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『曹徳の奮闘記』改訂版

作者:零戦
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第八十二話





「……ん? 何だあれは?」

 建業周辺の防衛線のやぐらで見張りをしていた中堅の兵士が呟いた。

「どうしたんですかおやっさん?」

 まだ新米である兵士がおやっさんとアダ名が付く兵士に声をかける。

「三人の浮浪者が此方に向かってきとる」

「浮浪者ですか?」

 新米兵士はおやっさんの指先を見た。

「……確かに浮浪者のような出で立ちですね。どこから逃げてきたんですかね?」

「逃げてきたってお前、最近戦があったのは涼州だぞ? まさかそこから逃げてきたのか?」

「そこまでは自分も分かりませんよおやっさん」

 新米兵士は困ったように言う。

「むぅ……取りあえず小隊長に知らせてこい」

「分かりました」

 新米兵士は頷いて小隊長の元へ向かった。





――成都――

「え? 馬超達が漢中に来てない?」

 成都の城のとある一室で、天の御遣いである北郷と孔明と鳳統の三人で話し合っていた。

「はい、漢中の間者と楊松からの報告では馬超達が漢中に来てない事が確認されています」

 孔明が北郷に言う。

「……そうか、なら馬超達は一体何処に……(演技でも馬超は漢中に逃げ込んでいるはずなんだけど……俺がいるからかな?)」

 北郷は腕を組んでそう考える。

「……御主人様、一つだけ馬超達が行った場所があります」

 地図を見ていた鳳統がそう北郷に具申した。

「本当に? それは一体何処なんだ?」

「……建業です」

「ッ!?」

 鳳統の言葉に北郷は驚く。

「……何故なんだ?」

「漢中なら直ぐに間者と楊松から報告が来ますが来ていません。直接入蜀するのではと思いましたけど、見張りからはそれらしき人物が来たという報告はありませんし魏は論外です。それなら……場所は限られます」

「……そうか(……となるとまた王双の仕業かッ!!)」

 北郷は心の中で長門を罵倒する。

 実際は馬謄の判断であるが……。

「……兎に角、漢中攻略の作戦を進めよう。幸いにして紫苑達が加わってくれたから兵力は十分にある」

 劉備達が曹操達が涼州を攻略中にどさくさに紛れて蜀へ進撃して蜀を占領した際、劉備達の手助けをしていた黄忠や厳顔を仲間にしていて、更に蜀兵も手に入れていた。

 国力がある蜀に苦戦するだろうと曹操や長門達もそう考えていたが、北郷達は間者を大いに利用して噂で劉璋側の士気を下げに下げまくった。

 劉璋は悪政はしてないが、部下が悪政をしていたので国民の中では劉璋=悪政になり、それにより国民の意思は劉璋より劉備を選び、各地で劉璋を落とすための反乱が蜀内に広がったのである。

 その時に劉備が軍を率いて悪政を強いる劉璋を討つために蜀へ雪崩れ込んだのである。

 劉備軍は予めの手引きもあったので三週間以内に成都を占領したのであった。

「漢中も楊松等の工作により、徐々に内部分裂をしています」

「……何時でも動けるように部隊は編成しておくか」

「「はい」」

 北郷の言葉に二人は頷いたのであった。





「え? 浮浪者が俺に会いたいと?」

「はい。王双様に面会を希望しています」

「……白蓮じゃないよな?」

「私は此処で作業しているぞッ!!」

 俺と同じく書簡業務をしていた白蓮が文句を言う。

「ゴメンゴメン。ちゃんと白蓮がおるのは知っているからな」

「全く……」

 白蓮はブツブツとだが、若干嬉しそうに業務を再開する。

「……取りあえず面会するか。悪いけど此処まで連れてきてくれ」

「分かりました」

 兵士は頷いて退出をした。

 それから五分くらいで三人の面会人が来た。

「俺が王双だが……名前を聞かせてくれるか?」

「……………」

 俺の言葉に年長者らしき女性浮浪者が前に出た。

「私は馬謄だよ」

「……へ?」

 今……こいつは何て言った?

「こんな姿だけど、私が馬謄だ」

 浮浪者は長い髪を掻き分けて顔をが分かるようにした。

 ……確かに馬謄だ。

「……反董卓・袁術連合軍以来か」

「そうだね」

「それでいきなり一体……」

「率直に言うよ王双。私達を袁術軍に入らせてくれないか?」

 馬謄は俺にそう言った。








 
 

 
後書き
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