英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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外伝~彷徨える霊姫~ 後篇
~月の僧院・最奥~
「……っ。」
「予想通り、最奥でご対面か。だが………」
「先程対面した時と比べると随分と鬼気迫る表情を浮かべていますね。」
アンリエット達と対峙したフォルデとステラは鬼気迫る表情を浮かべたアンリエットを警戒した。
「――――――アンリエット。僧院内の死霊達は排除した。後は君とその周囲の死霊達だけだが…………」
そしてリィンがアンリエットに声をかけたその時
「……返して……」
アンリエットの口から絞り出すような声がその場に響く。
「”返す”………?わたくし達は貴女から何も奪っていませんが……」
アンリエットの言葉を聞いたアルフィンは戸惑いの表情でアンリエットを見つめて指摘した。
「ここは新たなる『怨恨の谷』となった場所……夢を見た人間族が足を踏み入れ、やがて絶望に囚われる場所……どこにも辿り着けず、どこにも逃れられない、命を落とした後も死霊となって彷徨い続ける。」
そこまで語ったアンリエットはぐっと唇を引き締める。
「わたしは死霊、わたしには、彼ら彼女らを浄化することなどできやしない……でも、それでも良かった。どうにもならない世界を嘆き、叶う希望のない願いを胸に秘め、慰めの言葉を放つ日常が好きだった。変化のない時を過ごす事は苦痛ではなく、何も変わらない彼ら彼女らと谷底に棲まい、ずっとずっと、互いを慰めながら漂い続ける……例えその場所が変わろうとも、それが続く平穏を望んでた。」
本当に悲しそうに、震えるような声色で願望を口にする。
「あなたさまが来なければ、平穏は保たれていたのに。あなたさまが乱さなければ、この僧院はたくさんの死霊で溢れていたのに。あなたさまが抵抗しなければ、あなたさまも死霊になって一緒にいられたのに……!!返して――――――あの穏やかに過ぎていった平穏な時を返して!」
「アンリエット、貴女は………」
「死霊……たくさん……増え続ける……みんな、一緒にいる……アンリエットにとっての……幸せ……」
「……それが貴女の”本性”ね。他者を案ずるふりをして引きずりこみ、死霊へと変えて自らの欲望を満たす。そうやって先程口にした『怨恨の谷』とやらは死霊の楽園と化し続けていたのでしょうね。」
「……ある意味、怨霊である彼女らしいわね。」
涙を流しながら語るアンリエットの話を聞いてアンリエットの”本性”を悟ったリタは複雑そうな表情を浮かべ、ナベリウスは静かな表情で呟き、ロカは厳しい表情でアンリエットを睨みながら推測を口にし、サティアは静かな表情で答えた。
「……かえ、して……!」
(クク、我らがこの僧院内にいた怨霊達を掃討した事であの霊姫は我らへの恨みの感情に囚われているようだの。)
「………………」
もはや会話もままならないアンリエットの様子を見て不敵な笑みを浮かべて呟いたハイシェラの念話を聞いたセリカは静かな表情で黙ってアンリエットを見つめた。
「アンリエットさん、泣いていますわね……」
「……そうね。実際私達が来なければ彼女の生活は保たれていたでしょうからね。」
「二人の気持ちはわからなくはないけど、相手は”死霊”よ。”生者”である私達の理屈は通じないわ。」
一方複雑そうな表情でアンリエットに同情している様子のセレーネとエリスに注意をしたエリゼは真剣な表情でアンリエットを見つめた。
「その通りだね。これまで死霊という存在は、ある種の本能と呼べる行動しか取らないと考えていたが、そうではないようだ。」
「……レジーニア?」
するとその時レジーニアがリィンの傍に現れて興味ありげな表情でアンリエットを見つめながら呟き、レジーニアの言葉を聞いたリィンは不思議そうな表情をした。
「何とも珍しい光景を観察できて嬉しいよ。霊体が霊体を慰めるとは、どういう理屈なんだろうかと掘り下げたくなってしまう。死霊が生者を襲う事例はいくつも確認されてきた。あたしたち天使もそれは対象らしく、近づくと交渉も何もなく戦闘になってしまう。彼女が先程口にした谷底でも多くはそういった行動を取っていたのだろうね。死してしまった後、生き返る為に襲い掛かるというものだね。でも、そんなことはどんな神にんだって不可能だ。死者蘇生は多くの者が願い続けてきたが、それが叶った事はない。少なくともあたしはその事象が成った例を知らないよ。あの死霊、アンリエットと言ったか。彼女はそれをよく知っているんだろう。つまり死霊が生者を襲う行動が無駄だと悟っている。死した後も理性を保っている証拠だね。だから慰める。死霊と成った時点で詰んでいるけれと、それでも諦めきれない想いを何とかしようというんだね。優しいじゃないか、うん、実に興味深い。」
「……あの、幾らまだ戦闘が起こっていないとはいえ、敵を目の前に悠長に長い説明をするのはどうかと思われるのですが。」
「また貴女は………死霊すらも研究対象にするなんて、それでも天使ですか!?」
アンリエットの事についての推論を口にした後興味ありげな表情でアンリエットを見つめ続けるレジーニアの言葉を聞いたアルティナはジト目で文句を言い、レジーニアの様子に呆れたルシエルは顔に青筋を立ててレジーニアを睨んで指摘したがレジーニアは無視して話を続けた。
「興味深いのは双方に影響があるという点だ。状況を整理すると、彼女の言葉には死霊の行動を誘導できる何かがあると見ていい。彼女は谷に棲んでいた死霊を抑制し、彼女も死霊の存在に癒される。何せ自身も死霊だからね、同じような存在として詰んでいる。うん、どこにも辿り着けないとはよくいったものだ。だからこそ辛いという感情は人一倍だっただろうね。自分だけが理性を保っている環境なんてゾッとするよ。」
「……つまり、彼女にとっての癒される存在であった死霊達を私達が掃討した事で、彼女は悲しみ、そしてその悲しみの元となった私達を恨んでいるという事ですか。」
レジーニアの推測を聞いたオリエは静かな表情で呟いた。
「存在として同じ仲間はたくさんいるけれど、彼女はある意味でひとりぼっちだ。自我を失くし、狂ったように見えたとしても、その孤独は心を蝕んでいくだろう。だから死霊を増やそうとする。もしかしたら、いつか自分と同じような”会話が可能な”死霊が増えるかもしれないから。……という感じに推測してみたんだけれど、どうだろう?」
「つまり彼女、アンリエットさんは寂しやがりな幽霊さんだって事ですわね♪」
「よく君は本人――――――それも亡霊を目の前にしてそのような事を口にできるな……」
「い、幾ら話し相手が欲しいからといって、それで死霊――――――”死者”を増やすのは色々と大問題ではありませんか!」
「ふふっ、それは”生者”である私達にとって”大問題”であって、”死者”である彼女にとっては気にするところではないのでしょうね。」
「先程エリゼが口にしたように、まさに”死者には生者の理屈は通じないな。”」
推論を終えた後に問いかけたレジーニアの確認に対してミュゼはからかいの表情で答え、ミュゼの言葉を聞いたクルトは呆れ、ジト目になって呟いたデュバリィの指摘を聞いたエンネアは苦笑し、アイネスは真剣な表情でアンリエットを見つめた。
「……うぅ……っ………」
「……どうやら図星のようだな。現に”負”の感情が増している。」
(クク、”負”だけではなく、自身の考えを暴露された事による”羞恥”も含まれているようだの。)
「そうね……それのお陰で少し正気が戻っているみたいだし……」
一方レジーニアの推測が図星だったのか、アンリエットの負の感情が増しているように見え、それを見たセリカは静かな表情で呟き、アンリエットを見つめて可笑しそうに笑うハイシェラの推測に頷いたサティアは困った表情を浮かべてアンリエットを見つめた。
「っ、返して、何も変化がなかった私達の日常を、返してぇ!」
「フウ……本人を目の前で本人の心情を解説するのはどうかと思うが、アンリエットの状況を知る事ができたから、一応助かったよ。」
どんどん強くなる”負”の感情と”恥ずかしさ”で思わず声を上げたアンリエットの様子を見たリィンは溜息を吐いた後レジーニアに対する感謝の言葉を口にした。
「褒めてもらえて嬉しいね。さらなる解析の為に、研究材料として彼女をもっと間近で見たいものだけれど。」
「………そうだな。”生者”である俺達の都合とはいえ、俺達がアンリエットの”日常”を壊してしまったのだから、その”責任”を取る必要はあるな。」
「お兄様、ま、まさかとは思いますが……」
「あのアンリエットという霊姫もリィン様の軍門に加えるつもりなのか?」
レジーニアとリィンの会話を聞いてある事を察したセレーネは驚きの表情を浮かべ、ベアトリースはリィンに訊ねた。
「……アンリエットが俺達の仲間になってくれるかは彼女の意思次第だ。――――――とにかくまずはアンリエットに正気に戻ってもらう為に制圧する。レジーニア、アンリエットに興味を抱いているのだから、当然アンリエットの制圧に手を貸してもらうぞ。」
「無論そのつもりだよ。さぁー、あたしの研究の為にも雑事はさっさと済ませてしまおう。」
リィンの指示に頷いたレジーニアは杖を構えてリィンと共にアンリエットと対峙し
「みんなは二手に分かれて周囲の亡霊達の掃討をしてくれ。ルシエル、ベアトリース。二人にそれぞれ二手に分かれたメンバーの指揮を任せる。」
「了解しました!」
「了解した。」
リィンはセレーネ達に指示を出した後にルシエルとベアトリースに指揮を任せ、リィンに指揮を任せられた二人はそれぞれ力強く答えた。
「えっと………」
「――――リィンを手伝ってこい。同じ”理性ある霊体”としてお前も奴に興味があるのはわかっている。それとナベリウスも霊体の相手には慣れているのだから、リタと共にリィンに加勢してくるといい。」
「!ありがとうございます、主……!行こう、ナベリウス!」
「ん……まかせとけ……」
一方アンリエットを気にしていたリタは遠慮気味にセリカに声をかけようとすると、リタの気持ちを悟っていたセリカが先に指示を出すと嬉しそうな表情で答えた後ナベリウスと共にリィンとレジーニアの元に向かってアンリエットと対峙した。
「かえして……かえして、かえ、して……!!」
「――――――アンリエット、”孤独”が寂しくて話し相手が欲しい貴女のその気持ちは”同じ霊体”の私もよくわかるよ。だから、戦いが終わったら”友達”になろうね。……という訳ですから、私とナベリウスも手伝いますね、リィンさん。」
「ああ、二人ともありがとう。――――――アンリエット、君を”救う”為にも今は君と戦う。総員、戦闘開始!!」
「おおっ!!」
うわ言を呟き続けてどんどん力を増している様子のアンリエットを見つめて静かに呟いた後に申し出たリタの申し出に感謝したリィンは仲間達に号令をかけた後レジーニア達と共にアンリエットとの戦闘を開始した!
「漆黒の闇よ…………ティルワンの死磔……!!」
アンリエットは先制攻撃に魔術を発動してリィン達を闇世界の中枢である死磔領域に閉じ込めたが
「聖なる光よ、深淵なる闇を吹き飛ばせ――――――贖罪の光霞!!」
レジーニアが魔術による神々しき光を放って闇世界を吹き飛ばした。
「ぽーん…………ぽーん………」
レジーニアがアンリエットの魔術を無効化するとナベリウスは反撃に炎蛇を創り出し敵を飲みこみ爆発させる魔術―――――双角蛇の轟炎をアンリエット目掛けて放った。
「……ッ!」
襲い掛かる炎蛇を見たアンリエットは転位魔術で回避したが
「狙いはそこっ!!」
「あうっ!?」
リタが槍を念動で操って凄まじい一撃を叩きつけるクラフト―――――死角の投槍をアンリエットが転位魔術で現れた瞬間を狙って叩き込んだ為ダメ-ジを受けると共に怯み
「二の型―――――疾風!!」
リタに続くようにリィンも電光石火の攻撃を叩き込んで追撃した。
「崩した!」
「あたしも行くよ―――――連続光弾!!」
「崩しました!」
「まかせと……け……爆雷閃……!!」
アンリエットが怯むとそれぞれと戦術リンクを結んでいるレジーニアとナベリウスは詠唱時間が短い下級魔術で追撃した。
「それっ!ハイドロカノン!!」
追撃を終えたレジーニアは続けてアーツを発動し、レジーニアのアーツによって発生した高圧の水流はアンリエット目掛けて襲い掛かったが
「闇の雷よ……呑み込んで……!ヴォア・ラクテ……!!」
アンリエットが放った暗黒の雷を放つ魔術によって呑み込まれ、レジーニアが放ったアーツを呑み込んだ暗黒の雷はリィン達に向かった。
「やみのかべ……きて……闇界の暗礁壁……!!」
その時ナベリウスが暗黒魔術による暗礁壁を自分達の目の前に発生させて襲い掛かる暗黒の雷を防ぎ、アンリエットの魔術を防いでいる間にリタとリィンが攻撃を仕掛けた!
「まさに必殺!―――――玄武の地走り!!」
「六の型―――――緋空斬!!」
「っ!?かえして……かえして、かえ、して……!!」
リタが放った衝撃波とリィンが放った炎の斬撃波によるダメージを受けたアンリエットは全身に凄まじい魔力を纏い始めた。
「これで……沈んで!闇に飲まれなさい―――――サタナスディザイア!!」
全身に凄まじい魔力を纏ったアンリエットは杖を掲げて自身の周囲に4つの暗黒魔力を凝縮した魔力球を具現化させた後それらをリィン達目掛けて放った!
「おお……?おお……!」
自分達に襲い掛かる4つの暗黒魔力球を見たナベリウスは竜の姿をした炎を放つ火炎魔術―――――炎叉龍の轟炎を発動させた。ナベリウスの魔術によって発生した炎の竜はアンリエットが放った4つの暗黒魔力球とぶつかるとその場で炎と暗黒の大爆発が起こった事により、ナベリウスはアンリエットが放ったSクラフトを相殺した。
「―――――これで決めます!凍てつく冷気よ、我が槍に力を!ハァァァァァァ…………!奥義―――――氷獄舞踏!!」
「キャアッ!?」
ナベリウスがアンリエットのSクラフトを相殺するとSクラフトを発動したリタは自身の得物である神槍に魔力によって発生した吹雪を纏わせた後、アンリエットに詰め寄って槍を華麗に舞わせる乱舞を叩き込んでアンリエットに大ダメージを与えた。
「決めるぞ、レジーニア!」
「了解。―――――浄化の扉、今開かれん!」
「見切った!」
リタがSクラフトを終えるとリィンの呼びかけに応えたレジーニアは魔法陣でアンリエットを閉じ込め、そこにリィンが剣技―――――疾風で攻撃を叩き込んだ後跳躍した。
「必殺!」
「「龍虎!滅牙陣!!」」
そしてリィンが地面に太刀を叩き込むと地面からリィンの闘気とレジーニアの魔力による竜の姿をした衝撃波が次々と現れて空へと向かって昇ってアンリエットに追撃した。
「キャアアアアアアア……ッ!?か……え……し……て……わたしの……日常……を………」
リィンとレジーニアのコンビクラフト―――――龍虎滅牙陣によってダメージが限界に来たアンリエットは悲鳴を上げた後戦闘不能になり、得物である杖を地面に落としてその場で蹲った。
「リィン少将、右翼の霊体の殲滅、完了しました。」
「こちらもだ。」
アンリエットが戦闘不能になるとルシエルとベアトリースがリィンに話しかけてそれぞれの戦闘が終了した事を報告した。
「そうか。こちらも無力化して何とか大人しくなってもらったが……」
二人の報告に頷いたリィンは戦闘不能後うなだれているアンリエットに視線を向け
「アンリエットさん、うなだれていますわね……」
「そうね。少なくても逃げるつもりはなさそうだけど……」
「……恐らく、周囲の怨霊達を完全に失った現状を嘆き、悲しんでいる事で反抗する気力すらも失っているのでしょうね。」
リィンに続くようにアンリエットに視線を向けたセレーネは心配そうな表情でアンリエットを見つめ、エリゼは静かな表情で呟き、ロカはアンリエットの状態についての推測を口にした。
「……ごめんなさい、わたしの力では、守れなかった……どうして、どうして……ただ平穏な暮らしを保ちたかっただけなのに……皆、いなくなって……わたしはこれから、どうすれば……本当のひとりに、なってしまいました……」
アンリエットは、よく耳を傾けなければ聞こえないほどの小さな声で、答えすら必要としない自問自答を口にした。
「な、なんだかはたから見れば私達の方が悪者に見えてしまいますわね。」
「まあ、アンリエットからすればアンリエットにとっての仲間を殲滅した私達は”悪者”なのでしょうね。」
その光景を見たデュバリィは複雑そうな表情でアンリエットを見つめながら呟き、デュバリィの言葉にエンネアは困った表情で答えた。
「生存競争に”善悪”という考えは合わない。互いに正しいと思う行動を取り、俺達が勝利した。――――――それだけの話だ。」
(クク、死霊は生きていないだの。)
「そうね。それに死霊側も生者を襲うという行動を起こしているわ。それは私達がどんな思想を持っていても変わらなかったでしょうから、どちらが”悪”と判断する事はできないと思うわ。」
「フム、確かに……」
「問題は残された彼女の処遇をどうするかですが……」
静かな表情で呟いたセリカの指摘にハイシェラが口元に笑みを浮かべている中セリカの指摘に同意したサティアは説明を続け、サティアの説明にアイネスが納得している中、オリエは静かな表情でアンリエットを見つめた。
「……ごめんなさい……わたしだけ、わたし、だけ……」
「アンリエットさん……」
肩を落としてさめざめと涙するアンリエットの様子をアルフィンは辛そうな表情で見つめていた。
「―――――とにかく一旦レヴォリューションに連れていく。彼女の今後についての話はそれからだ。――――――セリカ殿、今回はご協力ありがとうございました。」
リィンは今後の方針を仲間達に伝えた後セリカに感謝の言葉を述べた。
「……俺達はヴァイスの”依頼”を受けただけだ。礼を言われる筋合いは……―――――いや、俺達に対する感謝しているなら、その証としてこの戦争の”決戦”の時が来るまでリタがお前達に同行する事に同意しろ。」
「主?どうして私がリィンさん達に同行する事を……」
セリカのリィンへの提案を聞いたリタは不思議そうな表情でセリカを見つめて疑問を口にしたが
「……リィン達に保護されたその死霊――――――アンリエットの”今後”について気にしている事もそうだが、アンリエットと”友人”になりたいのならば、しばらくリィン達と行動を共にした方がいいだろう。――――――俺達が今回の戦争関連で本格的に動くのは”決戦”の時で、”決戦”まで戦争関連で俺達がすることはないのだから、俺達の事を気にする必要はない。」
「あ………―――――私を気遣ってくれてありがとうございます、主……!”決戦”前には必ず戻ってきますね……!――――――そういう訳ですから、しばらくの間、リィンさん達に同行してもいいでしょうか?」
セリカの説明を聞くと呆けた声を出し、そしてセリカの気遣いに感謝した後リィンに訊ね
「ああ、アンリエットの為にもむしろ、こちらからお願いしたいくらいだったから、俺にとっても渡りに船だよ。――――――”灰獅子隊”の”客人”として歓迎するよ。」
訊ねられたリィンは口元に笑みを浮かべて答えた。
その後アンリエットを連れて僧院を出たリィン達はセリカ達と別れた後レヴォリューションに回収され、レヴォリューションに帰還したリィンはアンリエットと落ち着いた状況で話し合いをする為に一旦その場で解散した後アンリエットを自室へと連れて行き、リィンだけでアンリエットとの話し合いをしようとした。
~レヴォリューション・リィン少将の私室~
「なんでわたしは、こんな所にいるの……?どうしてわたしだけが、ひとりでここにいるの……!うぅ……あぁぁ……ごめんなさい……みんな、ごめんなさい……!」
「もうこれ以上悲しまないでくれとは言えないけど……これだけは言わせてくれ。君は一人ではない。君がそんな風になってしまった責任をとるためにも、どうか俺達に君の力にならせてほしい。」
哀しみに暮れるばかりのアンリエットの様子を見たリィンは静かな表情で申し出た。するとようやくリィンに気づいたアンリエットが物憂い様子で視線を向けてきた。
「……………」
「俺達でよければ、君の友人になる――――――いや、既に君と友人になりたい者もいるんだ。だから、まずは君はこれからどうしたいか聞かせてほしい。」
「………。わたしのことなら好きにしてください……今のわたしには守りたいもの、守るべきものも……何もありません……わたしは捕らえられた身……ならば抗う道理もありません。あの子たちの下へ連れていってくれる訳でもないのでしょう……?」
「それはそうだが……参ったな………」
アンリエットの問いかけに対して答えたリィンはどうアンリエットを説得するかに困っていた。
「うふふ、だったらご主人様の”守護霊”になったらどうかしら♪」
「ベルフェゴール!?一体何を……」
するとその時ベルフェゴールがリィンの傍に現れてアンリエットに提案し、ベルフェゴールの登場と提案にリィンは困惑した。
「それ、は……どういう意味でしょう……?」
一方アンリエットはベルフェゴールが提案した明快な方法を聞くと哀しみの色を見せていた瞳にわずかな光が灯り出した。
「”守護霊”とはその名の通り、”主”と”契約”して”主を守る為よ”。万が一ご主人様が敵に倒されて魂だけの存在となって、彷徨うことのないように、貴女が直々にご主人様を守り通すのよ。」
「そんなこと……わたしだけが救われるなんて、わたしだけが赦されるなんて……」
「――――――それこそが”残った者の果たすべき務め”じゃないかしら?貴女が新たな存在理由を持ち、その責を全うすること。それが失った者達への”手向け”にもなると思うわよ。」
「ベルフェゴール……」
アンリエットに向けたベルフェゴールの言葉を聞いたリィンは驚きの表情を浮かべた。
「そ、その務めが………彼――――――リィンさまを……わたしがお守りするということ、なのですか……それが叶えば、わたしが世に留まる意味もできる、でしょうか……?」
一方ベルフェゴールの言葉に感銘を受けているアンリエットの佇まいが、徐々に明るいものへと変容していた。
「勿論♪貴女がご主人様を守るように、ご主人様も貴女の心の寄る辺となってくれるわ――――――そうでしょう、ご主人様?」
「ああ、俺でよければ契約してくれ。」
アンリエットの問いかけに答えた後ベルフェゴールにウインクされたリィンはアンリエットの様子を見てベルフェゴールの提案に載る事がアンリエットの為になると判断し、力強く頷いた。
「魂を慰め、漂うために在るものではなく……生命を感じ、歩み続けるために在る……それが、わたしがあなたさまを守るということ……はい……わたし、やってみます……!よ、よろしくお願いいたします……」
(え、ええー………さっきまであんなに沈んでいらっしゃったのに、ベルフェゴール様の提案であっさり元気を取り戻されるなんて、一体どういう事なのでしょうか……?)
(フフ、”自分が世に留まる新たな理由”ができた事が元気を取り戻した一番の理由でしょうね。)
(それと後は今まで”孤独”だったアンリエットにとっての心の寄る辺の相手である主ができた事も一因だろうね。)
(うぐぐ……魔神であるベルフェゴールの提案で死霊が我が主と”契約”を交わす等、本来は”天使”としては反対すべきですが、アンリエットのように我が主の御慈悲によって”天使の誇り”を取り戻したこの身がアンリエットを気遣う我が主の御慈悲を否定する訳にもいかない上、アイドス様も受け入れているのですから、この身もアンリエットの加入を受け入れるべきなのでしょうね……!)
覇気を取り戻したアンリエットの様子を見て呟いたメサイアの困惑に対してアイドスとレジーニアはそれぞれの推測を答え、ユリーシャは唸り声を上げた後複雑そうな表情でアンリエットを見つめていた。
「うふふ、という訳だから”いつも通り”邪魔者が入らないように結界を張っておくから、後は頑張ってね、ご主人様♪」
そしてベルフェゴールは部屋に結界を展開した後リィンの身体に戻り
「フウ……アンリエットの事を知ったエリゼ達の反応は怖いが……仕方ないか。」
リィンは溜息を吐いてエリゼ達を思い浮かべ、そしてすぐに気を取り直すとアンリエットを横抱きにして自身のベッドに連れていって性魔術による契約を始めた。
「さてと。アンリエットが正式に俺達の仲間になってくれたのだから、仲間達にもアンリエットの事を紹介するが……その前に、誰よりも早くアンリエットと仲良くなりたい人物がいるから、その人物を今この場に呼ぶよ。」
「え……わたしと……ですか?一体どのような方が………」
性魔術によって乱れた服を整えたリィンは自分同様服を整えたアンリエットにある申し出をし、リィンの申し出を聞いたアンリエットは不思議そうな表情で首を傾げた。そしてリィンがエニグマで誰かと通信をして数分経つと扉がノックされた。
「リィンさん、リタです。」
「入ってきてくれ。」
「……失礼します。」
リィンが入室を許可するとリタが部屋に入ってきた。
「え………そ、そんな……!?ま、まさかあなたさまはわたしと”同じ”………!」
「フフ、そうだよ。私も”貴女と同じ理性がある死霊”だよ。」
「!!」
リタを目にしてすぐにリタが”死霊”である事に気づいて信じられない表情をしているアンリエットにリタは微笑みながら答え、リタの答えを聞いたアンリエットは目を見開いた。
「えっと、リィンさん。さっきの通信で『アンリエットの処遇が決まったからすぐに来てほしい』って言っていましたけど、アンリエットはどういう処遇になったんですか?」
「―――――ベルフェゴールがアンリエットに俺の”守護霊”として俺を守り続ける事を”アンリエットの新たな存在理由”とすることを提案したらアンリエットはすぐに乗り気になってこの場で”契約”してくれた。だから、今のアンリエットは俺の”守護霊”だ。」
「わあ………!よかったね、アンリエット、”死霊である自分の拠り所になってくれる人”ができて。私も主―――――セリカ様が私と”守護霊契約”してくれた時はとても嬉しかったから、アンリエットの気持ちはよくわかるよ。これからは同じ”守護霊”仲間としても仲良くしようね。」
リィンの説明を聞いて目を輝かせたリタは嬉しそうな表情でアンリエットに話しかけた。
「あ、あの……!ほ、本当にわたしと仲良くして頂けるのでしょうか……?」
「うん。それに例えアンリエットが誰かの”守護霊”じゃなくても仲良くなりたいよ。だって、私も”貴女と同じ理性を持った死霊”なんだから。―――――私の”友達”になってくれるかな?」
「は、はい……!はい……!わたしでよければ喜んで……!あの……あなたさまのお名前は……?」
リタの申し出に涙を流しながら何度も嬉しそうに頷いたアンリエットはリタの名前を訊ね
「あ、そういえばまだ名乗っていなかったね。―――――私の名前はリタ・セミフ。”神殺しセリカ・シルフィル”のかつての”守護霊”にして”冥き途”の見習い門番だよ。改めてよろしくね、アンリエット。」
名前を訊ねられたリタは自己紹介をした後アンリエットに微笑み、アンリエットとの交流を深め始めた。
こうして………霊姫アンリエットはリィンの”守護霊”として、リィン達の心強き仲間となった―――――
後書き
という訳で皆さんの予想通り、アンリエットが幽霊枠としてリィンの守護霊になりましたw更に期間限定とはいえ、戦女神陣営のリタがゲストキャラとしてリィン陣営に加入ですwwなお、リィンとアンリエットの18禁話も投稿しましたので興味がある方はいつも通りシルフェニアの方を読んでください。
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