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歪んだ世界の中で

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第九話 決意を述べてその九

「普通のホットケーキよりもね」
「美味しいんだ」
「希望のホットケーキだから」
 それを貰ったからだというのだ。
「美味しいよ」
「それでなんだ」
「美味しい。希望もどうかな」
「僕もね」
「美味しい?」
「不思議だよね。同じお店のホットケーキで」
 それでだというのだ。
「同じシロップを同じだけかけたのに」
「焼き加減も同じだよね」
「だから同じ味になる筈なのに」
 交換をした。それだけだというのにだ。
 その味は違うとだ。二人は感じたのだ。
「交換しなかったホットケーキよりも」
「美味しいよね」
「不思議だよ。本当に」
 このことをだ。心から味わっての言葉だった。
「こんなことってあるんだね」
「そうだよね。多分舌では同じ味を味わっていて」
「心で味わう味は」
「違うのね」
「だよね。それじゃあ」
「これからも。交換できる食べ物は」
「そうしよう」
 二人で話したのだった。このことだ。そうした話をしながら二人でホットケーキを食べていく。
 そしてそれからだ。食べ終わってからだ。二人で店を出た。
 希望は店の出入り口でだ。千春に顔を向けて言った。
「またこのお店にね」
「来ようね」
「うん、そうしよう」
 店を出たのでだ。行くのではなく来るになっていた。
「またね」
「じゃあ今日はね」
「これでお別れね」
「また明日会おう」
 こう話してだ。二人は別れてまた夜を過ごした希望だった。そうしたのだ。
 その夜は一人で寡黙に過ごした。夏はそうして過ごしていってだ。遂にだ。
 夏の終わりの時が来た。その中でだ。
 希望は真人の家でだ。いつもの勉強をはじめる前にだ。彼にこう言われたのだった。
「二学期になりますが」
「そうだね。もうすぐだね」
「はい、もうすぐです」
 真人はこう希望に言ったのである。
「ですがそれでもですね」
「正直ね。二学期になるとね」
「また学校での生活になりますね」
「それが嫌だったよ」
 その学園生活がだ。心からそうだったのだ。
「けれどそれでも今はね」
「違いますね」
「そう。違うから」
 明るい微笑みでだ。希望は真人に返した。
「今はね」
「僕がいてそうして」
「千春ちゃんもいるから」
「その人は学校は」
「あっ、八条学園にいないのは確かだね」 
 実は千春がどの学校に通っているのか知らなかったのだ。千春はそうしたことは全く言っていなかったのだ。希望もこのことにだ。今気付いたのだった。
「それはね」
「そうですか」
「けれどね。もう辛くはないから」
 それは何故かもだ。希望は笑顔で話せた。
「だって。学校には友井君がいてくれて」
「僕がですね」
「そして学校を出たら千春ちゃんがいるから」
「だからですか」
「うん。寂しくなんかないよ」
 それはだ。全くだというのだ。
「何一つとしてね」
「学校だけじゃないからですね」
「そうだよ。今までは学校に家だけが全てだったけれど」
 世界が広くなったというのだ。彼のその世界が。 
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