光の中を通り、正面から掌底を放った。
味方の攻撃だからこそ出来る荒業だ。
「……ッ!」
しかし、通じない。
“闇”が掌に集束し、それによって極光も掌底も防がれていた。
「っつ……!」
背後からの奏が奇襲する。
イリスは、それを見もせずに“闇”の柱を生やす事で阻んだ。
「(まさか!?)」
さらに、イリスはその柱を掴み、刀を引き抜くように刃を手にする。
その刃で奏と優輝の追撃を防ぎ、転移で離れた。
「司!この柱を打ち消せ!」
「形成、“エラトマの箱”!」
優輝の指示とイリスの行動は同時だった。
すぐさま司はイリスへと放つつもりだった“祈り”を柱に差し向ける。
しかし、柱が“闇”の立方体になる方が先だった。
「ぐっ……!?(“闇”の力が、強い……!)」
“祈り”の極光がエラトマの箱を呑み込む。
だが、圧縮された“闇”はそこから全員の“領域”を蝕もうと“闇”を放つ。
「あぐっ!?」
「これで二人、抑えました」
その一連の流れに動揺していた帝達の内、葵が狙われた。
“闇”の棘で串刺しにされ、バラバラに引き裂かれる。
「ちぃッ!」
優輝と帝がすぐさまイリスへと肉薄する。
何かに気を取られれば、即座にイリスはその隙を突いてくる。
司もエラトマの箱を破壊するために身動きが取れず、この時点で二人が抑えられた。
「ッッ……!」
二人は飛び退き、振るわれた触手を避ける。
そして、反撃に出る前に奏と神夜が挑みかかる。
奏は持ち前の速さを生かし、神夜も“意志”の剣を手に全力で攻撃を繰り出す。
「はぁっ!!」
しかし、転移によってそれも避けられる。
それどころか、転移直後に触手が振るわれ、優輝と帝以外が避け切れずに薙ぎ払われ、さらには“闇”による閃光が間合いを離していた緋雪を射抜いた。
「ッ!?」
直後、イリスは半身を逸らす。
同時に、胸の上を僅かに切り裂かれた。
「あたしが吸血鬼なの、知らなかった?」
「蝙蝠になって隠れていましたか……!」
先ほど切り裂かれた葵が、蝙蝠へ姿を変えて反撃に出たのだ。
尤も、蝙蝠状態では大した攻撃が出来ないため、人型に戻る必要があった。
それによってイリスに感づかれ、僅かに切り裂くに留まったのだ。
「っ……!」
さらに、強力な魔力弾が連続で触手に命中する。
見れば、エラトマの箱の対処をしていたはずの司が魔力弾を放っていた。
「私もただの人間じゃないんだよね」
そう言ったのは緋雪だ。
先ほど閃光に射抜かれた緋雪は分身によるデコイだったのだ。
本物の緋雪は認識阻害魔法で気配を消しつつ、エラトマの箱に“破壊の瞳”を使用し、司の手助けをしていた。
「出し惜しみはなし。数の差を生かさせてもらうよ!」
再び緋雪は分身魔法を使用し、三体の分身を繰り出す。
本来なら魔力か体力を代償にしなければ大した強さがない分身だが、そこは“意志”で補う事でカバーする。
「向こうも全力だね……」
それを援護するように、司が“祈り”による魔力弾を連発する。
だが、その全てが触手で相殺されている。
「ッ!!」
その時、イリスの全方位から斬撃が繰り出された。
しかし、全て障壁で防がれてしまう。
「分身は、緋雪だけの技じゃないわ」
「っ……なんて鬱陶しい……!」
攻撃したのは奏の分身だ。
緋雪の分身と連携を取り、玉砕前提で物量による攻勢を見せていた。
「くっ……!」
それでも押し切る事は出来ない。
イリスも対応し、司の魔力弾には“闇”による弾幕を、緋雪と奏の分身には触手を割り当て、的確に対処していた。
さらに、葵や優輝の攻撃も触手で受け止め、決して肉薄させない。
「ッ、お、おおッ!!」
帝や神夜に対しては、引き付けた上で極光を放ち、上手く動きを誘導していた。
「司!」
「うん!」
―――“Prière sanctuaire”
“闇”を振りまくような立ち回りに、優輝は感づいて司に指示を出す。
司もイリスが何をするつもりなのか察し、“闇”に対する防壁を築く。
―――“έκρηξη σκοτάδι”
「気づきますか……!」
“闇”が粉塵爆発のように炸裂する。
しかし、先に司が防壁を築いたため、爆発に塗れても優輝達は無傷だ。
「ふっ!」
即座に優輝が反撃に出る。
巨大な剣をいくつも創造し、“意志”と共に射出。
触手で弾かれるが、命中した触手が撓み、怯ませた。
「おおおおおッ!!」
さらに、弾かれた剣を帝が掴み、一気に薙ぎ払う。
これにより、怯んだ触手が一気に断ち切られる。
「射貫け!」
「そこッ!」
薙ぎ払われた所を、神夜と葵が閃光で攻撃する。
どちらも“意志”が伴っており、尚且つ連撃だ。
まともに防げばイリスも動きを止めざるを得ない。
「読み通り!!」
故に、イリスは転移で避けた。
そこを、緋雪の本体が大剣で斬りかかる。
「まだです!」
「ッ……!?」
しかし、イリスはさらに成長を見せる。
緋雪の攻撃を圧縮した“闇”で捌き、さらに背後に迫っていた奏の連撃も触手によって全て受け止め、防ぎきった。
「ちぃッ!」
おまけに、肉薄していた帝の蹴りも再び転移で躱される。
「(ここまで全体を見れているとはな……)」
一対多の場合、相手全体を把握する事は難しい。
どうしても目の前や目下対処している相手に意識が向いてしまう。
その上で、隠れるように行動している存在を見逃してしまうのが普通だ。
それを、イリスは把握していた。
それほどまでに戦闘技術が高まっているのだ。
「(こうなると―――)」
「私も参戦すべきね」
緋雪達の追撃を転移で翻弄するイリスの下へ、理力の斬撃が飛ぶ。
「ここに来て、まだ……!?」
「温存して、正解だったわね」
転移で躱したイリスだが、即座に追撃として肉薄される。
そして、肉薄した張本人たる優奈は、そのまま障壁を切り裂き理力を叩き込んだ。
「ッ……!」
「これも防ぐ、と。本当に成長したわね」
ここに来て、万全ではないものの体力を温存していた優奈の参戦。
それにより、ますますイリスは不利になる。
「―――まだ」
……だが。
「まだですッ!!」
その上で、イリスは底力を発揮する。
まるで、限界を超えて“勝利の可能性”を掴み取るかのように。
「シッ!!」
振るわれる“闇”の触手に対し、優奈は理力を圧縮して対抗する。
不定形な武器となるその理力で次々と触手を相殺した。
「(拮抗……いえ、底力で押されている!なら……!)」
“可能性の性質”という突破力を以ってしても、相殺止まり。
そうなれば、押し負けるのは優奈の方だ。
故に、優奈はユウキと同じ行動を取る。
「ッ……!」
「なっ……!?」
「逃がさないわ!!」
―――“έκρηξη Dynamis”
ダメージ覚悟で一歩踏み込み、理力をありったけ圧縮する。
何をするか察したイリスが転移で逃げようとするが、それを“意志”で阻止する。
そして、圧縮した理力を叩き込み、爆発を引き起こした。
「っづ………!」
「優奈!」
「まだ戦えるわ。……それと、削ったけどまだやるわよ、イリスは」
爆発を受けながらも飛び退いた優奈を帝が心配する。
その心配を受けながらも、優奈はまだ終わっていないと前を睨む。
「……この状況がお望みだったのかしら?優輝」
「……まあな」
「え……?」
ここまで想定通りと言わんばかりの言葉に、聞いていた緋雪だけでなく、全員がどういう事なのか二人に注目する。
「言っただろう?“ただ倒すだけじゃダメだ”と」
「……一体、どうするつもりなの?」
司が代表して核心を尋ねる。
裏を返せば、倒す以外にやるべき事があるという事だ。
それを行わない限り意味がないのであれば、聞かざるを得ない。
「イリスに受け入れさせるしかない。本当の自分を、本当の心を」
「……そのために、もう一人のイリスを残したのね」
「ああ」
“もう一人のイリス”と聞いて思い浮かんだのは、優輝の洗脳を解く際に桃子の姿を借りて現れたイリスの“領域”の欠片だ。
だが、彼女は消えたはずだと緋雪は思い、尋ねる。
「あの時消えたんじゃ……?」
「人格や自我となる、残り滓のようなモノがまだ残っている。元々は一つの“領域”だったんだ。それが簡単に消える訳じゃない」
実際、今も優輝の中で眠っている。
今起きている事も、なんとなくだが知覚しているだろう。
「欠片となったイリスを、本体のイリスへ戻す。同時に、僕らの“意志”を叩き込めば、イリスもさすがに自覚するだろう」
「最後の最後で賭けって訳ね」
「そこから先は僕らの“性質”すら与り知らない所だな。強いて言えば、イリス次第とでもいうべきか」
まさかの大博打に、思わず全員が愕然とする。
しかし、だからこそ勝ち取るべきだと、すぐさま気持ちを切り替えた。
「後は叩き込むまでの道筋を作るだけだ。来るぞ!」
「ッ!!」
イリスも体勢を立て直していたのか、“闇”の触手が鋭さを取り戻し、さらには“闇”の極光を交えて全員に襲い掛かってくる。
「はぁっ!!」
攻撃を避け、緋雪が斬りかかる。
その攻撃は圧縮された“闇”で防がれ、さらにイリスは転移する。
「っ……!」
転移直後に“闇”の刃を薙ぎ払い、それを神夜と奏が跳んで避ける。
「守って!」
直後、司の“祈り”が二人を守り、二人の目の前で“闇”が炸裂する。
「まだ、負けません!!」
「こっちも」
「同じよ!!」
飛び退く二人と入れ替わるように、優輝と優奈が斬りかかる。
“闇”の触手で防がれるが、その後も何度も切り結ぶ。
「ッッ……!」
その間に、帝と神夜が“意志”による遠距離攻撃を放つ。
優輝と優奈が飛び退き、イリスも転移でそれを躱す。
だが、それを予測していた緋雪と奏が分身を嗾ける。
「邪魔です!」
「シッ!!」
あまり力を与えていないため、触手で分身は薙ぎ払われる。
そこへ、分身に紛れるように肉薄していた葵がレイピアを繰り出す。
「くっ……!」
レイピアの連撃が障壁を揺らす。
しかし、そのまま反撃となる“闇”の奔流に葵は吹き飛ばされた。
「はぁあああああっ!!」
その奔流を突き破り、帝が跳び蹴りを繰り出す。
イリスは身を翻すように蹴りを躱し、踵落としで反撃する。
帝も負けじと踵落としを受け止め、そこでイリスに転移で逃げられる。
「そこだ!」
「っ、この……!」
転移先を予測した優輝がイリスを攻め立てる。
イリスは触手で応戦するが、導王流でなかなか吹き飛ばせず、再び転移で離脱する。
「まだよ!」
「そこぉッ!!」
さらに、そこへ優奈と緋雪が襲い掛かる。
理力による連撃と、規格外の力による暴力がイリスの障壁を割る。
「ッ!!」
即座にイリスは圧縮した“闇”で二人の攻撃を捌き、触手で飛び退かせる。
ほんの一瞬睨み合い、二人は飛び退いた。
そして、入れ替わるように司の魔力弾及び砲撃魔法がイリスを包囲する。
「―――まだです!!」
その時、再びイリスの“闇”が膨れ上がる。
負けられない、負けたくないと、イリスが心から吼える。
それに呼応するように、“闇の性質”も強化されていく。
「全部防がれた!」
「おおおおおおッ!!」
転移で避けずに、司の攻撃を全て再展開した障壁で受け切った。
そこを狙い、神夜が“意志”の槍を投擲する。
「はぁッ!!」
だが、それも弾かれる。
底力と共に展開したその障壁は、衣のようにイリスに纏っている。
そのため、腕を振るうだけであらゆる攻撃を弾いてしまうのだ。
「ッ……!マジか……!」
「これは……!」
帝や緋雪、葵や奏なども次々と攻撃を命中させる。
イリスはどの攻撃もほとんど避けずに防ぎ、そして弾いていた。
どんな攻撃も、今のイリスの前では通じない。
「負ける、かぁああああああッ!!」
神夜が再び“意志”を発揮する。
槍を形作った“意志”を手に、突貫した。
「防がせない!」
さらに司が魔力弾で攻撃。神夜の攻撃を援護する。
魔力弾を腕で弾かせる事で、神夜の攻撃が弾かれないようにしたのだ。
「ッッ……!!」
槍は障壁を貫けずに止まる。
だが、神夜はさらに一歩踏み込む。
「邪魔です!!」
しかし、イリスが蹴りを放ち、槍が弾かれた。
直後に帝、緋雪、奏が襲い掛かるも、どれも通らずに弾かれる。
「これ、ならッ!」
葵が差し込むように巨大なレイピアを投擲。
帝達が攻撃しているために、弾かれずに障壁に命中する。
……だが、通じない。
「……どれも通らないわね」
「それほど、イリスの“意志”も強いんだ」
援護射撃を繰り出しながら観察していた優輝と優奈が呟く。
「だけど、突破法はある」
「……そうね」
故に、どうすればイリスに攻撃が届くのかもわかっていた。
「どうすればいいのかな?」
その呟きを聞いていた司が尋ねる。
「通りそうになった攻撃は神夜と葵の攻撃だ」
「つまり、命中させた上で貫くまで押し通す必要があるのよ」
いくら堅くても、それを貫く“意志”があれば攻撃は通る。
だが、今のイリス相手に、一人や二人の“意志”を当てても通じない。
だからこそ、イリスの“意志”の堅さを、こちらの“意志”で中和する。
そこまでしてようやく攻撃が届く。そう二人は推測する。
「イリスがそれを許すはずがないって事だね。となると……」
「優輝が適任ね。転移の阻止は私がするわ。それ以外は他の皆で」
途中から会話に参加した緋雪の呟きに、優奈が断言する。
「もう一人のイリスを持っているのは優輝よ。そして、イリスの転移を防げるのは理力が扱える優輝か私のみ。“意志”次第じゃ誰でも可能だけど、今のイリスの“意志”相手にそれは厳しい。……で、今の優輝は理力が使えないから必然的に私が転移を止める事になるわ」
「……それ以外なさそうだね」
イリス含め、全員が既にかなり消耗している。
その中で、イリスの転移を阻止出来るのは比較的消耗していない優奈だけだ。
その上、転移阻止までの過程も重要となってくる。
謂わば、転移しなければならない状況まで追い込む必要があるのだ。
「頼んだぞ」
「任せて」
そう言って、司は攻撃を続ける緋雪達と合流する。
攻撃が通じないためか、イリスは反撃で確実にダメージを与えていた。
強力故に隙が大きい帝と神夜は、既にボロボロだ。
「っ……!」
「司さんの魔法も通じない……!」
そこへ司が“祈り”による魔力弾を次々と命中させる。
無論、その攻撃は通じず、緋雪は歯噛みする。
「どうやって突破するの?お兄ちゃん達に聞いてきたんでしょ?」
「……攻撃を命中させた上で、突き破るまで“意志”をぶつけ続けるだけだよ」
緋雪に尋ねられ、司は僅かに思考を挟み、敢えて全ては伝えなかった。
理由は単純だ。行動でイリスに作戦を悟られないためだ。
「そういう事だ」
そして、それは優輝と優奈も賛成だった。
転移まで追い込むその時まで、二人も攻撃に参加する。
「くっ……!」
猛攻が繰り返され、ついにその時は訪れる。
優輝と優奈、そして葵による武器がいくつも投擲され、それに紛れるように葵本人と奏が連撃を繰り出す。
それが弾かれる瞬間を狙い、神夜が“意志”の剣で斬りかかる。
僅かな拮抗の後、神夜が弾かれ、すぐさま司の魔力弾と砲撃魔法が炸裂する。
加え、緋雪が斬りかかり、帝が障壁を破らんと突貫した。
「ぐ、ぉおおおおおおおおおおッ!!」
物理的な強さであれば最も強い帝による突貫。
理に適ってはいる。だが、ただ破るだけには猶予が足りない。
それを示すように、イリスが転移で逃げる。
「ッ―――!?」
「掛かったわね!!」
そこを、優奈が狙い撃った。
“意志”による拘束で、転移を封じる。
「まさか、これを狙って……!」
「その通りよ。皆!!」
優奈の呼びかけに、全員が思考を切り替える。
ダメ押しとばかりに、霊術や魔法による拘束を加え、さらに身動きを封じた。
「優輝!」
「ああ……!」
―――“貫け、可能性の意志よ”
魔力と霊力、そして“意志”が圧縮される。
そして、その全てをリヒトが吸収し、優輝は一筋の光となる。
「ッ……ぁぁあああああああああああっ!!」
「っ、嘘!?」
しかしその瞬間、イリスが力を振り絞る。
優奈の“意志”を弾き、緋雪達の拘束を全て吹き飛ばしてしまった。
「(このままだと、転移で避けられる……!)」
再度止めようにも、僅かに間に合わない。
ここに来て“可能性”を見せたイリスに、優奈も打つ手はない。
―――「……優輝!」
「……かやちゃん?」
その時、一筋の閃光が飛んできた。
それを真っ先に感じ取ったのは、葵だった。
その閃光に籠められた“意志”に、最も馴染み深かった故か。
「ッ………!!?」
遥か遠く、神界と優輝達の世界を繋ぐ、その出入り口から放たれた一矢。
椿によって届けられたその閃光が、イリスの額を射抜いた。
世界の様々な生命が一点に籠めた“意志”だからこそ、障壁すら貫いたのだ。
「っ、今よ!」
「ッッ!!」
そして、その怯みを優輝と優奈は逃さない。
リヒトを構え、突貫する。
さらに優奈が再びイリスの転移を封じる事によって、確実に命中させる。
「くっ……こ、の……!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
“意志”が、“可能性の性質”が光となってイリスを押す。
水流に押し流されるように押され続けるイリスだが、そのままでは終わらない。
「(一手、足りない!)」
イリスの障壁を貫くための猶予が、あと一歩で足りなかった。
「あの一撃には驚きましたが……これで終わり、です!」
その場で踏ん張り、イリスは優輝を受け止めたまま反撃に出る。
「(ここまでか―――)」
万事休す。誰もがそう思った。
「(―――否)」
しかし、だからこそ。
人はその限界を乗り越えて見せる。
それこそが、生命が持つ“無限の可能性”足る所以だ。
「はぁああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
上空から、桜色の流星が降ってくる。
構えるは槍と化した相棒。携えるは不屈の心。
「なっ……!?」
高町なのはが、イリスを倒さんと真っ直ぐにやってきた。
「なのは!?」
帝の驚きの声と共に、なのははイリスへと突貫する。
優輝と同じく、ただ一点を貫かんとばかりに突き進む。
「っ、ぁああああああああ!?」
二人掛かりの“意志”による障壁の中和に、イリスは絶叫する。
このままでは確実に破られると理解出来ていたからだ。
加え、転移で躱す事も出来ない。
障壁を失えば確実にトドメを刺しに来る。そうイリスは確信する。
「「ッ……!!」」
優輝となのはは、お互いに言葉もなくどうするべきか通じ合う。
ここまで来て二人の“意志”は同じだ。
“イリスを倒す”。ただそのためだけに、自らのデバイスを突き立てる。
「(まだ……!)」
それでもなお、イリスは諦めなかった。
優輝に魅せられたからこそ、自らもそうあろうと足掻いた。
「ここまで来て、終われません!!」
まさに刹那の見切り。
障壁が破られると同時に、イリスは攻勢に出た。
圧縮した“闇”を、二人の攻撃を食らう前に当てようと動いたのだ。
「―――行ってこい、神夜!!」
その上を、優輝ではない彼らが行く。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」
“イリスを一発殴る”。そんな執念染みた“意志”でここまで来た。
だからこそ、この一撃は譲れなかった。
そう言わんばかりに、帝によって打ち出された神夜は突貫する。
「ッ―――!?」
「食らいぃ、やがれッッ!!」
―――“我が正義はここにあり”
“意志”と共に、拳が繰り出される。
イリスはそれを避けられずにまともに食らい、大きく仰け反った。
「ッ……今!」
「ああ!」
レイジングハートの矛先がイリスを貫き、バインドで雁字搦めにする。
そして、なのはが飛び退くと同時に、優輝がトドメを繰り出す。
「終わりだ、イリス。少しは自分の本心を受け入れなッ!!」
―――“真実の心”
優輝の掌には、光を纏った“闇”の球体があった。
それを、イリスの胸元から叩き込んだ。
「―――――!!」
周囲に残っていた“闇”が全て掻き消える。
まさに決着が着いたかの如く、イリスはその場に倒れた。
そう。ついにイリスを倒したのだ。
後書き
έκρηξη σκοτάδι…“爆発”“闇”のギリシャ語。振りまいた“闇”を粉塵爆発のように爆破させ、攻撃する技。広範囲故に威力は比較的高くない。
έκρηξη Dynamis…“可能性の爆発”。導となりし、可能性の軌跡の下位互換のような技で、理力を犠牲に爆発を叩き込む。上手く決めれば“領域”を大きく削る事が出来る。
貫け、可能性の意志よ…ブーレーシスは意志の古ギリシャ語。“可能性の性質”と“意志”による突貫。どのような障害も、“意志”次第で突破出来る。
我が正義はここにあり…“己が為の正義”。神夜にとっての“正義”を“意志”によって叩き込む。自身の運命を狂わせたイリスにのみ発動可能且つ、今回限りの技。今後、同名の技が出来たとしても、別物になる。
真実の心…ただ“領域”を攻撃するのではなく、“領域”に訴えかける技。相手の核心を突く“領域”がなければ発動できず、発動出来ても何が起こるか分からない。場合によっては、“領域”が打ち消され合う事も。
終盤、イリスが展開している障壁は所謂ダメージカットのバフです。貫いてダメージを与えた所で、障壁は消えません。なので、攻撃を通した上に、その攻撃で倒すか間髪入れずに追撃を入れる必要がありました。
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