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歪んだ世界の中で

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第九話 決意を述べてその十一

「ですが遠井君は高校に入ってからは」
「あんなことがあったからね」
「とても辛くてそれどころではなかったですね」
「うん。生きているだけで本当に辛かったよ」
 このことはどうしても否定できずにだ。希望も沈痛な顔になって答えた。
「それだけでね」
「それに耐えていて。僕はその遠井君と一緒にいて」
「御互いに注意し合える状況じゃなかったってことだね」
「はい、耐えるだけでは。注意される様なこともです」
 そもそもだ。そうしたことが起こることもないというのだ。
 それでだ。真人はまた入ったのだった。
「ですから。高校に入ってからは」
「そうだったね。それにしてもね」
「それにしてもとは?」
「そのお互いに注意し合っていたことも忘れるなんて」
 このことについてだ。希望は今思って言ったのだった。
「僕はどうしてたのかな」
「辛くて。その辛さで一杯ですと」
「そうだったら?」
「他のことも考えられなくなります」
 そうなるというのだ。人は。
「だからです。遠井君はそのことを忘れてしまっていたんですよ」
「辛かったせいで」
「逆に言えばそれだけ辛かったということです」
「それが僕の一学期だったんだ」
「では。音楽を聴かれたことは」
 ふとだ。真人は希望にこうも言ってきた。
「ありましたか。一学期は」
「そういえばそれも」
 音楽も聴いたこともだ。言われて考えるとだった。
「なかったよ」
「そうですね。これは母から聞いたのですが」
 真人の母、その人からだというのだ。
「人はあまりにも辛いとです」
「音楽を聴くこともなくなるんだ」
「心にそれだけ余裕がなくなるかだそうです」
「だからなんだ」
「人は普段いつも音楽を聴きますよね」
「うん」
 これは希望にもわかった。今はいつも聴いているからだ。
 しかしその時のことを考えてだ。思い出しての言葉は。
「けれどあの時は。本当に」
「辛かったからね」
 それ故にだというのだ。音楽もだ。
「聴かなかった。いや、聴けなかったよ」
「そうだったのですね」
「そんな余裕がなかったから」
 精神的にだ。そうだったからだった。
「本当に辛いと音楽も聴けなくなるんだね」
「聴いても耳に残らないのでしょうね」
「そうだろうね。音楽のことまで考えられないから」
「はい。しかし今は」
「聴けるよ」
 そうだとだ。微笑んで答えた希望だった。そして具体的に今何を聴いているのかもだ。希望は真人に話した。そうしたこともできるようになっていた。
 それでだ。希望が今聴いている曲は。
「AKBだけれどね」
「あのグループですか」
「いいよね。元気が出る曲ばかりで」
「はい。僕のあのグループの曲は好きです」
「遠井君もだったんだ」
「聴いてるとそれで明るくなるから」
 それでだとだ。笑顔で話せた。今は。
「余計にいいよね」
「暗くなると余計に暗くなって」
「明るくなるとさらにだね」
「そうですね。明るくなれますね」
「そのこともわかってきたよ」
 微笑んでだ。希望はまた答えた。そしてだ。
 勉強についてもだ。彼は言うのだった。
「わかればわかるだけね」
「さらによくなってきますね」
「そうだね。わかる様になったらさらにやりたくなって」
「逆にわからないと嫌になって」
「そうそう。今まではそうだったんだよ」
 自分のこれまでのことを思い出してだ。希望は話すのだった。 
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