姉一人弟一人

　練習でもバントが上手だった、それで近藤はコーチ達に言った。
「あいつは二番センターで使うか」
「一番の田尾とクリーンアップをつなぎますか」
「谷沢、大島、モッカに」
「そして六番の宇野に」
「一番の田尾がヒットで出塁するな」
　近藤は平野の起用に具体的に話した。
「そうしたら平野はバントで送る、それで田尾を得点圏に進ませて」
「谷沢から点を取らせる」
「そのつなぎですか」
「平野はそれですか」
「田尾が駄目でも平野が出塁してくれたらな」
　近藤はその場合も話した。
「足が速いだろ」
「だから盗塁も出来ますね」
「平野なら」
「それも出来ますね」
「ああ、だからな」　
　それでというのだ。
「平野は二番だ、そしてあの抜群の守備でな」
「足は速いですし肩も滅法強い」
「しかもグラブ捌きは堅実」
「言うことなしですね」
「だから外野の要だ」　
　センターにするというのだ。
「打率やパワーよりもな」
「バントや走塁それに守備ですか」
「平野のそれを買って」
「それでレギュラーにしますか」
「うちは守備がどうもだろ」　
　近藤はコーチ達にこのことも話した。
「そうだな」
「セカンドの上川はいいとして」
「ショートの宇野は時々やらかしますしね」
「ファーストの谷沢は足が気になりますがファーストとしては問題ないです」
「ライトの田尾はライトなら普通ですね」
「キャッチャーは若い中尾でいいです」
「ですがサードのモッカとレフトの大島が」
　この二人がというのだ。
「どうしても問題ですね」
「モッカは置いておいて」
「大島のことですね」
「大島の守備をカバーするには」
「センターの平野ですか」
「センターが充実していれば」
　このポジションの者がよければというのだ。
「外野の守備は全然違うしな」
「だからですね」
「それで、ですね」
「平野をレギュラーとして使う」
「センターにしますか」
「これからはな」
　こう言ってだった。
　平野は近藤によって二番センターとして起用された、そうしてそのポジションで中日の優勝にも貢献した。
　それからの平野は活躍し俊足堅守強肩の外野手として知られ。
　特にバントが有名でそれは失敗することがないとさえ言われた、中日から西武に移籍すると一億円プレイヤーにまでなりロッテでもベテランの持ち味を出して。
　引退してコーチにもなって手腕を発揮した、それで姉に古巣中日にコーチとして戻った時に話した。
「中学の時姉ちゃんに言われて」
「それでなの」
「野球を諦めなくてよかったよ」
　こう言うのだった。
「本当に、あの時俺本当にな」
「野球を諦めるつもりだったわね」
「父ちゃんも母ちゃんも死んで」
　そうしてというのだ。
「それでだったからな」
「姉ちゃんと二人だけになって」
「しかも中学には野球部もなくて」
　このこともあってというのだ。