| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

最終章:無限の可能性
  第287話「佳境」

 
前書き
閑話に近い本編回。
イリスに集結した面子以外の話が中心です。

P.S.現時点で全ての話を書き終えたので、最終話までの投稿頻度を早めます。 

 
















「ッ……!!」

 神界の入り口。そこへ、膨大なエネルギーが集中していた。
 魔力、霊力、神力……そして“意志”。
 あらゆるエネルギーを一か所に集束させ、一つの“矢”へと変える。
 それを番えるのは、椿だ。

「大丈夫?」

「まだ、行けるわ……!」

 とこよの呼びかけに、椿は気丈に振る舞う。
 既に、体は張り裂けそうな程に負担がかかっている。
 それでも、椿は気合でそれを耐える。

「私がついて行けなかった分も、この一矢に籠めるんだから……!」

 世界中とまではいかないが、数えきれない程の協力によって力は集められている。
 本来なら、その力を受け止める程の強度が椿にはない。
 神界という領域外の法則があるからこその荒業だ。

「……そろそろだ。もうひと踏ん張りだよ、椿!」

 力の流れを見ていた紫陽が叫ぶ。
 あと少しで、力は完全に集束する。
 その時こそ、勝利の手助けとなる一射を放てる。

「っ……!」

 “ギリッ”と奥歯を噛み、椿は狙いを定める。
 既に体中が悲鳴を上げ、口元からは血が流れている。
 それでも、瞳は狙うべき敵を見据えていた。

「射貫け、願いを載せた帚星(ほうきぼし)よ!」

 力の集束が終わる。
 最後に籠められた椿の神力と“意志”が、矢を届ける推進力となる。

「“統志閃矢(とうしせんや)-神堕とし-”!!」

 そして、椿の体が消し飛ぶと同時に、その矢は放たれた。















「これは……」

「ちょっと、シャレにならないですね……」

 所変わり、神界の真っ只中。
 イリスの軍勢を相手にしていたスフェラ姉妹は、目の前の光景に息を呑む。
 足止めのために張った結界も、“破壊の性質”を持つ悪神に破壊されている。

「数も質も、段違いじゃないですか……」

「姉さん……」

 結界を破壊された事で、二人の消耗も大きい。
 その上、万全の状態でも敵わない程の数と質の神が集結していた。
 ……どうやら、戦線を放置して全てここに戻ってきたようだ。

「(敗北を前提にしても構わない……んですけど、さすがに足止めすら出来ないというのは看過できないんですよねぇ……)」

 優輝とイリスの決着が着くまでの時間稼ぎ。
 それが本来の目的だ。
 しかし、このままではそれすらもままならない。
 その事にルビアが歯噛みする。

「……最悪、通してしまっても構いません。出来る限り、足止めを―――」

 覚悟を決め、それでも戦おうと構える。
 その瞬間、極光が神々を襲った。

「間に合いましたか!」

 祈梨が転移と共にスフェラ姉妹の隣に現れる。
 それを皮切りに、次々と様々な神が駆け付けた。

「この方達は……」

「イリスの勢力と戦っていた者達じゃ。どうやら、全体の状況も大きく変わったようじゃな。退けた悪神共も、どうやらここに集結したようじゃ」

「……なるほど」

 その中にいた天廻が簡潔に説明する。
 つまりは、悪神とそれ以外の神との戦いの中心地がここになったのだ。

「支えましょうかぁ?」

「……いえ、大丈夫です」

 “回復の性質”を持つ神によって、スフェラ姉妹も回復する。
 ここからは、足止めのための戦いではない。

「ここで決着を着けるぞ」

 誰かがそう言うと同時に、スフェラ姉妹も決意を固める。
 戦いは佳境へと入る。
 それは優輝の方だけでなく、こちらも変わらない。



   ―――ここからは、決着を着けるための戦いだ。















「これが、最後の一体ですか?」

「……そうみたいですね」

 一方、ミエラやサーラ達の戦いにも決着が着いた。
 最後に残ったイリスの“天使”は、あそこから防戦に努めだした。
 そのため、“天使”と“人形”達を倒し切るまでかなり時間を使っていた。

「先へ進みますか?」

「……待ってください」

 先へ進もうとするサーラとユーリを、ミエラが止める。
 同時に、彼女達の“意志”によって隔離されていた戦場が開放される。

「ッ!!」

 直後、極光が飛び、それをミエラが理力の剣で切り裂いた。

「攻撃!?誰が……」

「イリスに洗脳された神……もしくは」

「戦場が変わりましたか……!」

 ミエラの言葉と共に、全員が飛び退く。
 極光が雨の如く襲い掛かり、それぞれが対処する。
 ミエラとルフィナは理力の極光で相殺。
 サーラは剣で逸らし、ユーリは魄翼と障壁で凌ぎきる。

「これ、は……!」

「中和、急いでください!」

「っ……!」

 何かを感じ取ったミエラとルフィナが、サーラとユーリを庇うように立つ。
 そして、“性質”をフル活用し、円錐状に障壁として展開する。

「っぁ……!?」

 直後、余波とも取れる衝撃波がサーラとユーリを襲う。
 それらは全て、四人に襲い掛かった“性質”の効果の余波だ。
 ミエラとルフィナが“性質”で中和したからこそ、ただの衝撃波で済んでいた。

「っづ……!」

 だが、庇った二人はボロボロだった。
 物理的ダメージはもちろん、“領域”にもダメージが入っていた。

「だ、大丈夫ですか……?」

「……まだ戦えます。問題はありません」

 ユーリの心配にミエラはそう返すが、その顔には僅かに汗が滲んでいた。
 戦闘続行ではあるが、それでも堪えたのだろう。

「私達の役目は変わりませんよ……ただ足止めする、それだけです」

「っ……!」

 裏を返せば、勝てなくとも戦わなくてはならないという事。
 元々勝てるか分からない勝負だったため、既にその覚悟は決まっている。
 サーラとユーリも即座に構え直し、追撃をまず凌いだ。

「……幸いと言うべきか、敵が多い代わりに味方も増えますけどね」

「味方……?」

 ルフィナの言葉に一瞬疑問に思うユーリ。
 直後、すぐに気づく。
 普通なら来るはずの追撃が止んでいた事に。

「随分と広範囲が戦場になったようですね」

「ッ、これは、一体……?」

 いつの間にか、そこはイリスの勢力と別の勢力が入り乱れていた。
 “性質”も飛び交い、それが逆に相殺し合っている。
 流れ弾や四人を狙った攻撃もあるが、それらは落ち着いて対処する。

「イリスは“闇の性質”を持ちます。……となれば、当然ですが対となる“性質”も存在するのは道理ですよね?」

「“光の性質”……?」

 その“性質”に二人は既に一度遭遇している。
 無論、同じ“性質”でも別の神は存在するのも理解していた。

「基本的にそういった対となる“性質”は、お互いの力量が拮抗するようになっています。あらゆる世界の均衡を保つためにも」

「私達が遭遇した“光の性質”の神は、大した力を持っていませんでしたが……」

「その場合は、対応する“闇の性質”の神も弱かったのでしょう」

 神界における“性質”は、あらゆる世界の概念や法則にも影響を及ぼす。
 謂わば世界のあらゆるものを分担して司っているのだ。
 だからこそ、均衡が崩れればあらゆる世界に悪影響が起きるため、光や闇と言ったわかりやすく対となっている“性質”は、どちらかが明確に強いという事はあり得ないのだ。

「となると、イリスに対を成す“光の性質”は……」

「イリスと同じく、かなりの力を持ちます。おそらく、味方している神々はその神を中心とした勢力なのでしょう」

 見る限り、流れ弾以外でミエラ達を狙う攻撃は洗脳された神ばかりだ。
 悪神や洗脳された神を攻撃する神々からは、攻撃は来ていない。

「ッッ……!?」

 直後、光の柱が四人を囲うように出現する。
 同時に、流れ弾や四人を狙った攻撃が須らく消し飛ばされた。

「この理力の強さ……!」

「まさか……」

 柱は四人を覆う円柱となり、そのまま光の波動として周囲を一気に薙ぎ払った。
 周囲に敵はいなくなり、代わりに一人の女性が現れた。
 長い金髪に碧眼の、まさに女神と言った容姿と服装の女性だ。

「……通りで、イリスの攻勢が甘い訳ですね」

 その女性はミエラとルフィナを見て溜息を吐く。
 二人の後ろにいるサーラとユーリは、その様子を見ても動けない。
 イリスとは違った圧倒的な力と、そもそも守ってくれた事から迂闊に動く事は出来ないと判断したからだ。

「支配下の神々からすら執念のようなモノを感じましたが……彼女は相変わらず彼に執着しているようですね」

 呆れたように女神は言う。
 それは、ただイリスに……というよりも、イリスがただただ執着している事そのものに呆れているようだった。

「……あの、彼女は……」

「先ほど言っていた、対となる女神です。私達も一度しか会った事はありませんが」

 かつての大戦では、イリスの勢力は今よりも大きかった。
 結果的に、“光の性質”の神を中心に反撃する事になり、その際にユウキと共にミエラとルフィナも彼女と会った事があった。

「そちらの人間の方々は初めてですね。アリス・アレティと言います。そちらの眷属二人から聞いたかと思われますが、イリスの対となる神となります」

 丁寧な物腰に、隠しきれない力の波動。
 包み込むような優しさと共に、他を圧倒する程のカリスマが感じられる。
 まさに女神とも言うべき“光”を感じられる。

「っ……!」

「……なるほど。ここまで来るだけの力は持っているようですね」

 圧倒的な“光”に、サーラとユーリは怯む。
 が、すぐに正面からアリスを見返した。
 それを見て、アリスは威圧するかのような“光”を抑えた。

「試すような真似をしましたね。ですが、ここは本来貴女達が来るべき場所ではありません。早々に元の世界に帰ってください」

 アリスの言葉に、サーラとユーリは言い返そうと口を開く。
 だが、その前にアリスが言葉を続けた。

「……と、言いたい所ですが、予定変更です」

 再び襲い来る流れ弾や攻撃を光の壁で防ぎつつ、サーラ達に笑いかける。

「彼が来ていて、そして貴女達が突入するのを良しとした……となれば、それだけ“可能性”を感じ取ったのでしょう。ならば、私も見届ける所存です」

「………」

 イリスと同等であるならば、戦いを終わらせる事も可能だ。
 だというのに、決着が着くまで見届けるとアリスは言った。

「私も、彼程ではありませんが他世界の生命にある“可能性”を信じていますからね。それに、私が戦う前に因縁を終わらせる必要もありますから」

「……貴女が空気を読む方で助かりましたよ」

「“性質”と言った枠組みを超えた想いや意志……そういったモノは大切ですからね。……あの子も、それを自覚すればいいのに」

 困ったように笑うアリスは、まるでしょうがない娘か妹を思うような様子だった。
 対となるにしては、全く険悪な様子がなかった。

「ともかく、決着が着くまで私達はイリスに手を出しません。この事は他の神々にも伝えておきます。……尤も、露払いぐらいはさせてもらいますよ」

「話が早いですね」

「ズィズィミ姉妹や、天廻さんなどに話を聞いておきましたから」

 そう言って、アリスは転移と共に姿を消していった。
 同時に、周囲の敵と攻撃を“光”によって薙ぎ払っていた。

「状況は好転し続けているようですね」

「そのようですね」

 敵の数はまだまだいる。
 だが、こちらも数では負けていない。
 
「ここから、どうします?敵の群れは引き受けてくれるようですが……」

「……主を追いかけるという手もありますが……」

「このままだと戦場の拡大が収まりませんよ?」

 そう。双方ともに数があまりにも多い。
 そのために、どうしても戦うためのフィールドは広くなっていく。
 実際、サーラ達が巻き込まれたのもこの影響だ。

「となると……」

「私達も、露払いに参加しましょうか」

 戦場の拡大を対処するには、戦いの箇所を減らすしかない。
 その手っ取り早い手段が、敵の討伐だ。
 故に、サーラ達も敵を倒すために再び戦いに身を投じた。













「っ、な、なにが起きてるの!?」

 一方で、なのは達の方でも既に戦場となっていた。
 六人で力を合わせた“意志”によってレイアーを倒した。
 そう思った瞬間、別の戦いに巻き込まれたのだ。
 アリシアが驚いてそう叫ぶのも無理はない。

「……これ、全部神界の神だよ……」

 ルフィナの経験から、唯一なのはだけは何が起きているのか把握する。

「戦ってる……」

「仲間割れ……って感じやなさそうやな」

 そこかしこで神や“天使”同士が戦っている。
 なのは達にとっては、最早流れ弾を避けるだけでも一苦労な程だ。

「とりあえず、離れて状況把握すべきよ!」

 アリサの言葉に、全員が頷いてその場を離脱する。
 幸い、なのは達を直接狙う者がいなかったのか、もしくはその余裕がなかったのか、流れ弾以外でなのは達を襲う攻撃はなかった。

「ここまで来れば少しはマシね」

 遠距離攻撃の類であれば、まだまだ余裕で届く距離だ。
 それでも、状況を把握するには十分な距離を取った。

「私達が戦っていた間に、色々変わったのかな?」

「そうだと思うよ。ルフィナさんの記憶からの推測だけど……多分、“光の性質”の神様が率いる勢力が、イリスの勢力と戦っているんだと思う」

「あの時の戦線が、ここまで来たって事やろか?」

 以前神界に突入した際、イリスの勢力と戦っている神々がいた。
 元々、なのは達が神界との戦いに巻き込まれたのはイリスの策略によるものだ。
 本来であれば、別の神々がイリスを倒そうとするのが普通なのだ。

「……どうする?味方も敵も増えたようなものだけど……」

「足止めが終われば参戦していいって話だったわね」

 アリシアとアリサがどうするべきか軽く話す。

「ッ……!」

 直後、他五人を庇うようになのはが前に立つ。

「“ディバインバスター”!!」

 迫りくる理力の極光に、魔力の極光で対抗する。
 威力は押し負けていたが、それを“意志”の力で相殺に持ち込んだ。

「流れ弾じゃない!」

「すずか!防壁!」

「うん!」

「アリサとフェイトは警戒!すぐに動けるようにして!」

「私とアリシアちゃんで迎撃を担当や!なのはちゃん、フォローお願い!」

「わかった!」

 すずかの言葉で即座にアリサ、アリシア、はやての順で指示を飛ばす。
 レイアーとの戦いで、かなり“意志”は消耗している。
 いくら強い“意志”を抱こうと、永遠に続く訳ではない。
 そのため、全員の動きにどこか鈍りが見えた。

「破られた!アリサちゃん!」

「まっかせな、さいッ!!」

 極光を防いだ直後に、理力の矢がすずかの氷壁を突き破る。
 即座にアリサがカバーし、剣で矢を打ち返した。

「フェイト!肉薄お願い!」

「うん……!」

 アリシアが矢で援護しつつ、フェイトが超スピードで狙ってくる神へ迫る。
 攻撃も躱し、一気に間合いを詰める。

「ここッ!」

 それを見計らい、なのはが術式を編む。
 対象の座標を指定し、そこに跳ぶ転移魔法だ。
 フェイトにその座標をマークさせる事で、即座に合流する。

「はぁっ!!」

「ッ!?」

 その前に、フェイトが一閃を放つ。
 神の障壁をその一閃で切り裂き、防御を削る。
 当然、一撃で破れる程その神も弱くはない。

「“ディバインバスター”!!」

 そこへ、転移と同時になのはが砲撃魔法を放った。
 反動で間合いを離しつつ、フェイトと共に離脱する。

「“フレースヴェルグ”!!」

 フェイトの一閃、なのはの不意打ち。
 その二発によって、防御は破った。
 そして、詰めとしてはやてが長距離から砲撃魔法で撃ち貫く。

「まだ!」

「でしょうね!」

 すずかが叫ぶと同時に、アリサがなのは達と入れ替わるように肉薄。
 まだ“領域”が砕けていない神相手に、炎の連撃を叩き込む。

「ッッ!!」

 直後、アリサの体が吹き飛んだ。
 “性質”による衝撃波だ。

「っ……甘いわよ」

「なっ!?」

 だが、アリサもただではやられない。
 直前で御札を置き土産に霊術を発動。
 火柱を出現させ、それで神を呑み込む。

「トドメや!」

 はやての言葉と共に、拘束魔法及び霊術が発動する。
 それぞれはやてとすずかによるものだ。
 そして、吹き飛ばされたアリサと違い、三人の手が空いている。

「しまっ……!?」

 フェイトが後ろに回り込み、アリシアの矢が神の正面から迫る。
 その矢は目晦ましであり、意識を矢に向けるための囮だ。
 本命は、側方からのなのはとフェイトによる斬撃。
 “意志”を高め、“性質”すら突破して渾身の一撃を叩き込んだ。

「が、ぁ……!?」

 しかし、まだ倒れない。
 瀕死ではあるが、それでも“領域”は砕け切っていない。

「ッ―――――!?」

 追撃を。そう思ったなのは達だが、それは叶わずに終わる。
 瀕死となった神へ、柱のように極光が叩き込まれたからだ。
 そして、それはなのは達によるものではない。

「誰……!?」

 降りてきたのは、金髪碧眼に白い羽と光の輪を持つ、まさに天使の如き女性だ。
 なのは達は知らないが、彼女はアリスの眷属である“天使”だ。

「“天使”……」

「人間の方達で間違いないですね?」

 障壁で流れ弾を防ぎつつ、“天使”はなのは達に尋ねる。
 いきなり問われ、言葉は返さなかったものの、首肯で代わりに返答する。

「話は主に聞きました。全員を完全に、とまでは言えませんが、基本私達が抑えます。貴女達は、貴女達の成すべきことを成してください」

「主?」

「この神々を率いている神です」

 どういう事なのかと、詳しく聞こうとするなのは達。
 だが、そんな余裕はなく、“天使”は襲い掛かってきた別の“天使”達を引き付けてどこかへ行ってしまった。

「……ようわからんけど、お膳立てしてくれたみたいやな」

「みたいだね……」

 見れば、自分達に出来るだけ被害がいかないような立ち回りに、周りはなっている。
 はやての言う通り、お膳立てされていると見ていいだろう。
 そうでなくとも、味方の神々がいるのはありがたかった。

「そうと決まれば、優輝の手助けに行くよ!」

 アリシアの言葉に、皆が頷く。
 そして、移動を始めようとして……ふとフェイトが気づく。

「待って。……神夜達は?」

「そういえば……」

「……見かけてへんな」

 そう。別々で戦ったとはいえ、優奈達も近くにいたはずなのだ。
 いくら距離の概念もあやふやな神界とはいえ、いない事は気になっていた。

「……大丈夫。きっと先に行っているよ」

「なのは?」

「優輝さんは私達を信じて後を託した。だから、私達も皆を信じよう?」

 きっと大丈夫だと、ただ信じる。
 根拠などは一切ない。だけど、それでも信じるべきだと、なのはは言う。
 その“意志”こそが重要なのだと言わんばかりに。

「……そうだね」

「それよりも、早い事―――」

 “行こう”。そうアリシアが言おうとした瞬間。
 六人の上空を一筋の閃光が通り過ぎていった。
 
「……椿さん?」

 その閃光から、アリシアは確かに感じ取った。
 そこに集束していたあらゆる“意志”を。
 目指す場所へ届けるための、椿の“意志”を。

「まさか、神界の入り口から、狙撃……!?」

「アリシアちゃん、何を言って―――」

「今の、椿さんの矢だよ!それも、途轍もない“意志”と威力だった!」

 簡潔に、ただ驚愕の事実のみを伝える。
 ただ強力なだけならまだいい。
 問題は、神界にいるはずの椿がここまで攻撃を届けたという事だ。

「嘘やろ!?」

「ううん、確かに椿さんの“意志”を感じた。それに、向かう先は……」

 矢が飛んで行った方向は、まさにイリスがいる方向だった。
 優輝達と戦闘している影響か、“闇”の気配が漏れ出てる。
 その事から、なのは達もイリスのいる方向は把握できていた。

「これは、私達も負けてられないね」

「うん。早く行って、手助けを―――」

 負けじと自分達も行こうと歩を進める。
 その直後、極光が薙ぎ払ってきた。

「ッ……!?なんで……!?」

「っ……逃がさない、わよ。人間……!!」

 極光を放った場所には、レイアーがいた。
 だが、彼女は確かになのは達が倒したはずだ。

「確かに“領域”は砕いたはず。気配も消えて、元の居場所で再誕を……ッ!?」

 ルフィナの経験から、何が起きたかなのはが推測する。
 そして、行きついた答えに驚愕した。

「まさか、復活した途端にこっちに来た……!?」

「……その通りよ……!」

 見れば、レイアーは息を切らしていた。
 それだけ急いで舞い戻ってきたのだ。

「(なんて、執念……!)」

「なんちゅう負けず嫌いや……!それでも“可能性の性質”かいな!?」

 驚愕しつつも、なのは達は戦闘態勢を取る。
 しかし、消耗したなのは達に対し、レイアーは息を切らしている事以外は万全だ。
 “天使”も置いてきたとはいえ、今のなのは達を倒すには十分だった。

「“死闘”を制した相手に、見苦しいぞ」

 故に、彼は残っていた。
 こうなる事を、予期していたがために。

「は……?」

「“可能性の性質”であるならば、彼女らの“可能性”を認め、先に進めるべきだ。……でなければ、俺が相手だ」

 “死闘の性質”。その神がそこにいた。

「っ……今更、そっちにつく訳!?」

「おうとも。俺が見たかったモノは見た訳だからな。……それに、先ほど言った通り、今のお前は見苦しい」

 そう言って構える“死闘の性質”の神。
 敵だったはずの神が味方している事に、なのは達は状況を呑み込めずにいた。

「確か、帝君が相手していたはず……」

「ああ。そして負けた。……尤も、“領域”は砕かれずにいたがな」

 なのはの呟きに、神はそう返答する。

「往け。奴と戦えど、邪魔の阻止までは出来ん。チャンスは一度だ」

「っ……皆!」

 続けられた言葉に、ハッとする。
 いくら強くても、レイアーは“可能性の性質”だ。
 イリスを倒しに行こうとするなのは達の邪魔は可能だ。
 だからこそ、すぐさまなのはは皆に呼びかける。

「―――()()()()()()()!」

 全員が即座にイリスまで辿り着く事は出来ない。
 ならば、せめて一人を確実に。
 その意思が、眼と言葉のみで伝わる。

「すずか!」

「うん!」

 “死闘の性質”の神がレイアーを抑える。
 同時に、アリシアとすずかが術式を編み出した。
 すずかがカタパルト代わりの足場を、アリシアが撃ち出すための砲台を作る。

「リイン!わかってるな!」

『当然です!』

 さらに、加速のための術式をはやてとリインが共同で編む。

「フェイトちゃん!アリサちゃん!」

「二人共、しっかり掴まってて……!」

「こんな所でヘマなんて起こさないわよ!」

 乗り込むのは、フェイトとアリサとなのはの三人だ。
 安全確認、術式の確認などせず、即座に術式が起動する。

「行くよ!」

   ―――“霊魔加速術式”

 三人が流れ星となる。
 同時に、レイアーの攻撃が抑えきれずに、残ったアリシア達を襲う。
 それでも、既に三人は飛んだ。

「ッ……!!」

 加速による速度を、フェイトの速度を以って維持する。
 だが、それでもイリスまでは届かない。

「行ってきなさい、なのは!!」

   ―――“霊焔衝(れいえんしょう)

 だからこそ、アリサもここにいる。
 剣にありったけの霊力を籠め、なのはがそれに足を合わせる。

「ッ、せぇえええええええええいッ!!」

「レイジングハート!」

〈A.C.S. Standby〉

   ―――“煌めけ不屈の光よ(シューティングスター・ミソロジー)

 炎の爆炎と共に、なのはは流星となった。



















 
 

 
後書き
統志閃矢-神堕とし-…あらゆる“意志”と力を集束させ、一つの矢をして放つ技。放った瞬間射手は消し飛ぶが、それだけの威力を誇る。なお、神界以外の場合は力を集束させてる途中で五体が消し飛ぶ模様。

アリス・アレティ…アレティは“善”のギリシャ語。イリスの対となる“光の性質”を持つ女神であり、実力もイリスと同等。

フレースヴェルグ…原作Stsに登場する魔法。なお、原作と違って無詠唱速射且つ威力が増している。さらには範囲を絞る事による威力集中もしていたりする。

霊魔加速術式…そのまんま。霊術と魔法を合わせた砲台となる。撃ち出せば、フェイトの最高速度を超える速度を出せる。

霊焔衝…炎を炸裂させ、爆発を叩き込む技。霊力に比例する威力を持つが、燃費が悪いため今まで使わなかった。誰かを撃ち出すには最適な技。

煌めけ不屈の光よ(シューティングスター・ミソロジー)…撃ち出しの一連の流れを表す。技としては、六人分の“意志”と共に突貫するだけ。原作A'sでアインスに仕掛けたモノの上位互換。


アリスの見た目はもんむす・くえすとシリーズのイリアスとかが近いです。ただ、性格等は全く似てないので注意を。(そもそももんくえシリーズを知っている人が少ないかと思いますが)
何気に再登場、レイアーと“死闘の性質”の神。実は、神界ではゾンビ戦法が可能だったりします(“領域”破壊→リスポーン→再戦)。
他の悪神などが来なかったのは、アリスの勢力が制圧していたからです。
レイアーのみ、“天使”を囮に無理矢理抜けてきました。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧